遺産を独り占めしようとする親族がでてきた際の対処法を詳しく解説

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相続の際、相続人の一人が遺産を独り占めしようとするトラブルは少なくありません。

具体的には、遺言書はあるけれど故人の生前の考えと違っていて偽造が疑われるケース、相続人の一人が故人の財産を自分の利益になるように生前から管理していたケース、生前の寄与分を主張して遺産を一人でもらおうとするケースなど、さまざまなケースがありえます。

親族が亡くなると葬儀や挨拶に加え役所への諸手続きなど、やらなければならない多くの手続きがあります。

そんな中で、親族による遺産の独り占めで揉めるのは大変なストレスになるでしょう。

今回は、親族が遺産を独り占めしようとした場合の対処法と独り占めを防ぐ方法について解説します。

1.相続の基本ルールとは


相続とは、被相続人(故人)の死亡などをきっかけに、被相続人の財産上の地位を相続人が受け継ぐことです。

遺言書がある場合は、遺言書が有効かを家庭裁判所にチェックしてもらった上で遺言書の通りに遺産分割を行います。

相続は、亡くなった故人である被相続人の意思を尊重するのが基本です。

そのため、もし被相続人が特定の親族などに遺産を全部渡したいと思っていた場合には、それに従うことになります。

ただし、そのような場合でも全相続人が同意したなら、遺言とは異なる内容で遺産を分けることもできますし、相続人であれば最低限相続できる財産(「遺留分」)を主張して請求することもできます(「遺留分減殺請求」)。

遺言書がない場合は、隠し子などの親族がいないか相続人を調べて確定させ、相続人がいた場合は遺産分割協議を行って遺産を分けることになります。

ただし、遺産は親族の全員がもらえるわけではなく、法律で次のように決められています。

  • 配偶者:必ず相続人になります。
  • 子ども:被相続人に子どもがいた場合は、配偶者と一緒に相続人になります。
  • 親:被相続人に子どもや孫がいない場合は、親が相続人になります。
  • 兄弟姉妹:被相続人に子どもも親ともいない場合は、兄弟姉妹が相続人になります。

次に、親族などが遺産を独り占めしようとしている時にどういう対処法を取ることができるか、具体的に見ていきましょう。

2.遺産の独り占めが生じ得る具体的な4つのケースと対処法

(1)遺言で親族の一人に遺産を独り占めさせようとしているケース

①遺留分で最低限の遺産を確保する

遺言書がある場合、故人の意思が尊重され遺言書の内容が法律で決められた遺産の分け方(法定相続分)に優先されます。
ただ、法定相続人には、法律で最低限もらえる遺産(遺留分)が保障されています。

そのため、もし誰か一人に遺産を相続させるという遺言書があったとしても自分の遺留分について遺留分減殺請求を行うことで、遺産の一人占めを防ぐことができます。

ただ、遺留分が保障されている相続人は配偶者、子ども、親だけで、兄弟姉妹にないので注意しましょう。

②遺留分の計算方法と具体例

遺留分の計算は、「遺留分の基礎になる遺産の額×遺留分割合」で求めることができます。

まず、遺留分を算出するときにベースとなる「遺産の額」は相続が開始した時、つま被相続人が亡くなったときを基準に次のように考えます。

被相続人死亡時の財産+被相続人が相続開始1年以内に贈与した財産-マイナスの財産

次に、遺留分割合は次のように法律で定められています。

  • 配偶者・子どもの場合:法定相続分の2分の1
  • 被相続人の父母の場合:法定相続分の3分の1

例えば、「父が亡くなり遺産が1000万円で妻、長男、次男の3人が法定相続人で亡くなる半年前に長男に600万贈与し『すべての遺産を長男に相続させる』という遺言を残した場合」を考えてみます。

まず、遺留分の基礎になる遺産の額は、1000万円+600万円=1600万円です。

次に、遺留分割合は法定相続分×2分の1なので、妻は2分の1×2分の1で4分の1、長男と次男は、4分の1×2分の1で8分の1になります。

とすると、妻の遺留分は1600万円×4分の1=400万円、子供たちは1600万×8分の1=200万円となります。

このことから、長男に対して、妻は400万円、次男は200万円の遺留分減殺請求をすることができます。

法律の規定通りフラットにというわけにはいきませんが、まずは遺留分減殺請求によって、最低限認められた遺産だけでも取り戻すようにしましょう。

(2)遺言の偽造が疑われるケース

親族の誰かが遺言を偽造し財産を独り占めできるようにするケースはないとは言えません。

遺言書には、自分で手書きして作る「自筆証書遺言」、公証人役場で作成し内容は秘密にしつつ存在だけ明らかにする「秘密証書遺言」、公証人役場で作成して公証人が内容を確認して記録も残す「公正証書遺言」の3つの種類があります。

公証人と2名以上の承認の署名押印を受ける公正証書遺言以外は、大なり小なり偽造される恐れがあり、特に自筆証書遺言は簡単に秘密で作れる反面、偽造の可能性も高くなります。

そこで、相続が開始して遺言書があった場合は、家庭裁判所に対して遺言書の「検認」を請求して、遺言書が有効かどうかを判断してもらうことになります。
なお、遺言書が見つかり、封がしてあった場合には絶対に開封せず、先に裁判所の検認をしてもらってください。

もし、相続人である親族の中に遺言書を偽造や変造した人がいた場合は、その人は遺産が相続できる資格を失い、1円も相続することはできなくなります。
これを「相続人の欠格事由」といいます。

他にも、被相続人を殺すなどして刑に処せられたり、殺されたことを知りながら黙っていた人、詐欺や強迫をして遺言をさせたり撤回するなどさせた人、遺言書を捨てたり隠したりした人も欠格事由にあたります。

遺言書が有効な場合は、遺言執行者を選任して、遺言書に従って遺産分割を行います。
ただし、遺言の内容が、上記のように「誰か一人に相続させる」といったものだった場合は、遺留分分割請求をして、保障された部分を取り戻しましょう。

また、必要に応じて「遺言書の効力は?遺言書を書く前に知っておきたい5つのこと」もご参照ください。

(3)不正な財産管理がある場合

親族の一部が被相続人と同居するなどしていた場合、その親族がお金を使いこんでいたり、重要な財産を隠していたり、財産の名義が勝手に書き換えられていたというケースは少なくありません。

この場合、使い込みなどをした親族が法定相続人の場合は、その人の相続分の範囲内の部分については返せと言えないので注意が必要です。

ただし、生前に被相続人から多額の現金や不動産の贈与があった場合は「特別受益」にあたるとして、遺産分割のときに調整して正しい取り分に修正することができます。

また、親族が法定相続分の遺産を超える財産を持ち出していた際は、法定相続分を超えた部分については「不当利得」にあたるとして返還することを請求できます。

いずれの場合でも、すぐに対処することと裁判も辞さない姿勢で臨むことが大切です。

(4)寄与分を主張して独り占めしようとする場合

被相続人と同居していた親族がいる場合、被相続人の面倒を見ていたことなどを理由として遺産を独り占めしようとするケースがあります。

このような場合は、相続人間で「遺産分割協議」という話し合いの場を設けて協議をすることになりますが、納得できない場合は応じないようにすることが第一です。

中には、一部の相続人が結託して遺産分割を行い作成した書面に実印だけ押させようとする人もいますが、安易に押印してはいけません。

特に、ある程度落ち着いてきた四十九日法要あたりで遺産分割に関する話し合いが行われ、書面を整えることが多いようです。

このくらいの期間で、話し合いもきちんとしないままに遺産分割協議書を持って来たような場合は断固拒否してください。

当事者間の話し合いでは解決できず、遺産を一人占めしようとする状態が解消できない場合は、調停で第三者を間に入れて話し合いを進めます。

弁護士を立てると期日に代わりに裁判所に行ってもらうこともでき、円滑に話し合いを代行してくれるので遺産を独り占めにしようとしている親族が出てきた場合には相談してみるとよいでしょう。

また、必要に応じて「遺産分割審判とは何か?遺産分割の流れや遺産分割調停との違いなどを解説」と「相続案件を弁護士に依頼した場合にかかる弁護士費用について」も併せてご参照ください。

3.親族による遺産の独り占めを防ぐためにできる対処法とは


遺産を独り占めしようとする親族が出てきた場合、独り占めを防いだり、財産を取り戻すためには次のような方法が有効です。

(1)不動産の名義の確認をする

本人同居している親族がいる場合、不動産の名義の書き換えは難しいことではありません。

特に本人が高齢で状況をよく把握できないといった場合には親族が勝手に委任状を作成したり、印鑑を持ち出して手続を進めることは簡単です。

対処方法としては、不動産の名義が変えられていないかなど疑わしい場合にはチェックしておくのが確実です。
不動産の名義は、全国どこでも最寄りの登記所から確認することができます。

本人が亡くなってから不動産の名義書き換えに気づいても「本人の意思だった」といわれると争うのに多大な労力を要するので、本人が健在なうちに一度確認しておくことをおすすめします。

また、必要に応じて「不動産を相続したら? ~相続登記の手続きとは〜」もご参照ください。

(2)預金の引き出しに注意する

本人と同居している親族がいる場合、暗証番号を親族が知っていたり、預金印を簡単に持ち出せるケースが大半です。

最初のうちは「生活費のため」の出金だったのが、誰にも気づかれないことから親族自身のための出金になり、数万円から数十万円の出金が続き相続の時点では残高がゼロということも少なくないのです。

本人の預金から不正にお金が引き出されていないか、皆が集まったときに通帳の開示を請求したり、場合によっては銀行に履歴を請求するなどして管理しておくようにしましょう。

また、必要に応じて「遺産分割協議書における預金債権の書き方について」も併せてご参照ください。

(3)独り占めが発覚したらすぐに対処を

親族による遺産の独り占めが発覚したら、これ以上の財産の流出をふせぐためにすぐに行動を起こしましょう。

具体的には、まずは遺産を独り占めした親族の財産を差し押さえること差押えが難しくても口座を凍結することが大切です。

これらの対応は個人ではできず、裁判所の命令が必要になります。
遺産の独り占めが発覚したらすぐに弁護士に相談して対処を依頼するのが確実でスムーズです。

また、不正な手段によって一人占めされた遺産を取り戻すためには、話し合いよりも裁判で解決することが重要になります。

裁判は、相続人間で遺産分割協議をして取り分を確定する前に行わなければいけません。

親族の誰かが遺産を独り占めするという事態が起きたら裁判に備えて、不正な出金のある口座の履歴や名義の書き換えなど証拠を十分に集めておくことが大切です。

まとめ

いかがでしょうか。
親族による遺産の独り占めは少なくありません。

一人占めをさせないために本人の生前からチェックしておくこと、一人占めが発覚した場合には早く流出を防ぐことが大切になります。

相続の問題は財産関係も複雑になること、流出を防ぐための差押えの手続きは難しいことも多いので、まずは相続問題に強い弁護士にできるだけ早くご相談ください。

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