「親が会社を経営しているが、相続する時はどうしたらいいのだろうか…」
「自分が死んだら子どもに家業を継いでほしいが、何から手を付けたらいいか分からない…」
実家が会社を経営していたり、家業を継ぐ予定の方は相続時のトラブルで会社の活動が止まるようなことがないか、漠然とした不安を抱いていらっしゃる方も少なくないのではないでしょうか。
「会社を継ぐ」と一言でいっても、事業形態も継ぐ方法も様々です。
事前に会社を継ぐ方法を知り、できるだけ準備を進めておくことで、いざというときにスムーズな事業承継が期待できます。
今回は、会社や家業を継ぐなど事業承継をする予定の方が知っておくべき方法や手続き、準備しておくべき内容についてご説明したいと思います。
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目次
1.個人事業の事業承継
(1)事業承継で知っておくべき個人事業と会社の違い
個人事業とは、会社を法人化せず個人として事業を行うことを指します。
個人事業は、一般的な会社と異なり、事業を経営する人と事業体を所有している人(オーナー)が一致しているという特徴があります。
そのため、個人事業を事業承継する際は、経営者の個人財産も事業用財産も丸々引き継ぐというのが基本的な考え方です。
つまり、個人事業の社長は個人事業の経営部分だけを引き継ぐことはできません。
経営者の子どもが事業を引き継ぐ際には事業用の財産を個別に相続するなどし、相続人以外の従業員や第三者が引き継ぐ際には同じく事業用の財産を個別に引き継ぐ手続きを要することになります。
そのため、個人事業を事業承継すると新規に個人事業を始めたものとして、関係各所に開業届などを提出する必要が生じます。
(2)個人事業を事業承継するための3つの方法
個人事業の事業承継には、承継する人に応じて3つの方法があります。
①親族内承継
個人事業を継がせる際には、息子や娘など、経営者の親族が後継者となることが多いです。
このように、経営者の家族・親族が事業承継する方法を「親族内承継」と言います。
親族内承継を行うメリットとデメリット
親族内承継をするメリットとしては、事業承継が従業員や取引先に受け入れられやすく、個人事業の所有と経営が一致しやすいという点があります。
デメリットとしては、親族に適任者がいないリスクがあること、複数の子どもがいると後継者争いが生じる可能性があることが考えられます。
親族内承継の注意点
親族内承継では、事業用の資産の承継について個人間の相続対策がメインとなります。
親族内承継をスムーズに行うための具体的な方法としては、会社の資産を、経営者が存命の間は「生前贈与」、経営者の死後に行う場合は「遺言」の対策を取ることが考えられます。
生前贈与を行う場合は、後継者が経営者の相続人のケースでは、他の相続人との相続財産の調整を行いましょう。
具体的には、特別受益として事業用財産を差し引いた上で遺産分割手続きを行うこと、経営者の相続の開始前1年間に贈与をした場合は遺留分減殺請求されないように相続分を調整することなどの注意が必要です。
なお、贈与税を極力課税されないようにするために、「相続時精算課税制度」の利用を検討するのも一つの方法です。
「相続時精算課税制度」は、2500万円までは贈与税なしで贈与できる制度です。
但し、60歳以上の親・祖父母が贈与し、推定相続人の20歳以上の子・孫が受贈者になるといった条件を満たす必要があること、相続時精算課税を選んだ後は、贈与した人が再度贈与する際は1年で110万円まで非課税になる暦年課税にできないこと等の制約もあります。
個人事業の事業承継を生前贈与で行う場合には、弁護士や税理士に確認してみるとよいでしょう。
一方、遺言により事業承継を行う場合は、他の相続人との遺産相続する際の公平感を鑑みて、遺留分減殺請求権を行使されないように注意が必要です。
具体的には、生前に他の相続人に贈与した財産の目録を作り後々の紛争を防止する、事業用資産以外の財産は他の相続人に相続させて遺留分の侵害を避けるなどの方法があります。
なお、特に事業承継が関わる場合は権利の問題が生じやすいので、自筆証書遺言よりも公正証書遺言を作成しておくことが望ましいです。
②社内事業承継(MBO・EBO)
個人事業を、親族以外の役員や従業員に継がせる方法を「社内事業承継」と言います。
社内の経営陣が引き継ぐ場合(MBO:Management buyout)と、一般の従業員が引き継ぐ場合(EBO:Employee buyout)の2種類があります。
社内事業承継のメリット、デメリット
社内事業承継を行うメリットとしては、社内人材が経営を引き継ぐために取引先との関係を継続しやすいこと、また、社内の優秀な人材を後継者にできることがあります。
反対にデメリットとしては、個人事業では社長名義の債務や負債の処理方法や経営者に相続人がいる場合に経営をめぐるトラブルが発生する可能性があることが挙げられます。
社内事業承継の注意点
社内事業承継を行う場合には、経営者名義の負債がある場合や経営者が連帯保証人になっている場合に、後継者となる社内人材に、いざというときの資力があるかを確認しておく必要があります。
日本では、個人事業主の事業用資産は、不動産(土地・建物)で60%を超えると言われています。
また、個人事業主が銀行などから借り入れをする際には、不動産に抵当権が設定されていることがほとんどです。
それだけに、事業が傾いた場合に連帯保証人や経営者としての資力が不足していると、個人事業の経営基盤である不動産を失い、事業そのものを危うくする恐れも否定できません。
経営者個人の力だけでは対処が難しい場合もあるので、専門家のアドバイスを受けておくことをお勧めします。
③第三者事業承継(M&A)
個人事業主の業務を、第三者が事業承継する方法を「第三者事業承継(M&A:mergers and acquisitions)」といいます。
よく、大企業を舞台としたM&Aのニュースを目にしますが、昨今M&Aは個人事業主の間でも増えてきていると言われています。
第三者事業承継のメリット、デメリット
第三者事業承継を行うメリットとしては、広く後継者を募って優秀な人材を獲得できること、また第三者に事業を売却するため経営者が利益を得られることがあります。
反対にデメリットとしては、従業員の雇用契約継続など条件があう承継先を見つけるのが難しいこと、既存の取引先との継続的な関係を維持しにくいという点があります。
第三者事業承継の注意点
個人事業主が第三者事業承継を行う際は、事業の全部承継の方法を用いるのが一般的です。
その際注意すべきなのが、個人事業を第三者事業承継するには事業の価値を向上させること、買収する相手に嘘を言わず情報を正しく開示することです。
これを怠ると、事業価値が低く評価されたり、隠し事が事後に判明した場合には損害賠償を請求される可能性があります。
(3)個人事業の事業承継で押さえておくべき共通の3つのポイント
親族内承継、社内事業承継、第三者事業承継のいずれの方法においても、個人事業主が事業承継を行う際は資産の状況を把握し、できるだけ早く行動を起こすこと、そして場合によっては業態の変更を検討することが有効です。
①資産状況の把握
資産の状況については、経営者個人の財産、不動産や設備機器などの事業用資産、負債などの状況に加え、特許権や著作権、許認可権などの権利も立派な資産になるので把握が必要です。
また、従業員や取引先との契約関係も把握しておきましょう。
②事前の準備
個人事業の事業承継をスムーズに行うためには、まず、後継者を早めに決めておくことが必要です。
後継者の立場に応じて生前贈与を行ったり、遺言所を適切に作成して保管しておくことが相続後の円滑な事業承継に繋がります。
③業態の変更
もし、個人事業が一定の売上げを上げているならば、個人事業を法人化しておくことで、スムーズな経営の譲渡が期待できます。
具体的には、事業用の資産と個人の資産を別々に相続させられること、後継者が一部出資することで贈与税がかからず生前贈与と同等の効果が得られること、法人の役員変更をするだけで許認可を受けている事業を承継できること等のメリットがあります。
但し、税金面で必ずしも法人化がメリットにならない場合もあるので、事前に税理士や弁護士に相談しておくとよいでしょう。
2.会社の事業承継
(1)事業承継で押さえておくべき会社の性質
日本において、企業の90%を占めるのが中小企業です。
このサイトを見て下さっている方で、中小企業の経営者の方がいらっしゃるかもしれません。
会社は、個人事業と異なり、法人格を持った経営者とは別の主体です。
そして、会社の経営者は社長ですが、会社の所有者(オーナー)は株主です。
株式会社においては、経営者が株主であるとは限りませんが、中小企業の場合は経営者が自社株式の大半を所有し実質的なオーナーというケースも少なくありません。
オーナーの力は保有する株式の数に比例するため、会社にとって重要な事項を決定する際は株主総会において決められることになります。
そのため、会社の事業承継においては、株式の処理を中心に検討していく必要があります。
(2)会社を事業承継するための3つの方法
個人事業と同様に、会社を事業承継する場合も「親族内承継(現経営者の親族に会社を引き継ぐこと)」「社内事業承継(会社の役員や従業員に会社を継がせる事業承継方法)」「第三者承継(M&A)」があります。
特に第三者承継は、会社の事業承継で度々用いられる方法で未上場企業でも増加傾向にあると言われています。
(3)会社の事業承継の注意点
会社を事業承継する場合は、上記3つの方法のいずれを取る場合でも、最も重要なのが会社の資産である株式の承継です。
日本の会社法では、会社の重要事項は株主総会で決めるべきと定められています。
株主総会の決定権限は、決定事項によって多数決の割合が決められおり、株式を多く持っているほど発言権や決定力が大きく、会社に強い影響力を及ぼすということができます。
株主総会の決定如何によっては、経営者を選任したり解任することもできるのです。
それだけに、会社を事業承継する場合には、いかに後継者に株式を多くスムーズに承継できるかが重要になります。
会社の株式を承継する際には、次の4つのポイントに留意しましょう。
①株式を確保する
会社を事業承継する際にまず重要なのは、後継者に株式を集中させてオーナーとしての立場を維持させることです。
特に、会社を他人に乗っ取られないようにするためには、自分の会社の3分の2以上の議決権を持っていることが必要になります。
そのための対策としては、経営者が存命の間には「生前贈与」を行い、後継者に株式を集中移転させておくことが有効です。
但し、他の相続人の遺留分を侵害するおそれがあるので、遺産分割を踏まえて他の財産の分散を図ることが重要になってきます。
また、贈与税は相続税よりも高いので、税金対策も行っておく必要があるでしょう。
他方、経営者の死後に行う場合は「遺言」を作成し、後継者に株式を遺贈させるようにしておくこともできます。
遺贈は、遺留分に気を付ければ相続争いを避けられる反面、いつ発生するかがわからないため、後継者の立場が確定できないという不確かさがあります。
②株式の分散を防ぐ
会社を事業承継するための株式の承継には、株式の集中と同時に分散防止の対策も必要です。
分散を防ぐ対策としては、会社の定款で株式の譲渡制限を定めたり、後継者を除くその他の株主には議決権制限株式等の種類株式を発行するといった方法が考えられます。
株式の発行については、会社法に規定がありますが非常に複雑な法律です。
種類株式を発行したり、定款を変更する際などには弁護士に相談することをお勧めします。
③税金対策を行う
会社の株式を取得する際には、多額のお金が動き、それに伴い税金もかかります。
そこで、贈与の際は非課税枠を利用したり、会社が非上場株式会社の場合は「経営承継円滑化法」という法律を利用することで、贈与税や相続税の課税額を減らしたり猶予を受けることが可能になります。
相続時精算課税制度の利用
生前贈与を受けた際、暦年贈与か相続時精算課制度の利用を検討しましょう。
暦年贈与とは1年で110万円まで非課税にしてもらえる制度で、相続時精算課制度とは60歳以上の親・祖父母から20歳以上の子・は孫への贈与について2,500万円まで非課税にしてもらえる制度です。
どちらを利用するかは、相続が発生するまでの時期を鑑みて検討するとよいでしょう。
非上場株式等の贈与税、相続税の猶予
非上場会社の株式の贈与を後継者が受けると贈与税全額の支払いを猶予してもらえます。
また、相続税についても後継者が承継した株式の課税価額の80%相当額の納税について猶予してもらうことができます。
小規模宅地等課税の特例
後継者が相続人の場合、特定事業用宅地等を引継いで事業を継続する場合は、相続税の計算の際、400㎡までの土地の評価額を80%減額してもらうことができます。
生命保険の非課税枠
生命保険の死亡保険金を受け取る際、法定相続人1人あたり500万円の非課税枠の利用が可能なので、相続対策の一環として利用することができます。
④事業用財産の承継
個人事業の場合と同様に会社の事業承継の場合でも、経営者個人の不動産に会社の債務を担保するための抵当権が設定されていたり、経営者個人の土地に会社事務所が設営され会社が借りている状況になっているような場合には、これらの債務についても対策を講じておく必要があります。
実際には経営者が会社に債権を持っているようなケースが考えられますが、債権も相続や遺言の対象となるので、後継者が承継するように明らかにしておくべきです。
まとめ
今回は、家業や会社を継ぐ際に知っておくべきポイントや対策についてお話ししました。
個人事業の場合でも、法人化した会社の場合でも、事業承継には遺産相続といった法的な側面と税金対策という税務的な側面の両方から検討しておくことが、いざというときのために重要です。
事業承継の方法も様々なので、なにが自社にとって最善の方法なのか、法律や税務に詳しい専門家に相談した上で、早めの対策を取ることが重要と言えるでしょう。