交通事故で被害に遭ったら、事故の相手方に対して損害賠償請求をすることになります。
まずは示談交渉から始めることが普通ですが、お互いの主張が対立して示談が成立しないケースがあります。
この場合には、いきなり訴訟を起こすのではなく調停を利用する事ができます。
交通事故で調停を利用すると、どのようなメリットがあるのでしょうか?
調停を利用すべき場合とそうではない場合の区別も抑えておくと役立ちます。
同時に調停の利用方法や手続の進み方についても知っておきましょう。
そこで今回は、交通事故の調停手続について解説します。
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目次
1.交通事故で示談が成立しない場合の対処方法3つ
交通事故に遭ったとき、物損や人身損害を受けたら相手に対して損害賠償請求をします。
このとき、相手方任意保険会社と示談交渉をしても折り合いがつかない場合、どのようにして損害賠償請求の手続をすすめていけば良いのかという問題が生じます。
この場合、主に3つの方法があります。
1つ目は、裁判所の民事調停手続を利用する方法です。
これは、管轄の簡易裁判所に損害賠償調停を申し立てて、そこで調停委員に間に入ってもらって相手方との間で話し合いをすすめる手続のことです。
2つ目は、裁判外の紛争処理機関(ADR)を利用する方法です。
ADRとは、裁判所以外の機関が当事者の間に入って仲裁を行うことにより、損害賠償事件の解決をはかる手続です。
3つ目は、裁判所で損害賠償訴訟(裁判)を起こす方法です。
これは、話し合いの手続ではなく訴訟手続です。
当事者の主張や立証にもとづいて、裁判官が妥当な損害賠償金額を決定してしまいます。
これらの3つの対処方法について、どれを先に利用しなければならないという決まりはありません。
示談が決裂したら、すぐに訴訟を申し立てることもできますし、まずは調停、ADRを利用する事もできます。
調停を利用した後ADRを利用する事も、その逆も可能です。
示談が決裂したときにどの手続で紛争を解決するかを考える際、ケースバイケースで適切な手続選択をする必要があります。
2.交通事故の調停とは
示談交渉が決裂した場合、裁判所の調停手続を利用して解決することが可能です。
裁判所の調停とは、簡易裁判所において、調停委員や裁判官に間に入ってもらい、お互いの意見や希望を調整しながら話し合いをすすめる手続のことです。
間に調停委員が入るので、お互いが冷静に話し合いをすすめることができますし、必要に応じて調停委員や裁判所が意見を出してくれたり提案してくれたりするので、当事者同士では滞りがちな話し合いもスムーズにすすめることが可能です。
調停において、当事者が合意出来たら調停が成立して、手続は終了します。
その場合、調停調書が作成されて、後日相手方から決まった損害賠償金の支払いを受けることができます。
調停によっても当事者の意見が合意に達しない場合には、調停は不成立となってしまいます。
この場合、調停では問題が解決できないので、訴訟などの別の手続を利用して損害賠償請求をする必要があります。
3.調停のメリット
交通事故の損害賠償請求手続において、調停を利用すると、さまざまなメリットがありますので、以下でご紹介します。
(1)手続が簡単で利用しやすい
調停手続は、比較的簡単で個人でも利用しやすいです。
まず、申立をする際には、各地の簡易裁判所にある申立書の用紙に必要事項を記載して提出するだけです。
また、訴訟手続とは異なり、厳格な書証の提出のルールなどもないので、調停委員や裁判所の書記官に聞きながら、素人の個人でも最後まで手続を続けていくことができます。
(2)費用が低額
調停手続は、費用も低額です。
申立のためにかかる費用はいくらの損害賠償をするかによっても異なりますが、たとえば100万円の請求をするなら印紙代は5000円で済みますし、300万円の請求をする場合でも印紙代は1万円です。
これと、数千円分の郵便切手がかかります。あとは裁判所の往復の交通費くらいしかかかりません。
調停の場合、手続が簡単なので弁護士に依頼しなくても、自分でも手続出来るので、その場合には弁護士費用もかかりません。
よって、最後まで手続をすすめたとしても、全部で1~3万円もあれば充分足りることが普通です。
(3)調停委員が間に入るので合意しやすい
示談交渉では、被害者と任意保険会社が直接話し合いをするので、任意保険会社が被害者を丸め込んで不利な条件を押しつけようとすることがありますし、被害者の方も任意保険会社に対して疑心暗鬼になることがあります。
そうなると、示談成立がかなり難しくなってしまいます。
ここで、調停を利用すると、裁判所の調停委員や裁判官が間に入ってくれて、適切な内容での解決を導いてくれます。
このことにより、被害者が不当な条件を押しつけられるおそれもなくなりますし、被害者が相手方任意保険会社に対して疑心暗鬼になることもありません。
このことによって、お互いが合意しやすくなるメリットがあります。
(4)プライバシーを守れる
調停は完全に非公開の手続です。
訴訟とは異なり、当事者の主張内容などについての詳細な証拠が作成されることはありませんし、外部に手続が公開されることもありません。
裁判所の調停委員や裁判官にも守秘義務があるので、そこから外部に漏れる可能性もありません。
この点、訴訟は公開手続ですので、たとえば証人尋問が行われる場合などには、自由に他人が傍聴することが可能になってしまいます。
交通事故などの紛争の内容は、第三者に知られたくないケースも多いですが、調停を利用した場合には秘密を守ることができるので、メリットが大きいです。
(5)問題解決までの期間が短い
調停を利用すると、比較的短期間で問題を解決することができます。
調停申立後は、だいたい月に1回程度話し合いをすすめるための調停期日が開催されますが、調停期日の回数は、2~3回程度が標準です。
よって、調停申立から解決までの期間は、だいたい3ヶ月くらいになります。
実際に80%の調停事件が3ヶ月以内に終了していると言われています。
4.調停のデメリット
調停には、デメリットもありますので、以下で見てみましょう。
(1)必ずしも紛争を解決できない
調停では、必ずしも紛争を解決できるとは限りません。
調停はあくまで当事者同士の話し合いの手続です。
確かに、調停委員が間に入ってくれるので当事者同士で話し合うよりは合意しやすいことはありますが、それでも調停委員や裁判官が当事者に意見や結論を押しつけることはできません。
最終的には当事者双方が完全に納得しない限り、調停は成立しないのです。
これに対して、訴訟であれば、当事者が納得するかどうかにかかわらず裁判所が判決を出して決定してしまうので、問題が終局的に解決できます。
このように、調停では必ずしも合意出来ず、損害賠償金が決まらないことがある点がデメリットとなります。
(2)損害賠償金額が低額になる可能性がある
調停を利用する場合、相手方任意保険会社との話し合いが前提です。
話し合いですから、自分の主張ばかりを押し通そうとしてもうまく解決できません。
譲らなければならない場面も出てきます。
よって、調停で解決する場合には、訴訟で争って勝訴した場合よりも受け取る損害賠償金額が少なくなる可能性があります。
また、訴訟を起こして判決を得た場合には遅延損害金の請求もできますが、調停の場合には遅延損害金は請求しないことが普通です。
よって、遅延損害金の分も調停の方が受け取る金額が少なくなります。
遅延損害金は、損害賠償金の金額が大きくなるとその分多額になるので、特に高額な損害賠償金の請求をする際に影響が大きくなります。
(3)手間と時間が無駄になる可能性がある
調停を利用しても、当事者が合意しなければ調停は不成立となって、問題は解決しません。
この場合には、改めて損害賠償請求訴訟などの手続をとる必要があります。
すると、調停にかけた手間暇や時間が無駄になってしまいます。
調停を申し立てるためには、簡易裁判所に行って必要書類を提出したり、費用の支払いもしたりしています。
また、平日の昼間の時間帯に何度も裁判所に足を運んで話し合いをしていますが、不成立になったら、これらの労力や費用はすべて無意味になるということです。
どうせ訴訟をするのであれば、示談交渉が決裂してすぐに損害賠償請求訴訟を起こしていれば、上記のようにむだな手間暇や費用、期間をかける必要は無かったのです。
このように、調停を利用すると、場合によっては無駄に労力や費用をかけるだけの結果になってしまうと言うデメリットがあります。
調停を利用する場合には、利用すべき適切なケースにおいて、適切なタイミングで行う必要があります。
5.調停の申立方法と費用
次に、調停の申立方法とかかる費用についてご説明します。
(1)申立先の裁判所について
調停の申立先は、簡易裁判所です。
ただし、どこの簡易裁判所でも良いわけではありません。
この場合、相手方の住所地の管轄の簡易裁判所が基本です。
相手が任意保険会社の場合には、全国に支店や営業所があることが多いので、その支店の住所を管轄する簡易裁判所でも申立が可能です。
ただし、相手方との間で利用すべき裁判所についての合意をした場合(管轄合意をした場合)には、それ以外の簡易裁判所や地方裁判所において調停を起こすことも可能です。
(2)申立方法
調停を申し立てたい場合には、簡易裁判所においてある申立用紙に必要事項を記入して、簡易裁判所に提出します。
このとき、費用も同時に支払います。
調停にかかる費用は印紙代と郵便切手です。
印紙代は、請求する損害賠償の金額によって異なりますが、だいたい数千円~数万円程度です。
以下で一例をご紹介します。
調停にかかる印紙代の表
10万円まで
500円
50万円まで
2,500円
100万円まで
5,000円
500万円まで
15,000円
郵便切手は数千円程度かかりますが、各地の裁判所によって運用が異なるので、具体的には裁判所に確認しましょう。
収入印紙と郵便切手は近くの郵便局で購入できます。
また、申立の際に、参考となる証拠があれば、そのコピーも一緒に提出しておくと、調停の話し合いをスムーズにすすめやすくなります。
証拠には、1、2、3…などの番号をふっておきましょう。
申立人が未成年の場合には、戸籍謄本か戸籍抄本が必要になります。(発行後3か月以内のもの)
無事に申立手続が済んだら、裁判所から調停期日の呼出状が届きます。
定められた日時に簡易裁判所に行けば、調停期日が開催されて話し合いをすすめていくことが可能になります。
6.調停を利用すべき場合
調停にはメリットもデメリットもあるので、上手に利用しないとかえって不利益を被るおそれがあります。
そのためには、調停を利用すべき場合とそうでない場合について、しっかり理解しておくことが重要です。
以下では、調停を利用すべき場合をご紹介します。
(1)対立点が小さい場合
調停を利用すべき場合の基本は、相手方との示談交渉が決裂した場合ですが、あまりに対立点が大きい場合には調停を利用しても解決できない可能性が高いです。
逆に、調停で解決が見込まれる事案というのは、比較的対立点が小さい場合です。
たとえば、損害賠償金額についてはだいたい合意出来ているけれども、過失割合についてのみどうしても合意出来ない場合や、過失割合については合意出来ているけれども、入通院慰謝料の計算方法について対立しているなどのケースです。
このように、対立する問題点が比較的少なかったり小さかったりする事件の場合は調停での解決に向いています。
(2)損害賠償金額が小さい場合
調停での解決に向いているのは、比較的損害賠償金額が小さいケースです。
この場合、被害者側としても、弁護士に依頼して訴訟手続をすすめると高額な費用がかかるので、足が出る可能性があります。
そこで、費用をかけずに調停で話し合いをすすめるメリットがあります。
保険会社にしてみても、損害賠償金額が小さい事件であれば、少々譲ってもさほど大きな支払につながらないので、比較的合意しやすくなります。
逆に大きな金額を請求する場合には、しっかり弁護士に依頼して訴訟を起こしてでも全額の賠償金を請求する方が、メリットが大きくなることがあります。
(3)被害者と相手方との間の交渉力に差がある場合
交通事故の示談交渉では、相手は巨大な法人・企業である任意保険会社です。
これに対して、被害者はしろうとの一個人にすぎません。
当然任意保険会社の方が法的知識も豊富ですし、交渉にも長けています。
この2者が示談交渉で直接話し合いをしていたら、任意保険会社が被害者の法的知識のなさにつけこんで、不利な条件をおしつけてくることも多いです。
調停を利用すると、そのような問題を避けることができます。
話し合いの間に調停委員と法的知識を持った裁判官が入ってくれるので、不当な結論が導かれないように適切に解決方法を誘導してくれます。
被害者の法的知識が無くても、裁判所が助けてくれるので、それを補うことができるのです。
このことは、特に口下手で交渉が下手な人や、すぐに相手の言い分に納得してしまって丸め込まれやすい人のケースで役立ちます。
自分でうまく交渉出来る自信がない場合には、調停を利用すると有利になる可能性があります。
(4)相手方が無保険の場合
交通事故の交渉相手は、任意保険会社とは限りません。
相手方が無保険の場合には、任意保険会社が示談代行しないので、相手方本人と話し合いをしなければなりません。
この場合、相手と直接示談交渉をしてもうまくいかないことが多いです。
当事者が双方とも素人の個人なので、法的知識がなく、交渉にも慣れていません。
そこで、どこからどのように話し合いをすすめて良いかわからず、必要な事項についての話し合いや決定がまったくできないことがあります。
さらに、互いに感情的になるので、話にならない事も多いです。
保険に入っていないような相手方であれば、そもそも話し合いに全く応じないこともあります。
相手方が本人の場合には、資力が無い可能性があるので、任意保険会社の場合のように必ず支払いが受けられるとも限りません。
このように、相手方が無保険で相手方本人と直接交渉しなければならないケースでは、調停を利用すべきです。
調停を利用すると、間に裁判所の調停委員や裁判所が入ってくれて、法的知識を補ってくれますし、適切に話し合いをすすめてくれます。
直接当事者が対峙しないので、感情的になって話し合いが進まなくなることもありません。
さらに、調停が成立すると調停調書が作成されますが、これには強制執行力(差し押さえをする効力)があります。
よって、相手方に資力が無くて支払が受けられない場合であっても、調停調書を使って相手方の預貯金や給料から取り立てができて、効果的です。
7.調停を利用すべきでない場合
調停を利用すべきではないケースもありますので、以下で説明します。
(1)双方の対立が激しい場合
対立点が大きすぎて調停での話し合いを続けても解決が見込めない場合には、調停を利用すべきではありません。
この場合、調停を利用しても結局は不成立で終わってしまうおそれが高いので、調停にかけた手間暇や費用が無駄になってしまうおそれが高いです。
(2)損害賠償金額が大きい場合
交通事故で重大な損害が発生していて損害賠償金額が大きい場合にも、調停が向かないケースがあります。
この場合、対立点が些細であれば、調停で調整してもらって解決しても良いのですが、対立点がそれなりにあると、調停での調整は難しくなりがちです。
損害賠償金額が大きいと、さほど大きくはない対立点であっても損害賠償金の金額が大きく変動するからです。
たとえば、10万円の損害賠償請求事件の場合、過失割合が1割変わったら損害賠償金額は1万円しか変わりませんが、1000万円の損害賠償請求事件の場合には、過失割合が1割変わったら、損害賠償金額は100万円も変わってくるのです。
これほどの違いが発生するとなると、被害者にとっても任意保険会社にとっても大きな問題になるので、互いに譲り合うことが難しくなります。
また、訴訟になると遅延損害金も請求できますが、調停では難しいことが多いです。
損害賠償金額が多額の場合には、遅延損害金も多額になりますので、やはり調停よりも訴訟で解決するメリットが大きくなります。
よって、損害賠償金額が大きい場合には、調停での解決が不向きになる場合が多くなります。
8.ADRを利用する方法もある
(1)ADRとは
交通事故の示談交渉が決裂した場合には、調停以外にも裁判外の紛争解決機関(ADR)という解決方法があります。
これは、各種団体が組織している、裁判外の紛争処理機関を利用した紛争の解決方法です。
裁判所は利用しないけれども、当事者以外の第三者(仲裁者)に間に入ってもらって交渉をすすめて、問題を解決することができます。
交通事故の紛争処理のために利用できるADRはさまざまです。
代表的なものが、交通事故紛争処理センターや日弁連交通事故相談センターです。
これらのADRは、解決実績も高く紛争の解決能力にも長けているので、安心して利用することができます。
この他、日本損害保険協会が組織しているそんぽADRや、外国損害保険協会が組織している保険オンブズマンなどのADRも利用できます。
ADRを利用すると、当事者の話し合いがつかない場合には、仲裁期間が仲裁決定をしてくれますが、このときADR機関と協定を締結している保険会社はその決定内容に拘束されます。
そこで、多くの損害保険会社や共済と提携している交通事故紛争処理センターを利用すると、問題を解決しやすいです。
日弁連交通事故相談センターも、多くの共済と協定を締結しているので、相手方が共済であれば利用する価値は高いです。
また、日弁連交通事故相談センターのADRは、交通事故紛争処理センターのADRよりかかる期間が短いことが多いです。
(2)ADRのメリット
ADRのメリットをご紹介します。
ADRを利用すると、間に仲裁者が入ってくれるので、お互いが冷静になって客観的に話し合いをすすめることができます。
調停と同様、被害者の法的知識の不足や相手方任意保険会社との力の差を補うこともできます。
このことによって、妥当な条件で合意に達しやすくなるメリットがあります。
さらに、ADRの場合には、当事者の話し合いがつかない場合に仲裁決定をしてもらうことができます。
仲裁決定があると、ADRと提携している保険会社や共済組合はその内容に拘束されます。
そこで、調停とは異なり、終局的に問題を解決できる可能性があります。
(3)ADRのデメリット
ADRにはデメリットもあります。
まず、訴訟の場合に比べて、受け取る損害賠償額が低額になる可能性があります。
また、仲裁決定があったとしても、相手方がADRと協定を締結していない場合には拘束しないので、紛争が終局的に解決できません。
このように、交通事故の示談交渉が決裂した場合には、調停やADRで解決する方法があります。
対立点が小さい場合や費用をかけたくない場合、損害賠償金額が小さい場合などには、1度検討してみると良いでしょう。
まとめ
今回は、交通事故の示談交渉がうまくいかない場合の調停手続について解説しました。
調停を利用すると、間に裁判所の調停委員や裁判官が入ってくれるので、素人の個人が被害者であっても話し合いをすすめやすいです。
調停手続は、対立点が小さい場合や損害賠償金額が小さい場合、費用をかけたくない場合や相手方が無保険の場合などに特に向いています。
調停では、相手方に結論を強制することができないので、不成立になったらかけた手間暇や費用が無駄になってしまうことに注意が必要です。
他にADRによる解決方法もあります。
今回の記事を参考にして、賢く調停などの手続を選択利用して交通事故の損害賠償問題を解決しましょう。