成年後見制度とは何か?その意味や利用方法を詳しく解説

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年をとって認知症になると自分では財産管理が難しくなるケースがあります。

そのまま放っておくと、心ない身内・親戚や悪徳業者に騙されてお金を取られてしまう恐れがあります。

このような判断能力が低下した人が利用できる制度が「成年後見制度」です。

これはどういった制度で、どのようにして利用すれば良いのでしょうか?
今回は、成年後見制度の意味と利用方法をご紹介いたします。

1.成年後見制度とは

判断能力が低下すると、自分では適切に財産管理ができなくなるケースがあります。

たとえば、認知症の老人などがその典型例で、日常の金銭管理もできず日々の買い物などに困るケースや、自分の預貯金などの財産がどこにどれだけあるのかがまったく分からなくなるケースもあります。

悪徳業者に騙されて、多額のお金を取られてしまうケースもありますが、自分ではお金がなくなったことにすら気づかないので、被害が膨らむことも多いのです。

このような状況に陥ったら、その人自身のためにも、それ以上本人に金銭管理を任せておくべきではありません。

そこで利用できるのが、成年後見制度です。
成年後見制度とは、成年後見人が、本人に代わって本人の財産を管理する制度です。

後見人は、単に財産を管理するだけではなく、必要に応じて本人の施設入所や入院措置などについても検討して、本人が楽に心地よく暮らしていくためのお手伝いもします。

成年後見人がつくと、本人の財産は後見人が管理することになりますし、本人が勝手に一人でした法律行為は後見人が取り消せるようになります。

そこで、判断能力の低下した本人が悪徳業者にだまされてもお金を取られることがなくなりますし、取られたお金は取りもどすことができるようになります。

2.成年後見制度の種類

成年後見制度には本人の判断能力の程度に応じた種類があります。
具体的には、後見人と保佐人、補助人です。

判断能力が低下して、他者に財産管理してもらった方が良いケースであっても、その判断能力の低下の程度は人によって異なります。

全面的に他者に財産管理を任せた方が良いケースもありますが、ある程度は自分でも管理出来るケースもあります。

成年後見人がつくと、本人は単独では何もできなくなってしまうので、ある程度判断能力が残っている人の場合、成年後見人をつけて本人の権限を奪ってしまうのは適切ではない、という判断もあります。

そこで、本人の判断能力の程度によって、後見の種類が分かれているのです。
もっとも程度の重い場合(判断能力を欠く常況にある場合)の成年後見人には、法律行為全般について本人の代理権がありますし、本人が勝手にした行為はすべて取り消すことができます。

逆に言うと、後見人が就いた場合、本人はほとんど自分の単独の判断で行動することができなくなります。

判断能力が著しく低下した人の場合には、保佐人がつきます。
保佐人は、法律で定められている一定の行為についての同意権と取消権を持っています。

後見制度の中でももっとも程度の軽い場合が、補助人です。
本人の判断能力が低下して不十分になっている場合に利用できます。

補助人は、家庭裁判所で個別に認められた一定の行為についてのみ同意権と取消権を持つものであり、補助人がついているだけなら本人もある程度自由に自分の考えで行動することが可能です。

以上のように、成年後見制度を利用すると、本人の状況に応じて適切な監督者をつけることができるので、とても便利で安心です。

3.成年後見人は何をするのか?

以下では、成年後見制度の中でも特によく利用される「後見人」の職務についてご説明いたします。

成年後見人が選任された場合、具体的に何をしてくれるかということです。
後見人は、基本的に本人の財産管理と身上監護をします。

(1)財産管理業務

まず、財産管理業務を見てみましょう。

成年後見人は、後見人に就任すると、本人の財産をすべて預かります。
預貯金通帳や証書、生命保険証書、年金手帳、株券、不動産の権利証(登記識別情報)、健康保険証などすべてです。

このことにより、本人が勝手に財産を処分することができなくなり、財産を適切に管理できるようになります。

また、後見人は財産目録を作成して、今ある財産の内容を明らかにします。
そして、年間の収支予定表を作成して、日々使ったお金については出納帳を作成して管理します。

だいたい1年ごとくらいに財産の増減に関する推移を明らかにした説明書を作成し、新たにその時点での財産目録を作成して、家庭裁判所に報告をします。

このように、後見人は、定期的に家庭裁判所に財産や収支などについての報告をする義務があるので、後見人自身に対しても監督が及び、後見人が本人の財産を使い込んだりすることを避けられます。

また、後見人の業務内容を巡って親族間でトラブルが起こったような事例では、「後見監督人」を選任することも可能です。

後見監督人は、後見人の職務内容を監督する人のことで、これをつけると後見人が勝手な行動をしないように監視できるので安心です。

(2)身上看護業務

次に、身上監護業務があります。
後見人が身上監護をする場合、その人が実際に本人の介護をするわけではありません。

どこの施設に入所してどのようなサービスを受けるのかなどを検討して決定し、費用を支払うのが主な業務内容となります。

本人が天涯孤独のケースなどでは、後見人が適切に施設を選択することなどによって、本人が快適に暮らせるようになります。

(3)本人の意思や心身、生活状況への配慮

また、成年後見人は、被後見人である本人の意思を尊重しなければなりませんし、本人の生活状況や心身の状態などに配慮をしながら業務を進める必要があります。

本人が亡くなったら後見人の事務は終了し、家庭裁判所に後見業務を終了したことの報告書を提出して、法務局宛に後見終了の登記の申請をし、財産については遺族への引き渡しをして、手続きを終了します。

4.後見人の登記制度とは?

成年後見制度と関連して、後見登記制度があります。
これは、成年後見人がついたとき(保佐人、補助人も同じ)には、法務局において、後見人がついていることが登記される制度です。

後見登記が行われたら、法務局に申請をすることにより、「登記事項証明書」を発行してもらうことが可能ですし、後見登記が行われていない人の場合には、申請によって「登記されていないことの証明書」を発行してもらうことができます。

この登記制度によって、本人に後見人がついていることが明らかになるので、取引の安全に役立ちます。

たとえば、本人が勝手にした行為を取り消したい場合には、登記事項証明書を相手に提示したら、本人がした行為が有効にならないことを簡単に証明できるので、取消の手続きが簡単になります。

逆に、成年後見人がついているとできない職務(弁護士や医師、国家公務員や遺言執行者など、さまざま)につきたいときには、登記されていないことの証明書を提出することによって、自分が成年被後見人ではないことを証明することが可能です。

このように、成年後見制度を利用していてもしていなくても、成年後見登記制度とかかわることは意外とよくあるので、憶えておくと良いでしょう。

5.どのようなケースで利用できる?

次に、成年後見制度はどのようなケースにおいて利用する意味があるのか、ご紹介いたします。

(1)本人が自分で財産管理出来なくなったケース

まずは、本人が重度の認知症などにかかり、まったく自分で財産管理ができなくなったケースです。

典型的な成年後見利用のパターンです。
自宅において、一人で生活している場合でも後見人をつけられますし、施設や病院に入所していても後見人をつけることは可能です。

(2)遺産分割協議を進めたいケース

次に、遺産分割協議をしたいケースなどでも後見人をつける意味があります。

遺産分割協議に参加するためには、有効に法律行為をするだけの判断能力が必要ですが、認知症などにかかって判断能力が低下していたら、意思能力が認められず、単独では遺産分割協議を進められないことがあります。

このようなときには、後見人をつけて、その人に遺産分割協議を進めてもらうことにより、適切に遺産分けを行うことができます。

(3)天涯孤独の人のケース

さらに、天涯孤独で誰も財産を管理する人がいないケースなどでも成年後見制度を利用できます。

たとえば、施設に入所している高齢者に身寄りがなく、本人の判断能力が低下してきて今後どのようなサービスを実施して良いか決めにくくなってきた場合には、市町村申立などによって成年後見人が選任されることがあります。

(4)親族間で争いがあるケース

親族間で財産についての争いが起こっているときにもよく成年後見制度が利用されます。
本人の判断能力が低下しているときに、子供たちの折り合いが悪く財産の取り合いをするケースです。

お互いに「相手が使いこみをするのではないか」と疑っているので、「相手に財産を預けられない、自分で管理しなければ」と考えます。

そうなると、どちらが財産を管理すべきかでもめてしまいますし、お互いに財産内容を開示しないので、余計に疑心暗鬼が深まってしまいます。

こうなると、本人の利益などそっちのけなので、本人は適切な介護すら受けられなくなることもあります。

このような場合には、第三者に後見人に就任してもらって、財産内容を明確にしてもらいながら本人の財産を管理してもらうことによって問題を解決することができます。

6.成年後見制度の利用方法

このようにいろいろなケースで便利で意味のある成年後見制度ですが、具体的に利用したい場合には、どのように手続きをすれば良いのでしょうか?

後見人を選任するには、家庭裁判所に対して成年後見人選任申立をする必要があります。
申し立て先の家庭裁判所の管轄は、本人の住所地の家庭裁判所です。

申立の際には申立書に必要事項を記入して、収入印紙800円分とともに提出します。
このとき、本人の戸籍謄本や診断書、住民票、本人の財産状況が分かる資料、本人の健康状態が分かる資料などの書類が必要です。

後見申立時には、後見人の候補者を記入することができるので、候補者が決まっている場合には記入すると良いでしょう。

候補者がいない場合や、親族間で争いがある場合などには、専門家(弁護士や司法書士など)から選ばれることになります。

また、成年後見の申立があると、裁判所によって、本当に後見が必要かどうかの調査検討が行われます。
必要に応じて鑑定が行われることもあり、その場合には鑑定費用が必要になります。

調査検討の結果、本当に後見人が必要だと言うことになると、家庭裁判所が後見開始の審判を下し、後見人が選ばれます。

後見人が選任されたら、本人の財産を後見人に引き渡して、その後は後見人に財産管理をしてもらうことになります。

まとめ

今回は、成年後見制度について解説しました。

後見制度は、本人の判断能力が低下している場合には大変役立つ制度です。
後見人が就くと、本人の財産管理を任せることができますし、本人が悪徳業者に騙されて不利益を受けることなどもなくなります。

天涯孤独の人の場合にも、成年後見人が適切に身上監護の面倒を見てくれるので安心です。
ただ、本人が自由に自分の財産を処分できなくなるという面(本人の権利を制限する面)もあることには留意しなければなりません。

後見人を利用すべき場合は、本人が自分で身の回りのことや財産管理ができなくなっているとき、遺産分割協議などの必要な手続きをしたいとき、親族間で争いが起こっている場合などさまざまです。

利用方法によってはとても大きな意味があり役に立つ制度なので、今周囲に判断能力が低下している人がいて困っている場合などには、利用を検討すると良いでしょう。
わからないことがあるなら、弁護士に相談することをおすすめいたします。

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