交通事故で被害者に後遺障害が残ったり死亡したりすると加害者に対して「逸失利益」を請求することができます。
しかし、被害者が高齢者の場合、将来労働によって収入を得る期間が短く、蓋然性も低いので逸失利益が認められにくいことが問題です。
そこで、高齢者が交通事故に遭ったときの逸失利益の計算方法を理解しておく必要があります。
今回は、高齢者の交通事故の逸失利益の計算方法について解説します。
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目次
1.高齢者の場合に請求できる賠償金の種類と計算方法
高齢者が交通事故に遭ったときには、加害者に対しどのような種類の賠償金の請求ができるのでしょうか?
基本的に、加害者に請求できる賠償金の種類は、高齢者であっても若い人と同じです。
具体的には、治療費や通院交通費、入院雑費や付添看護費用などの積極損害、休業損害や逸失利益などの消極損害、入通院慰謝料や後
遺障害慰謝料、死亡慰謝料などの慰謝料の請求をすることができます。
また、高齢者だからといって賠償金を減額されることもありません。
たとえば、後遺障害慰謝料は事故によって残った後遺障害の内容や程度によって金額が決まるので、高齢者であっても若年者であっても子どもであっても同じです。
ただし、死亡慰謝料については、単独で暮らしていた高齢者の場合、家族がいる人よりも低くなります。
2.高齢者の交通事故で問題になりやすい「逸失利益」とは
高齢者の場合、交通事故の賠償金の中でも特に「逸失利益」の計算の際に問題が起こることが多いです。
逸失利益とは、交通事故で被害者に後遺障害が残った場合や死亡した場合などに被害者が得られなくなってしまった将来の収入のことです。
交通事故で後遺障害が残ると被害者は身体が不自由になるので、それまでのようには働けなくなってしまいます。
また、被害者が死亡した場合には、当然事故後、仕事をして収入を得ることはできません。
そこで、このような失われた収入を「逸失利益」として、事故の加害者に支払い請求することができるのです。
後遺障害が残った場合の逸失利益を「後遺障害逸失利益」と言い死亡した場合の逸失利益のことを「死亡逸失利益」と言います。
3.基本的な、逸失利益の計算方法
それでは、逸失利益はどのように計算するものでしょうか?
後遺障害逸失利益と死亡逸失利益に分けてご説明します。
(1)後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益も死亡逸失利益も、交通事故前の被害者の収入を基準とします。
事故前の収入のことを「基礎収入」と言います。
そして、後遺障害逸失利益の場合、この基礎収入に「労働能力喪失率」をかけます。
後遺障害が残った場合、程度によって、どのくらい働けなくなったか(労働能力喪失の度合い)が異なるためです。
そして、就労可能年数分の逸失利益を計算します。
収入を得られるのは、仕事ができる期間のみだからです。
一般的に、就労可能年齢は67歳までとされています。
ただ、逸失利益を受けとるときには、将来分の収入をまとめて受けとることになりますが、本来であれば、収入はその都度順番に得ていくはずのものです。
一括して先に受けとると本来得られないはずの運用利益が発生してしまいます。
そこで、その運用利益を差し引く必要があります。
この運用利益のことを中間利息といいます。
中間利息控除の計算のためには「ライプニッツ係数」という特殊な係数を使います。
以上により、後遺障害逸失利益の計算式は、以下の通りとなります。
後遺障害逸失利益=事故前の基礎収入×労働能力喪失率×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
(2)死亡逸失利益
次に、死亡逸失利益の計算方法をご紹介しましょう。
死亡すると完全に働けなくなりますから、労働能力喪失率は問題になりません(常に100%です)。
ただ、死亡すると生活費はかからなくなりますから、その分を控除する必要があります。
このことを生活費控除と言います。
生活費控除率は、ケースに応じて30~50%程度となります。
たとえば、単身の高齢者の場合には男性が50%、女性が30%です。
そして、死亡逸失利益も認められるのは就労可能年齢である67歳までです。
ここでも将来の分をまとめて受けとるので、中間利息を控除しなければなりません。
そこで、ライプニッツ係数を使って計算します。
死亡逸失利益の計算式は、以下の通りとなります。
死亡逸失利益=事故前の基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
4.高齢者に逸失利益が認められにくい理由
以上のように、実際に働いている人が交通事故に遭って後遺障害が残ったり死亡したりすると加害者に対して逸失利益の請求をすることができますが、高齢者の場合、逸失利益が認められにくくなったり、計算が困難になったりすることがあります。
その理由は、以下の通りです。
(1)就労可能年数が問題になる
1つは、就労可能年数の問題です。
高齢者の場合、就労可能年齢である67歳に近い年齢となっていたり、67歳を過ぎていたりすることが多いです。
そうなると、通常の逸失利益の基本の計算方法では、67歳までの逸失利益しか計算をしない前提になっているので、67歳を過ぎた高齢者は、一切逸失利益を認められなくなってしまいます。
また、67歳に近い年齢の人は、逸失利益が認められたとしても極めて短い間に限定されてしまう可能性が高いです。
しかし、実際には、67歳に近い人や67歳を超えた人でも、働いて収入を得ていることがありますし67歳を超えても働く意欲も能力も高い人がたくさんいます。
そこで、こうした高齢者には67歳を超えても逸失利益を認める必要性があると言えます。
(2)基礎収入が問題となる
高齢者の場合、基礎収入も問題になりやすいです。
実際に働いている人であれば、その収入を基準にすれば良いのですが無職の人や年金収入のみの人、家事労働をしている人なども多くいるためです。
無職の人でも、働く意欲や能力がある高齢者がいますし家事労働をしている主婦でも、家事には経済的な対価性があると言えるので、基礎収入を認めて逸失利益が支払われるべきです。
また、年金生活者にも逸失利益が認められることがあります。
5.高齢者の逸失利益計算方法
以上のように、高齢者には一般のケースとは異なる問題があるので高齢者に後遺障害が残ったり死亡したりした場合には、若い人とは異なる方法で逸失利益の計算を行う必要があります。
以下では、就労可能年数の問題と基礎収入の問題に分けて説明をします。
(1)就労可能年数について
高齢者の場合、就労可能年齢を67歳としてしまうと逸失利益が全く認められなくなったり、認められたとしても極めて短い年数になってしまったりすることがあります。
そこで、症状固定した時点から67歳までの年数が平均余命の2分の1以下になる場合には、原則的に平均余命年数の2分の1に相当する期間を労働能力喪失期間として計算します。
つまり、以下の2つのうち、長い方を就労可能年数とするということです。
- 67歳までの年数
- 平均余命の2分の1
なお、平均余命とは、その年齢の人があと何年生きるかという年数です。
国民全体の「平均寿命」とは異なるので注意が必要です。
たとえば、67歳の男性の平均余命は16.58年、女性の平均余命は21.41年となります。
75歳の男性の平均余命は11.07年、女性の平均余命は14.80年です。
そして、平均余命の2分の1を採用する場合には、平均余命の2分の1の年数に対応したライプニッツ係数をあてはめることにより、高齢者の逸失利益を計算します。
また、高齢者の場合、必ずしもこうして計算された期間のすべてについて労働能力の喪失が認められるとは限りません。
さまざまな事情を斟酌して、労働能力喪失期間が短縮される傾向もあるので注意が必要となります。
(2)高齢者の基礎収入について
高齢者の逸失利益の基礎収入は、被害者の状況により、以下のような基準で定めます。
- 被害者が実際に働いている場合には、交通事故の前年度の実収入を基礎収入とする
- 被害者が家事労働をしている主婦などの場合には、女性の全年齢の平均賃金を基礎収入とする(ただし、高齢で労働能力がもともと低いケースなどでは、年齢別の女性の平均賃金が利用されることもあります。)
- 被害者が無職の場合、高齢者に労働への意欲と実際に労働をする能力があり、将来就労する蓋然性があったと言えるケースに限り、男女別の年齢別平均賃金を基礎収入とする
以上に対し、被害者が無職であり、就労の蓋然性がない場合や労働能力、労働意欲がない場合には、逸失利益は支払われません。
6.年金生活者の場合
高齢者には、年金生活をしている人も多いです。
年金生活者には、逸失利益が認められるのでしょうか?
年金生活者については、後遺障害逸失利益と死亡逸失利益とで取扱いが異なります。
(1)後遺障害逸失利益は認められない
まず、年金生活者の場合、後遺障害逸失利益は認められていません。
後遺障害逸失利益は、労働能力を喪失したことによって発生した収入の減少分に対する補填です。
そこで、後遺障害逸失利益は、基本的に減収があったことを前提とします。
しかし、年金の場合、後遺障害が残ったからといって減額されることがありません。
そこで、年金生活者には、後遺障害逸失利益を認める根拠がなく後遺障害逸失利益を請求することができないのです。
(2)死亡逸失利益は認められている
これに対し、年金生活者の場合でも、死亡逸失利益については、認められるケースがあります。
ただし、すべての年金の場合に死亡逸失利益が認められるわけではありません。
死亡逸失利益が認められる年金の種類は、以下の通りです。
- 老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金)
- 障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金)
- 退職共済年金
- 労災の障害補償年金や障害特別年金
以上に対し、遺族年金や軍人恩給の扶助料には逸失利益性は認められません。
こうした年金は受給者本人の生計を維持するものであり、一身専属性が強いですし受給者本人が保険料を支払っていないからです。
まとめ
以上のように、高齢者が交通事故に遭った場合、特に逸失利益について若い人とは異なる検討や対応が必要です。
加害者の保険会社と示談交渉を行うとき、高齢者の逸失利益は否定されやすい傾向にあります。
しかし、実際には請求ができる事例もたくさんあるのであきらめる必要はありません。
個別のケースで逸失利益を請求できるかどうかについては、弁護士による専門的な判断を仰ぐべきです。
高齢者が交通事故に遭われた場合には、まずは一度、交通事故に強い弁護士に相談してみることをお勧めします。