車両同士の交通事故の場合、通常は当事者の加入する保険会社間で示談交渉が行われますが、被害者に過失がない交通事故や歩行中に交通事故に遭ったような場合などは、保険会社が示談交渉の代行をすることができないため、被害者が示談交渉をしなければなりません。
被害者自身が治療と並行して示談交渉を行うのは身体的・精神的に負担が大きいといえますし、十分な知識のない被害者が加害者の保険会社と交渉した結果、本来得られるはずの補償が受けられなくなるおそれもあります。
このような負担、不利益を避けるには、専門家である弁護士に依頼することが最善の方法といえますが、弁護士に依頼するには弁護士費用が必要となります。
被害者の中には、治療費でお金がかかったり、仕事を休んで収入がなくなったりといった経済的事情を抱えており、弁護士費用を捻出する余裕がないという方も少なくありません。
このような経済的事情のある方に弁護士費用を援助するために、「民事法律扶助」という制度があります。
今回は、民事法律扶助の制度と利用するための要件、手続の流れなどをご説明いたします。
- 交通事故
- 過払い
- 離婚問題
- 刑事事件
- 企業法務
- 遺産相続
- 労働問題
- B型肝炎
ホウツウがオススメする法律事務所が安心!
目次
1.民事法律扶助とは
民事法律扶助は、日本司法支援センター(通称を法テラスといいます)が行う業務の一つで、経済的に余裕のない方を対象に、弁護士による無料の法律相談を実施したり、弁護士に依頼する場合の弁護士費用の立替えを行うことをいいます。
法テラスは、国が設立した法務省所管の独立行政法人で、民事法律扶助だけでなく、国選弁護に関連する業務などを行っています。
弁護士費用の立替えは、法テラスが申込者に代わり、法テラスと契約している弁護士に弁護士費用を一括で払い、申込者は法テラスに対して分割でその費用を返済していく制度です。
2.民事法律扶助のメリット
(1)弁護士費用が無料または安く抑えることができる
弁護士による法律相談は、最近では無料の法律事務所も増えてきましたが、基本的には有料で、相談料の目安は30分5000円(税別)です。
これに対し、法テラスでは無料で弁護士による法律相談を受けることができます。
また、弁護士に依頼をする場合、依頼時に着手金を事件終結時に報酬を支払うのが一般的です。
着手金および報酬の具体的な金額については、平成16年に日本弁護士連合会の報酬規程が廃止され、事務所ごとに報酬基準を作ることとされたため事務所によって異なります。
参考に、以前の報酬規程の着手金は
経済的利益の額が300万円以下 | 8% |
300万円~3000万円未満 | 5%+9万円 |
3000万円~3億円以下 | 3%+69万円 |
とされていました(ただし、着手金の最低額は10万円と定められていました)。
法テラスの民事法律扶助を利用する場合、法テラスから弁護士に着手金、実費、報酬が支払われますが、その額については、損害賠償、破産、離婚、相続などといった事件の種類や事件の内容(金銭請求の場合には請求額、破産の場合には債権者の数など)によって、詳細な基準が作成されています。
交通事故の場合の立替基準は、
訴額が50万円未満 | 実費25,000円 | 着手金 63,000円 |
50万円以上100万円未満 | 実費35,000円 | 着手金 94,500円 |
100万円以上200万円未満 | 実費35,000円 | 着手金 126,000円 |
200万円以上300万円未満 | 実費35,000円 | 着手金 157,500円 |
300万円以上500万円未満 | 実費35,000円 | 着手金178,500円 |
500万円以上1,000万円未満 | 実費35,000円 | 着手金210,000円 |
1,000万円以上 | 実費35,000円 | 着手金231,000円 |
となっています(ただし、特に処理が困難な事件については、367,500円まで増額することができるとされています)。
以前の報酬規程と比べると、かなり低い額になっていることがお分かりいただけると思います。
法テラスの立替基準以下の費用で依頼を受けてくれる弁護士を探すのはかなり難しく、弁護士費用を安く抑えるには民事法律扶助を利用するのが一番といえるでしょう。
(2)分割払いが可能
弁護士に依頼する場合、一般的には着手金を一括で支払う必要があります。
これに対し、民事法律扶助を利用した場合、法テラスが担当弁護士に(1)で紹介した立替基準に基づく着手金を一括で立替払いを行い申込者は法テラスに対して、月額5000円~1万円ずつ分割して返していくことになります。
分割払いになっても、利息を取られることはありません。
したがって、治療費にお金がかかるなど、仕事を休んでいるので収入がないといった理由でまとまったお金が用意できない場合でも、弁護士に依頼することが可能になります。
3.民事法律扶助を利用する要件
このように、民事法律扶助には大きなメリットがあるのですが、どなたでも利用できるわけではなく、次の要件を満たす必要があります。
(1)資力要件
- 収入が一定額以下であること
一か月の収入が次の額以下であることが必要です。
単身者 | 月額182,000円以下(東京、大阪などの大都市は200,200円以下) |
2人家族 | 月額251,000円以下(大都市では276,100円以下) |
3人家族 | 月額272,000円以下(大都市では299,200円以下) |
4人家族 | 月額299,000円以下(大都市では328,900円以下) |
なお、離婚などの夫婦間の紛争を除き、申込者だけでなく配偶者の収入を加算した額が上の基準を満たす必要があります。
また、家賃や住宅ローンを負担している場合には、上の額に一定の範囲内で加算することができます。
- 資産が一定額以下であること
現在の収入が少なくても、一定額以上の資産(現金、預貯金、不動産など)がある場合には、民事法律扶助を利用することはできません。
その基準は、
単身者 | 180万円以下 |
2人家族 | 250万円以下 |
3人家族 | 270万円以下 |
4人家族 | 300万円以下 |
となっています。
(2)勝訴の見込みがないとはいえないこと
全く勝訴の見込みがない場合には、この要件を満たさないため民事法律扶助を利用することはできません。
(3)民事法律扶助の趣旨に適すること
相手方への報復や宣伝といった目的のために訴訟提起しようとする場合などが、この要件を満たさない典型例です。
4.民事法律扶助の手続の流れ
(1)相談
法テラスの事務所で無料法律相談を受けて相談者が弁護士への依頼を希望し、相談担当弁護士も弁護士への依頼が相当であると判断したときは、民事法律扶助の要件を満たすかを確認するために審査に回します(審査回付といいます)。
また、法テラスではなく、自分で法律事務所を探して法律相談を受けてその弁護士に依頼をしたいが費用を用意することが難しいような場合、その弁護士が法テラスと契約していて、民事法律扶助を利用することに同意してくれるときは、弁護士を通じて民事法律扶助の申し込みをして審査を受けることになります。
(2)審査
3.で紹介した要件を満たすかの審査をします。
審査に際しては、収入に関する資料(給与明細など)、住民票(世帯全員の記載のあるもの)のほか、事件ごとに決められた書類を提出する必要があります。
(3)着手~終結
審査の結果、要件を満たすと認められたときは、援助開始決定がなされて法テラス、担当弁護士、申込者の三者で契約を結んで担当弁護士が事件に着手します。
事件が終了すれば、担当弁護士の報告に基づいて法テラスが報酬を算定します。
加害者の保険会社から保険金の支払いがあった場合など、相手方から金銭の支払いを受けた場合には、未償還の着手金や報酬を差し引いた残額を担当弁護士から受け取ることになります。
まとめ
民事法律扶助についてご説明させていただきました。
交通事故の被害に遭い、弁護士に依頼したいが弁護士費用が用意できるか不安だという方は、民事法律扶助の利用を検討するといいでしょう。