交通事故の被害に遭ったとき、通常は加害者の加入する保険会社と示談交渉をすることになります。
保険会社との示談交渉は、面談や電話でやりとりをしたり、資料を送ったりすることが中心になるので、「わざわざ弁護士に相談するほどでもない」と考え、被害者ご自身が、ご家族等と相談し、あるいはインターネットで調べるなどして、対応することも多いと思われます。
しかしながら、弁護士の助言を受けずに自分で示談交渉をすると、本来受け取れるはずの賠償金が受け取れなくなるなど、ご自身に不利な内容になっていることに気付かないまま示談に応じてしまう可能性があるので、可能であれば示談交渉の段階から弁護士に依頼をした方が得策といえます。
そこで今回は、示談交渉を弁護士に依頼することのメリットについてご説明したいと思います。
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目次
1.被害者と保険会社は対等ではない!
(1)保険会社も営利を目的とする企業
会社とは、営利を目的とする社団法人(人の集まりのこと)で、保険会社も会社の一つである以上、例外ではありません。
おおざっぱにいえば、保険会社は契約者から保険料を集め、そこから従業員の給与や保険金など必要な支払いをして、残ったお金が利益ということになります。
したがって、保険会社は、被害者に支払う保険金を可能な限り低額に抑えようとする傾向にあるといえます。
(2)保険会社は交通事故のプロ
保険会社は、日々、多くの事案を取り扱っていますから、保険会社の担当者は、交通事故についての専門的知識と示談交渉についての豊富な経験を持ち合わせています。
このような知識と経験を有する保険会社の担当者と被害者が対等に交渉することは難しいでしょう。
2.弁護士がいない場合の保険会社の対応
弁護士がいない場合、通常は保険会社が被害者の提出した資料をもとに、示談案を提案してきます。
その際、保険会社としてはできるだけ賠償額を抑えたいので、次のように被害者に不利益な内容になっていることがあります。
(1)慰謝料が低額に抑えられていること
慰謝料には、治療期間を基礎として算定される入通院慰謝料、後遺障害がある場合の後遺障害慰謝料、被害者が死亡した場合の死亡慰謝料がありますが、慰謝料の算定には3つの基準があります。
3つの基準とは、
- 自賠責基準(自賠責保険の支払基準)
- 任意保険基準(それぞれの保険会社が独自に作成した基準)
- 弁護士基準(裁判所基準ともいう。過去の裁判例を基に作成された基準)
のことで、この順に慰謝料の額が大きくなります。
保険会社は、自賠責の範囲内であれば保険会社自身の実質的な負担はなくなるので、可能な限り慰謝料を自賠責の範囲内にしようとし、それが不可能な場合であっても、できる限り少ない額に抑えたいと考えています。
そのため、弁護士がいない場合には、慰謝料が自賠責基準または任意保険基準で計算された低い額で提示されるのが一般的です。
知識のない被害者が、より高額の慰謝料を請求できることに気付かないまま示談に応じてしまうことも少なくありません。
(2)過失割合が加害者に有利になっている可能性があること
また、専門知識がない場合に不利益をこうむりやすいのが、過失割合です。
被害者にも何らかの過失が認められる場合に損害の公平な分担という観点から行われるのが過失相殺で、被害者の過失の程度(割合)によって、賠償額が減額されます。
過失割合は、過去の裁判例などをもとに、事故の類型ごとに基本となる過失割合と、被害者または加害者側の事情に応じて過失割合を加算、減算させる修正要素が定められています。
ところが、保険会社は中立ではなく、加害者側の立場ですから、加害者に不利な事情や被害者に有利な事情にはあえて触れず、過失割合を提示してくる可能性がないとはいえず、専門的知識のない被害者が、不利になっていることに気付かず、合意してしまうこともあるのです。
3.弁護士に依頼するメリット
(1)経済的な側面-適正な賠償額を獲得する
示談交渉を弁護士に依頼するメリットとして、まずは経済的側面、つまり適正な損害賠償を勝ち取ることができるということがあげられます。
①弁護士基準による慰謝料を請求することができる
上でご紹介したとおり、弁護士がいない場合、保険会社は、自賠性基準または任意保険基準で算定した慰謝料を提示してきます。
これに対し、被害者が弁護士基準(裁判所基準)で計算するように要望するとどうなるのでしょうか。
弁護士基準(裁判所基準)は過去の裁判例をもとに作成された基準であるため、いまだ裁判に至らない交渉の段階で、被害者が弁護士もつけず、ただ弁護士基準による計算をしてほしいと求めても、保険会社の態度はおそらく変わらないでしょう。
それでは、弁護士に依頼をすればどうでしょうか。
弁護士は当然、弁護士基準(裁判所基準)を知っていますから、弁護士基準(裁判所基準)による慰謝料を計算し、保険会社に請求します。
弁護士の請求に対しては、ほとんどの場合、保険会社はそれまでの自賠責基準または任意保険基準による提示からの増額に応じてくれます。
被害者が弁護士に交渉の依頼をしたということは、被害者は保険会社の提示が定額であることを知っており、安易に妥協するつもりはないということや、示談が成立しなかった場合には訴訟を提起することも視野に入れていることを意味するのであり、そのことは保険会社も十分に分かっています。
保険会社の立場でいえば、示談ができないと裁判を起こされ、時間をかけて争った末に弁護士基準(裁判所基準)での支払いを命じられるおそれがあるということです。
そのため、示談交渉における弁護士の請求に対しても、保険会社は弁護士基準(裁判所基準)か、それに近い額(任意保険基準以上の額)の支払いに応じてくれるのです。
②適正な過失割合を定めることができる
交通事故に詳しい弁護士であれば、過失割合についても精通していますから、基本となる過失割合だけでなく、事案ごとに修正要素の有無を検討し、保険会社に対し、適正な過失割合での示談を求めることができます。
過失相殺は、慰謝料に限らず、治療費や交通費などの実費も含めた全損害額を割合的に減額するものですから、5%、10%といったわずかな違いでも、賠償額に大きな影響を与える可能性があります。
したがって、弁護士に依頼をして、少しでも有利な過失割合を定めることは大きな意味があるといえるでしょう。
(2)早期解決につながりやすい
また、弁護士に依頼するメリットは、経済的なものに限られません。
弁護士に依頼するメリットとして、結果的に自分で交渉するより早く解決する可能性があるということも考えられます。
仮に被害者自身が交渉するとなると、保険会社の言い分が正しいのか自分の主張を裏付けるためにどのような資料が必要かなどといったことについて、その都度調べなければなりませんし、資料の集め方がわからない、あるいは資料が不十分で追加資料が必要になるといった事態も考えられ、思わぬ時間を要することがありえます。
これに対し、弁護士に依頼をすれば、保険会社の言い分に対し迅速に反論することができますし、弁護士自身が資料を収集したり、被害者に必要な資料について適切な指示をしたりすることが可能ですから、被害者自身で交渉する場合と比べて時間を浪費することがありません。
また、弁護士が依頼を受けて弁護士名で請求すれば、保険会社もあまり駆け引きのようなことはせず、交渉で支払可能なぎりぎりの額を提示してくることも多いのです。
弁護士に依頼をするといっても、必ずしも裁判にまでなるわけではなく、むしろ示談交渉で解決する事案の方が多いと言われています。
弁護士に依頼をした場合には、上で紹介したようなメリットもあるので、結果的に自分で交渉するよりも早く示談が成立する可能性があります。
(3)精神的に安心
さらに、弁護士に依頼をすることは、精神的な安心感を得られるというメリットもあります。
繰り返しになりますが、保険会社の担当者は、豊富な知識と経験を持つ交通事故のプロです。
いわば素人にすぎない被害者自身がプロと交渉するのは、精神的にも大きな負担となるでしょう。
専門家の弁護士に依頼をすれば、そのような精神的負担から解放され、安心して治療に専念したり、学業や仕事に専念して休んだ分の遅れを取り戻したりすることが可能になります。
まとめ
このように、示談交渉の段階であっても、弁護士に依頼をするメリットは大きいといえます。
万一、交通事故の被害に遭ってしまった場合には、「交渉の時点で弁護士に依頼するなんておおげさだ」などと思わず、早めに弁護士に相談するといいでしょう。