自動車に乗るとき、後部座席に乗ったときもシートベルトを着用していますか?
現在、法律でどこの座席でもシートベルトを装着することが義務付けられています。
運転席と助手席ではシートベルト着用が義務付けられていることは、以前から知られていましたが後部座席でもシートベルト未装着で交通事故に遭うと前の座席に叩きつけられて全身を強打したり、車外に飛び出して後続車に轢かれるなど、交通事故の被害が拡大する可能性が高くなることからシートベルト着用義務の対象が広がりました。
このように、シートベルト着用が義務付けられている昨今、シートベルト未装着で交通事故が起きた場合に加害者に正当な補償をしてもらえるのか、過失割合がどのように考慮されるのか心配な方もいるかもしれません。
今回は、シートベルト未装着で発生した交通事故について、過失割合や損害賠償責任の割合についてご説明します。
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目次
1.シートベルト未装着の場合の交通事故の被害規模とは
(1)シートベルト装着のルールと装着状況
日本では、道路交通法という法律で、全ての座席についてシートベルトを着用することが定められています。
しかし、運転席のシートベルト着用率は高速道路・一般道共に約99パーセント、助手席では約95パーセントと高いのに対し、後部座席の場合は高速道路でも約70パーセント、一般道では36パーセントと低いのが実情です(警察庁HPより)。
ケガや障害でシートベルトを装着できない等の正当な理由がなくシートベルトを未装着だった場合、課されるペナルティは座席によって異なります。
運転手、助手席では一般道か高速道路かに関わらず、シートベルト未装着の場合は違反点数1点となりますが後部座席の場合、一般道では口頭注意だけで高速道路の場合に違反点数1点となります。
いずれも反則金を納める必要はなく、この場合は白切符と呼ばれる違反切符を切られることになります。
(2)後部座席でも命を落とす―シートベルト未装着と被害状況
シートベルト未着用の場合に、どの程度事故の被害が拡大するかご存知ですか。
自動車に乗車中の交通事故で亡くなった方のうち事故の衝撃で車外に飛び出した人の割合は、シートベルトを未装着だった場合は装着していた場合に比べ21倍も高くなっています。
座席別にみると運転席で約14倍、助手席で約19倍、後部座席では30倍といずれも高く、特に後部座席ではシートベルトを装着していて車外に飛び出したケースはなく、シートベルトの有効性が際立っています(警察庁「平成28年 シートベルト着用に関する統計」)。
また、後部座席の人が、事故の衝撃で前の座席の人にケガを負わせる割合は、シートベルト着用時に比べて未装着の場合は51倍高くなるというデータが出ています(独立行政法人自動車事故対策機構)。
これらのデータから、いかにシートベルト未装着の場合に事故の被害が拡大するかがお分かりいただけたのではないでしょうか。
2.シートベルトの未装着が過失になる!?過失割合されるケースとは
(1)シートベルトをしていないことが必ず過失になるわけではない
交通事故を起こした場合、シートベルトを未装着だったことによって過失割合が認められる場合があります。
上記でのべたように、現在は車に乗る人は全ての座席でシートベルトの着用が義務付けられています。
とはいえ、交通事故が起きた際にシートベルト未装着という義務違反があったからといって、必ずしも過失の対象になるというわけではありません。
シートベルト未装着だったことが過失割合として考慮されるのは、シートベルト未装着だったために交通事故の被害を拡大させたという因果関係がある場合に限られるのが原則です。
この場合、運転者だけでなくシートベルト未装着だった同乗者についても過失があったとして過失割合が考慮されることになります。
また、必要に応じて「交通事故の過失割合とは?不満がある場合の対処方法」も併せてご参照ください。
(2)シートベルト未装着で過失割合が考慮された具体的なケース
シートベルト未装着について過失割合が認められる場合でも、その程度は事故の状況によって様々です。
明確な基準はありませんが後部座席を含めてシートベルト着用が義務付けられていることは周知されているから、シートベルト未装着と交通事故の損害の発生あるいは損害拡大の間に因果関係がある場合には5から20パーセントの過失割合をみとめて良いと考えるのが実務の運用です。
実際の過去の裁判例では、過失割合が認められたケースとして次のような実際の事故の事例があります。
①ケース1
出合い頭の衝突事故で運転手が車外に飛び出して亡くなった事故で、運転手のシートベルト未装着などの過失が認められ80パーセント過失相殺されたケース
②ケース2
高速道路で追突され助手席の被害者が車外に飛び出して亡くなった事故で、シートベルト着用を指示しなかった運転手とシートベルト未装着だった被害者の過失が認められ20パーセント過失相殺されたケース
3.シートベルト未装着でも過失割合が認定されないこともある
一方、シートベルト未着用で交通事故が発生しても過失割合が認められなかったケースもあります。
(1)ケース1
自動車同士の衝突でシートベルト未装着で座席を倒して寝ていた同乗者がケガをした事故で、シートベルト未装着とケガとの間の因果関係が不明等の理由で過失割合が認められなかったケース
(2)ケース2
出会い頭の衝突事故でシートベルト未装着だった被害者が頭部にケガを負った事故で、どのようにケガをしたのか明らかでないのでシートベルト未装着が治療内容に影響したと言いきれないとして過失割合が認められなかったケース
このように、同じようにシートベルト未装着で交通事故に遭った場合でも事故の状況によって過失割合が認められるかどうか、また過失割合が認められた場合でもどの程度考慮されるかに大きな違いが出ます。
ご自身の事故で心配な場合は、交通事故に強い弁護士に聞いてみましょう。
4.シートベルト未着用で交通事故に遭った場合も補償してもらえるか
シートベルト未着用で交通事故に遭いケガをした場合、相手やその保険会社がきちんと賠償をしてくれるかどうか気になる方もいるのではないでしょうか。
交通事故の原因が相手にあってもシートベルトを着用していなかったという引け目があり、賠償額の請求がしにくいこともあるかもしれません。
先にも述べたようにシートベルト未着用が交通事故の直接の原因となるわけではないので、それだけで被害者に過失が認められるわけではありません。
しかし、シートベルト未着用で交通事故に遭った場合、損害賠償を減額されることがあるので注意が必要です。
シートベルト未着用だったためにケガがより重くなったような場合に「被害者の側にも損害を拡大させた過失がある」と判断されて損害賠償額が減額される可能性があるのです。
5.シートベルト未着用で損害賠償が減らされたケース
では、シートベルト未着用で補償が減額される場合に、どの程度減らされることになるのでしょうか。
事故の態様によって過失の程度が異なること、特に後部座席のシートベルト未着用についてはまだ周知されている割合が低いことから一概には言えないのですが、通常のケースで減額10パーセント程度、交通事故の加害者側に大きな過失が認められるような場合は過失割合を調整して減額5パーセント程度とされることが実務では多くなっています。
実際に補償の減額が裁判で争われたケースとしては、次のようなものがあります。
(1)ケース1
タクシーの車内で後部座席のシートベルト着用を促されたが未着用だった乗客が、急ブレーキの衝撃で前の座席にぶつかりケガをした事故で、シートベルト未着用だったことに10パーセントの過失があるとして損害賠償額が減額されたケース。
(2)ケース2
交通事故で、後部座席でシートベルトを未装着だった被害者だけがケガをした事故で、シートベルト未着用がケガの原因や重症化に寄与したとして損害の10パーセントが控除されて減額されたケース。
6.シートベルト未着用で交通事故に遭った場合の対処方法
シートベルト未着用で交通事故に遭った場合、相手の保険会社が過失割合を主張してきて損害賠償の額も大きく減額される可能性があります。
たしかに、シートベルト未着用だったことが損害を大きくしたことに影響したと認められた場合、過失割合が認められて損害賠償の額も減額されることがあります。
しかし、どの程度の過失割合が認められどの程度減額されるかは、過去の裁判などをもとにした専門的な判断によって行われるので保険会社の主張する過失割合をうのみにできないこともあります。
また、そもそも保険会社が提示してくる保険金は、保険会社の利益が出るように定められた「任意保険基準」という基準に基づいているので、本来ならば受け取ることができるはずの補償金額より少ないのが通常です。
そのような場合は、弁護士にたのむことで正しい過失割合を認定し、本来受け取ることができる保険金に近づけるよう交渉してもらうことができます。
保険金の基準には、先ほどの「任意保険基準」以外に「裁判所基準」という基準があり、これは多くの裁判例をもとに裁判で勝った場合に認められる金額のことです。
任意保険基準よりも裁判所基準の方が高額なので、弁護士が交渉することによってこの金額に近づけることが期待できます。
また、保険会社としても裁判になると費用も時間もかかるので、交渉段階で増額に応じることも少なくありません。
シートベルト未着用で交通事故被害に遭った場合でも過失があるのか、過失があるとしても過失割合はどの程度なのか、補償はどの程度受け取ることができるのか、について弁護士に相談してから示談することをおすすめします。
まとめ
いかがでしょうか。
シートベルトは全座席で装着が義務付けられているとはいえ、まだ後部座席では一般化しているとは言いにくいのが実情です。
しかし、後部座席でもシートベルト未着用で被害が大きくなることが多く、最近は過失割合を認める裁判例も増えてきているようです。
万が一交通事故に遭った場合に重症化を防ぐためにシートベルトを着用すべきことが第一ですが、もし事故に遭った場合には弁護士に過失割合などについて相談してみましょう。