離婚は決して珍しい出来事ではありません。
また、離婚はしなくても、離婚を考えている、あるいは離婚しそうな「離婚夫婦予備軍」は、その数倍いるのではないかと思います。
その中には、夫婦げんかの勢いで「離婚届」を書いてしまい、後で冷静になって「やっぱり離婚は止めておこう」と思っていても、相手にいつ「離婚届」を勝手に出されるか、不安でいっぱいの方もいらっしゃいますよね。
ですので、先に手を打っておきましょう。
それが「離婚不受理申出」です。
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1.離婚手続きとは?
(1)離婚届を提出すれば離婚が成立する
日本は世界の国の中でも、もっとも離婚の手続きが簡単な国の一つと言われています。
「離婚届」を役所でもらってきて、所定の欄に、「夫と妻の住所・氏名、押印」、「届出人の氏名、押印」、「親権者の氏名(未成年の子どもがいる場合)」、「証人2名の住所・氏名、押印」等が記載し、役所に提出するだけで手続きが完了します。
記載された事項に不備がなければ、役所が正式に受理をしてくれます。
(2)形式的な「要件」が揃ってしまえば離婚届は受理せざるを得ない
つまり、「夫婦の住所・氏名」を本当に当事者が記載したのか、あるいは押された印鑑が本人のものなのかは、問題ではないのです。
役所としては、所定の欄にきちんと記載されていて、記入もれがないかを問題にするだけなのです。
言い方を換えれば、「離婚届」を記載する際に必要な「要件」がそろっていれば、役所は受理せざるを得ないのです。
世界に目を転じれば、離婚そのものを認めない国があったり、裁判所が離婚を認めない限り成立しなかったりと様々ですが、いずれにしても日本の離婚手続きは、世界の国の中でも珍しい程、簡単だということになります。
2.離婚の不受理とは?
(1)勝手に婚姻届が作られても離婚が成立してしまう?
「離婚届」だけで簡単に離婚できる国ですから、裏を返せば、夫婦ではない全くの第三者が勝手に「離婚届」を書いて、役所に提出する事例もないわけではありません。
そうなったら、配偶者に関係なく役所は離婚届を受理してしまいます。
ですので、配偶者が知らない間に離婚が受理されてしまうということがあります。
ですが、これは犯罪です。
「電磁的公正証書原本不実記録罪」が適用されます。
また、どんな理由があろうとも、結果として「離婚届」を偽造したことになります。
ですので、「署名・捺印」を偽造した犯罪の「有印私文書偽造罪及び偽造有印私文書行使罪」も加わります。
もちろん、「刑事罰」を受けることになります。
但し、基本的に法律上離婚が無効な場合でも、一度役所が受理してしまった場合は、早急に役所が訂正をしてくれるわけではありません。
基本的に戸籍の訂正を行う場合、裁判所の調停で審判を受けたり、裁判所で訴訟を起こして判決を得ます。
その後、「審判書」や「判決書」を、役所に届けることが必要です。
(2)過去に勢いで作った離婚届が出されても離婚が成立してしまう?
上記の例は、勝手に第三者が「離婚届」を偽造を行い役所に提出をした場合でしたが、それでは夫婦の間で、過去に書いた「離婚届」を配偶者が勝手に役所に提出をしたらどうでしょうか。
例えば、数年前に大きな夫婦げんかをして、その勢いで「離婚届」に夫婦が「署名・捺印」をしたけれども、提出することなく、そのままになっていたとします。
その「離婚届」は妻が破棄することなく今でも保存している状態が続いていたとしたら、夫としてはいつ妻が勝手に提出するかを考えると、気が気ではありません。
「またけんかをしたら、我慢できずに勝手に『離婚届』を出すんじゃないか」とか、「定年退職した直後に勝手に出して、慰謝料として『退職金』の半分を請求されるんじゃないか」等、心配は尽きません。
そうかと言って、妻に「離婚届」の破棄をお願いするのは、なかなか言い出しにくく、悶々とした日々を過ごすことになるかもしれません。
ここで夫が悩んでいるのは、数年前に自分の意思で「離婚届」に署名し、印鑑を押してしまったという行為です。
もちろん、現在は離婚の意思がなくても、自ら署名・捺印したのは事実ですし、そうなれば偽造でもありません。
もし、妻が勝手に役所に提出した場合、記載事項の不備や記入もれがない以上、役所としては受理せざる得なくなり、離婚は成立してしまいます。
(3)そのような場合の解決策が「離婚不受理申出」
そのような夫が取る方法として、「離婚不受理申出」というものがあります。
「離婚不受理申出」とは、役所に対して「『離婚届』が提出されても受理をしないでください」と申請することです。
3.具体的な離婚届不受理申出の方法は?
(1)具体的な離婚届不受理申出の方法は?
基本的に、提出に関しては「届出人の本籍がある市区町村役場」です。
ですが、「本籍地以外の市区町村役場」に届出をすることも可能です。
どちらの役所から提出しても、本籍地のある役所へ送付されることになっています。
但し、相手がすぐにでも「離婚届」を提出してしまいそうだという切迫した場合には、本籍地のある役所に提出する方が安心であり、安全なのはもちろんです。
なぜなら、本籍地以外の役所に提出すると、そこから本籍地の役所に郵送するといった手続きがあり、どうしても時間差が生じてしまうからです。
(2)離婚届不受理申出書の書き方は?
この「申出書」は、全国どこの役所の戸籍係でも入手できます。
形式は全国共通です。
また、「申出書」の入手・提出には、一切費用がかかりません。
http://www3.city.sapporo.jp/download/shinsei/procedure/00338_pdf/presen_00338_004.pdf
具体的な書き方については、下記画像をご参照下さい。
埼玉県春日部市が公開しているものとなります。
https://www.city.kasukabe.lg.jp/shimin/kurashi-k/koseki/documents/fujyuri.pdf
「離婚不受理申出書」には、届出人の「住所・氏名・生年月日・本籍・戸籍筆頭者の氏名」の記載と、申出人の「署名・捺印・連絡先(電話番号)」が必要です。
また、特定の人(ほとんどの場合配偶者)を指定する場合(この人からの「離婚届」は受理しないでくださいという場合)と、特定の人を指定しない場合の、2つのケースがあります。
特定の人を指定する場合には、その人の「住所・氏名・生年月日・本籍・戸籍筆頭者の氏名」も記載しなければなりません。
上記の手続きを行うと、配偶者が婚姻届を提出しても、役所が受理することはありません。
配偶者だけではなく、複数人指定することが可能です。
また、人物の指定をしない場合、不受理申出書に「不特定」と記入しましょう。
そうすると、他者が婚姻届を提出しても受理されません。
(3)提出の際に必要なものは?
ただ提出の際には、以下のものが必要となります。
①本人確認書類
本人確認書類とは、例えば以下の通りです。
- 自動車運転免許証
- 旅券(パスポート)
- 写真付き住民基本台帳カード
- 在留カード又は特別永住者証明書(外国人登録証明書)
- 療育手帳
- 身体障害者手帳
- 官公署が発行した免許証・許可証・資格証明書
- マイナンバーカード
等で、本人の写真が貼付されたものになります。
②印鑑
認印でも可能です。
4.不受理申出の取り下げとは?
(1)離婚不受理申出の有効期間は?
この「離婚不受理申出」の有効期間は、以前は最長6ヶ月でした。
つまり、4月1日に提出した場合、9月30日まで有効で、その期間に提出された離婚届は受理されません。
一方で、仮に「離婚届」を持っている配偶者が翌日の10月1日に提出すると、そのまま「離婚届」が受理されてしまうという状況でした。
そのような事態を避けるために、「離婚不受理申出」を提出した人は、再び有効になるように再提出するという、煩雑な手続きをしなければなりませんでした。
法改正により「平成20年5月1日」以降の申し出は、この有効期間が撤廃されました。
つまり、申出人が取り下げるまでは、無期限に有効ということになったのです。
(2)不受理申出の取り下げをすると離婚届が受理されるようになる!
「離婚不受理申出書」を提出した後で、夫と妻で話し合いを行い、両者離婚に合意したら、「不受理申出」を提出した本人が離婚届を提出することで、離婚届は受理されます。
「不受理申出」は、「相手を決めた不受理申出の場合、効力も同時になくなります」。
また、「相手を決めていない不受理申出の場合、再婚後も効力は継続します」。
従って、必要がなくなった「不受理申出」は、すみやかに取り下げる必要があります。
5.もし不受理申出が間に合わなかったら…
(1)もし、不受理申出が間に合わなかったら?
離婚が成立するためには、夫婦に離婚の意思があることが大前提です。
仮に、両者が離婚について合意し、「離婚届」に署名・捺印をしたとしても、「離婚届」を戸籍係に提出する前に、一方でも離婚をする気がなくなった場合、離婚を撤回することが可能です。
つまり、仮に「離婚届」が残っていても、一方が相手方を無視して、勝手に「離婚届」を提出することはできません。
しかし、「離婚不受理申出」の件を知らなかった、あるいは「離婚不受理申出」を提出しようとしていたけれど、その前に相手が勝手に「離婚届」を提出してしまったら、役所で受理され、正式に離婚となってしまいます。
こうなると、前述したように、戸籍に「離婚」と記載されてしまい、たとえ提出した本人が「間違って提出してしまいました」と申し出ても、修正することができません。
もちろん、偽造したわけではありませんから、先程述べたような「電磁的公正証書原本不実記録罪」や「有印私文書偽造罪及び偽造有印私文書行使罪」等の刑事罰を受けることはありませんが、いずれにしてもすぐに戸籍を修正することはできませんし、修正するにはいくつもの手順を踏まなければなりません。
(2)離婚届が受理されてしまった場合の具体的な手続き
①まずは離婚無効の調停を
まず修正するためには、家庭裁判所に「離婚無効」の調停を申立てる必要があります。
この場合、離婚の意思がなかったということを家庭裁判所に対して、証明しなければなりません。
調停が開かれ、その場で「離婚届」を提出した配偶者が自分の非を認め、夫婦が離婚の無効に合意をすれば、「離婚が無効であるという審判」が下されます。
もし、相手が非を認めないで、審判に対する異議申立てを行えば、審判そのものが無効となり、調停は不成立となります。
②その次に離婚無効の確認を求める訴訟を
その後は、地方裁判所に「離婚無効の確認」を求める訴訟を起こさなければなりません。
裁判で離婚無効の「審判・判決」が確定後、「審判」か「判決」の謄本を、本籍の役所に「戸籍の記載の訂正」を申請します。
その後、正式に戸籍に記載された「離婚」が抹消されます。
まとめ
今回は離婚不受理申出についてご説明いたしました。
たとえ一時的な感情で「離婚届」を書いてしまったとしても、それが後日自分の意図しない形で提出された場合には、正式な離婚となってしまいます。
誤った「離婚」を修正するためには、想像以上の煩雑な手続きが待っていることを覚悟しなければなりません。
できることなら、離婚の意思がなくなった時点で「離婚届」を破棄する等の方法で、不安の芽を摘んでおくことが大切です。