「交通事故の加害者が任意保険に入っていなかった場合、慰謝料はどうなるのか・・・」
「事故の相手方が無保険だった場合、補償は受け取れるのだろうか・・・」
交通事故を起こされて相手が任意保険に入っていなかった場合、損害賠償や慰謝料を任意保険から払ってもらうことができません。
そのため、きちんと賠償を受けることができるのか、慰謝料を請求できないままに終わってしまうのではないかと不安になる方も多いのではないでしょうか。
また、保険会社ではなく、加害者本人と直接交渉することに抵抗があったり、怖いと感じる方もいるかもしれません。
しかし、加害者が任意保険に入っていなくても、ご自身の保険が使える場合や弁護士を間に入れることでスムーズに交渉が進む場合もあるので諦めてはいけません。
今回は、交通事故の加害者が任意保険に未加入で無保険状態だった場合の慰謝料や補償についてお話しします。
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目次
1.無保険とはどういう状態か
「交通事故の相手が無保険だった」という話を聞いたことがあるかもしれません。
自動車の保険には「自賠責保険」と「任意保険」の二つの種類があります。
この「無保険」とは、一般的には任意保険に加入していないことをいいます。
というのも自賠責保険は、自動車を運転する人や所有者に加入が義務付けられている強制保険だからです。
自賠責保険に加入せずに車を運転すると1年以下の懲役または50万円以下の罰金という重い刑罰が科される可能性があり、運転免許の点数も6点加算されるので運転しているとそれだけで免許停止になります。
ただ、自賠責保険は、交通事故の被害者に最低限の補償をするという趣旨の保険なので被害金や慰謝料の弁償に不足する場合もあります。
そこで、万が一の事故で高額な賠償金を払う場合に備えて、よくCMで放送しているような任意保険に加入する人が大半です。
とはいえ、任意保険の加入率は約74%、つまり3割程度の人は任意保険に未加入というデータもあります(損害保険料算定機構)。
つまり、交通事故を起こされて相手方が無保険だったというケースはあり得ない話ではありません。
2.相手が任意保険に未加入の場合の対処法①―自賠責保険に請求する
(1)自賠責保険に請求する方法とは
交通事故の加害者が任意保険に加入していない無保険だった場合、損害賠償の請求は加害者が加入している自賠責保険に対して行うのが原則です。
加害者が任意保険に加入し、保険料もきちんと払うなど問題がない場合は加害者が加入している任意保険会社が被害者に連絡をしてきて、一緒に自賠責保険会社にも連絡してくれるので被害者は自ら請求しなくても大丈夫な流れになっています。
しかし、加害者が無保険の場合は被害者が自ら自賠責保険会社に対して請求をしなければいけません。
自賠責保険を請求する方法には、加害者から請求する「加害者請求」という方法と被害者から請求する「被害者請求」という方法があります。
①加害者請求
先に加害者が被害者に対して損害賠償を支払い、その後加害者が自賠責保険会社に支払った損害賠償額を請求する方法をいいます。
加害者が保険金を請求するには示談は成立していなくてもいいのですが、損害賠償を払ったという領収書などの書類が必要になるのであらかじめ保管しておきましょう。
②被害者請求
加害者側が損害賠償を支払わないようなケースにおいて、被害者が加害者が加入する自賠責保険会社に自分で直接保険金の支払いを請求する方法をいいます。
被害者が保険金を請求する際、示談は成立していなくてもいいのですが加害者からすでに損害賠償金の支払いを受けているケースではその金額は差し引かれます。
(2)自賠責保険の補償の限度額とは
自賠責保険で補償される内容としては、次のような例があげられます。
①交通事故を起こされてケガを負った場合
交通事故でケガをした場合、治療費、通院費、仕事を休まざるを得なかった場合の休業損害、精神的苦痛に対する慰謝料などが支払われます。
自賠責保険で補償される金額の上限は、被害者1名につき120万円です。
②後遺症が残り後遺障害認定を受けた場合
交通事故のケガで後遺症が残り将来も回復困難な障害が残った場合、障害の程度に応じて後遺障害が認定されます。
一番重い1級から軽い14級まで、医師の診断に基づいて一定の手続きを経て認定されます。
この後遺障害の認定を受けると等級に応じた金額が保険会社から支払われます。
等級 | 慰謝料 | 支払限度額 |
1級 | 1100万 | 3000万 |
2級 | 958万 | 2590万 |
3級 | 829万 | 2219万 |
4級 | 712万 | 1889万 |
5級 | 599万 | 1574万 |
6級 | 498万円 | 1296万 |
7級 | 409万円 | 1051万 |
8級 | 324万円 | 819万 |
9級 | 245万円 | 616万 |
10級 | 187万円 | 461万 |
11級 | 135万円 | 331万 |
12級 | 93万円 | 224万 |
13級 | 57万円 | 139万 |
14級 | 32万円 | 75万 |
③亡くなった場合
交通事故で被害者が亡くなった場合、被害者本人と遺族に対して慰謝料が支払われます。
被害者本人の慰謝料は、被害者一人当たり一律350万円です。
亡くなるまでに通院していたような場合は、その治療費などが1名につき120万円を限度として支払われます。
また、遺族に対する慰謝料は、請求できる人数や生計の状況によっても変わり、請求権者が1名の場合は550万円、亡くなった被害者に扶養されていた場合は750万円となります。
また、必要に応じて「交通死亡事故の慰謝料とは?慰謝料の相場と遺族がとるべき対応策を解説」もご参照ください。
(3)自賠責保険では補償が足りない場合の対処方法
上記のように、自賠責保険の補償額は決まっていますが交通事故の治療費は高額になることも多く、上限を超えることも少なくありません。
自賠責保険でカバーできなかった損害の補償については、交通事故の加害者に対して、直接請求する必要があります。
また、自賠責保険では車の破損などの物損は補償の対象外です。
そのため、車対車の事故で被害者の車が破損したり廃車になった場合には、その損害は全額加害者に請求することになります。
とはいえ、任意保険に加入していない加害者の場合は資力に乏しいことも多く、損害の全額を支払ってもらうのは難しいのが実情です。
3.相手が任意保険に未加入の場合の対処法②―自分の保険を利用する
上記のように、加害者が無保険の場合は補償の程度が少なく、オーバーした分は自分で加害者に請求しなければならない等、かなりストレスが溜まる状況になりがちです。
そこで、このような状況を回避するために、被害者が加入している任意保険を利用できる場合があるので覚えておきましょう。
(1)人身傷害保険(人身傷害特約)
人身傷害保険とは、交通事故の被害に遭い、自分や同乗者がケガをして入通院したり亡くなった場合に被害者自身が加入している保険会社から補償を受けられるものです。
人身傷害保険は、自分や同乗者に加え、家族であれば保険契約車両以外の車に乗車中に事故にあった場合や自転車に乗っている時や歩行中でも補償が受けられます。
また、被害者に過失割合があっても過失相殺で減額されないこと、保険金の支払いが早いことといったメリットがあります。
また、必要に応じて「交通事故の過失相殺って何?過失割合の具体例と合わせて解説」も参照ください。
(2)搭乗者傷害保険
搭乗者傷害保険とは、人身傷害保険と同じように保険の契約者が被害者の場合に本人や同乗者が補償を受けられるものです。
搭乗者傷害保険も本人や同乗者、家族も補償対象で契約車両以外の車に乗っている場合でも補償を受けられるなど、ほぼ同じといってよいでしょう。
ただし、人身傷害保険は発生した損害について保険金が支払われるのに対し搭乗者傷害保険の場合は、あらかじめ決められた額の保険金が支払われる点で異なります。
(3)無保険車傷害保険(無保険車傷害特約)
無保険車傷害保険とは、交通事故の加害者が無保険の場合や任意保険に加入していても保険金の対象外だった場合、また、ひき逃げ事件の加害者が逃走するなどして特定できない場合に補償を受けることができるものです。
無保険車傷害保険は、支払われる保険の不足分をカバーする趣旨なので後遺障害や死亡についてのみ補償の対象となり、後遺障害の認定を受けない後遺症や物損、休業損害などは対象外となるのでご注意ください。
いざというときに備えて、これらの保険に加入しておくと補償を受けられるのでご心配な方は加入を検討されることをおすすめします。
4.相手が任意保険に未加入の場合の対処法③―相手に直接請求する
交通事故を起こした加害者が無保険で被害者も自分の保険でカバーできなかった場合、損害を加害者本人に請求していくことになります。
なかなか応じてもらうのは難しいことも多いですが諦めずに交渉しましょう。
請求は、次のような手順で行うと効果的です。
(1)電話で賠償を請求する
この場合、いつ、何時に電話をしどのような請求をしたのかを記録に残しておきましょう。
ただ、電話での交渉だけで応じてくれることはほとんど期待できません。
(2)内容証明郵便で請求する
「誰が、誰に対して、いつ、このような内容の手紙を出した」ということを郵便局が公的に証明してくれる手紙です。
ただし、法的な強制力がないので、すんなり応じてもらうのは難しいと言えるでしょう。
また、「意外と簡単! 内容証明郵便を送る方法【雛型ダウンロード可能】」も参照ください。
(3)弁護士に依頼して代理人として請求してもらう
弁護士を間に立てて、代理人として交渉してもらうことで相手方が驚いて払ってくれる場合があります。
弁護士費用はかかりますが、損害賠償を払ってもらえた場合には結果的にプラスになることが期待できます。
依頼する場合は、弁護士費用とのバランスなどを考慮しながら検討しましょう。
また、必要に応じて「交通事故の弁護士費用の相場はどのくらい?費用内訳も分かりやすく解説」も参照ください。
(4)裁判を起こして請求する
最終的には、支払いを求めて裁判を起こすことも可能ですが相手に資力がない場合には費用倒れになる恐れもあります。
弁護士を頼んでいる場合には、回収の見込みを含めて裁判を起こすメリットを検討してください。
まとめ
交通事故の被害は甚大です。
加害者が無保険だった場合、とても自賠責保険だけではカバーできないことも少なくありません。
そのような場合に備える保険があることを初めて知ったという方もいるかもしれません。
いざというときに備えて検討するとともに、もし相手もご自身も十分な保険に入っていなかったとしても、交通事故に巻き込まれた場合には諦めずに、交通事故に強い弁護士に相談をまずはしてみてはいかがでしょうか。