物損事故と人身事故との違いは?人身事故に切り替えるにはどうすればいい?

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物損事故 人身事故

交通事故には、大きく分けて物損事故と人身事故の2種類があります。

一般的に、物損事故として処理される方が加害者にはメリットがありますが、被害者にとっては後の補償を考えれば人身事故扱いにしてもらう方がいいと言えます。

もっとも、軽微な接触事故のような場合、加害者に頼まれる、あるいは何度も警察の対応をするのが煩わしいといった理由などから、被害者も物損事故扱いにすることに同意することは珍しくありません。

しかしながら、交通事故の場合、事故直後には痛みなどがなくても、時間が経ってから痛みなどが出てくることもあります。

そのような場合、物損事故扱いにしていたとすると、そのままでは十分な補償が受けられないおそれがあるため、人身事故への切り替えが必要になります。

今回は、物損事故と人身事故とでどのような違いがあるのか、当初は物損事故扱いとしていたものを人身事故に切り替えるにはどうすればよいかをご説明いたします。

1.物損事故と人身事故は何が違うのか

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(1)物損事故とは

物損事故とは、死傷者のいない、物(車両、建造物、道路上の構造物など)の損壊のみが発生した交通事故のことをいいます。

物損事故には、次のような特徴があります。

  • 刑事罰の対象にならない

交通事故は、基本的に加害者の過失(不注意)により発生するものですが、刑法上、過失によって他人の物を壊した場合は処罰の対象とされていません。

また、刑罰の対象でない以上、警察はそれ以上の捜査をすることはありませんので、後に事故の発生状況などについて争いになっても、事故発生状況などに関する十分な資料がないという事態に陥る可能性があります。

  • 行政処分の対象にもならない

物を壊したことについては、違反点数が加算されることもありません。

  • 物の損壊についての損害のみ請求できる

加害者に請求できるのは、物についての損害のみ(修理費用や時価相当額など)ということになり、多くの場合せいぜい数十万円程度にしかならないでしょう。

より詳しい損害賠償に関しては「物損事故における損害賠償とは?慰謝料も請求できる?」をご参照ください。

  • 自賠責保険の対象とならない

被害者保護のために自賠責保険に加入することが義務付けられていますが、物損については自賠責の対象ではありません。

したがって、加害者が任意保険に加入しておらず、みるべき財産もないような場合には、加害者に賠償を請求しても支払いを受けることは難しいでしょう。

このようにみると、物損事故扱いにすることは、基本的に加害者にはメリットがありますが、被害者にはメリットがない(強いて言えば、人身事故と違い、後日、警察に診断書を提出したり、事情聴取に応じたりする必要がなくなるという程度です)といえます。

(2)人身事故とは

人身事故とは、死傷者のいる交通事故を言います(死傷者がおり、かつ、物の損害も発生している場合を含みます)。

人身事故の特徴は、物損事故の特徴の裏返しといえます。

  • 刑事罰の対象となる

刑事罰の対象となるため、物損事故と比較すると、加害者が誠実に行動することが期待できます(刑罰を決めるうえで、被害者と示談したことが加害者に有利な事情として考慮されるため)。

また、物損事故と違って刑事罰の対象となるため、警察は実況見分調書を作ったり、目撃者の供述調書を作ったりといった捜査をすることになるので、事故発生状況等に関する証拠を入手することが容易になります。

  • 行政処分の対象となる
  • 物損のみならず人損(治療費、慰謝料等)も請求することができる
  • 自賠責保険の対象となり、加害者が無資力でも最低限の補償を受けることができる

人損については自賠責保険の対象となります。
不誠実な加害者が対応しなくても、被害者自身が直接請求する(被害者請求)こともできます。

被害者にとってはメリットが大きく、デメリットは特にないといえます。

交通事故の手続きの流れに関しては「交通事故の当事者になった場合の手続の流れとは?」をご参照ください。

2.物損事故から人身事故への切り替え方法

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「1.」で紹介したとおり、被害者にとっては人身事故扱いの方がメリットが多いので、交通事故の被害に遭った場合、わずかでも痛みなどがあれば、必ず人身事故扱いにしてもらうようにしましょう。

もっとも、むちうちなどのように、事故直後は全く痛みも異常もなかったのに、しばらくしてから痛みが出てくるといったこともあります。

そこで、一旦、物損事故扱いとなった後でも、人身事故に切り替えることが認められる場合があります。

以下、その手続を解説します。

(1)警察に届出をする

事故からしばらくたってから痛みなどが出てきた場合には、速やかに医師の診察を受けて、診断書を作成してもらって警察に提出し、人身事故に切り替えるよう求める方法があります。

物損事故から人身事故への切り替えが可能な期間については、法律上は特に規定はありませんが、事故からあまり時間が経過すると、事故と症状との因果関係が分からなくなってしまう(他の原因により症状が発生した可能性が出てくる)ため、警察が人身事故への切り替えに応じてくれない可能性があります。

一般的には、1週間から10日後程度であれば、人身事故に切り替えてもらえることが多いようです。

(2)保険会社に届出をする

次に、警察が人身事故への切り替えをしてくれない場合の対応策ですが、警察の処理はあくまで刑事上の問題であり、民事上の損害賠償請求は別の問題であるといえます。

警察での処理や警察の捜査による資料は、民事上でも重要な資料、証拠になりますが、それだけで決まるというわけではないのです。

そこで、警察が人身事故への切り替えに応じてくれない場合には、加害者の加入する保険会社に対し、人身事故証明入手不能理由書を提出し、人身事故として扱うよう求めるという方法があります。

人身事故証明入手不能理由書は、保険会社がひな型を用意しているので、保険会社から取り寄せて必要事項を記入して作成します。

人身事故扱いの交通事故証明書を入手できなかった理由を説明する必要がありますが、ひな型に「受傷が軽微で検査通院のみ(予定を含む)であったため」など、いつくかの選択肢があらかじめ記載されており、該当するものに(複数当てはまる場合にはすべてに)〇をつければよいので、作成はそれほど難しくはないでしょう。

この書類の提出により、保険会社が人身事故に切り替えてくれれば、当初から人身事故扱いの場合と同様の補償を受けることができます。

(3)保険会社が人身事故に切り替えてくれなかった場合の対策

警察も保険会社も人身事故への切り替えに応じてくれなかった場合には、裁判所に訴訟を提起しなければならなくなります。

被害者の側で、傷害を負った事実や傷害と事故との因果関係を主張・立証する必要があるため、被害者自身では十分な訴訟活動ができないおそれがあります。

したがって、訴訟を提起する場合には、交通事故に詳しい弁護士に依頼をした方がよいでしょう。

まとめ

人身事故への切り替えについてご説明いたしました。

何よりも迅速な対応が要求されますので、人身事故に切り替えかお悩みの方は、この記事を参考に、可能な限り速やかに行動に移すようにしてください。

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