交通事故の弁護士費用を加害者に請求は可能?どのようなケースで請求できるのか

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交通事故の被害に遭った被害者が加害者や加害者の加入する保険会社と交渉してもうまくいかない場合、弁護士に依頼することが選択肢の一つになります。

被害者からすれば、加害者が誠意ある対応をしないために弁護士に依頼する必要が生じたわけですから、弁護士にかかる費用も加害者に請求したいと考えるのは当然のことです。

しかしながら、実際には加害者に弁護士費用を請求することは容易ではありません。

そこで今回は、被害者の弁護士費用を加害者に請求する方法について解説します。

1.示談交渉で弁護士費用を請求できるか


示談交渉は、任意の話し合いです。
相手方との間で合意が成立すれば、基本的にどのような内容でも構いません。

ですから、加害者が弁護士費用を含めた賠償に応じれば、被害者が受領することは可能です。

もっとも、通常は加害者が弁護士費用の賠償に応じることは考えられません。

加害者の保険会社が示談代行をする場合には、保険会社が弁護士費用の賠償に応じることはまずありません。

したがって、示談交渉では加害者側に弁護士費用を請求することはできないと考えていいでしょう。

2.どうすれば弁護士費用を請求できるか


それでは、加害者に弁護士費用を請求するにはどうすればいいでしょうか。

まず考えられるのが、裁判(訴訟)を起こすということです。
裁判を起こして判決をもらうと、損害の一項目として弁護士費用が認められます。

これについては、後で詳しく説明します。

次に、例外的に裁判を起こさず交渉で支払いを受けられる可能性がある場合として、加害者が刑事罰を受けるおそれのあるときが考えられます。

交通事故が発生すると、民事上の問題(損害賠償)だけでなく、行政上の問題(免許の原点、停止、取消など)や刑事上の問題(刑事罰)が生じます。

被害者が重傷を負っていたり、加害者の落ち度、悪質性が大きかったりする場合には、罰金、懲役、禁錮などの刑事罰を科されるおそれがあるのです。

そして、刑事上の問題と民事上の問題は一応は別問題ですが被害者のいる犯罪の場合、被害者に被害弁償しているか示談が成立しているかが、刑事罰を科すか科さないか、科すとしてもどの程度の刑罰を科すかをきめるにあたって非常に重要な判断要素となります。

当然、被害弁償や示談ができている方が加害者にとって有利な結果になります。

ところが、窃盗や傷害などと違って交通事故の場合、大半の加害者が保険に加入しているため最終的には保険会社から保険金が支払われます。

これでは被害弁償や示談が成立するのは当たり前で、加害者自身は(月々の保険料は別として)何らの負担もしていないということになります。

ですから、交通事故の場合、示談が成立したというだけでは加害者にとってそれほど有利な情状にはならないのです。

そのため、刑事罰が科されるおそれのある場合、加害者が刑事罰を避けるため、保険金とは別に見舞金などの名目で被害者に一定の金銭を支払うことがあります。

このような場合には、弁護士費用を含めて加害者に請求することはできないが被害者が負担したものを考慮して見舞金等の金額を決めることで、実質的な補償を受けることが可能になるのです。

3.裁判で請求できる弁護士費用とは

1)訴訟費用とは何か

次に、裁判をした場合の弁護士費用について解説します。

まず、その前提として、「訴訟費用」というものについて説明したいと思います。

裁判は、負けた方が費用を払わなければいけないという話を聞いたことがある方もいらっしゃると思います。
ここで言われている費用が「訴訟費用」のことで、敗訴者が負担するのが原則です。

たとえば、原告が被告に200万円(と支払いまでの遅延損害金)の支払いを求め、全面勝訴した場合、判決主文で「被告は、原告に対し、金200万円と(遅延損害金)を支払い。訴訟費用は被告の負担とする」と言い渡されます。

それでは、ここでいう「訴訟費用」には、どのようなものが含まれるのでしょうか。

訴訟にかかった費用ですから、当事者の支払った弁護士費用も含まれると考えている方もいらっしゃいますが、それは誤解です。

ここでいう訴訟費用は、

  • 裁判所の手数料(訴訟提起時に訴状に収入印紙を貼付して納める)
  • 書類を郵送するための郵便切手代
  • 証人の旅費、日当

などであり、当事者が実際に支払った弁護士費用は含まれないのです。

2)裁判で認められる弁護士費用とは

それでは、裁判で認められる弁護士費用とはどのようなものでしょうか。
交通事故は、過失によって他人の生命、身体、財産を侵害するもので不法行為の一種です。

そして、不法行為に基づく損害賠償請求については、裁判所が認定した損害額の1割に相当する金額を弁護士費用名目で加算するという運用が定着しています。

たとえば、裁判所が、既払いを除いて被害者の損害を300万円とした場合、弁護士費用としては損害額の1割である30万円が相当であるとし、合計330万円の支払いを命じるのです。

あくまで裁判所の認定した損害額から算定された金額であり、被害者が実際に弁護士に支払った費用全額というわけではないことに注意が必要です。

通常、弁護士の着手金は相手方に請求する額を報酬は裁判で認容された額を基礎に算定しますから、加害者に過大な請求をした場合、弁護士に実際に支払う着手金が高くなり、裁判所で認められる弁護士費用との差額が大きくなってしまうおそれもあるのです。

加害者から支払われる賠償金は多いに越したことはありませんが、認められる見込みのない請求をすると自己負担が多くなる(弁護士費用だけでなく、裁判所の手数料も高額になり、請求が認められなかった部分は原告の負担となる)ため、請求する額は弁護士とよく相談して決める必要があります。

(3)弁護士費用を増額させることができるか

裁判所で認められる弁護士費用は、通常は損害額の1割に相当する額ですが、それ以上の弁護士費用を認めた裁判例もあります。
代表的なものを紹介しましょう。

東京地裁平成12年7月28日判決
代理人弁護士が、被害者本人と目撃者である被害者の夫が日本語を十分に理解しないために一般的な交通事故訴訟に比べて相当な時間と労力を要したとして、355万7765円の損害に対して60万円の弁護士費用を認めた

横浜地裁平成25年4月25日判決
加害者が、捜査段階においてはセンターラインオーバーの過失を認めていたにもかかわらず訴訟において被害者の主張を争い、本人尋問期日に正当な理由なく出頭しないという卑怯な態度に出たことから、被害者が弁護士に依頼して訴訟追行する必要性が高かったとして、損害額165万9538円に対し、弁護士費用として60万円を認めた

このように、被害者側または加害者側に通常の交通事故の事件にはない特別な事情がある場合には、損害の1割を超える弁護士費用が認められることもあるのです。

まとめ

弁護士費用を加害者に請求することができるかについて解説しました。

加害者から弁護士費用名目でどの程度の回収が見込めるかはケースバイケースといえますので、弁護士に依頼をするかどうかについて費用面でお悩みの方は、まずは弁護士に相談し弁護士費用の見込み、裁判をした場合に認容される損害額とそれに応じて認められる弁護士費用の見込み、最終的に加害者から支払われる額の見込み(裁判所の判決をもらった場合、損害額に事故発生日から支払い日までの間、年5%の遅延損害金が加算されます)等について詳しく教えてもらい、費用を払ってでも弁護士に依頼をするかどうかを検討することをお勧めします。

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