「追突事故でむちうちになった」
「むちうちの慰謝料を請求したいがどうしたらいいかわからない」
このように、追突事故でむちうちになったという話はよく耳にしますし、実際むちうちで悩まれている方もいるかもしれません。
しかし、実際には「むちうち」という病名はなく、正式には「外傷性頚部症候群」といいます。
追突事故などによって頭が過度に前後に屈伸したことにより、首の組織に損傷が生じて発生する症状の総称を言い、首の痛み以外にも広く使われる症状です。
そのため、病院の診断書を見ても、「むちうち」という病名が記されているわけではないので、果たして自分の症状が何なのか、戸惑う方もいるでしょう。
追突事故にあった場合のむちうちの症状は具体的にどのような病名になるのか、どの程度の賠償の対象になるのかなどについて解説します。
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目次
1.むちうちの正式な病名と症状とは
むちうちの正式な病名は「外傷性頚部症候群」といいます。
実際の症状は、長期にわたり首の痛み、めまい、頭痛といった症状が続くのが特徴です。
追突事故などの交通事故で「むちうち」という場合、首の症状が大半ですが、腰や背中、肩の捻挫などの症状全般を指すこともあります。
むちうちの実際の症状としては、次の6種類に分けることができます。
(1)頚椎捻挫型のむちうち症状
むちうちの中で最も多く、全体の8割程度を占める症状です。
具体的には、首周辺や胸・背中の筋肉の緊張、首の鈍痛や肩こり、首の運動痛や圧迫痛、腕や手指のしびれや脱力感に加え、頭痛・めまい・吐き気などの症状が出ることもあります。
(2)バレリュー症候群のむちうち症状
追突事故の衝撃などによって首を損傷した際に、首の神経根が損傷したり刺激を受けたことにより、交感神経の活動が活発になりすぎることが原因と考えられる症状です。
具体的には、頭痛、めまい、耳鳴り、全身倦怠感、目の疲れや視力低下、動悸などの症状が特徴です。
(3)神経根型のむちうち症状
追突事故の衝撃などで椎間孔の神経根が圧迫されて発生する症状です。
具体的には、頭や手指の痛みや痺れ、感覚の異常や、後頭部の違和感があり、これらの症状が首の運動により強くなるのが特徴です。
(4)脊髄型のむちうち症状
首の持病がある場合や、首の脱臼骨折を併発している場合に、脊椎を痛めて発生する症状です。
具体的には、手足のしびれや歩行障害に加え、膀胱直腸障害による排泄困難、軽度の知覚障害や腱反射の亢進などを招くこともあります。
(5)脳脊髄液減少型のむちうち症状
追突事故の衝撃によって、脳脊髄液を覆うくも膜に損傷が生じ、脳脊髄液が少しずつ漏れることによって発生する症状です。
具体的には、頭や全身の痛み、全身倦怠感や睡眠不足、集中力や思考力の低下、女性の場合の月経困難など、さまざまな症状が生じます。
何年も症状が続くようなケースでは、脳脊髄液減少型のむちうち症状が疑われます。
(6)椎間板ヘルニアの発症
また、むちうちの症状が酷い場合には、椎間板ヘルニアや、坐骨神経痛を発症している場合もあります。
これらの症状は、MRI検査をすると判明します。
後々の後遺障害の認定にも影響するので、むちうちの症状が酷い場合には、しっかり検査を受けておきましょう。
2.むちうちの治療期間の目安と保険の関係とは
(1)むちうちの治療内容と治療期間とは
追突事故でむちうち症状が出たと思われる場合は、まずは適切な治療を受けることが大切です。
その際は、医学的判断を受けるために、病院の整形外科に通院しましょう。
通常、病院では温熱療法などの物理療法、可動域訓練などの運動療法、消炎鎮痛剤などによる薬物療法等が行われ、症状が継続する場合はブロック注射による治療を行う場合もあります。
むちうちは、入院する場合には1か月以内に退院できることがほとんどですが、痛みが解消するか、治療の効果が見られなくなるまでに3カ月から半年の通院が必要と言われています。
このように、症状が改善した、あるいはこれ以上治療を続けても症状の改善が見込めない状態のことを「症状固定」といいます。
症状固定するまでの通院頻度が低いと、後々痛みが残った場合に後遺障害と認められない可能性もあるので、治療に専念して通院しましょう。
通院中の治療費は、相手の保険会社が直接病院に支払うのが通常ですが、半年程度経つと、治療の打ち切りを保険会社から請求される場合があります。
しかし、保険会社の言うままに治療を停止すると、症状が残った場合でも後遺障害と認定されない恐れがあります。
保険会社から治療の打ち止めを請求された場合は、弁護士や医師に相談し、治療の必要がある場合は医師の指示に従って十分に治療を受けた方が良いでしょう。
(2)むちうちの治療費を保険会社に払ってもらうには
追突事故の被害にあった場合、加害者が加入している任意保険会社の担当者から被害者に連絡が入ります。
追突事故のむちうちで通院する場合は、保険会社に通院先の病院を伝えると、保険会社が治療費の対応をするのが通常です。
むちうち症状では3カ月から半年の通院で「症状固定」になるのが通常です。
症状固定した後は、痛みが残ったとしても後遺障害の問題となり、治療は停止するため治療費の支払いも打ち切られます。
この場合には、「第三者行為による傷病届」を健康保険に提出し、健康保険を利用した上で受診するしかありません。
しかし、治療費の支払いが打ち切られるからと言って保険会社の要求に従って治療を停止すると、むちうちが後遺障害と認定されなくなったり、入通院の慰謝料が減額される可能性もあるので、弁護士や医師に相談して、治療の継続を検討してください。
もし、保険会社が症状固定前に治療費の支払いを停止してきたような場合には、医師の指示に従って通院を続け、支払った治療費を保険会社に請求しましょう。
3.むちうちの慰謝料の相場とは
(1)むちうち痛みが残っただけでは慰謝料がもらえない-後遺症と後遺障害の違いとは
むちうちで慰謝料を請求するには、「首に痛みが残る」といった後遺症だけでは不十分で、第三者機関による後遺障害の認定を受ける必要があります。
というのも、慰謝料は、1級から14級まで定められた後遺障害のレベルに応じて、相場が決められているからです。
後遺障害等級の認定を受けるためには、加害者の加入する自賠責保険会社に必要書類鵜を提出して申請します。
具体的に必要な書類としては、自動車損害賠償責任保険支払請求書兼支払指図書、交通事故証明書、事故発生状況報告書、診断書及び診療報酬明細書、印鑑証明書、後遺障害診断書を準備しましょう。
むちうちで後遺障害の認定を受けるには、交通事故の状況と、被った被害の程度をきちんと証明することが大切です。
そのためには、事故直後にはレントゲンやMRIなどできる限りの検査を受けること、医師には一貫性を持って正確に症状を伝えること、事故後少なくとも3カ月は週に1回程度は通院するなどしてきちんと治療を受けることが重要です。
さらに、事故の状況を伝えるために事故にあった車の写真を撮っておくなどするとよいでしょう。
むちうちで認定される可能性があるのは、後遺障害の12級か14級です。
12級の場合は、画像所見等からむちうちの自覚症状が医学的に証明できる場合に認められ、14級の場合は、追突事故で受傷した際の様子や治療の経過などを考慮して、むちうちの自覚症状が連続して一貫していると認められ、医学的に説明できる場合に認められるとされています。
なお、後遺障害の認定は、症状の分析も含めた詳しい手続きが必要になります。
不安がある場合は、弁護士に相談してみることをお勧めします。
(2)むちうちで認定される慰謝料額とは
むちうちで後遺障害が認定された場合、12級か14級かによって、認められる慰謝料の額が変わります。
12級の場合の後遺障害慰謝料の相場は290万円、14級の場合の後遺障害慰謝料の相場は110万円です。
入通院した場合の入通院慰謝料については、12級の場合で通院1ヶ月なら19万円、半年なら89万円程度とされています。
しかしこれは、裁判になった場合に認められるとされる金額です(裁判所基準)。
保険会社は、各社の独自の基準(任意保険基準)に基づいた慰謝料しか払いません。
任意保険基準は裁判所基準に比べて大幅に低く、一般的には12級の場合の後遺障害慰謝料が100万円、14級の場合の後遺障害慰謝料が30万円程度といわれています。
同様に、入通院慰謝料についても、裁判所基準よりも大幅に低い金額が基準とされています。
保険会社は交渉のプロなので、被害者だけで交渉すると、この低い金額しか支払ってもらえません。
裁判所基準に基づく適正な慰謝料の支払いを受けるためには、弁護士に依頼して交渉を進めましょう。
4.追突事故で弁護士を頼むメリットとは
追突事故でむちうちになった場合、弁護士に依頼するかどうか迷う方も少なくないでしょう。
相手の保険会社の担当員から連絡が来て、全てスムーズに事を進めてくれれば、被害者側で動く必要はないと思う方もいるかもしれません。
しかし、後遺障害の認定申請や、適切な慰謝料の支払いを考えると、弁護士に依頼するメリットは少なくありません。
具体的には、相手の保険会社との交渉を任せて、治療に専念することができますし、後遺障害の認定を受ける際の専門的な資料の収集や申請を依頼することができます。
また、保険会社が提示してくる任意保険基準に基づく慰謝料ではなく、裁判所基準での慰謝料を受け取ることができるように交渉を依頼することができます。
反面、弁護士費用が心配な方も多いと思います。
しかし、ご自身が加入している保険に弁護士特約が付いている場合、弁護士費用を保険で賄うことができます。
ご家族の保険が使える場合もありますので、まずは保険証券を準備して、弁護士に相談されるといいでしょう。
5.まとめ
よく耳にするむちうちに多くの症状があること、後遺症と後遺障害に違いがあることに驚かれた方もいるかと思います。
追突事故でむちうちになると、先のことまで考えるのは大変だと思いますが、まずはできる検査と治療はしっかり受けましょう。
加入している保険によっては、弁護士費用の負担が不要な場合もあるので、まずは専門家である弁護士に相談してみることをお勧めします。