「妊娠中に夫が不倫したので離婚したい…」
「離婚したいが妊娠中なので、養育費や親権を取れるか心配だ…」
夫や妻の浮気や不倫、借金の発覚など、妊娠中でも離婚せざるを得ない状態になる夫婦もいれば、些細なことから不満が募り離婚に至るという夫婦もいらっしゃるでしょう。
離婚するとなると、夫婦の財産分与や不貞行為がある場合などの慰謝料請求など、解決しなければならない多くの問題があります。
それに加えて、妻が妊娠中の場合であれば、特に妻にとって大きな問題になるのが生まれてくる子どもの「親権」や「養育費」の問題ではないでしょうか。
離婚と出産の時期によっては、子どもの「親権」を持っているのに子どもと苗字が違かったり「戸籍が別々」という事態も生じます。
そこで今回は、妻が妊娠中に離婚する場合に留意すべき問題点についてご説明いたします。
ご参考になれば幸いです。
※この記事は2017年4月5日に加筆・修正しました。
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目次
1.妊娠中だが離婚を考えているなら押さえておくべき離婚手続きの流れとは
まずは離婚の手続きの流れについてご説明いたします。
(1)離婚する意思が決まったら-離婚手続きの流れとは
離婚する際には、慰謝料や財産分与など多くの決めなければならない事項があります。
特に妊娠中に離婚する場合には、生まれてくる子どものためにも金銭的な取り決めに加えて養育費について決めておかなければならなりません。
離婚した後々トラブルにならないために、以下のような離婚の流れに沿ってポイントを押さえておくようにしましょう。
①離婚の合意
離婚は、基本的に離婚届が役所で受理さえすれば成立します。
もっとも、協議離婚はあくまで両者が離婚することに同意していることが必要です。
もし、離婚の同意が得られない場合、家庭裁判所で「調停離婚」を行い同意が得られない場合は「審判離婚」になります。
どうしても同意が得られない場合、最後には「裁判離婚」を行います。
なお、裁判離婚できるのは法律で決められた場合に限られます。
そのように離婚できる原因を法定離婚事由といいます。
法定離婚事由について詳しくは「相手が離婚に反対していても離婚できる?法定離婚事由について」の記事をご参照下さい。
②金銭・子どもについての取り決め
離婚の合意をしたら、次は金銭と子どもに関する取り決めをすることになります。
金銭面については、以下の項目について、そもそも支払うのか、支払うとしたらいくら支払うのかを決めておく必要があります。
- 財産分与
- 慰謝料
- 年金分割
などです。
妊娠中に離婚する場合、生まれた子どもの親権は原則として母親が取得することになります。
その他の「養育費」や「面会交流権」に関して決めておきましょう。
同意の内容は、「離婚協議書」として「公正証書」にしましょう。
なお、年金分割を請求する際は、合意内容の書類の持参か公正証書の提示が必要になります。
強制執行付の公正証書にしておけば、もし養育費の支払いが滞った場合にも安心です。
離婚協議書の書き方と公正証書にする方法はこちらで詳しく解説しています。
③離婚届の提出
離婚は、離婚届が役所で受領されると効力が生じる。
旧姓に戻らず引き続き結婚時の姓を利用したい時は、離婚日から「3ヶ月以内」に役所へ「離婚の際に称していた氏を称する届」を提出します。
(2)裁判離婚は自由にできない-離婚できる場合とは
離婚は、夫婦が合意すれば自由にできます。
妻が妊娠中でも同様です。
ただし、両者同意できなくて離婚裁判を行う場合は法律で決まっている下記の離婚原因のどれかに当てはまる必要があります。
このような離婚原因を法定離婚事由と言います。
詳しくは以下の通りです。
①不貞行為がある場合(民法770条1項1号)
不貞とは、浮気や不倫のことであるが、裁判では肉体関係に至った場合が不貞行為とされています。
単に食事に行ったりするだけでは、法律上は不貞行為にあたりません。
②悪意の遺棄をされた場合(民法770条1項2号)
悪意の遺棄に関しては、配偶者が理由もなく「同居義務・協力義務」を行わないことです。
裁判で悪意の遺棄とされた例では、夫が自宅に半身不随の妻を置き去りにしたまま生活費も渡さず長期間別居したケースがあります。
③相手の生死が3年以上不明の場合(民法770条1項3号)
生存か死亡かも証明できない場合を言い、単に行方不明なだけでは認められません。
④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない場合(民法770条1項4号)
基本的にほとんど認められません。
⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由がある場合(民法770条1項5号)
婚姻関係が破綻していて回復が見込めない状況です。
別居期間や虐待の有無、性格・性の不一致、浪費など、夫婦双方の意思や共同生活を回復する可能性などを、裁判所が具体的事情から判断います。
法定離婚事由について詳しくは「相手が離婚に反対していても離婚できる?法定離婚事由について」の記事をご参照下さい。
2.妊娠中に離婚した、親権の行方と養育費請求の注意点とは?
妊娠中の離婚に関してもっとも気になるのが、誰が「親権」を持つのかだと思います。
ここでは、妊娠中の離婚の親権と養育費についてご説明いたします。
(1)母親が親権をとりやすい、妊娠中に離婚した場合の親子関係とは
①妊娠中の子供の親権は?
妻が夫の子どもを妊娠中に離婚した場合、基本的に子どもの親権は母親が持ちます。
②既に生まれている子供の親権は?
すでに未成年の子どもが存在する時は、父母のどちらかを親権者と決めなければならなりません(民法819条)。
話し合いがまとまらなければ調停・審判という手続きに移り、最終的には裁判所が関与して強制的に決定します。
親権者を決定するとき、子どもの利益に関していろいろな事情が考慮されます。
しかし、基本的に「母性優先の原則」「現状維持の原則」が重要視されます。
「親権争いは母親が強い」とよく言われるように、特に子どもが幼い場合は母親が親権をとりやすいのが実情です。
(2)親権と監護権の違いとは
親権と類似した意味の言葉として「監護権」というものがありますのでご説明いたします。
①親権とは
そもそも親権とは、「未成年者の子どもを監護・養育」「財産の管理」を行います。
子どもの代理人となり、法律行為を行う「権利や義務」です。
権利といっても、実際は子どもの成長のために親が果たすべき義務がその内容と言えるでしょう。
親権の内容は下記になります。
財産管理権
子の財産を管理して、財産上の行為の代理人となる権利のことを言います。
例:包括的な財産の管理権、子どもの法律行為に対する同意権
身上監護権
一方、身上監護権とは、子どもを保護監督し、子どもの精神的な成長のために教育する権利のことを言います。
②監護権とは
身上監護権に対して注目し、親が子を「監護・教育」する権利義務を抽出したものです。
子どもの近くで世話や教育をする親の権利義務といえるでしょう。
「監護権」に関しては、親権者が行使することがが原則です。
「財産管理は父親が最適だが、子どもの世話は母親の方がよい」とか「父親が親権者だが、仕事で不在がちで子どもの世話ができない」等の事情がある場合は、「親権者」と「監護権者」が別になることもあります。
(3)親権と養育費は別問題、監護権のない親に請求できる養育費とは
「監護権」を持っている側は相手方に対して養育費を請求することが可能です。
①養育費とは
離婚後、夫婦の子どもが「社会的に自立するまで」にかかるな生活費のことです。
「衣・食・住」に必要な「費用や教育費、医療費、娯楽費」などの金銭が「養育費」に含まれます。
②養育費を請求できる期間は?
基本的に子供が成人するまで継続します。
離婚によって、夫婦間の法律的な婚姻関係が解消されても親子の関係は続くからです。
つまり、養育費は基本的に子供が成人するまで請求できます。
③養育費を請求できるのは?
養育費を請求できるのは子どもを監護する親、つまりそばにいて子どもの世話をする親です。
そして請求する相手は、子どもを監護していない親となります。
養育費の請求に親権や姓は関係なく監護権を有していれば、もう一方の親に請求できるのが原則です。
④養育費請求するなら、押さえておくべき親子関係
養育費を請求する前提として、妊娠中に離婚し、その後生まれてきた子どもの親子関係を考えておく必要があります。
離婚後「300日以内」に生まれた子どもに関しては、元夫に父性の推定が及びます。
つまりこの期間内は、元夫が生まれた子どもの父親とされます。
仮に、妻が夫以外の男性との間に授かった子どもでも、離婚後300日以内に出生届けを出せば元夫の子どもとして戸籍に載るし、元夫は「親権」がない場合でも子の父親となります。
ですので、親には「子の扶養義務」があります。
母親は父親に対して養育費を請求できます。
では、離婚から300日を超えて生まれた子どもについてはどうなるのでしょうか。
この場合、別れた夫に養育費を請求するためには、前提として子どもが夫の子どもであるということを認めさせなければならなりません。
そのため前提として、前夫に認知をしてもらう必要があります。
もし別れた夫が認知に応じない場合には、認知の訴え等の法的手続をとることが必要となります。
3.子どもが戸籍に入れない!?妊娠中に離婚した場合の子どもの戸籍と姓の関係とは?
最後に、妊娠中に離婚した子供の戸籍と姓についてご説明いたします。
(1)母親と同じ姓にならないこともある、子どもの姓の仕組みとは
妻が夫の子どもを妊娠中に離婚した場合、子どもの親権は母親が取得するのだから子どもと母親の苗字は一緒になると思っている方も多いのではないでしょうか。
しかし、親権と姓や戸籍の問題は別なのです。
母親と子どもの姓は、子どもが生まれた日によって違いが生じます。
具体的には、養育費の場合と同様、離婚から300日以内に生まれたかどうかが分かれ目になるのです。
具体的には以下の通りです。
①離婚から300日以内に生まれた子どもの苗字
離婚から300日以内に生まれた子どもの姓は結婚当時の夫婦の姓になります。
母親が配偶者の姓を名乗っている場合、離婚後届け出を行わないと旧姓に自動的に戻ります。
そのため、母親が旧姓に戻っている場合は子どもと母親の姓が違うという事態が生じるのです。
離婚した母親と子どもの姓が違うと幼稚園・保育園の申し込みなどで生活しにくい事態が生じるかもしれません。
ですので、家庭裁判所から許可をもらい、市町村役場に届けを提出して子の姓を自分と同じ旧姓に変更する必要があります。
②離婚から300日を超えて生まれた子どもの苗字
離婚から300日を過ぎて生まれた子どもは、母親の姓となります。
(2)子どもの親権はあるのに戸籍は夫!?離婚と戸籍の関係とは
妊娠中に離婚した場合、子の出生が離婚から300日以内かという点は、戸籍にも影響してきます。
①子どもが離婚から300日以内に生まれた場合の戸籍は
基本的に、子どもは結婚していた時の戸籍に入ります。
具体的には結婚当時、戸籍の筆頭者が夫の場合、生まれた子どもは夫の戸籍に入ることになります。
一方で離婚した妻に関しては結婚前の戸籍に戻るか、新しい戸籍を作ることになる。
そのため、親権は母親として元妻が持ちつつ、母親と子どもの姓が異なるという上記のような事態が生じるのです。
しかし、母親の中には、気持ちの面でも将来子どもが戸籍謄本を取る場合に備える点でも、子どもを自分の戸籍に入れたいと思う人も多いでしょう。
子どもを母親側の戸籍にしたい場合、少し複雑な手続きが必要です。
具体的には、まず自分を筆頭者とする戸籍を作り、その上で子どもの「氏の変更許可」を家庭裁判所に申し立てて変更許可を得ます。
最後に市区町村の役所に、先の変更許可審判書と一緒に子どもの入籍届を提出し、ようやく自分の戸籍に子どもを入れることができるのです。
②子どもが離婚から300日を超えて生まれた場合の戸籍
基本的に、母親の戸籍に入ります。
まとめ
妊娠中に離婚し、その後子どもが生まれた場合に養育費・姓・戸籍等、様々な場面で300日以内という時期が関わることに驚かれた方もいるのではないでしょうか。
妊娠中に離婚する場合は、夫婦関係の解消だけでなく子どもの将来を考えて、様々な対応を考えておく必要があります。
もし、さらなる疑問点がある場合は慎重を期すためにも、まずは専門家に相談してみるとよいでしょう。