交通事故の「消極損害」とは何か?認められる費用相場と内訳を解説

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交通事故被害に遭ったら相手に損害賠償請求をしなければなりませんが、このときどのような支払いを受けられるのかが問題です。

事故の損害には積極損害と消極損害、精神的損害の3種類がありますが中でも消極損害は計算方法もわかりにくく、油断していると十分な支払いを受けられないことがある重要なものです。

そこで今回は、消極損害の費目と相場、請求する際の注意点や方法について解説します。

1.消極損害とは


消極損害とは、交通事故の被害者が相手に請求できる損害のうちでも「事故によって得られなくなった(失われた)利益」のことです。

交通事故に遭うと、それまでのようには働けなくなるので仕事を休まないといけないこともありますし、後遺障害が残ったら以前のように効率的には働けなくなるので、収入が減ってしまうことがあります。

死亡した事案では、収入が0になるため本来得られた収入は完全に得られなくなります。
そこで、こうした減収分を相手に支払ってもらう必要があり、これが消極損害です。

積極損害が治療費などの具体的に支払いが必要になった損害であるのに対し、消極損害は実際には支払いはしないけれども「失われた利益」だと考えるとわかりやすいです。

2.消極損害の費目と相場


それでは、消極損害にはどのような費目があり、相場はどのくらいになるのでしょうか?

(1)休業損害

まず、「休業損害」があります。
これは、交通事故によって仕事を休んだために得られなくなってしまった収入のことです。

休業損害が認められるのは、交通事故前に実際に働いて収入があった人です。
たとえば会社員や自営業者などの場合に休業損害が認められます。

ただ、専業主婦や兼業主婦、男性が家事をしている場合の主夫などの家事労働者のケースでも休業損害が認められます。

家事は、家政婦を雇ったらお金がかかることからもわかりますが、経済的な対価を持つ労働と考えられているためです。

また、学生でもアルバイトをしていたら、休業損害を認めてもらうことができます。

これに対し、不動産収入で生活している人などの不労所得者には休業損害は認められませんし、無職無収入の人や年金生活者の場合にも休業損害は認められません。

休業損害の計算方法は、以下の通りです。

事故前の基礎収入は、事故前の実際の収入を基準にします。
サラリーマンなら3ヶ月分程度の平均額を採用することが多いですし、自営業者であれば前年度の確定申告書の収入を基準にします。

専業主婦などの場合には、「全年齢の女子の平均賃金」を使って計算します。
金額的にはだいたい1日1万円程度です。

自賠責基準を使う場合には、事故前の基礎収入は一律で1日あたり5500円になってしまうため、請求できる休業損害の金額が大きく下げられてしまいます。

(2)後遺障害逸失利益

交通事故の消極損害の重要なものとして、後遺障害逸失利益があります。
これは、事故によって後遺障害が残ったことにより、それまでのようには働けなくなるため収入が減ったことに対応する損害です。

後遺障害逸失利益が認められるのも、事故前に実際に働いていた人です。
ただ、休業損害と同じように主婦や学生にも逸失利益が認められます。

また、後遺障害逸失利益は、休業損害とは異なり子どもや幼児にも認められます。
後遺障害には重い方から1級~14級までの等級があり、それぞれの等級によって程度が全く異なるので、逸失利益の金額も一律ではありません。

各等級に応じて「労働能力喪失率」が定められているため、それに従って金額を計算します。
後遺障害逸失利益の計算式は、以下の通りです。

ライプニッツ係数というのは、将来にわたって受けとるはずの収入を前もって一括で受けとるため、もらいすぎになる将来の利息を調整するための特殊な係数です。

後遺障害逸失利益は、就労可能年齢である67歳までの分が認められるのですが、本来であれば、その年まで順番に支払いを受けられるべきものです。

ところが、先に一括してもらったら本来受けとることのできない運用利益が発生してしまいます。
そこで、その中間の利息を控除するのが、ライプニッツ係数の役割です。

後遺障害逸失利益の金額は、事故前の収入が高かった人ほど高額になりますし、事故時に若かった人ほど高額になります。
ケースによっては1億円を超えることもあり、非常に高額になりやすい損害の費目です。

(3)死亡逸失利益

死亡逸失利益とは、被害者が死亡したことによって失われた収入のことです。
交通事故で死亡すると当然収入を得られなくなるので、就労可能年齢(67歳)までの収入の支払いを受けることができます。

死亡逸失利益の支払いを受けられるのは、後遺障害逸失利益の支払いを受けられる人と同じですが、それに足して年金生活者にも一部死亡逸失利益が認められます。

計算式は、以下のとおりです。

被害者が死亡すると生活費がかからなくなるため、生活費控除率を引かなければなりません。

生活費控除率は被害者の属性によって異なり、具体的には以下の通りです。

  • 一家の支柱の場合、30%~40%(被扶養者が1名なら40%、2人以上なら30%)
  • 女性の場合、30%
  • 独身男性の場合、50%

3.消極損害を請求する際の注意点


消極損害を相手に請求するとき、どういったことに注意すれば良いのでしょうか?
以下で、重要なポイントをご説明します。

(1)弁護士基準を使って計算する

消極損害を相手に請求するとき、損害の計算方法に特に注意が必要です。
交通事故の賠償金の計算方法には、弁護士基準任意保険基準自賠責基準の3種類があります。

弁護士基準は、裁判基準とも呼ばれますが裁判所が採用している基準で3つの中で最も高額になります。
過去の判例の積み重ねによって確立された基準ですから、適切な計算方法と言えます。

これに対し、任意保険基準は任意保険会社が独自に定めている基準ですし、自賠責基準は自賠責保険を計算するときの基準であり、いずれも被害者が相手に請求をするときに採用すべき適切な基準とは言えません。

金額的にも、弁護士基準より大きく下がってしまうことが多いです。

たとえば、主婦が休業損害を請求するとき弁護士基準であれば、上記で説明をしたように1日1万円程度の「全年齢の女性の平均賃金」を基礎収入として計算してもらうことができます。

これに対し、自賠責基準では1日あたりの基礎収入は5500円です。
そこで、主婦の休業損害は半額近くにされてしまうことになります。

被害者が自分で示談交渉をしていると相手は当然のように自賠責基準や任意保険基準で計算をしてくるので、それを鵜呑みにしないことが大切です。

(2)相手の言葉に騙されない

相手に消極損害を請求するとき、「そのような損害は認められない」という相手の言い分を鵜呑みにしないことも大切です。

たとえば、植物状態になって後遺障害逸失利益が発生する場合、相手は「植物状態の人は寿命が短いので、就労可能年数を67歳より短くすべきだ」などと酷いことを言ってくることがあります。

また、「実際に減収が発生していないので、逸失利益を支払えない」という相手の言葉にも要注意です。

実際に減収がなくても、それが被害者の特別の努力によるものであり、将来不利益を受ける可能性が高い場合などでは逸失利益を認めてもらうことができます。

消極損害を確実に請求したいのであれば、相手の言い分を鵜呑みにするのではなく、必ずしっかり吟味することが必要です。

自分一人では正しい考え方がわからない場合には、弁護士に相談して助力を求めましょう。

4.消極損害を請求する方法


消極損害を相手に請求するためには、まずは相手と示談交渉をして話合いでの解決を目指します。
示談で合意ができたら、その内容に従い相手から損害賠償金の支払いをしてもらえます。

どうしても合意ができない場合には、調停やADRを利用できますし訴訟によって終局的に解決することも可能です。

まとめ

これらの手続きをするときにも、弁護士に対応を依頼していると確実で安心です。

交通事故の被害に遭って損害の計算方法や対応に困っているなら、まずは一度弁護士に相談をすることをお勧めします。

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