配偶者が浮気・不倫をした場合、離婚とそれにともなう慰謝料の請求を考える方は少なくないでしょう。
一般的にはその請求は認められますが、配偶者が実は同性愛者で、浮気相手が同性だった場合も同様に考えていいのでしょうか。
LGBTに対する社会全体の理解が徐々に進んできたとはいえ、偏見や差別が完全になくなったとはいいがたく、世間体や親族の目が気になるとか、自分の実の子供が欲しいなどといった様々な理由から、同性愛者がそのことを隠して異性と結婚することはありえないことではありません。
そこで今回は、配偶者が同性愛者であることがわかった場合に離婚や慰謝料を請求することができるかについて解説します。
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目次
1.法律上の離婚原因とは
民法770条1項1号~5号は、次の5つの事情を離婚原因と定めています。
- 配偶者に不貞な行為があったとき
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき
- 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
離婚訴訟を提起して、これら5つのいずれか(あるいは複数)に該当することを証明することができれば、相手方が離婚に同意しなくても裁判所が判決で離婚を認めてくれるのです。
2.民法に定める不貞行為とは
一般的に、配偶者が浮気、不倫をしている場合、配偶者に不貞な行為(民法770条1項1号)があったことを離婚理由にあげます。
もっとも、民法は「不貞な行為」と規定するだけで、どのような行為があればそれに該当するのかについては定めていないため、どのような行為が不貞な行為に当たるのかの解釈が必要になります。
この点について、最高裁は、不貞な行為とは「配偶者のある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」であるとしています(最高裁昭和48年11月15日)。
配偶者以外の者という表現を用いており、異性に限られていないようにも思えますが、「性的関係を結ぶこと」とは性行為をすることを意味すると考えると、異性であることは当然の前提とされているといえます。
そのように考えると、配偶者のある者が同性との間で同性愛の関係に至った場合には、「不貞な行為」には該当しないということになります。
3.同性愛を理由に離婚ができる場合
(1)「婚姻を継続し難い重大な事由」に当たれば離婚できる
もっとも、いかなる場合も配偶者の同性愛を理由に離婚をすることができないわけではありません。
1.で紹介したとおり、民法770条1項は、1号から4号までで具体的な離婚原因を規定したうえで、5号で「その他婚姻を継続し難い重大な事由」という一般的・抽象的な規定を置いています。
1~4号の事由がなくても、何らかの理由で婚姻関係が破たんしたといえる場合にまで無理に婚姻関係を継続させる必要はないので、このような規定を置いたのです。
配偶者の暴力、生活費を渡さないなどがその典型ですが、配偶者の同性愛もこの事由に該当するとすれば、離婚原因にすることができます。
少し古いものですが、この点について判断した裁判例がありますので、紹介します。
(2)名古屋地方裁判所昭和47年2月29日
①【事案の概要】
原告(妻)と被告(夫)との間には、結婚当初4か月ほどの間には性交渉があったが、それ以後、被告(夫)は原告(妻)に対し全く求めようとしなくなり、原告(妻)の方からの求めにも一向に意欲を示さなくなったが、原告(妻)は不満と不信を抱いていたが、子どもが生まれたことや実家の両親にさとされたことから、耐え忍んでいた。
ところが、被告(夫)は、その間、ある男性と知り合い、同性愛の関係に陥り、約2年にわたって関係を繰り返し、その男性に結婚話が持ち上がったことから一旦は関係を解消したが、未練を断ち切れずにその男性に執拗に付きまとった。
原告(妻)は、そのことを警察官から聞かされ、子どもを連れて実家に戻った。
②【離婚原因について裁判所の判断】
性生活は婚姻生活における重大な要因の一つであるところ、原告(妻)がすでに数年間にわたり被告(夫)との間の性生活から遠ざけられていること、原告(妻)が被告(夫)の同性愛関係を知ったことによる衝撃の大きさを考えると、原、被告相互の努力によって、原、被告間に正常な婚姻関係を取り戻すことは不可能と認められるから、原、被告間には「婚姻を継続し難い重大な事由」が存在し、これは被告の責任によるものである。
③【結論】
離婚を認めるともに、慰謝料150万円の支払いを命じた。
(3)名古屋地裁判例の分析
名古屋地裁の判例は、「婚姻を継続し難い重大な事由」を認定した理由として、①長期にわたり妻と夫との間に性生活がなかったこと、②夫の同性愛関係を知った妻の衝撃の大きさをあげています。
まず、①についてですが、夫婦は互いに貞操義務を負っており、それゆえに貞操義務に反する不貞行為をしたことが離婚原因とされていることからすれば、正当な理由のない性交渉の拒否は、それ自体が「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があります。
したがって、①は、配偶者が同性愛者であった場合に限られるものではありません。
また、②については、本件では配偶者が単に同性愛の関係をもっただけではなく、いったん関係を解消した後に執拗に付きまとうなどして警察沙汰になったという特殊な事情があるため、妻が受ける精神的衝撃がいっそう大きなものとなったと考えられます。
このように考えると、名古屋地裁の判例は、配偶者が同性愛者であるのみをもって婚姻を継続し難い重大な事由にあたると判断したとまで評価することはできないのではないかと考えられます。
たとえば、①の理由付けからすれば、夫が同性愛者であることを妻に知られないようにするため、あるいは夫が両性愛者であったため、妻との性生活もあった場合、婚姻を継続し難い重大な事由には該当しないのかといった疑問が、②については1回かぎり、あるいは短期間で関係が終わり、その後特段のトラブルもないような場合でも妻の衝撃が大きいとして婚姻を継続し難い重大な事由になるのかといった疑問が生じるからです。
「婚姻を継続し難い重大な事由」は抽象的な規定ですから、個別の事案ごとに判断するほかなく、どのような事情がそれにあたるかは、判例の集積により明らかにされていくものです。
しかしながら、上記の名古屋地裁判例をのぞき、同性愛を離婚理由として扱った判例は知られていません。
判例は裁判所の判決であり、協議離婚や調停離婚で解決しなかった場合にのみ出されるものです。
この事件以外にも配偶者の同性愛を理由として離婚に至った夫婦はいると思われますが、同性愛は通常はプライバシーの中でも特に他人に知られたくない事柄でしょうから、同性愛を理由に配偶者から離婚を切り出された場合に、離婚訴訟まで至らずに何らかの解決に至ったのではないかと考えられます。
その結果、判例がほとんどないため、同性愛が離婚原因になるかについてはいまだ十分に明らかにされていないというのが実情です。
まとめ
同性愛を理由とする離婚について解説しましたが、参考になりましたでしょうか。
この問題に関しては判例が乏しいため、どのような事情があれば離婚できるのかの判断が難しいですし、新たな判例によって新たな基準が生み出されることもありえますので、常に最新の知識を身に着けていなければなりません。
配偶者の同性愛についてお悩みの方は、離婚問題に詳しい弁護士に相談してはいかがでしょうか。