ひき逃げ事故の被害者が泣き寝入りしないために知っておきたい国の保障

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連日のように報道される交通事故のニュース。

中でも痛ましい事故が多いのがひき逃げです。

加害者は逮捕されたけれど「加害者が任意保険に入っていなかった」「ひき逃げ犯人が無免許・無保険だった」などという事実が報道されることもあります。

そんな時「被害者はきちんと救済されるのだろうか…」「もし自分が被害者だったら…」などと、不安を覚えた方もいるのではないでしょうか。

交通事故にあった場合、事故の補償、後遺障害の損害賠償、慰謝料等々、発生した損害とお金の補償の問題は切っても切れない関係にあります。

まして、交通事故を起こした相手がその場から走り去ったひき逃げ事故の場合はなおさらですしょう。

しかし、現状では加害者が見つからず、損害賠償を誰に請求したらいいか分からないというケースも生じているのです。

ひき逃げの被害者になった場合に、どういう対応を取りうるのか、損害賠償をきちんと受け取ることができるのか、加害者が不明な場合はどうしたらいいのか等、今回はひき逃げの被害者になった場合の対応について解説します。

※この記事は2017年10月11日に加筆・修正しました。

1.そもそもひき逃げ事件とは?ひき逃げ事件にあった場合にすべきこと

(1)ひき逃げ事件とは?

ひき逃げとは、被害者が亡くなったり、けがをする交通事故が発生した後、けが人の救護や道路の危険を防止しなければならないのに、これらを行わずに現場から離れることによって成立する犯罪のことをいいます。

実際に、被害者が物理的に「轢かれたかどうか」は問題になりません。

被害者のけがが軽い場合や運転者が被害が生じたことに気付かなかった場合であっても、交通事故(人身事故)を起こしたのに被害者を助けることなく現場から離れれば、それだけでひき逃げになると判断されるのが原則です。

ひき逃げと合わせてよく耳にするのが「当て逃げ」です。

これは、人の死亡やけがを伴わない交通事故があった場合に道路の危険を防止する対策を取らずに、その場を離れることによって成立する犯罪のことをいいます。

交通事故で物損しか生じなかった場合は、通常は刑事事件にならず民事事件として損害賠償の問題になるだけです。

しかし、物損事故でもその場を去って当て逃げになった場合は、道路交通法違反という刑事事件になるのです。

なお、日本におけるひき逃げ死亡事故の検挙率は約95%、重傷事故の検挙率は約60%と言われています。

比較的高い検挙率といえますが、それでも完全に加害者側が検挙されるわけではないのが実情です。

(2)ひき逃げにあったらすべきこととは?

ひき逃げされてけがを負うなどした場合、けがの治療費や仕事を休まざるを得なかったことによる収入減少に対応する休業補償、精神的苦痛の補償など、損害賠償の請求の問題が生じる可能性があります。

加害者との話し合いや示談等を適切に行うためにも、ひき逃げされた時点で行うべき対応を押さえておきたいところです。

①警察への連絡と事故証明の取得

ひき逃げにあった場合、まず警察に通報することが重要です。

あわせて、車の損傷を保険で支払う際に必要なので事故証明書を発行してもらっておきましょう。

一般的に、交通事故を起こした場合は保険会社が事故証明を取ってくれますが、ひき逃げをされた場合は自分で申請するしかありません。

手続きは簡単で、警察署の交通課で書類をもらい、事故日・事故現場・名前を書いて、郵便局で所定の金額(600円と手数料100円)を支払えば完了します。

②加害者の車の情報を確認する

大変な状況の中ではありますが、ひき逃げをした車の情報(ナンバー、車種、色)などをできれば覚えておきましょう。

ひき逃げでは、動揺して走り去った加害者が、やはり心配になってすぐに戻ってくるというケースが散見されます。

加害者側からすれば、心配で戻ったら警察が来ていたという状況ですが、加害者の情報がわかっていればその際の捜査にも役立つので、できるだけメモに残すなどしておいてください。

同時に、近くに目撃者がいれば連絡先を聞いておく等しておきましょう。

③病院で治療を受ける

交通事故にあった場合、身体の不調が後日現れるケースは少なくありません。

損害賠償の請求や保険の請求でも必要になるので、必ず病院に行って診断書の発行を受けておいてください。

なお、原則としてひき逃げなど他人(第三者)の行為によりけがをした場合の治療費は加害者が支払います。

加害者が判明していない場合などは、まずは保険で治療を受け健康保険組合に立て替えてもらうという方法をとることができます。

いずれも、ひき逃げ事故の直後では実行しにくいことかもしれません。

しかし、今後の捜査や損害賠償請求のために、できる範囲のことでも行っておきましょう。

2.ひき逃げの被害者になったなら~加害者との示談で注意すべきことは


ひき逃げにあったとき、保険会社に任せようと思っている方も多いのではないでしょうか。

しかし、保険会社は加害者が加入しているもので被害者の味方ではありません。

ひき逃げの被害者が死亡したり、けがなどを負った場合でも、保険会社独自の基準に基づいて裁判で認められるよりも大幅に低い示談金額や賠償金しか払われないのが現状なのです。

加害者が分かっている場合は、加害者側が弁護士を介して示談の申し込みをしてくるケースがあります。

保険で賄いきれない損害や、精神的な損害に対する賠償の支払いをしてひき逃げ事件を起こしたことを許してほしいというのが、よくある示談の内容です。

慰謝料の額などについて当事者間で合意するので、自由度が高い反面、適切な内容で示談しないと、後になって賠償が不足していた等の問題が生じることもあるので注意してください。

示談は、一度合意すると、原則としてあとからやり直しができません。

加害者が分かっている場合は、弁護士に相談して適切な内容かどうかを精査した上で合意することをお勧めします。

3.加害者が不明な場合や無保険の際に利用できる国の保障制度とは


ひき逃げの加害者が不明な場合、被害者は泣き寝入りするしかないのかというと、そんなことはありません。

加害者が見つからない場合でも、「政府保障事業制度」という国からの保障を受けることができるので、ぜひ利用してください。

(1)「政府保障事業制度」を利用できる場合とは

政府保障事業制度とは、本来ひき逃げを起こした加害者が被害者に支払うべき損害金を国が補てんする制度のことをいいます。

利用できるのは人身事故に限られ、具体的には次のようなケースが対象になります。

  • ひき逃げの被害にあい、加害者が不明な場合
  • 交通事故で死亡したりけがを負ったが、加害者が無保険だった場合
  • 盗難、無断運転など、保有者に責任がない自動車との交通事故で死亡したりけがを負った場合
  • 構内自動車との交通事故で死亡したりけがを負った場合

このように、政府保障事業制度は、加害者が判明している場合でも、不明な場合でも状況に応じて利用することができます。

利用の可否を含めてまずは下記で述べる申込窓口に問い合わせてみるとよいでしょう。

(2)政府保障事業制度を請求するには

政府保障事業制度の申し込みは、自賠責保険を取り扱う損害保険会社や責任共済の窓口でできます。

必要な書類は自賠責保険請求とほぼ同じで以下のようなものがあります。

  • 政府保障事業への損害のてん補請求書(請求者が作成)
  • 請求者本人の印鑑登録証明書(市区町村発行のもの)
  • 交通事故証明書(自動車安全運転センター発行のもの)
  • 事故発生状況報告書(事故の当事者等が作成)
  • 診断書(病院発行のもの)
  • 後遺障害診断書(後遺障害が残った場合に病院発行のもの)
  • 死体検案書又は死亡診断書(被害者がなくなった場合に病院発行のもの)
  • 診療報酬明細書(病院発行のもの)
  • 通院交通費明細書(請求者が作成)
  • 健康保険等の被保険者証の写し(請求者が用意)
  • 戸籍謄本(被害者死亡の場合は除籍謄本)(市区町村発行のもの)
  • 休業損害証明書(給与所得者の場合)(雇用主が作成)
  • その他損害を立証する書類、領収書等
  • 振込依頼書(請求者が作成)

ただし、必要な書類は、ひき逃げの態様や損害の程度によって多少異なります。

まずは、ご自身が加入している自動車保険の事故センターや最寄りの損害保険会社窓口に問い合わせてみるとよいでしょう。

(3)時効に注意すべき、政府保障事業制度を請求する時期

政府保障事業制度の請求は死亡・後遺障害・傷害(けが)という被害の状況によって区分されています。

それぞれの区分に応じて、請求できる期限が決まっているので時効にかからないうちに請求する必要があります。

①事故発生日が平成22年4月1日以降の場合

・死亡の場合

請求開始:死亡日

請求期限:死亡日から3年以内

・後遺障害が残った場合

請求開始:症状固定日

請求期限:症状固定日から3年以内

・けがを負った場合

請求開始:治療を終えた日

請求期限:事故発生日から3年以内

②事故発生日が平成22年3月31日以前の場合

・死亡の場合

請求開始:死亡日

請求期限:死亡日から2年以内

・後遺障害が残った場合

請求開始:症状固定日

請求期限:症状固定日から2年以内

・けがを負った場合

請求開始:治療を終えた日

請求期限:事故発生日から2年以内

(4)政府保障事業制度で保障される金額とは

保障される損害の範囲・上限金額は自賠責保険の基準と同様で、死亡した場合には最高3,000万円まで、後遺障害が残った場合は等級に応じて75~4,000万円、けがを負った場合は最高120万円までとされています。

①死亡の場合

死亡事故の場合、政府保障事業制度で保障される限度額は3,000万円です。

損害の範囲としては、葬儀費、逸失利益、死亡した本人の慰謝料、遺族の慰謝料が含まれます。

②後遺障害が残った場合

後遺障害が残った場合の法定保障限度額は4,000万円です。

後遺障害の状況によって、以下のように上限が異なります。

・神経系統の機能又は精神・胸腹部臓器に著しい障害を残し、常時又は随時介護を要する後遺障害

後遺障害等級第1級:4,000万円、第2級:3,000万円

・上記以外の後遺障害

後遺障害等級第1級:3,000万円~第14級:75万円

損害の内容には、逸失利益(障害が残り、労働能力が減少したことにより生じうる将来的な収入減)、慰謝料等(精神的・肉体的な苦痛に対する補償等)が含まれます。

③けがを負った場合

被害者がけがを負った傷害事故の法定保障限度額は120万円です。

損害の範囲には、治療費、看護料、休業損害、義肢等の費用、文書料や雑費、それに慰謝料などが含まれます。

(5)政府保障事業制度利用の際の注意点

政府保障事業制度では、ひき逃げの被害者の過失割合が高い場合など、状況に応じて減額される場合があるので注意が必要です。

具体的には、被害者が横断歩道のない車道に突然飛び出した際にひき逃げにあったような場合が考えられます。

また、政府保障事業制度を利用する場合、病院での治療は健康保険への切替えが必要となることにも注意してください。

自由診療のまま治療を受けた場合は、健康保険を適用した場合の金額に換算されて支払われるので、政府保障事業制度の保障を受けても自己負担額が多くなる可能性が高くなります。

まとめ

いかがでしたか?

ひき逃げに遭い、加害者が不明だったり無保険だった場合には、被害者は泣き寝入りしがちと思われがちで政府保障事業制度を利用することで、一定の保障を受けられることはあまり知られていないのが実情です。

また、加害者が判明して示談の申し込みがあった場合でも、どう対応したらいいか分からないという方も少なくないでしょう。

ひき逃げの被害にあった場合には、まずは保険会社や弁護士に対応を相談されることをお勧めします。

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