遺産分割審判とは何か?遺産分割の流れや遺産分割調停との違いなどを解説

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相続が開始すると遺産(相続財産)は相続人の共有となります。

このような共有状態を解消し遺産をそれぞれの相続人に分けることを遺産分割といい、原則として相続人間で話し合い(協議)を行い誰がどの遺産をどの程度取得するかを決めています。

しかしながら、相続人が複数いる場合、常に話し合いで意見がまとまるとは限りません。

そこで、相続人間の意見がまとまらない場合でも、遺産を分けることのできる手続が用意されています。

それが遺産分割審判です。

今回は、遺産分割審判について手続の流れ、調停との違い、不服申し立ての方法など、全般的に解説したいと思います。

1.遺産分割審判とは?


遺産分割審判とは、家庭裁判所の裁判官(審判官)が審判という形式で遺産の分割方法を決定する手続です。

審判官は、当事者の意向(主張)や提出した資料(証拠)をもとに、相続人の意に反してでも事案ごとに最も適切と考える分割方法をすることができ、これによって遺産分割についての紛争が解決されるのです。

2.遺産分割の流れ


遺産分割審判は、相続人間で相続について合意ができない場合に利用する、いわば最終手段です。
ですから、遺産分割審判について正しく理解するためには、まず遺産分割の流れを抑える必要があります。

1)遺言書がある場合

亡くなった方(被相続人)が民法で定められた要式を満たした遺言書を作成していた場合、基本的に遺言書通りに遺産が分けられることになります。

遺言書で預貯金や不動産の名義変更なども可能であるため、相続人間で改めて話し合いをする必要はありません。

ただし、相続人全員の同意があれば、遺言と異なる内容の遺産分割協議をすることは可能です。

したがって、たとえば被相続人が全ての遺産を長男に相続させるという遺言書を作成していたとしても、長男を含む相続人全員が話し合って兄弟で平等に分けようといって法定相続分通りに分割することもできるのです。

2)遺言書がない場合

これに対して、遺言書がない場合、遺産は民法で定められた相続人(法定相続人)が民法で定められた割合(法定相続分)にしたがって相続することになります。

もっとも、民法は相続が開始した場合に誰が相続人になるかということと相続人になった場合の割合を定めているだけですから、だれがどの財産を最終的に取得するかは当然には決まらず、冒頭で述べたとおり遺産は相続人による共有状態になります。

共有状態のままでは、遺産を処分するには相続人全員の同意が必要になりますし、相続人が死亡した場合、相続人の共有持分が相続人の相続人に相続されることになり、関係者が増えるなど権利関係が複雑になり、さらに処分等が難しくなってしまいます。

そこで、相続人間の共有状態を解消して遺産を分ける必要が生じます。
遺産を分けるための方法としては、大きく分けて任意の話し合いによる遺産分割協議と裁判所の手続を利用する遺産分割調停、遺産分割審判の3つがあります。

①遺産分割協議

遺産分割協議は、相続人間で、遺産の分け方について任意で(裁判所外で)話し合いを行うことをいいます。
裁判所外で行うため、特別な方式もなく費用も掛かりません。

ですから、遺産分割協議で合意ができることが望ましいといえますが、遺産分割協議はあくまで任意の話し合いですから協議をしても合意が成立するとは限りませんし、話し合いの席にすらつかない相続人がいる場合もあります。

任意の話し合いでは合意に至らない場合には、次に紹介する裁判所の手続を利用する必要があります。

②遺産分割調停

遺産分割についての裁判所の手続としては、調停と審判の2種類が用意されています。
遺産分割調停は、裁判所の調停委員に間に入ってもらい、裁判所において相続人間で話し合いをするものです。

離婚事件の場合は、まず離婚調停を行い、調停で話し合いをしても合意ができなかった場合(調停が不成立になった場合)にはじめて離婚訴訟を提起することができるのですが(調停前置主義といいます)、遺産分割については法律上はそのような制限はありません。

したがって、法律上は調停を申し立てることなく、いきなり審判を申し立てても構わないということになっています。

もっとも、遺産分割は親族間の紛争であるため、話し合いによる解決が望ましいと考えられており、通常は先に遺産分割調停を行うという運用が定着しており、いきなり遺産分割審判を申し立てても、裁判所が職権で調停に促すのが一般的です。

③遺産分割審判

②に記載した事情から、一般に遺産分割調停が不調に終わった場合に、遺産分割審判が利用されます。

遺産分割審判では、最終的に裁判所の決定(審判)により遺産の分割方法が定められることになります。

いいかえれば、最後まで相続人間で合意ができない場合には、審判で裁判所に決めてもらうしかないということになります。

(3)遺産分割審判と遺産分割調停の大きな違い

遺産分割審判と調停の大きな違いは、相続人の合意がなくても解決できるかというところにあります。

この違いから、調停では法定相続分と異なる分割が可能である(相続人が合意しているため)のに対して、審判では法定相続分に従った分割がなされるとか、出頭しない相続人がいると調停は成立しない(相続人の合意ができないため)が、審判は可能といった違いが発生することになります。

また、調停では、通常2名の調停委員に対し、個別に話をする機会を設けてもらえるので口頭により自己の言い分を述べることもできますが、審判では書面による主張、立証を求められます。

3.遺産分割審判の流れ

1)審判への移行

遺産分割調停を行っても合意が成立せず、調停が不成立に終わった場合、手続は自動的に遺産分割審判に移行します。
ですから、調停が終わった後に改めて審判の申し立てをする必要はありません。

2)審判期日の出頭

遺産分割審判に移行すると、裁判所が審判期日を指定します。
相続人は、指定された審判期日に裁判所に出頭し、相続に関する自分の言い分を主張、立証します。

3)審判における和解

遺産分割審判では、最終的には裁判所が遺産の分割方法を決定することになりますが、訴訟と同様に、審判手続の途中で話し合いをすることもできます。

裁判所が決定したのでは、少なくとも当事者の一方が、場合によっては双方が決定に不満を持つ可能性もありますし、親族間の紛争であり話し合いで解決できるならあえて裁判所が決定することもないからです。

話し合いで合意に至った場合には、調停が成立したものとみなされ、裁判所が合意内容をまとめた調停調書を作成し事件は終結します。

4)裁判所による審判(決定)

当事者間の話し合いが成立しない場合、当事者に主張、立証を尽くさせたうえで、裁判所が審判という形式で遺産分割の方法を決定します。

この決定が確定すれば、後で覆すことは基本的にできませんので審判で決められたとおりに遺産を分割することになります。
預貯金や不動産の名義移転なども、裁判所の作成する審判書に基づいて行うことが可能です。

4.遺産分割審判の特徴

1)書面による詳細な主張立証が必要になる

調停は、当事者双方が交互に、調停委員に自分の言い分(主張)を述べ、それを調停委員が他方当事者に伝えるという方式で進められます。

調停においても、主張を書面にまとめ、主張を裏付ける資料を提出することもありますが、調停はあくまで話し合いであり、双方の主張を調整し、合意の成立する落としどころがあるかを探るものですから、訴訟ほど厳格な主張や立証がもとめられているわけではありません。

これに対し、審判では、最終的に裁判所が遺産の分割方法を決定します。
相続人の合意に基づかずに裁判所の判断で決定する以上、確たる根拠もなしに分割方法を決めることはできません。

そのため、遺産分割審判では、訴訟と同様の書面による詳細な主張、立証をする必要があります。

2)当事者不出頭でも手続を進めることが可能

遺産分割調停は、調停委員に間に入ってもらうとはいえ、あくまで相続人間の話し合いですから、相続人の一部が出頭しない場合、合意が成立する余地はなく調停による解決は不可能になります。

これに対し、遺産分割審判の場合、相続人の一部が出頭しなくても、出頭した相続人が十分な主張、立証を行っていれば、裁判所は審判をすることが可能なこともあります。

寄与分、特別受益など欠席した当事者に有利な事情が仮に存在していたとしても、その主張、立証がなければ裁判所には考慮されないので、出頭しなかった当事者は不利益を受けるおそれがあるのです。

① 寄与分とは

寄与分とは相続人が、被相続人の財産の維持・増加に特別な貢献をしたことをいいます。
被相続人の生活費、入院費、施設の費用にあてるため現金を贈与する場合が典型例です。

寄与分がある場合、被相続人の財産から寄与分に相当する額を差し引いた額を相続財産とみなして分割し、寄与分のある相続人はそれに加えて寄与分に相当する額を取得することができます。

② 特別受益とは

特別受益とは寄与分とは逆に、相続人が被相続人から生計や学資のために贈与を受けることをいいます。

特別受益がある場合、相続時に存在した財産に特別受益に相当する額を加算して相続財産とみなし法定相続分を計算します。

特別受益を受けた相続人は、このように計算された額から贈与を受けた額を差し引いた残額を受け取ることになります。

5.遺産分割審判を有利に進めるには?


遺産分割協議や遺産分割調停は、あくまで相続人間の話し合いですから相続人間で合意できさえすれば、基本的にどのような分け方をしても構わないということになります。

ですから、極端にいえば、法定相続分と異なる分割をすることも可能です。
これに対し、遺産分割審判は、裁判官が分割方法を決めることになります。

とはいえ、裁判官が自由裁量で決められるとすると事案ごとに分割方法がまちまちになり、著しく均衡を失することになりかねないので、裁判官は相続分に応じた分割をすべきとされています。

そうなると、遺産分割審判で重視されるのはあくまで法律論であり、感情論に訴えてもあまり意味はないということがいえます。
したがって、遺産分割を有利に進めるには、あくまで法律論に則った主張立証が必要ということになります。

たとえば、相続人の一部が、被相続人死亡時の財産を単純に法定相続分で分割することに納得できないと考えているとします。
この場合、単純に分けるのでは不公平だというだけでは足りず、なぜ不公平になるのかを法的に主張しなければなりません。

具体的には、自分にはこれだけの寄与分がある、あるいは相手方にはこれだけの特別受益がある、したがって、具体的相続分を計算するとこうなる、といったように厳密な法的理論を展開していく必要があるのです。

6.遺産分割審判に不服がある場合はどうすればいい?


遺産分割審判は、審判の告知を受けた日の翌日から2週間を経過すると確定します。
もし、審判の内容に不服がある場合には、審判が確定する前に不服申立て(即時抗告といいます)をする必要があります。

不服申立てをするには、高等裁判所宛の書類を作成し、審判をした裁判所に提出する必要があります。

不服申立てを受け取った裁判所が、これを審判の記録とともに高等裁判所に送付し抗告審が始まります。
抗告審では、不服申立てに理由があるかが審査されることになります。

まとめ

今回は遺産分割審判について解説しました。

遺産分割審判では、書面による主張、立証が要求されており、専門的知識・経験がないと裁判所に不利な審判をされてしまうおそれがあります。

遺産分割調停は、調停委員が時間をかけて口頭で言い分を聞いてくれるため、弁護士に依頼をせず相続人本人で対応されている方も珍しくありませんが、遅くとも遺産分割審判の段階では、専門家である弁護士への相談・依頼を検討すべきといえます。

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