追突事故の慰謝料の相場と示談交渉で気をつけるべきこと

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平成25年の交通統計によれば、車両相互の事故総数54万5376件のうち、追突事故は22万5416件で、実に40%以上を占めている。

追突事故は、被害者の加入する保険会社に示談交渉を一任することができない場合が多いことなど、特別な問題がある。

今回は、追突事故の示談交渉で注意すべきこと、特に慰謝料の計算方法と相場について説明していきたい。

目次

1、被害者の保険会社が介入できない

2、相手方保険会社は賠償額を自賠責の範囲内に収めようとする

3、自賠責の慰謝料の計算方法は?

4、慰謝料に納得がいかないときはどうすればいい?

1、被害者の保険会社が介入できない

追突事故は、多くの場合、後方から進行してきた加害者の脇見運転、漫然運転(居眠り、考えごとをしていたなど)などが原因であり、そのような原因の場合、被害者の過失は0とされることが多い。

運転中に事故に遭った場合、自分の加入する任意保険会社に連絡し、対応してもらうのが一般的である。

例えば、交差点を直進中に右折車両が衝突してきたという事故の場合、自分の加入する保険会社に連絡すれば、保険会社が事故の相手方の加入する保険会社と交渉してくれる。

しかし、被害者の過失が0とされる追突事故の場合は、被害者の加入する保険会社が介入することはできない。

上記の直進対右折車両の事故で保険会社が介入することができるのは、程度の差はあれ双方に過失が認められ、直進車両を運転していた者にも過失割合に応じた賠償責任があり、保険会社は保険契約に従い契約者に代わって賠償すべき立場になるからである。

それに対し、被害者の過失が0とされる事故では、被害者は相手方に賠償責任を負わないため、被害者の加入する保険会社が介入する根拠がないのである。

そのため、追突事故の場合、被害者が直接、相手方の保険会社と交渉しなければならなくなる。

事故処理を専門とする保険会社に対し、知識のない被害者が個人で対峙することになり、結果的に被害者が本来受けるべき賠償を得られない危険もある。

2、相手方保険会社は賠償額を自賠責の範囲内に収めようとする

では、被害者個人が専門家である保険会社と直接交渉するにあたって、どのような点に注意すればいいだろうか。

まず、念頭に置かなければならないことは、相手方保険会社は、賠償額を自賠責保険の範囲内に収めようとするということである。自賠責の範囲内(傷害の場合は120万円)であれば、任意保険の保険会社には実質的な負担はない。そのため、保険会社は、可能な限り、自賠責の範囲内で示談をしようとするのである。

治療費のように金額が明らかなものや、休業損害のように比較的計算のしやすいものと異なり、慰謝料は被害者の精神的な苦痛に対する賠償であり、一義的に決められるものではなく、自賠責保険の基準、保険会社内部の基準(任意保険基準)、弁護士基準(裁判所基準)など様々な計算方法が存在する。保険会社は、慰謝料については最も低い自賠責の基準で計算し、賠償総額を自賠責の範囲内に収めようとすることが多い点に注意が必要である。

3、自賠責の慰謝料の計算方法は?

(1)自賠責の支払基準

①入通院慰謝料の計算方法

では、自賠責の基準では慰謝料はどのように計算されるのであろうか。

自賠責の支払基準では、慰謝料は1日4,200円で、対象となる日数は、被害者の傷害の態様、実治療日数その他を勘案して、治療期間の範囲内とすると定められている。

治療期間とは、治療開始日から治療終了日までのことをいい、実治療日数は実際に治療を受けた日のことをいう。

入院の場合は入院日数=治療を受けた日数と考えてよいが、通院の場合、必ずしも治療開始日から治療終了日まで毎日通院して治療を受けるとは限らないため、治療期間と実治療日数が一致しないことが多い。

そこで、実治療日数を2倍した数と治療期間の日数とを比較し、少ない方を慰謝料支払いの対象となる日数とするのが実際の運用である。治療期間のうち、その半分以上で治療を受けていれば、実際には治療を受けていない日も含めて治療期間の全てが慰謝料の対象となるのである。

②後遺障害慰謝料の計算方法

自賠法施行令に定める後遺障害に該当する場合には、後遺障害に対する慰謝料が認められる。慰謝料の額は、該当等級ごとに定額であり、次に掲げる表のとおりである。

等級 後遺障害 自賠責基準
第一級 両眼が失明したもの 1,100万円
咀嚼及び言語の機能を廃したもの
両上肢をひじ関節以上で失つたもの
両上肢の用を全廃したもの
両下肢をひざ関節以上で失つたもの
両下肢の用を全廃したもの
第二級 一眼が失明し、他眼の視力が〇・〇二以下になつたもの 958万円
両眼の視力が〇・〇二以下になつたもの
両上肢を手関節以上で失つたもの
両下肢を足関節以上で失つたもの
第三級 一眼が失明し、他眼の視力が〇・〇六以下になつたもの 829万円
咀嚼又は言語の機能を廃したもの
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
両手の手指の全部を失つたもの
第四級 両眼の視力が〇・〇六以下になつたもの 712万円
咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの
両耳の聴力を全く失つたもの
一上肢をひじ関節以上で失つたもの
一下肢をひざ関節以上で失つたもの
両手の手指の全部の用を廃したもの
両足をリスフラン関節以上で失つたもの
第五級 一眼が失明し、他眼の視力が〇・一以下になつたもの 599万円
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
一上肢を手関節以上で失つたもの
一下肢を足関節以上で失つたもの
一上肢の用を全廃したもの
一下肢の用を全廃したもの
両足の足指の全部を失つたもの
第六級 両眼の視力が〇・一以下になつたもの 498万円
咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの
両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になつたもの
一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの
脊柱に著しい変形又は運動障害を残すもの
一上肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの
一下肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの
一手の五の手指又はおや指を含み四の手指を失つたもの
第七級 一眼が失明し、他眼の視力が〇・六以下になつたもの 409万円
両耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの
一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの
神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
一手のおや指を含み三の手指を失つたもの又はおや指以外の四の手指を失つたもの
一手の五の手指又はおや指を含み四の手指の用を廃したもの
一足をリスフラン関節以上で失つたもの
一上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
一下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
両足の足指の全部の用を廃したもの
外貌に著しい醜状を残すもの
両側の睾丸を失つたもの
第八級 一眼が失明し、又は一眼の視力が〇・〇二以下になつたもの 324万円
脊柱に運動障害を残すもの
一手のおや指を含み二の手指を失つたもの又はおや指以外の三の手指を失つたもの
一手のおや指を含み三の手指の用を廃したもの又はおや指以外の四の手指の用を廃したもの
一下肢を五センチメートル以上短縮したもの
一上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの
一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの
一上肢に偽関節を残すもの
一下肢に偽関節を残すもの
一足の足指の全部を失つたもの
第九級 両眼の視力が〇・六以下になつたもの 245万円
一眼の視力が〇・〇六以下になつたもの
両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの
咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの
両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの
一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、
他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの
一耳の聴力を全く失つたもの
神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
一手のおや指又はおや指以外の二の手指を失つたもの
一手のおや指を含み二の手指の用を廃したもの又はおや指以外の三の手指の用を廃したもの
一足の第一の足指を含み二以上の足指を失つたもの
一足の足指の全部の用を廃したもの
外貌に相当程度の醜状を残すもの
生殖器に著しい障害を残すもの
第十級 一眼の視力が〇・一以下になつたもの 187万円
正面を見た場合に複視の症状を残すもの
咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの
十四歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの
一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になつたもの
一手のおや指又はおや指以外の二の手指の用を廃したもの
一下肢を三センチメートル以上短縮したもの
一足の第一の足指又は他の四の足指を失つたもの
一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの
一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの
第十一級 両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの 135万円
両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
十歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
両耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの
一耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの
脊柱に変形を残すもの
一手のひとさし指、なか指又はくすり指を失つたもの
一足の第一の足指を含み二以上の足指の用を廃したもの
胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの
第十二級 一眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの 93万円
一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
七歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
一耳の耳殻の大部分を欠損したもの
鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの
一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの
一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの
長管骨に変形を残すもの
一手のこ指を失つたもの
一手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの
一足の第二の足指を失つたもの、第二の足指を含み二の足指を失つたもの又は第三の足指以下の三の足指を失つたもの
一足の第一の足指又は他の四の足指の用を廃したもの
局部に頑固な神経症状を残すもの
外貌に醜状を残すもの
第十三級 一眼の視力が〇・六以下になつたもの 57万円
正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの
一眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
五歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
一手のこ指の用を廃したもの
一手のおや指の指骨の一部を失つたもの
一下肢を一センチメートル以上短縮したもの
一足の第三の足指以下の一又は二の足指を失つたもの
一足の第二の足指の用を廃したもの、第二の足指を含み二の足指の用を廃したもの
又は第三の足指以下の三の足指の用を廃したもの
胸腹部臓器の機能に障害を残すもの
第十四級 一眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの 32万円
三歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
一耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの
上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
一手のおや指以外の手指の指骨の一部を失つたもの
一手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなつたもの
一足の第三の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの
局部に神経症状を残すもの

 

追突事故の場合、いわゆるむちうちの症状が出現することが多く、治療を続けても完治せず、慢性的な痛みが残ることがある。そのような場合、後遺障害等級14級9号「局部に神経症状を残すもの」に該当すると認定される可能性がある。(より症状が重く、画像所見など他覚的所見により医学的に証明できる場合は、12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当すると認定されることがある)。

(2)具体的な計算事例

① 治療期間120日 実治療 入院20日、通院100日の場合

Aさんが交通事故に遭い、20日間入院し、退院後1日おきに50回通院し、治療期間120日で症状固定し、後遺障害14級に該当すると認定された場合の慰謝料は、次のとおりとなる。

(入通院慰謝料)

対象日数 実治療日数基準 (20+50)×2=140日

治療期間基準           120日

→少ない方の治療期間120日が対象日数となる

慰謝料 4,200円×120日=504,000円

(後遺障害慰謝料)

後遺障害14級の場合、慰謝料は32万円である。

② 治療期間120日 実治療 通院40日の場合

Bさんが事故に遭い、週に2~3回通院して、治療期間120日(実治療48日)で治癒した場合)の慰謝料は、次のとおりとなる。

(入通院慰謝料)

対象日数 実治療日数基準 48×2=96日

治療期間    120日

→少ない方の実治療日数の2倍を対象日数とする

慰謝料  4,200円×96日=403,200円

(3)追突事故の場合の留意点

追突事故の場合、入院が必要なほどのけがをすることは少なく、むちうち症状などで通院治療を受ける事例が多い。毎日通院することは稀で、数日に1度程度の割合で通院することが多いため、治療期間が長期化しても実治療日数はそれほど多くならず、結果的に慰謝料が低くなりがちである。

通院は本来治療のためのものであるから、医師の指示に従って行うべきであり、慰謝料増額のために通院頻度を増やそうと考えるべきではないが、多忙などを理由に医師の指示よりも通院の頻度が少なくなると、治療に影響が出るだけでなく慰謝料まで減額されてしまうことに注意が必要である。

4、慰謝料に納得がいかないときはどうすればいい?

(1)任意保険基準、裁判所基準を目指す

一般に、慰謝料の額は自賠責基準<任意保険基準<裁判所基準となっている。

そこで、被害者としては、相手方保険会社に対し、より有利な基準での計算を求めていくことになる。

もっとも、相手方保険会社が容易に応じるとは考えにくい。

例えば、裁判所基準は過去の裁判例などをもとに算出されたもので、被害者が訴訟を起こす費用、時間、労力などをかけてようやく獲得したものである。

したがって、被害者個人が、弁護士に依頼したわけでもなく、訴訟を起こしたわけでもないのに、単に「裁判所基準で計算しろ」などといっても、相手方保険会社が容易に応じるはずがないのである。

(2)具体的方法

それでは、被害者個人が慰謝料の増額を勝ち取るにはどうすればいいだろうか。

専門家ではない被害者個人だけでは困難であるとすれば、何らかの形で専門家の力を借りることが必要である。

少なくとも、弁護士など専門家に相談し、慰謝料の目安、専門家に依頼した場合の費用の目安を教えてもらうことが必要であろう。自治体が開催する弁護士による無料法律相談のほか、現在では無料で法律相談を行う法律事務所も増えており、積極的に利用するとよい。

その上で、相手方保険会社に対し、専門家に相談したことや専門家に教えてもらった慰謝料の額を伝え、増額がなければ専門家に正式に依頼することを考えていること等を告げれば、裁判所基準とまではいかなくとも、相手方保険会社が自賠責基準より増額する可能性はある。

そして、増額された額で示談に応じるか否かは、裁判所基準との差額と、実際に専門家に依頼した場合にかかる費用の見込み、解決までにさらに時間がかかることなどを考慮して決めればいいだろう。

また、近時、弁護士費用特約付きの任意保険への加入が増加している。弁護士費用特約付きの任意保険に加入していれば、自分の過失割合が0の場合でも保険会社が弁護士費用を負担してくれるため、基本的に自己負担なしで弁護士を依頼することができる。特約を付けることで増加する保険料は通常千数百円~二千円程度であるので、検討してもよいだろう。

まとめ

追突事故の示談交渉について、慰謝料を中心に説明してきたが、参考になっただろうか。追突事故は最も多い事故発生状況であり、その意味で誰もが被害者になる可能性がある事故といえる。この記事が被害に遭われた方が示談交渉をするにあたっての一助になれば幸いだ。

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