当て逃げとは、物損事故を起こした加害者が、危険防止措置などをとらずに事故現場から逃走することをいいます。
当て逃げは、走行中の事故だけではなく、駐車場に駐車していた車が被害に遭う場合など、被害者が気付かないうちに発生していることもあり、泣き寝入りになってしまう可能性も少なくありません。
そこで今回は、当て逃げされた場合の対処法を紹介したいと思います。
※この記事は2017年5月16日に加筆・修正しました。
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目次
1.交通事故直後にやるべきこと
(1)加害車両のナンバーを記録する
走行中に接触され、そのまま相手が逃げてしまった場合のように加害者の車両がわかっているときは、必ずナンバーを確認しメモや携帯電話のメール等に記録を残しましょう。
ナンバーがわからないと加害車両の特定が困難になり、後に損害賠償請求ができなくなってしまう可能性が高くなります。
(2)警察に連絡する
次に、当て逃げ事故に遭ってしまったら、必ず警察に連絡してください。
特に軽微な接触等の場合、「この程度で警察を呼ぶなんておおげさじゃないの」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、次のような理由から必ず警察に連絡してください。
まず、ナンバー、車種、車両の色などの特徴が分かれば、警察が加害車両を特定してくれます。
警察への連絡をしないと、被害者自身がナンバーから加害車両の所有者、使用者を調べなければならなくなりますが、個人が自動車登録事項を調べるのはなかなか大変です。
警察に捜査してもらった方がいいでしょう。
また、警察へ連絡をしないと交通事故証明書をもらうことができません。
事故証明がないと保険の請求手続に時間がかかったり、請求できなくなったりする可能性があります。
(3)目撃者、防犯カメラ、ドライブレコーダーの映像などの確保
被害者自身が加害車両やそのナンバーを見ていなかったとしても、周辺に目撃者がいた可能性はあります。
軽微な接触などの場合、目撃者はそのまま現場を立ち去ってしまうことも少なくありません。
まずは目撃者がいないか探し、目撃者が見つかった場合には、連絡先などを確認しておきましょう。
また、近年、ドライブレコーダーを搭載した車両が増えています。
周囲の車両のドライブレコーダーに事故の発生状況が録画されている可能性もありますので、確認するとよいでしょう。
また、スーパーなどの駐車場内で駐車中に当て逃げされた場合、駐車場内に防犯カメラが設置されていることが多いので、事故の状況が防犯カメラに写っている可能性があります。
スーパーの店長など責任者に、当て逃げに遭ったことを説明し、防犯ビデオの映像を見せてもらうよう頼みましょう。
もっとも、個人には見せられないという対応をされる可能性もあります。
そのような場合でも、警察の捜査には協力してもらえるはずですので、この意味でも警察への連絡が不可欠といえます。
(4)保険会社に連絡する
加害者が特定できない場合、被害者自身が加入する任意保険の車両保険を利用することが考えられます。
しかし、保険契約の内容次第では、当て逃げについては補償されないこともあります。
また、車両保険に免責金額が設定されている場合、車の修理代がその免責金額を超えない限り、保険金の支払いを受けることはできません。
さらに、車両保険を利用できる場合でも利用することで通常は保険料が上がってしまいます。
このように、一口に車両保険といっても内容はそれぞれであり複雑ですので、保険会社に連絡して契約内容をきちんと確認しましょう。
(5)病院で診察を受ける
冒頭で紹介したとおり、当て逃げは、物損事故、つまり死傷者のいない事故で加害者が逃走した場合のことをいいます。
これに対して、死傷者がいる人身事故で加害者が逃走した場合は、「ひき逃げ」にあたります。
事故を起こしてそのまま逃走するという同じような行為であっても、当て逃げとひき逃げでは刑罰が大きく異なります。
ひき逃げの刑罰(道路交通法117条1項)
5年以下の懲役または50万円以下の罰金
ただし、人の死傷が運転者の運転が原因であるときは10年以下の懲役または100万円以下の罰金
当て逃げの刑罰(道路交通法第117条の5)
1年以下の懲役または10万円以下の罰金
当て逃げは刑罰が軽い、言い換えれば軽微な事案だから警察がきちんと捜査してくれないというわけではありませんが、警察が日々発生する事件・事故について、その内容に応じて捜査の優先順位をつけたり、どの程度の人員を割り当てるかを決めたりすることは、ある程度はやむを得ないでしょう。
その意味で、物損事故よりも人身事故の方が迅速に捜査が進められる可能性はあるといえます。
したがって、乗車中に当て逃げに遭った場合には、ひき逃げへの移行を視野に入れ、念のために病院で診察を受けておくといいでしょう。
2.あて逃げの対処法
(1)損害賠償請求の相手方
加害者を特定することができた場合、原則として加害者に損害賠償を請求することになります。
加害者が業務中に事故を起こしたような場合には、加害者の雇用主も損害賠償請求を負います(使用者責任と言います)。
通常は、加害者側の加入する保険会社と交渉することになるでしょう。
もっとも、加害者側が任意保険に加入していないケースも考えられます。
その場合、物損事故である当て逃げは自賠責保険の対象外となりますから、加害者側に直接請求するしかなくなる点に注意が必要です。
(2)請求できる「損害」の内容
交通事故による「損害」には、治療費や修理代のような財産的損害のほか、精神的損害(精神的苦痛)が考えられます。
もっとも、過去の裁判例をみると、物損事故の場合は原則として財産的損害の賠償のみが認められています。
主な財産的損害は以下の通りです。
①修理費用
金額が適正であれば、実際に修理をして修理代を支払ったかどうかは問われません。
②買替差額
車両が物理的に修理不能または経済的に不能(修理費用が車両の時価を上回る場合)のとき、車両の時価額と売却代金の差額の賠償が認められます。
③登録手続関係費
買替差額が認められる場合、買い替えに必要な手続に関する費用の賠償が認められます。
④評価損
修理をしても外観や機能、耐久性などの面で完全に事故前と同じ状態に復元できないことがありえます。
また、事故歴・修理歴があること自体によって商品価値が下落することもあります。
このような損害を評価損(格落ち)といい、評価損の賠償を認めた裁判例も多数存在します。
裁判例の傾向としては、初年度登録から時間が経過していない車両の方が認められやすいといえるでしょう。
⑤代車使用料
修理や買い替えに必要と認められる相当な期間中、実際にレンタカーなど代車を使用した場合、その使用料の賠償が認められることがあります。
⑥休車損
営業車の場合、相当な修理期間または買替期間中、その車両を利用できないことによって失った利益を休車損として請求することができます。
上記に対して、物損事故では精神的損害に対する慰謝料は原則として認められません。
過去の裁判例で物損による慰謝料を認めたのは、車両が民家や店舗兼住居へ突入した事案のような事案が多く、車両が壊れたというだけでは、特別な事情がない限り慰謝料の請求は難しいと言えるでしょう。
(3)被害者の加入する保険
加害者が特定できない場合には、被害者自身の加入する車両保険に保険金の支払いを請求することが考えられます。
先に紹介したとおり、当て逃げの場合に保険金の請求ができるかどうかは契約内容次第ですし、請求できるとしても保険料が上がってしまうことがあります。
保険契約の内容を正確に理解した上で、実際に請求するかどうかは、見積をとって修理代金の見込みを把握し、請求をすれば保険金はいくら支払ってもらえるのか(免責金額はあるか、ある場合にはその額はいくらか)を確認し、もらえる額と保険金請求によって値上がりする保険料とを比較して、保険金の請求をするかどうかを決めればいいでしょう。
当て逃げに関するまとめ
以上、当て逃げに遭ってしまった場合に現場で取るべき行動と、実際の損害賠償請求について照会しましたが、いかがだったでしょうか。
当て逃げの場合、何よりも重要なのは相手方を特定することです。
そのためには、今回ご紹介した事後的な対策はもちろんですが、ドライブレコーダーの搭載など、事前の対策も検討するとよいでしょう。