自動車を運転するときには、常に周囲に気を配り、他の自転車や歩行者に危険を発生させないように安全に運転しなければなりません。
しかし、運転に慣れてしまうとどうしても気が緩んで「ながら運転」をしてしまうことがあります。
ながら運転をすると交通事故につながりやすく、事故を起こしてしまったときには厳しい罰則が適用されることになります。
今回は、ポケモンGOでも話題になった、スマホや食事をしながらの「ながら運転」の罰則について解説します。
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目次
1.ながら運転とは
(1)そもそも、ながら運転とは?
ながら運転とは、スマホの操作を始めとした、運転以外の行為をしながら運転をすることです。
たとえば、スマホを操作したり通話したりしながら運転をする場合、カーナビの操作をしながら運転をする場合、テレビを見ながら運転をする場合、食事をしながら運転をする場合などがあります。
免許を取った当初は、ながら運転をしない人が多いのですが運転が日常化するとどうしても緊張感がなくなって、ながら運転をしてしまう人が多くいます。
特に仕事でしょっちゅう車を運転する方や運送業の会社などでは注意が必要です。
(2)特に危険な、「ながらスマホ」
当然のことですが、ながら運転をすると交通事故につながります。
最近、特に危険視されているのが「ながらスマホ」です。
警察庁の発表によると2016年には、ながらスマホによる交通事故が1999件発生しています。
その中で、死亡事故も27件となっています。
また、ながらスマホによる事故は年々増加する傾向もあります。
交通事故の全体件数を見ると「2011年には656000件」だったものが、「2016年には475000件」となって大幅に減少しているのですが、ながらスマホによる事故だけに着目すると「2011年には1280件」だったものが、2016年には先ほど紹介したように1999件にまで増加しているのです。
死亡事故も「2011年には19件」でしたが「2016年には27件」になっています。
スマホは、見ているとどうしても熱中してしまう傾向があり周囲に気を配ることができなくなるので、前方不注視等になりやすいのです。
運転をするときには、スマホ操作をしないことを徹底する必要があります。
2.ながら運転で発生する責任
ながら運転をすると、どのような責任が発生するのでしょうか?
(1)刑事責任
①道路交通法違反
まず、道路交通法により、ながらスマホそのものが禁止されています(道路交通法71第5号の5)。
この規定に違反した場合には、5万円以下の罰金刑が課されます(道路交通法120条1項第11号)。
つまり、ながらスマホをすると交通事故を起こさなくても道路交通法違反となり、罰金を支払わなければならない可能性があるということです。
罰則ですから前科もついてしまいます。
②過失運転致死傷罪
ながらスマホをすることにより、交通事故を起こして人を死傷させると過失運転致死傷罪が成立する可能性があります(自動車運転処罰法5条)。
過失運転致死傷罪は、たとえば前方不注視などの通常の過失によって、交通事故を発生させて被害者を死傷させたときに成立する犯罪です。
スマホを見たり、カーナビを操作していたり、食事をしていたりして運転操作を誤って被害者を引いてしまったり他の車両に衝突して被害者が死傷してしまったりすると過失運転致死傷罪が成立します。
過失運転致死傷罪が成立すると、7年以下の懲役または禁固刑並びに100万円以下の罰金刑が科される可能性があります。
③危険運転致死傷罪
ながらスマホをしていて、非常に危険な運転をして事故を発生させた場合には、危険運転致死傷罪が成立してしまう可能性もあります(自動車運転処罰法2条)。
危険運転致死傷罪とは、故意に近いような重大な過失により、非常に危険な方法で運転をしていて交通事故を発生させた場合に成立する犯罪です。
ながらスマホは、そもそもが非常に危険な行為なので、スマホに熱中してふらふら運転をして人のたくさん集まっている場所につっこんだりすると危険運転致死傷罪が成立する可能性が十分にあります。
危険運転致死傷罪が成立すると被害者がケガをした場合(死亡しなかった場合)には15年以下の懲役刑、被害者が死亡した場合には1年以上の有期懲役刑となり、非常に重い罰則が適用されることになります。
過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪が成立した場合には、当然一生消えない前科がついてしまいます。
(2)行政上の責任
ながらスマホは道路交通法違反の行為ですから、行政上のペナルティも受けることとなります。
行政上のペナルティとは、具体的には免許の点数のことです。
まず、運転中にスマホや携帯電話を使用していた場合には、免許の点数が1点上がります。
特に具体的な危険を発生させなくても免許の点数が加算されるということです。
この場合の反則金は6000円なので、6000円を支払えば、道路交通法によって罰則を適用されることはありません。
運転中にスマホや携帯電話を使用して交通に危険を発生させた場合には、免許の点数が2点加算されます。
この場合の反則金は9000円なので9000円を支払えば、道路交通法によって罰則を適用されることはありません。
ただ、反則金を支払っても免許の点数は上がるので、点数加算が重なることにより免許が停止されたり取消になったりする可能性はあります。
ながら運転によって交通事故を起こしてしまった場合には、事故の内容によって大きく免許の点数が加算されます。
死亡事故を起こしたら、一発で免許停止になることもあります。
また、通事故には反則金制度がないため、反則金を払って刑事責任を免れることができません。
ながら運転をして交通事故を起こしたら、刑事罰を受けることを覚悟しなければならないということです。
(3)民事責任
ながら運転で交通事故を起こすと民事責任も発生します。
民事責任とは、被害者への損害賠償義務のことです。
交通事故を起こすと被害者の車を傷つけてしまったり被害者を負傷させたり死亡させたりしてしまうので、被害者には多くの損害が発生します。
ながら運転は明らかな過失行為ですし過失によって被害者に大きな損害を与えてしまった以上、加害者には不法行為が成立するので、被害者の損害を賠償しなければなりません。
このときの賠償金の金額は、被害者に発生した損害の内容によって異なります。
被害者に重大な後遺障害が残ったり死亡したりすると賠償金の金額が1億円や2億円を超えることもあります。
ながらスマホで危険な運転をしていた場合、加害者の行為が悪質なので、慰謝料などの賠償金が増額されてしまうことも考えられます。
加害者が任意保険の対人賠償責任保険に加入していたら、保険会社が賠償金を支払ってくれますが、保険に入っていなければ、自賠責保険を超える分は加害者が自腹で支払わなければなりません。
以上のように、ながら運転をしていて交通事故を起こすと免許が停止されたり、懲役刑などの刑事罰を受けたり、多額の賠償金の支払いが必要になったりして加害者には大きな責任が発生します。
運転をするときには、決してスマホなどの「ながら運転」をしてはいけないことがわかります。
3.ながら運転が問題になった判例
実際に、「ながら運転」をして処罰された事例にはどういったものがあるのかご紹介します。
(1)運転中にポケモンGOを操作していて2人の女性を死傷
平成28年8月23日、運転中に「ポケモンGO」をしていて、2人の女性をはねて死傷させた事故があります。
この件で加害者は、過失運転致死傷罪で起訴されて、禁固1年2ヶ月の刑が科されることになりました(徳島地裁平成26年10月31日)。
(2)運転中、スマホのカーナビに意識を取られてトラックと衝突
平成 29 年 2 月、埼玉県内で、スマホのカーナビを見ながらトラックを運転していた加害者が、赤信号で交差点に入り、出会い頭で他のトラックと衝突した事故があります。
この事故で、トラックが母子をはね、母親が死亡して子どもが負傷しました。
この件で、加害者は禁固2年6ヶ月の実刑となりました(さいたま地裁平成29年7月3日)。
(3)運転中にスマホの操作を行い、軽自動車に追突
平成 28 年 11 月、福島県内の県道上で、スマホのゲームをしながら運転していた加害者が軽自動車に追突しそばに立っていた男性をはねて死亡させた事故があります。
この件では、加害者は過失運転致死罪と道路交通法違反(ひき逃げ)で、懲役3年6ヶ月の実刑となりました(福島地裁平成29年2月27日)。
(4)トラックの運転中にスマホの操作を行い、小学生を死亡させた
平成 28 年 10 月、愛知県内で、スマホのゲームをしていたトラック運転手が、横断道路を渡っていた小学生をはねて死亡させた事故では、加害者が過失運転致死罪となり、禁固3年の実刑判決を受けました(名古屋地裁一宮支部平成29年3月8日)。
(5)スマホを操作しながら運転していた会社員が女性を死亡させた
平成 28 年 8 月、愛知県内でスマホのゲームをしながら運転していた会社員が、スマホに充電用のコードを入れようとしていて、横断道路上の女性をはねて死亡させた事故では、運転者に対し、禁固2年6ヶ月の判決が下されました(名古屋地裁平成29年5月2日)。
以上のように、ながら運転をしていると多くのケースで実刑となります。
執行猶予がつかず、即時に刑務所に行かなければならないということです。
特に、ひき逃げなどが重なると刑が重くなっていることがわかります。
実刑判決になると仕事も失うことになりますし、家族とも離婚を余儀なくされる例が多いです。
死亡事故を起こすと、刑期を終えた後も、「人を死亡させた」という重荷を一生背負っていくことになりますし子どもにも「犯罪者の子ども」という重荷を背負わせることになってしまいます。
少しの不注意が、大きな破綻を導いてしまうのでくれぐれも注意が必要です。
4.被害者が「ながら運転」をしていたらどうなる?
ところで、ながら運転をするのは、加害者とは限りません。
被害者がながら運転をしていた、というケースも考えられます。
その場合、どのようなことが起こるのでしょうか?
まず問題になるのは、民事損害賠償の過失相殺です。
交通事故で被害を受けたら加害者に対して賠償金の請求ができますが、このとき、被害者側に過失があるとその分加害者に対して請求できる金額が減ってしまいます。
ながら運転していると被害者の過失が非常に大きいということになってしまうので、賠償金が相当大きく減額されてしまう可能性があります。
また、被害者の過失が大きすぎると自賠責保険から支払われる保険金も減額されてしまいます。
自賠責保険には、重過失減額があるためです。
さらに、被害者の立場であっても運転免許の点数加算や反則金の適用はあります。
このように、ながら運転をしていると被害者になったときにも大きな不利益を受けることになるので、絶対に辞めましょう。
また、必要に応じて「交通事故の過失相殺って何?過失割合の具体例と合わせて解説」と「交通事故の過失割合とは?不満がある場合の対処方法」もご参照ください。
まとめ
以上のように、自動車を運転するときの「ながらスマホ」は非常に危険です。
自動車を運転するときや、従業員に運転させるときなどには、ぜったいにながら運転をしない、させないことが重要です。
今後の参考にしてみて下さい。