誰もが当事者になり得る「相続」。
この相続、俗に「争族」と言われるほどに、トラブルが起きやすいです。
今回は、弁護士から見た、よくある相続トラブルについて解説したいです。
また、そのようなトラブルに遭わないための予防策などについてもご説明していきます。
ご参考になれば幸いです。
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1.典型トラブル① 不動産を巡る問題
(1)相続で最も頭を悩ませることが多いのが不動産
不動産は、遺産分割しようにも、現金や預貯金等と違って、簡単に分けられません(家を何等分、ということなど出来ない)。
遺産は実家が一軒だけというような事案だと、実家に住んでいる相続人VS実家を出た相続人、なんていう構図も多いです。
兎にも角にも、不動産は相続におけるトラブルの筆頭と言えます。
(2)トラブル予防策!
生前にしっかりと遺言に分割方法を指定しておけば、相続人同士で争う事態を防ぐことが出来ます。
分割方法は、主に「①現物分割、②換価分割、③代償分割、④共有」の4つです。
①現物分割
遺産をそのままの形で分ける方法である。例えば、実家は長男、別荘は次男、などといった分割方法です。
②換価分割
不動産を売却して得たお金を分割する方法です。
③代償分割は
より多く財産を得た相続人が、あまり貰えなかった相続人に対し、代償金を支払う方法です。
④共有
相続人間で、何分の1ずつ共有で登記を入れる、といった方法です。
このうち、④共有は、結局は共有した相続人間で処分方法を巡ってトラブルが生じることが多いので、あまりお勧めできません。
その他の方法でどういった方法をとるかについては、子孫に引継ぎたい財産は何か、相続人間の人間関係にどのような影響を与えるかといった事情を考慮し、弁護士や税理士といった専門家と相談の上、決めると良いです。
(3)トラブルに遭ってしまった場合の解決法
遺言もなく、分割方法が当事者間でまとまらないような場合は、弁護士に依頼し、代理人として動いて貰うという方法がまず考えられます。
また、弁護士が交渉してもまとまらないような場合は、家庭裁判所に調停を申立てざるを得ません。
調停でもまとまらなければ、審判という方法で裁判所に判断してもらうことも可能です。
2.典型トラブル② 使途不明金
(1)相続開始後、被相続人の預貯金の取引履歴を調査すると、亡くなる直前にかなりの金額が引出されており、一体何に使われたのか分からないケース
弁護士が相続でよく目にするケースです。
こうしたケースは、被相続人が、特定の相続人と同居している場合などによく起きます。
他の相続人からすれば、「もしかしたら使い込んだのではないか」と疑ってしまう使途不明金。
親族間で骨肉の争いとなることが多い事案です。
(2)トラブル予防策!
この種のトラブルは、同居の長男など、特定の相続人に財産管理を任せていることから発生することが多いです。
これを回避するためには、被相続人がしっかりしているうちに、弁護士と任意後見契約を締結するなど、第三者に財産管理を適正に行ってもらうのが良いでしょう。
特定の相続人に財産管理を任せるのであっても、他の相続人にそのことをきちんと伝え、財産管理を任された特定の相続人にも、他の相続人に対して財産の使途をきちんと開示しながら財産管理を行うよう、指示しておくべきでしょう。
(3)トラブルに遭ってしまった場合の解決法
弁護士に依頼し、使途不明金の使途を明らかにするような交渉をして貰うほかありません。
交渉で明らかにならなければ、不明金を取戻すような訴訟を提起することになろうが、正直に言って、簡単な訴訟ではありません。
この種のトラブルは、予防が肝心です。
3.典型トラブル③ 偏った分割方法
(1)被相続人が遺言を遺していたが、「全ての財産を長男に相続させる」といった偏りのある内容だったというケース
歴史ある旧家などではよく聞く話です。
しかし、特定の相続人には「遺留分」という、遺言によっても侵せない権利が認められています。
そのため、長男VSその他兄弟、といった構図の「争族」がよく起こるのです。
(2)トラブルに遭わないために!トラブル予防策
一人の相続人に財産を集中させたいという場合でも、代償金を支払う旨定めておくなど、遺言を作成する時点で、遺留分に配慮した内容としておくといいでしょう。
遺留分がどの程度になるか、どういった規定で遺留分についてもケア出来るかは、専門家でなければ判断が難しいと思います。
そのため、遺言作成には弁護士を関与させた方がベターです。
(3)トラブルに遭ってしまった場合の解決法
遺言によって取り分がほとんど無いなど、遺留分が侵害されているケースでは、内容証明郵便等によって、遺留分減殺の意思表示を行う必要があります。
なお、これには遺留分侵害を知ってから1年間の期間制限があるので注意しましょう。
他方、遺留分減殺請求を受けた側においては、いかにして遺留分侵害額を減らすかがカギになります。
というのも、遺留分の割合は法律で決まっているものの、金額に換算してどの程度の侵害となるかは、財産の評価方法や、引継いだマイナスの財産(負債)の額によっても変わるからです。
引継いだ遺産をなるべく確保しつつ、遺留分減殺請求に対応しなければなりません。
いずれの場合にせよ、解決には専門的な判断が必要になる場面が多いので、弁護士に依頼した方がベターです。
4.典型トラブル④ 思わぬ相続人が出現
(1)離婚・再婚を繰り返した夫が死亡し、疎遠だった前妻の子が相続人として現れるケース
子どものいない夫婦で夫が死亡し、ほとんど縁がない、夫の兄弟の子(甥や姪)が相続人として現れます。
このような思わぬ相続人の出現も、相続ではよく発生します。
相続人間の人間関係がしっかりあれば、当事者間での遺産分割協議は纏まりやすいと言えるが、このような疎遠な相続人との間では、意思疎通が難しく、問題が複雑化・長期化しやすいと言われています。
(2)トラブル予防策!
この種の問題回避のため、遺言を予め作っておきましょう。
離婚・再婚を繰り返したケースでも、「何を」「どのように」分割するかが予め決まっていれば、遺産分割協議が長期化するような事態を避けられます。
兄弟と姉妹に関しては遺留分が存在しません。
ですので、子供がいない場合「全ての財産を妻に(夫に)」という形で遺言を遺しておけば、全ての財産をきちんと配偶者に遺すことが出来ます。
(3)トラブルに遭ってしまった場合の解決法
典型トラブル①と同様、弁護士に依頼し、代理人として動いて貰うという方法がまず考えられます。
また、弁護士が交渉してもまとまらないような場合は、家庭裁判所に調停を申立てざるを得ません。
調停でもまとまらなければ、審判という方法で裁判所に判断してもらうことも可能です。
5.典型トラブル⑤ 税金が払えない!
(1)遺産に不動産はたくさんあるものの、現金や預貯金がほとんど無いようなケース
①のトラブルとも関連するが、現金やが預貯金がほとんどないケースだと、相続税の支払いもままならないという事態が散見されます。
また、預貯金があっても、金融機関は、遺産分割協議が調うまで遺産である口座を凍結してしまう、という運用をする場合が多いため、相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまらず、相続税の支払原資が確保できないということもあります。
このように、相続では、税金面で頭を悩ませることも多いです。
(2)トラブル予防策!
被相続人は、きちんと相続人が相続税を支払えるように、相続税の原資となる現金や預貯金を遺しておくべきです。
また、遺言は相続税対策という点でも重要です。
相続税の支払原資や支払者について言及しておくことも出来るし、何より、相続税申告期限までに遺産分割協議が調わず、小規模宅地の特例等、税額軽減のための各種特例が使えなくなるという事態を回避することが出来る。
その他、生前贈与を活用したり、現預金を不動産化して遺産の評価を下げ、節税につとめるといった方法もあります。
相続人が税金で頭を抱えることがないようにしておくのも、財産を遺す者のマナーではないでしょうか。
(3)トラブルに遭ってしまった場合の解決法
相続税については、小規模宅地の特例や、配偶者控除など、税額を軽減するための各種制度が存在します。
他には、不動産の価値を下げる等して節税も可能です。
申告に際しては、相続に強い税理士に相談したほうが良いでしょう。
また、相続税支払い原資の確保のため、預貯金の口座凍結を速やかに解除する必要が生じる場合があります。
この場合は、その他の財産はひとまず措き、預貯金についてだけ相続人間で合意するのも一つの手です。
まとめ
相続の典型トラブルについてはご理解頂けたでしょうか。
いずれにせよ、相続が「争族」にならないためには、事前の予防策が肝要です。
弊社記事をご参考に、争族を未然に防いでいただきたいです。