多くの人が頭を悩ませる相続トラブル。
このトラブルを未然に防ぐ有効な手段が遺言です。
そこで今回は遺言について解説していきます。
ご参考にしていただければ幸いです。
※この記事は2017年7月18日に加筆・修正しました。
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目次
1.遺言を書くメリットは?
(1)相続トラブルの防止
遺言の何よりも大きなメリットが、相続人同士で起きる問題を防止できることです。
遺言が残されていない場合、相続人同士で遺産をどのように分割するか協議する必要があります。
これを「遺産分割協議」と言います。
この協議では、感情的な面を含めトラブルになることが多いです。
また、相続人全員の合意が必要なので時間もかかります。
ですので、遺言が残されていれば遺産をどのように分割するかを指定できるので相続人同士での争いを回避できるのです。
(2)相続人以外にも財産を遺せる
遺言が残されていない場合「法定相続人」に相続されることが法律で決められています。
ですが、被相続人からしたら、法定相続人以外に遺産を残したいということもあります。
こうした場合に遺言を書いておけば、法定相続人以外にも遺産を遺すことが可能なのです(珍しいところだと、学校や公益法人等に寄付する、ということも可能です)。
(3)相続に被相続人の意向を反映させられる
被相続人としては、相続人ごとに相続させる財産の量を変えたいという意向もあると思います。
こうした場合でも、遺言がなければ基本的には法定相続分に従って遺産は分割されてしまいます。
後述する「遺留分」によって制限はありますが、基本的に遺言に分割方法を指定しておけば被相続人の意向通りに分割ができます。
2.遺言書の効果は?
(1)遺言事項の限定
このようにメリットがある遺言書ですが、何を書いても効果が生じるとして、むしろ遺言による権利関係が不明確になりトラブルを生じさせてしまうおそれがあります。
そこで法律では、以下の事項についてのみ遺言の効力が生じるとしています(遺言事項の限定)。
①遺産の処分に関する事項
例えば、下記のとおりです。
- 遺贈
- 相続させる旨の遺言
- 遺言信託
②相続の法定原則の修正
例えば、下記のとおりです。
- 相続人の廃除
- 相続分の指定
- 分割方法の指定
- 特別受益の払戻し免除
③身分関係に関する事項
例えば、下記のとおりです。
- 認知
- 未成年後見人の指定
④遺言の執行に関する事項
例えば、下記のとおりです。
- 遺言執行者の指定
- 指定の委託
⑤その他
例えば、下記のとおりです。
- 祭祀主催者の指定
- 生命保険金受取人の指定、変更
(2)遺言によっても侵せない利益「遺留分」
上述したように、遺言では相続の法定原則を修正することが可能です。
例えば、夫婦関係にある場合は、法定相続分の4分の1の割合で認められます。
しかし、一定の法定相続人については、「遺留分」という遺言によっても侵せない利益が認められています。
例えば、配偶者については法定相続分(2分の1)の2分の1、つまり遺産に対して4分の1の割合で遺留分が認められます。
そのため、上に挙げたように配偶者の取得分を0とし子が全部とする遺言があったとしても、配偶者が子に対して遺留分侵害の効力を奪う意思表示をすれば(これを、「遺留分減殺(げんさい)請求」という)、結局は遺留分を侵害する限度(4分の1)で遺贈は失効して、受遺者である子が取得した権利はその限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属することになるのです。
3.遺言書に書いても効果がないことは?
このように、遺言によって効果が生じる事項は限定されていますが、効果が無いことを書いても遺言自体が無効になるわけではありません。
その記載事項について効果が生じないというだけです。
それでは、「効果がないことを書く意味は無いのか?」と言われれば、決してそうとも言い切れません。
法的に意味はなくとも、事実上意味を有することはあります。
例えば、長子相続の伝統が強い家において、長男以外の子が遺言によって遺留分よりも少ない取り分しか得られなくするという遺言はよく見られるところです。
この場合に、被相続人が長男に多くの財産を遺した理由や、家を存続させることへの想いなどを遺言に記載し、他の子に遺留分減殺請求をしないで欲しいとお願いをする「付言事項」を書くことは、実務上よく見られることです。
実際これに心を動かされ、取得分が少ない子が遺留分減殺請求を控えることもあり得ることです。
また、葬祭場や埋葬方法の指定なども法的に意味のある事項ではありませんが、それに従って相続人が葬儀や埋葬を行うことはよくあります。
このように、法的に効果が生じない事項であっても、遺言に書いてはいけないわけではないし、むしろ書く方が一般的とさえ言えるのです。
4.遺言書作成の種類とポイントについて
(1)一般方式
一般方式の遺言書は、主に
- 自筆証書遺言
- 秘密証書遺言
- 公正証書遺言
の3種類があります。
①自筆証書遺言
遺言を残す者が遺言書の文章や日付と氏名を自身で書き、押印をします。
誰にも知られずに簡単に作れるし費用もかかりませんが、方式不備で無効とされる危険性が高く偽造や変造される危険性も大きいです。
さらに、被相続人がなくなり相続が開始された後は、家庭裁判所から検認を受けなければ効力を生じません。
②秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言書の内容を秘密にしたい場合に用いられる方式です。
自身で署名押印をすれば、パソコンで作成したり代筆してもらうことも可能です。
遺言書作成後は公証役場に提出します。
上記の方法をとれば、遺言者が自身で書く必要もなければ遺言の内容も秘密にできます。
ですが、方式不備の可能性は存在するし結局家庭裁判所による検認が必要なので、実務上あまり利用されていません。
③公正証書遺言
公証人に遺言書の内容を伝えて、公証人が書いたものを公正証書による遺言とします。
公証人とは、法律に基づき書類の認証を行う公務員(元裁判官や元検察官が多い)のことです。
このことから、方式に不備があることはおよそ考えられないし、遺言意思も公証人によって確認されているので、相続開始後に無効主張されるおそれも少ないでしょう。
また、公証人が原本を保管することから、破棄・隠匿されるおそれもないし、相続人による検索も容易です(全国の公証人役場から検索可能)。
さらに、家庭裁判所の検認を経ずして効力が生じます。
公証人費用等のコストがかりますが、きちんとした遺言を作成したいという場合は公正証書遺言がお勧めです。
(2)特別方式
一般方式とは別に、特殊なケース(病気で隔離されている場合・生死に関わる緊急時の場合・海難事故)などに置かれた当事者が書くのが特別方式の遺言書です。
特別方式の遺言書の種類は、主に
- 一般危急時遺言
- 難船危急時遺言
- 一般隔絶地遺言
- 船舶隔絶地遺言
の4種類があります。
その他規定については「民法第983条|特別の方式による遺言の効力」をご参照ください。
①一般危急時遺言
通常のように自分で遺言書を作成することが困難な場合に用いられる方式で、命の危機に直面している場合に一般危急時遺言を残すことができます。
しかし、3名以上の証人の立会いが必要です。
この場合、立会人の書面作成及び署名・押印が必須です。
②難船危急時遺言
船の中で命の危機に陥った場合に用いられる方式です。
証人2名以上の立会いで難船危急時遺言の作成が可能になります。
この場合も、立会人の書面作成及び署名・押印が必須です。
③一般隔絶地遺言
病気や懲役刑などで、外界との接触が断たれた場合などに用いられる方式です。
警察官1名と証人1名以上の立会いの下に一般隔絶地遺言の作成ができます。
この場合も、立会人の書面作成及び署名・押印が必須です。
④船舶隔絶地遺言
船の中にいる状態で外界との接触ができない場合に用いられる方式です。
船舶関係者1名及び証人2名以上の立会いの下で船舶隔絶地遺言を作成することが可能です。
この場合も、立会人の書面作成及び署名・押印が必須です。
(3)遺言書を書く時のポイント
遺言の最大のメリットが相続トラブル防止にあることは前に述べたとおりですが、遺言の内容が不明確では結局相続開始後に揉めてしまうことになります。
例えば、「法定相続分通りに」だけでは、結局どの遺産をどの相続人が取得していいのか分からないので相続が始まった後に相続人同士で話し合いをしなくてはならないのでトラブルの種は残ってしまいます。
相続開始後のトラブルを避ける点を重視するならば、なるべく詳細かつ明確に遺産分割方法について記載すべきでしょう。
また、トラブル防止のためには上述した遺留分についてもケアした方がいいでしょう。
予め遺留分相当額を計算し、それに相当する財産を相続させるといった方法です。
とはいえ、トラブル防止策については素人の方だと難しい部分が多分にあります。
よって、弁護士等の専門家に遺言書の作成を依頼するというのも一つの手でしょう。
まとめ
遺言についてご理解頂けましたでしょうか。
トラブルのない相続のため、本記事を参考にしていただければ幸いです。