交通事故によって破損してしまった物品はどこまで補償されるの?

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交通事故の被害に遭った場合、ご自身がケガをしたり自動車が壊れたりするだけでなく車に積んでいたものや着ていた服が破損して使えなくなったりすることは少なくありません。

また、物損事故で壁や塀を壊したり、アクセルとブレーキの踏み間違いで店舗に突っ込んだというニュースは最近よく目にするところです。

このように、交通事故によって車以外に破損したものがどこまで保険で補償されるのか気になる方は多いのではないでしょうか。

そこで今回は交通事故で物品が破損した場合に、どの程度の補償を受けることができるのかについて分かりやすくお伝えしたいと思います。

1.交通事故で物品が破損した場合の補償のルール

(1)補償が認められる範囲の決められ方とは

交通事故の被害に遭い、事故が原因で車の装備品が壊れたり車に積んでいた物が壊れた場合には、それらのものの修理費用や価値相当額が損害として補償の対象になります。

ただし、補償の対象として認められるのは、交通事故が原因で物が破損したという因果関係が認められる範囲に限られるのが原則です。

具体的には「交通事故に遭わなければ、物品が破損する損害は発生しなかった」という関係性が認められる場合に「損害が、交通事故にあったら通常発生するといえる」か「通常発生する損害とはいえなくても、交通事故の加害者が、損害が生じる特別の事情を予見できた」場合に限って認められることになります。

(2)補償される金額と減価償却の関係とは

交通事故で物品が破損した場合、受けられる補償は「購入価格」ではなく「価格相当額」つまり「時価」ということに注意しましょう。

補償とは、損害賠償のことですが損害賠償を考える時に考慮しなくてはいけないのが「減価償却」です。

これは、物の価値は買った時から時間が経つにつれて下がっていくので、補償の額も購入金額や新品価格ではなく事故当時の価値に相当する金額に限られるということです。

ただし、どの程度減価償却され購入額の何割が時価として認められるかは、裁判官の判断にかかっていて基準があるわけではありません。

厳密には、購入価格と減価償却期間を組み合わせて時価を出して請求することが考えられますが、実際には詳細な認定は行われず、購入時期・金額・状態などを考慮して裁判官が個別に判断するのが実務の運用です。

(3)補償を受けるために必要な証拠とは

実際に補償を請求する際は、物品の破損が交通事故が原因で発生したことを被害者の側で証明しなければいけません。

損害を証明するためには、破損した物品の写真(特に破損した箇所をしっかり撮ったもの)が最も有力な証拠となります。

反対に、破損した物品を写した写真などの証拠がないと補償を請求することは困難です。
もう使えないからと捨てるのではなく、写真に収めておいてください。

(4)物品の損害をカバーする保険とは

交通事故被害の補償は、主に加害者が入っている保険から、保険金という形で支払われます。

保険には、強制的に加入が義務付けられている「自賠責保険」と事故の損害の補償に備えるための「任意保険」があります。

自賠責保険は、相手や搭乗者の補償には利用できますが破損した物の補償や自分の車の補償などには使うことができません。

そこで、交通事故で破損したものの補償には任意保険を利用することになります。

では次に、実際にどういう物品が補償の対象になるのか具体的にみていきましょう。

2.補償される物品の具体例

(1)衣服

原則として、交通事故に巻き込まれたときに身につけていた衣服は補償の対象になります。
着ていた服だけでなく、身に着けていたものは靴なども含めて原則として全て補償を受けることができます。

ただ、前述のように、補償の額は「時価」のため、購入価格で賠償を受けられる訳ではありません。

過去の裁判例では、交通事故の1ヶ月前に購入したスーツ一式について購入額の7割を時価としたものもあれば、購入時期などを考慮せずにざっくりと購入額の3割が時価相当額としたものもあります。

(2)メガネ

交通事故被害に遭ってメガネが壊れた場合、メガネも補償の対象になります。

メガネは視力を補強する役割があることから、人身事故の補償対象として自賠責保険の対象になることがあります。

メガネは、物によっては時価も高額になりうるので、自賠責保険に請求するか任意保険に請求するかについては保険会社や弁護士に相談して補償を求めていくようにしましょう。

(3)バッグ

バッグやリュック等の手荷物が交通事故で破損した場合には補償の対象になります。
ただし、衣服などと同様、時価評価で補償されます。

ブランドバッグの場合は、本物かどうかが補償金額と合わせて問題になることも多いので、購入時のレシートや鑑定書などを被害者の側で用意して価値を証明していく必要があります。

(4)時計・毛皮・着物・ブランド品などの高額品

時計や着物が交通事故で破損した場合は補償の対象となりますが補償額について注意が必要です。

たとえば、100万円で購入した高級時計でも、時価が5万円と評価されれば5万円までしか補償されません。

修理に出して数十万円かかったとしても、修理費用も時価相当額の5万円までしか補償されないのです。

保険会社の審査は、概ね40万円を超える高額品になると慎重になると言われています。

高額品について修理費を請求したり時価評価額を争う場合は、購入時の領収書、修理見積書、破損していない場合の買取査定額の提示などを示して交渉するとよいでしょう。

(5)携帯電話・スマホ

携帯やスマホも、交通事故で破損すれば補償の対象になるのが原則です。

しかし、新製品の更新が激しい機器でもあり時価評価はかなり下がるのが実情ですし、買替え費用のみが補償対象となることも考えられます。

また、過去の裁判では、携帯電話の端末単体での中古価格について被害者側で証明されない限りそれだけで価値は認められないとして補償の対象にならなかった事例もあります。

(6)パソコン

車に積んでいたパソコンが事故で破損した場合は補償の対象になります。

ただし、携帯電話同様、新製品が早いペースで出るために、時価評価額は購入額に比べてかなり低額になることが考えられます。

また、パソコンは破損の程度が補償に影響しやすく、修理可能な場合には修理費が補償額となり完全に破損した場合や修理費の方が時価より高い場合は買取価格が補償額とされます。

(7)ゴルフクラブ

車のトランクにゴルフクラブを積んでいる人は少なくないのではないでしょうか。
ゴルフクラブが交通事故、特に追突事故などで破損した場合には補償の対象となるのが原則です。

ただし、ゴルフクラブは通常丈夫であることやプレーの中でダメージを受けることも多いので、破損と事故との因果関係に疑問を持たれるケースもあります。

しっかり事故当時の破損の様子を写真にとるなどして、証明していくことが大切です。

(8)自転車

ゴルフクラブと同様、自動車を車に積んでいる人も増えていますし、そもそも自転車と車の事故も非常に多いのが現状です。

自転車が交通事故で破損した場合、その損害について補償を受けることができます。
修理できる場合は修理費が、修理できないほど破損した場合には時価が補償金額となります。

(9)ヘルメット

車とバイク、自転車との事故などでヘルメットが破損した場合、補償の対象となります。

過去の裁判では、ヘルメットや衣服などについて時価が1万円を超えることはないとしてまとめて1万円の補償しか認められなかったケースもあるので、購入時期や中古品の相当価格などを目安に時価相当額を提示していくとよいでしょう。

(10)ペット

法律上、ペットは「物」として扱われます。
交通事故でペットがケガをした場合は、動物病院での治療費を損害賠償請求して補償を受けることができます。

ペットが交通事故で死亡した場合には、ペットショップでの同種の動物の平均価格や購入代金が補償されることになります。

また、通常、物損には精神的苦痛に対する慰謝料は認められないのが原則ですがペットと飼い主の関係性から単なる物損とは扱えないとして、ペットが死亡したり重いケガをしたことで飼い主が受けた精神的苦痛について、慰謝料が認められたケースもあります。

3.物損被害の補償範囲

(1)家・壁・塀など

自動車の運転手がハンドル操作を誤って自宅の壁に突っ込んできたとか、塀の一部を壊されたといった被害に遭った方もいるかもしれません。

交通事故で家や壁、塀などが壊れた場合、加害者が任意保険の対物賠償に入っていれば修理費用について補償を受けることができます。

また、もはや修理しょうがないほど破損した場合には、破損した家の価値を限度として再建費用が全額補償対象となります。

また、先に述べたように、物損事故については慰謝料が認められないのが原則ですが過去の裁判では、家が破損した状況、事故が発生した時間、生活の不便などが考慮されて、家の損壊について慰謝料が認められたケースがあります。

ただし、修理か再建かのボーダーについては、被害を受けた人と保険会社の間で揉めることも考えられます。

物損でも保険を使うと保険料の割引等級が3等級下がるため、加害者としても保険を使わなくていい程度の修繕で留めるよう請求してくるかもしれません。

交渉で揉める場合には、間に弁護士を入れるなどして進めることをおすすめします。

(2)私有地の事故の注意点

自動車事故の約3割が、駐車場などで発生していることをご存知でしょうか(一般社団法人日本損害保険協会「駐車場事故の実態」)。

交通事故は道路交通法という法律で規定されていますが、この法律では、交通事故を「道路における車両等の交通に起因する人の死傷、または器物の損壊」としているため、駐車場などの私有地の事故は、厳密には「交通事故」にあたらないのが原則です。

そのため、交通事故証明書が発行されなかったり、ケガをしても自賠責保険の対象にならないなど、注意すべき点があります。

ただし、任意保険については、スムーズに適用が認められやすい傾向にあります。

メガネの破損などについて、保険会社は自賠責保険でカバーできるものはできるだけ自賠責を利用しようとしますが、補償を受けられる保険を見極めて補償を請求するとよいでしょう。

また、大型の商業施設の駐車場など、出入りが頻繁な場所では、駐車場も道路交通法の対象となることがあるので、駐車場で交通事故に遭った場合は、まずは弁護士に相談してはいかがでしょうか。

(3)店舗

ブレーキペダルとアクセルペダルの踏み間違いで店舗に車が突っ込むという事故は、老人を中心に少なからず発生しています。

店舗が破損して損害が生じた場合、単なる修理費などでなく、様々な損害が発生することがあります。

具体的には、

  • 店舗の修理にかかった費用
  • 店が休業せざるを得なくなり減った収入についての営業補償
  • 壊した商品の代金
  • 店の収入が途絶えた場合の従業員の給料
  • 事故が原因で廃業したり事業縮小をした場合の損失補償

などが生じる可能性があります。

特に、店舗独特の損害が交通事故が原因で営業できなくなった間の休業期間の補償(営業損害)です。

営業損害は過去の売上げデータから平均収入と必要経費を出して計算し、通常営業に戻るまでの間に得られるはずだった金額賀補償されることになります。

この金額がいくらになるかは、被害者側が証明しなければいけないので立証が難しい場合は弁護士に相談してみるとよいでしょう。

まとめ

いかがでしょうか。

交通事故で生じた物損の場合、時価換算されて補償費用が思うように貰えないとか、特に住居や店舗が被害を受けた場合にはしっかり補償を受けたいけれど立証が難しいということもあるのではないでしょうか。

物品の補償では被害者側が金額を証明しなければならないというハードルがあります。
お悩みの場合には、一度交通事故問題に強い弁護士の力を借りてみてはいかがでしょうか。

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