むちうちの基本的な知識-症状・治療法と損害賠償請求について

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交通事故に遭って首に痛みが出ると、すぐに「むちうち」と思う方が多いです。

実際、交通事故による負傷の中でも特に多い類型の一つといえます。

しかし、「むちうち」というのは医学的な傷病名ではありません。

頸椎捻挫など、いくつかの傷病をまとめて「むちうち」と呼んでおり、それぞれ症状も治療法も異なります。

そこで今回は、「むちうち」についての基本的知識を紹介したうえで、損害賠償請求をするにあたっての注意点を解説したいと思います。

1.むちうちの種類

(1)伝統的な分類

むちうちは、伝統的には次のように分類されてきました。

①頸椎捻挫

頚部の筋繊維、靭帯などが損傷する場合をいいます。
首や肩の痛み、首の運動制限や首を動かした際の痛みなどが主な症状です。

むちうちの中で最も多い症状とされています。

②根症状型

交通事故などの外傷により頸椎の並びに歪みが生じ、神経根(脊髄から出る神経の根元部分)が引き延ばされたり、圧迫されたりして生じる症状をいいます。

頸椎捻挫の症状に加え、手のしびれ(神経症状)や筋力の低下などを生じます。
神経症状は、後遺症の対象になる場合があります。

③バレー・リュー症状型

1925年にフランスの神経学者バレー、1928年にバレーの門下生リューが発表した症例をいいます。

頚部を通っている交感神経の過度の刺激により生じるとされており、頭痛、めまい、視力低下、耳鳴り、聴力低下、吐き気など様々な症状が現れます。

④根症状、バレー・リュー症状混合型

根症状型の症状にくわえてバレー・リュー症状型の症状を発症している場合をいいます。

⑤脊髄症状型

脊髄に損傷を受けた場合をいいます。
かつてはむちうちの一つとして分類されてきましたが、近年ではむちうちの範囲とは考えられていません。

(2)近年の問題

伝統的な分類に加え、近年、活発に議論が行われているのが、低髄液圧症候群(脳髄液減少症)です。

脳は、外部からの衝撃を受けないよう脳脊髄液という液体に浮かんでおり、脳や脳髄液を硬膜が取り囲んでいます。

この硬膜が何らかの理由で損傷して穴が開くと、そこから脳髄液が漏れてしまい、脳全体が下方に下がってしまいます。
これによって、頭痛、めまい、耳鳴り、倦怠感、睡眠障害などさまざまな症状が現れます。

2.むちうちの治療法

次に、むちうちの治療法について、紹介します。
基本的には、レントゲンやMRIその他検査や患者の愁訴から1で紹介した症状を特定し、症状に応じた治療を行うことになります。

(1)頸椎捻挫

多くの場合、レントゲンやMRIなどの画像上は異常が認められません。
整形外科で、理学療法によるリハビリ(電気療法、牽引)などを行うことが多いでしょう。

(2)根症状型

根症状型もレントゲン等ではなかなか確認することができません。

画像所見とあわせてジャクソンテストやスパークリングテストといった神経学的検査を行い、神経根に障害があるかを判断しています。

画像所見で頸椎や椎間板に異常が認められる場合には、手術が必要になることもあります。

(3)バレー・リュー症状型

1で紹介したとおり、交感神経の過度の刺激により生じると考えられていますが、レントゲンやMRIの画像では判断できません。
患者の愁訴などからバレー・リュー症状型に該当するかを判断することになります。

頸椎捻挫の場合と同様のリハビリを行うほか、交感神経節ブロックと呼ばれる治療を行うことがあります。

これは、交感神経節に局所麻酔を注射することで、交感神経の過度の働きをおさえ、痛みをやわらげるという治療法です。

(4)低髄液圧症候群(脳髄液減少症)

髄液の減少や漏出は、MRIなどの画像により確認することができます。

軽微な場合、安静と十分な水分補給で改善することもありますが、症状が重い場合にはブラッドパッチ療法(自家血硬膜外注入療法)と呼ばれる治療を行うこともあります。

これは、患者自身の血液を採取して硬膜と背骨の間の脂肪組織に注射し、髄液が漏れている部分をふさぐという治療法です。

3.むちうちについての損害賠償請求

(1)賠償を請求できる「損害」とは?

交通事故で負傷した場合、治療費や通院交通費などの実費(積極損害)や、入院・通院で仕事を休んで収入が減少した休業損害などのほか、精神的苦痛に対して治療期間に応じた慰謝料を請求することができます。

また、一定期間治療を行い、それ以上治療を続けても症状が改善しないと医師により判断されることがあります。
これを症状固定といいます。

完治したから治療を終えるという意味ではなく、治療を続けても治らないから治療を打ち切るということで、痛みや運動制限などが残る場合には、後遺症の問題として考えることになります。

後遺症認定された場合には、後遺症の等級に応じた慰謝料や逸失利益(後遺症によって労働能力が減少する(一部喪失する)ことで生じる損害)の請求をすることが可能です。

(2)傷害慰謝料(入通院慰謝料)

交通事故により障害を負ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料は、基本的に入院・通院の期間によって決まります。

このことは、むちうちであっても他の傷害でも変わりません。
ただし、高く症状のないむちうちの場合、他の障害と比べて低い基準で計算されることがあります。

(3)後遺症に基づく損害

むちうちでも、症状によっては後遺症認定されることがあります。

むちうちが該当する可能性のある後遺症は、主に次のいずれかです。

  • 12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
  • 14級9号 局部に神経症状を残すもの

自賠責の基準では、

12級

  • 後遺障害補償上限  224万円
  • 後遺傷害慰謝料    93万円

14級

  • 後遺障害補償上限額  75万円
  • 後遺障害慰謝料    32万円

※後遺障害補償=逸失利益+慰謝料

と定められており、大きな差があります。

任意保険の基準や裁判所の基準では、さらにその差が大きくなります。

(4)後遺症認定してもらうには?

それでは、後遺症の12級と14級の違いはどこにあるのでしょうか。

一般的には、

  • 12級 他覚的所見により、医学的に証明できるもの
  • 14級 医学的に証明することまではできないが、自覚症状が単なる故意の誇張ではないと医学的に推定できるもの

と言われています。

つまり、MRIやレントゲンの画像所見などにより、後遺症の存在を明らかにすることができる場合には、12級に該当するとされます。

また、画像所見からは明らかでないものの、自覚症状が神経学的検査などから医学的に説明が可能な場合には、14級に該当することになります。

これに対して、自覚症状があるだけで医学的に説明が困難である場合には、14級にも該当せず、後遺症が認められないということになります。

12級と14級の違いは、画像所見の有無という要素が大きく、比較的分かりやすいといえますが、14級と後遺症に該当しない場合の違いは、必ずしも明確ではありません。

次のような事情を総合的に評価していると考えられます。

①事故態様(発生状況)

被害者が遭った事故が、後遺症を発症するほどのものであったかどうかという視点です。

軽微な事故(例えば、停車中、後方から走行してきた車が減速したものの停止しきれずにごく低速度で追突した場合など)の場合には、被害者の受ける衝撃も軽微なはずであり、症状もそれほど重くないはずだと考えられてしまう可能性があります。

②通院の頻度、継続性

事故に遭ってから症状固定までの間、どの程度の頻度で通院したか、通院を継続したかという視点です。
通院の頻度が少ないと、後遺症が認められなくなってしまう可能性があります。

「痛みはあるけど仕事が忙しいのでなかなか病院に行けない」という方もいらっしゃるでしょうが、できる限り時間を作って通院しておく方がいいでしょう。

③症状の一貫性、連続性

事故に遭ってから症状固定までの間、症状が一貫、連続しているかという視点です。

当初の診断にはなかった傷病が治療期間中に現れたり、いったん消えた痛みが後に再度現れたりしたような場合には、事故によって発症したものとはいえないと判断されるおそれがあります。

④症状の重篤性、常時性

後遺症と呼べる程度に重篤なものであるか、常に症状があるかという視点です。
例えば雨の日や寒い日だけ痛みが出るような場合には、後遺症と認められない可能性があります。

ですから、医師の診察に対しては、「雨が降ると痛い」と言うのではなく、「雨が降ると、ふだんより痛みが強くなる」というように、常時痛みがあることをきちんと説明しなければなりません。

むちうちに関するまとめ

むちうちについての基本的な知識を紹介しましたが、いかがだったでしょうか。

本文で触れたとおり、後遺症が認められるか、認められたとしてどの等級に該当するかによって、賠償を請求できる額が大きく変わります。

症状固定とは完治を意味するものではありませんので、痛みなどが残る場合には自費で通院しなければならず、被害者にとっては大きな負担となることもあります。

本稿を参考にしていただき、可能な限り後遺症認定してもらう努力をするようにしてください。

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