離婚をすると苗字(法律上は「氏」といいます)はどうすればいいのか、子どもの苗字はどうなるのかといったことは女性にとって大きな問題になります。
そこで今回は、離婚後の氏や子どもの氏についてご紹介したいと思います。
※この記事は2017年10月26日に加筆・修正しました。
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目次
1.婚姻時の氏
(1)婚姻時は夫婦のどちらかの氏を選択する
夫婦は婚姻の際に、夫または妻のどちらかの氏を名乗ることを決めなければなりません。
法律上はどちらの氏を名乗っても構わないことになっているのですが、統計上は96%以上の夫婦が夫の氏を選んでいます。
そのため、離婚後の氏の問題は主に女性に生じると言っていいでしょう。
また、未成年の子どもがいる夫婦が離婚する場合、一般的には母親が親権者となることが多いので、子どもの苗字をどうするかという問題も主に女性が直面するものといえるでしょう。
そこで、以下では女性が婚姻により夫の氏を名乗るようになったが、その後離婚し未成年の子どもを引き取るという具体例をもとに離婚後の氏や子どもの氏についてご説明したいと思います。
2.離婚後の氏はどうなるの?
(1)離婚時には元の氏に戻るのが原則
婚姻の際、夫の氏を選択した場合、夫は離婚してもそのままの氏を名乗り続けることになります。
これに対し婚姻により夫の氏を名乗るようになった妻は、離婚により当然に婚姻前の氏(いわゆる旧姓)に戻ることとされています(「復氏」といいます)。
婚姻の際は自由に氏を選べるのですが、離婚の際は元の氏に戻るのが原則なのです。
(2)届出をすれば婚姻時の氏の使用を続けられる
ただし、離婚の日から3か月以内に「離婚の際に称していた氏を称する旨の届」を提出すれば、離婚後も引き続き婚姻中の氏(つまり夫の氏)を名乗ることができます(「婚氏続称」といいます)。
この届出は離婚届と同時に提出することもできます。
また、夫の承認を得る必要もなく単独で提出することが可能です。
提出期限が3ヶ月と比較的短いので、離婚する前に婚姻時の氏の使用を続けるかをよく考えておく必要があるでしょう。
(3)3ヶ月がすぎてしまったら婚姻中の氏の使用は認められない?
「離婚の際に称していた氏を称する旨の届」の提出期限を過ぎてしまった場合には、絶対に婚姻中の氏を使用することができなくなるわけではありません。
家庭裁判所に「氏の変更許可」の申立てをし家庭裁判所がこれを認めてくれた場合には、氏を変更することができます。
もっとも、家庭裁判所が氏の変更を許可するのは、やむをえない事情(氏の変更をしないと社会生活上著しい支障をきたす場合)が必要とされています。
したがって、申立てをしても裁判所の許可が得られない可能性もあります。
これに対し「離婚の際に称していた氏を称する旨の届」を期限内に提出した場合には、やむを得ない事情は必要とされていませんし家庭裁判所への申立てと比べると手間も時間も少なくてすみます。
基本的には離婚前に氏をどうするかをよく考え、期限内に「離婚の際に称していた氏を称する旨の届」を提出する方がいいでしょう。
3.離婚後の子どもの氏はどうなるのか?
子どもの氏は、親の離婚によって直ちに影響を受けることはなく、何もしなければ従前のままの氏を名乗ることになります。
これは、母が親権者となり、かつ母が婚姻前の旧姓に戻った場合でも同様です。
また、子どもの戸籍についても自動的に親権者の戸籍に移るわけではなく、何もしなければ従前の戸籍に残ります。
離婚により母が親権者となり、かつ旧姓に戻った場合、子どもを自分の戸籍に入れたいと考えるでしょうが氏が違う子どもを戸籍に入れることはできません。
このような場合には、まず家庭裁判所で子の氏の変更許可の申立てをし子の許可を受けて子どもの入籍届を提出する必要があります。
4.「復氏」と「婚氏続称」のどちらにした方がいい?
(1)どちらがいいかはケースバイケース
離婚後に旧姓に戻るか、それとも婚姻中の氏の使用を続けるかについては双方にメリット、デメリットがありますから、どちらが有利とは一概には言えません。
それぞれの状況に応じて個別にどちらを選ぶかを考える必要があります。
(2)復氏のメリット、デメリット
復氏のメリットとしては、元夫との関係が断ち切れたことについての元妻の精神的な安堵、関係が切れたことが周囲にも明らかになることが挙げられます。
他方、デメリットとしては、周囲に離婚などプライバシーにかかわることを知られてしまうこと預金口座、クレジットカード、運転免許証など各種の変更手続きが必要になり、手間がかかることなどが挙げられます。
また、婚姻期間中に仕事などで業績をあげ、評価・信用を得ていた場合、苗字が変わることで同一人物であるという個人の特定が難しくなり、それまで積み上げてきた評価・信用が正当に反映されないおそれもあります。
子どもがいる場合には、先に説明したように子どもと苗字が違うことになり、同じ苗字にするのに家庭裁判所の許可が必要になるなどの手間がかかりますし、子どもが学齢期の場合、苗字が変わることを嫌がる可能性もあります。
(3)婚氏続称のメリット、デメリット
婚氏続称のメリット、デメリットは復氏のメリット、デメリットと表裏の関係といえます。
つまり、メリットとしては周囲に離婚したことを知られにくい、預金口座などの変更手続をとる必要がない、婚姻中に得た評価・信用をそのまま維持できること子どもの苗字が変わらないので、学校生活上で親が離婚した事実を知られずに済み、子どもの精神的安定を得られることなどが挙げられます。
他方、デメリットとしては、離婚をしたのに元夫との関係が完全に断ち切れていないような感覚が残ることが挙げられます。
また、婚氏の続称の場合、その後の再婚・離婚にあたって注意が必要です。
というのも、離婚後に再婚したが再度離婚することになった場合、再婚時の氏を称するか再婚前の氏(前の婚姻中の氏)に戻るかの選択しかできないのです。
具体的に言うと、Aという氏の人が結婚によりBという氏に変わり、離婚後も婚姻時のBという氏の使用を続け、Cという氏の方と再婚して氏がCに変わったが、離婚することになった場合、Cという氏を使い続けるか再婚前のBという氏に戻るしかなく、最初の結婚前のAという氏に戻ることはできないのです。
将来的に再婚の可能性もある場合には、婚氏の続称をするかは特に慎重に考える必要があります。
(4)具体例
以上のような復氏、婚氏続称のメリット、デメリットからは例えば婚姻期間がまだ短く、子どもがいない、または子どもがまた乳幼児であるような場合には、子どもの苗字はあまり深刻な問題にはならないので、復氏により元夫との関係を断ち切り、心機一転新しい人生を歩んでいくことが考えられます。
他方で、子どもがある程度の年齢に達しており、子どもへの影響を少なくしたい場合や婚姻中の実績により婚姻中の氏名で評価・信用を得ていたような場合には婚氏の使用を続けるという選択肢もあり得るでしょう。
まとめ
以上のように、離婚後に旧姓に戻るか、婚姻時の氏の使用を続けるかは、それぞれメリット、デメリットがあり、一概にどちらがいいとは言い切れません。
離婚前から離婚後の氏について十分に検討し、できれば離婚後の氏について結論が出た後で離婚届を提出するようにするといいでしょう。