相続が発生すると、相続税を支払わなければなりません。また、近年では相続税の税制が改正されて、相続税の基礎控除が減額された上、相続税率も上がってしまいました。
反面、贈与税については控除の制度が拡大されて贈与税の節税はしやすくなっています。
そこで注目されているのが生前贈与です。
生前贈与の制度を利用すると、相続税を大幅に節税できる可能性があります。
生前贈与とはどのような方法で、遺産相続とはどこが違うのでしょうか。
また、具体的にどのような点で有利なのかも知りたいところです。
さらに生前贈与をしたい場合の相談先も知っておく必要があります。
今回は、生前贈与と遺産相続の違い、相談方法などについてご説明致します。
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目次
1.生前贈与とは
生前贈与を上手に利用すると、相続税の節税になると言われています。
そもそも生前贈与とはどのような手続きなのでしょうか。
生前贈与は、生きているうちに、将来の相続人に対して財産を贈与することです。
たとえば、父が生きているうちに、息子に対して現金や不動産を贈与する場合などが生前贈与になります。
2.生前贈与と遺産相続の違い
生前贈与と遺産相続はどこが異なるのでしょうか。
(1)財産が移転する時期が異なる
これについては、その財産の移転がいつ行われるかと言うことが最も大きな違いです。
生前贈与の場合には、上記のとおり、贈与者が生きている間に行われます。
これに対して、遺産相続の場合には、被相続人(死亡した人)が死んだ時点で相続人に対して財産の権利が移転します。
(2)かかる税金が異なる
次に、生前贈与と遺産相続ではかかる税金の種類が異なります。
生前贈与では贈与税がかかりますが、遺産相続の場合には相続税がかかります。
贈与税も相続税も、対象となる財産の金額に応じて課税されますが、それぞれについて控除制度があります。
ただ、贈与税と相続税は全く別の種類の税金なので、利用出来る控除や特例制度などの内容も異なってきます。
生前贈与を利用して生前に財産を贈与してしまえば、相続時に相続させる財産の金額が減って、かかる相続税の金額を減らすことができます。
そこで、生前贈与を賢く利用して贈与税を節税すれば、結果的に相続時に相続させる財産が減って、相続税の節税につながるのです。
3.生前贈与が相続税節税になる理由
生前贈与が相続税節税に役立つと言われていることには、近年の税制改正が影響しています。
以下では、生前贈与が相続税節税になる理由をご説明します。
(1)相続税制度が改正されて、支払の必要性が高くなった
まず、近年相続税制度が大きく改正されて、相続税が課税される対象が広がりました。
平成27年1月1日から、相続税の基礎控除が大きく引き下げられました。
それまでは、5000万円+法定相続人の人数×1000万円の金額までは、相続税がかかりませんでしたが、平成27年1月1日以後は、3000万円+法定相続人数×600万円の金額までしか、相続税の控除が認められなくなったのです。
これによって、一般家庭でも多くのケースで相続税の支払いが発生することとなりました。
そこで、相続税節税のための生前贈与に注目が集まったのです。
(2)贈与税控除の制度が拡大された
生前贈与を利用した相続税節税方法に注目が集まっていることには、もう一つ理由があります。
それは、近年生前贈与を目的にした贈与についての贈与税の控除や軽減特例が創設されており、拡大傾向にあるということです。
実際に、現在適用出来るたくさんの生前贈与についての贈与税控除制度があります。
以下で、具体的にご紹介します。
①暦年贈与
生前贈与の際に利用出来る贈与税の控除として、まずは暦年贈与があります。
これは、年間110万円までの贈与については贈与税がかからないという贈与税の基礎控除のことです。
たとえば年間110万円までであれば、預貯金や生命保険の掛け金、不動産や株券など、どのような財産でも生前贈与に贈与税はかかりません。
この110万円は、贈与を受ける人ごとに計算されるので、たとえば孫が3人いる場合には、1人110万円ずつ、年間330万円分の贈与まで贈与税が非課税になるので大変メリットが大きいです。
②相続時精算課税制度
生前贈与についての贈与税の特例としては、相続税精算課税制度があります。
相続時精算課税制度とは、親から子や孫に対する2500万円までの贈与分については、贈与税がかからないとする特例のことです。
贈与する親は60歳以上、贈与を受ける子や孫は20歳以上である必要があります。
2500万円を超える贈与があった場合には、2500万円を超過する部分について一律に20%の贈与税が課税されます。
また、相続時精算課税制度を利用した場合、実際に相続が起こった際には贈与分を相続財産に足して、その合計金額に相続税が課税されることになります。
もし相続時に基礎控除の範囲内におさまっていたら、贈与税も相続税も支払の必要はないことになり、大変メリットがあります。
相続時精算課税制度を利用する場合には、贈与のあった翌年に確定申告をする必要があります。
また、相続時精算課税制度を利用する場合には、4-1.の暦年課税を併用することはできません。
よって、生前贈与をする場合には、暦年課税か相続時精算課税制度のどちらを利用するのかを選ぶ必要が生じてきます。
③配偶者に対する居住用不動産の贈与
生前贈与についての贈与税の特例として、配偶者に対する居住用不動産の贈与の特例があります。
これは、20年以上の夫婦間で居住用の不動産や居住用の不動産を購入するための資金を贈与する場合には、2000万円分までの贈与税が非課税になるという特例です。
この制度では、相続時に精算して相続税が課税されることもなく、完全に贈与税も相続税も支払いが不要になるので、大変メリットがあります。
また、この制度は3(1)①の暦年課税と併用することも可能ですので、配偶者に居住用不動産や不動産取得費用を贈与した場合には、2110万円の贈与分まで非課税にすることが可能です。
④住宅取得資金贈与の特例
生前贈与についての贈与税の特例としては、住宅取得資金贈与の特例があります。
これは、親から子や孫に対して、住宅購入資金を贈与した場合に、贈与額が1200万円まで非課税になる制度です。
消費税率が10%に上がった場合には、非課税枠が大きくなる予定になっています。
この特例を利用出来る場合は、親が60歳以上で、贈与を受ける子や孫が20歳以上である必要があります。
また、住宅取得資金の贈与であることが必要で、居住用不動産そのものの贈与については適用はありません。
さらに、住宅ローンの支払いを肩代わりした場合にも、この特例の適用はないので注意が必要です。
ただ、上手に利用すると大変大きな金額の贈与税を非課税にできるメリットがあります。
さらに、この住宅取得資金贈与の特例は、暦年贈与または相続時精算課税制度と併用できます。
たとえば相続時精算課税制度と併用した場合には、贈与税が3700万円程度まで非課税になる可能性があります。
⑤教育資金贈与の特例
生前贈与を利用した贈与税節税方法としては、教育資金贈与の特例があります。
教育資金贈与の特例とは、親が子や孫に教育資金の贈与をした場合、1500万円の贈与分まで贈与税が非課税になる特例です(学校等に支払うお金の場合)。
学校以外のスポーツ施設や塾などに支払うお金についても教育資金としての贈与が認められますが、その場合には贈与税の非課税枠は500万円までとなります。
教育資金贈与の特例を利用したい場合には、信託銀行との間で教育資金管理契約という契約を締結する必要があります。
その上で、贈与する人が信託銀行に、教育資金を一括で支払います。
その後、贈与を受けた子や孫が、教育資金を必要とするその都度、教育資金の支払いに関する領収証などの資料を信託銀行に提示して、出金していくことになります。
教育資金贈与の手続きは子や孫が30歳になると終了します。
子や孫が30歳になった時点で使い切れなかった贈与金については、その時点で残っている金額について贈与税が課税されることになります。
教育資金贈与の特例も、暦年贈与または相続時精算課税制度と併用できます。
⑥結婚・子育て資金贈与の特例
生前贈与を利用した贈与税節税方法として、結婚屋子育て資金贈与の特例もあります。
これは、親から子や孫へ結婚や子育て資金を贈与する際に、1000万円の贈与分までの贈与税が非課税になる制度です。
結婚資金についての非課税枠は300万円が上限になります。
結婚・子育て資金贈与の特例を利用できる場合は、親が60歳以上、贈与を受ける子や孫が20歳以上50歳以下であることです。
この制度を利用する場合も、教育資金贈与の特例の場合と同様、信託銀行を利用します。
具体的には、同じように信託銀行と財産管理契約を結んで、親が一括で贈与する資金を振り込みます。
すると、その後、贈与を受けた子や孫が、その都度支払をした領収証などの資料を信託銀行に提示して、払い戻しを受けていくことになります。
贈与を受けた子や孫が50歳になると、この手続きは終了します。
子や孫が50歳の時点で使い切れなかった贈与金については、その時点で残っている金額について、贈与税が課税されることになります。
結婚・子育て資金贈与の特例も、暦年贈与または相続時精算課税制度と併用できます。
以上のように、生前贈与にはたくさんの控除や非課税枠があります。
これらの制度を賢く利用すると、贈与税や相続税を大きく節税することが可能になります。
4.生前贈与したい場合の相談方法
生前贈与を利用すると、贈与税や相続税の節税ができますが、生前贈与を利用した贈与税の節税方法にはさまざまなものがあり、自分の場合にどの方法を利用すればよいのかわからないことが多いでしょう。
そこで、生前贈与をしたい場合には、専門家に相談することが有効です。この場合、どのような相談先があるのでしょうか。
以下で、順番にご紹介します。
(1)相談先の種類
①税理士
生前贈与の相談先として、もっともと言ってよいほどポピュラーなのが税理士です。
税理士は税金のプロなので、生前贈与にかかる贈与税の問題や、相続の際にかかる相続税の問題などについて非常に詳しいです。
生前贈与に認められる各種の贈与税特例などについても熟知しているので、どのような場合にどの制度の利用が適切か、的確に判断してくれます。
自分がどの制度を利用してよいかわからないときには大変頼りになります。
また、生前贈与を利用する場合には、確定申告が必要になります。
税理士は確定申告のプロなので、税理士に生前贈与を相談すれば、面倒な確定申告まで一挙に依頼出来て、スムーズに、しかも正確に手続きをすすめることができます。
このように、生前贈与の相談をする場合、税理士は非常に有用です。
多くの税理士が生前贈与の相談に力を入れて積極的に取り組んでいるので、是非とも利用しましょう。
②弁護士
生前贈与の相談先としては、弁護士もあります。弁護士は法律のプロとして、相続手続きや贈与手続き全般について詳しいです。
ケースに応じた有効な生前贈与の方法などもアドバイスしてくれますし、贈与契約書などの生前贈与に必要な書類も作成してくれます。
実際に相続が起こった場合の遺産相続の問題にも相談に乗ってくれますし、遺言書の作成方法などにまでトータルにサポートしてくれるので、非常に頼りがいがあります。
③司法書士
生前贈与の相談は、司法書士も積極的に行っています。
司法書士は、法律の専門家ですが、もともとは不動産登記のプロです。
生前贈与では、不動産を対象にすることも多いので、司法書士に相談をすると、スムーズに不動産登記の移転などもできて便利です。
また、司法書士の中には生前贈与の案件に力を入れている事務所があり、「相続・生前贈与相談センター」などを運営しているケースなどもあります。
このように、生前贈与に強い司法書士に相談をすると、効果的な生前贈与方法をアドバイスしてくれて手続きも進めてくれるので、大変助かります。
④トータルサポート
税理士や司法書士、弁護士に個別に相談する方法もありますが、専門家の中には、横のつながりをもって、さまざまな専門家達が連携して生前贈与や相続の相談に乗ってくれる事務所やサービスがあります。
たとえば司法書士と税理士が事務所を共同経営していて、トータルで生前贈与をサポートしてくれたり、異なる事務所の税理士や弁護士が連携していて、2種類の専門家がそれぞれの得意分野で生前贈与や相続の相談に乗ってくれるケースもあります。
このように、専門家が横のつながりを持って、トータルでサポートしてくれるサービスを利用すると、相談者にとっては非常にメリットが大きいです。
(2)相談の際に用意するもの
生前贈与の相談に行く場合には、どのような情報や資料を用意していけば良いのでしょうか。
まず、自分の家族関係を伝えることが必要です。
法定相続人となる予定の人や生前贈与をしたい対象の人、自分や贈与を受ける人との関係や年齢などの基本情報を伝えなければなりません。
そして、自分にどのような財産があるかについても伝える必要があります。
どれくらいの財産がどれだけあるかによっても、適切な生前贈与の方法が異なってくるからです。
さらに、自分としては、どのような財産を贈与したいと考えているのかの希望も伝えましょう。
これらについての資料もあると相談がしやすいです。
たとえば家族関係を簡単に書いた家系図や、財産の一覧表を作成して持っていくと良いでしょう。
不動産などがある場合には、不動産の全部事項証明書や固定資産評価証明書などがあると、具体的に金額がわかって話がしやすくなります。
以上のような準備ができたら、さっそく生前贈与の専門家の事務所に電話などで連絡を入れて相談に行ってみましょう。
生前贈与の相談に関するまとめ
今回は、生前贈与制度を利用して相続税を節税する方法を解説しました。
生前贈与とは、贈与者が生きている間に、将来の相続人に対して財産を贈与する手続きのことです。
近年相続税が改正されて相続税の支払いが必要なケースが増えたことと、贈与税についての控除や非課税枠が拡大されていることから、生前贈与を利用した相続税節税方法に注目が集まっています。
生前贈与には、遺産相続とは違って贈与税が課税されますが、贈与税にはさまざまな非課税特例や控除が認められます。
暦年贈与、相続時精算課税制度、配偶者への居住用不動産贈与の特例、住宅取得資金贈与の特例、教育資金贈与の特例、結婚・子育て資金贈与の特例などがあります。
生前贈与の相談をする場合には、税理士や司法書士、弁護士などが適切です。
これらの専門家が連携したトータルサポートもあります。
生前贈与の相談に行く場合には、家族関係や財産内容をまとめて、資料を作成して用意していくと良いでしょう。
今回の記事を参考にして、賢く生前贈与を利用して相続税を節税しましょう。