離婚の際、いったんは親権者となったけれども、どうしても事情があって子どもの養育ができなくなってしまうことがあります。
自分が親権者として適切ではないと考えるとき、親権や監護権を放棄することはできるのでしょうか?
その場合、子どもはどうなるのかも知っておく必要があります。
今回は、子どもの養育ができなくなったときに、監護権を委託したり親権を放棄したりする方法をご紹介します。
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目次
1.子どもを育てられなくなるケースとは
離婚するとき、未成年の子どもがいると父親か母親のどちらかが子どもの親権者にならなければなりません。
離婚後は、子どもの共同親権が認められていないからです。
そこで、自分が親権者となったけれどもその後、どうしても育児が難しい状況に陥ってしまうことがあります。
たとえば、以下のようなパターンがあります。
(1)経済的な事情があって、子どもを育てられない
親権者を続けられない理由として、最も多い理由ではないでしょうか?
特に、最近ではシングルマザーの貧困問題が社会問題となっていることからもわかるとおり、ひとり親の経済問題は深刻です。
離婚時には、何とかがんばっていけると思っても、離婚後就職先を探しても見つけることができず、親権を放棄しようか、と悩む方が多いです。
子どもと一緒にいても、不自由をさせるだけだから、収入の多い元の配偶者に親権者になってもらいたいと考えることも多いです。
(2)子どもの面倒を見てくれる人がいない
親権者になったけれども、自分が子どもの面倒を見ることができないケースがあります。
たとえば、自分の母親(子どもの祖母)が子どもを見てくれることを期待して親権者となったけれども母親が倒れてしまったようなケースです。
自分は仕事で忙しく子どもの保育園の送り迎えなどもできないのに、頼みの綱の監護補助者(母親)が倒れて、母親の介護まで必要になってしまったとき子どもの面倒を見られないと思ってしまうことがあります。
(3)病気になった、ケガをした
離婚時には健康だったけれども、その後深刻なケガをしたり病気にかかったりしてしまうケースもあります。
たとえば、精神病にかかって子どもの面倒を見られなくなることもありますし、交通事故に遭って重大な後遺症が残ることもあります。
自分が介護を要する状態になってしまったら、到底子どもの面倒を見ることはできないでしょう。
また、ガンなどの重大な病気にかかって、余命が制限される場合もあります。
このような場合にも、自分の死後に子どもの面倒を見てくれる人に託さなければなりません。
(4)海外転勤することになった
仕事で海外転勤することもあります。
子どもを連れて行くという選択肢もありますが子どもの年齢や渡航先などによっては、連れて行くのが適切ではないという判断もあります。
また、海外出張を繰り返すケースでも子どもの面倒を見ることができません。
こういったケースでは、日本で落ち着いて子どもを見てくれる人に子どもを託すべきです。
(5)犯罪を犯して、刑務所に行かないといけない
何らかの犯罪を犯してしまい、刑務所に行かなければならないケースでも子どもを育てることができなくなります。
傷害事件や横領事件などの刑法犯の場合もありますし、交通事故でも懲役刑を言い渡されるケースがあります。
前科がついた自分が育てていると子どもの人生にも影響が及ぶので、そういった問題のない元の配偶者に子どもを任せたいと思うことも多いです。
以上のように、子供を育てられない事情は人それぞれでさまざまです。
ケースによって、とりうる選択肢が変わってきます。
2.子どもを無理に育てていると、共倒れになるおそれがある
いろいろな事情があって、自分では子どもを育てることが難しくなり、本来なら子どもを手放した方が良いケースでも「親だから」と思って問題を抱え込み、自分一人で解決しようとする人がいます。
しかし、このように無理に子どもを抱え込んでいるとかえって悲劇につながることもあります。
精神的に「うつ」状態となり、何もできなくなってしまうこともありますし、子どもと一緒に心中をしてしまう例もあります。
また、子どもと一緒に飢えて亡くなってしまう痛ましいケースもあります。
早めに親が「自分には無理」と判断して他者のサポートを頼っていたら、罪のない子どもの命が失われることもありません。
「子供を育てるのはしんどいかも」と思ったら、恐れることなく親権者の変更や子どもの委託を検討しましょう。
3.子どもを一時的に委託する方法
子供を育てられない場合、一時的に委託できれば解決できるケースがあります。
たとえば、海外出張が続くケースや一時的に病気やケガの療養が必要な場合です。
このようなケースでは、親権者を変更する必要まではありません。
(1)事実上、子どもを預ける
1つには、特に手続きをとらず、適切な人に子どもを預ける方法があります。
たとえば、元の配偶者と話し合って子どもを預かってくれるのであれば、預けてもかまいませんし自分の親や親戚などがしばらく見てくれるなら、預かってもらいましょう。
(2)監護者を指定する
もう1つは、監護者を指定する方法です。
子どもを人に預ける状態が長期間続くのであれば事実上預けるのではなく、法的に子どもの監護者を定めることができます。
監護者とは、実際に子どもと一緒に暮らして監護養育をする人のことです。
離婚時、親権者を決めるときには、通常親権者と監護者を一致させますが後になってあえて分けることも可能です。
監護者になれるのは元の配偶者や祖父母などです。
自分の祖父母も相手の祖父母も監護者になることができます。
監護者の指定を行いたい場合、家庭裁判所において監護者指定審判の手続をする必要があります。
自分たちで話合いにより、勝手に監護者を変更することはできません。
また、審判で監護者を変更してもらうためには、監護者を変更するための理由も必要となりますし新たに監護者となるものが、適切に監護できる能力を持っていることが必要です。
周囲に適切な監護者候補がいる場合には、利用を検討すると良いでしょう。
(3)親権はなくならない
子どもの監護者を指定して人に預けても子どもの親権を失うことはありません。
この場合、親権の中の「財産管理権」が自分の手元に残ります。
つまり、子どもの財産は自分が管理していくということです。
子ども名義の預貯金通帳の管理や、子どもが悪徳商法に騙されたときの未成年取消などは自分が代わって行う必要があります。
4.元配偶者が親権者を代わってくれる場合
(1)親権者変更調停を行う
離婚後、自分は子供を育てられないとき元の配偶者に親権者になってもらう方法があります。
親権者を代わってもらうのです。
ただし、当事者同士が話し合って勝手に親権者を変更することはできません。
このときにも、家庭裁判所で親権者変更の調停・審判を利用します。
ただし、親権者の変更は簡単に認められるものではありません。
いったん離婚の際に親権者を定めた以上、継続して子どもを育てるのが原則であり、親権者変更ができるのはよほどの事情がある場合に限られます。
現在の親権者が親権者として明らかに不適切であることと、相手(元の配偶者)が親権者として明らかに適切であることが必要です。
「どちらかというと、相手の方が好ましい」という程度では、親権者変更はできません。
また、親権者変更をするためには、相手が子どもの親権者になることに同意していることが必要です。
相手も「親権者になりたくない」と言っているときには、親権者を代わってもらうことはできません。
親権者変更調停により、親権者が相手に変更されたら子どもを相手に渡し、育ててもらうことになります。
また、親権者を変更すると監護権だけではなく財産管理権も失いますので、子ども名義の預貯金通帳の管理なども相手に任せることになります。
戸籍謄本にも「親権者が変更された」ことが記載されるので、記録上も自分が親権を失ったことが明らかになります。
(2)いったん変更をすると、簡単には元に戻せない!
親権者をいったん変更すると簡単には元に戻すことができません。
「やっぱり子どもを育てたい」などと言ってもまず通らないと考えましょう。
親権を変更するということは、子どもの人生に関わる重大な問題なので一時の感情で決めるのではなく慎重に対応しましょう。
また、「親権者を変更する為の手続方法や条件を解説。親権喪失や停止が認められる理由とは?」も併せてご参照ください。
5.相手も親権者になってくれない場合
子供を育てられない状況が発生したとき、元の配偶者もやはり子どもを引き取ることができないと言うことがあります。
また、祖父母も非協力であったりいなかったりして、周囲に頼れる人が誰もいないことがあります。
こんなときにはどのように対処したら良いのでしょうか?
(1)親権者辞任の申立を行う
親権者が子どもを育てられず、元の配偶者にも頼めない場合には、自分は親権者を辞任するしかありません。
ただ、親権者は重要な権利義務を負っていますから「辞めます」と言って、勝手に辞めることはできません。
そこで、家庭裁判所で「親権者辞任の申立」を行う必要があります。親権者辞任の申立が認められたら、自分は親権者ではなくなります。
(2)未成年者後見人が選任される
親権者が辞任してしまったら、子どもの面倒は誰が見ることになるのでしょうか?
まず、法的に子どもの代理権を持つ人を定める必要があります。
そこで、親権者辞任の審判が認められたら子どもの未成年者後見人を選任してもらう必要があります。
未成年者後見人とは、親権者が辞任したり亡くなったりして、子どもの財産管理等をする人がいなくなったケースで子どもの法定代理人となる人のことです。
祖父母などがいる場合には祖父母が未成年者後見人となることが多いですが、祖父母もいない場合には、弁護士等の第三者が未成年者後見人となります。
児童福祉施設や社会福祉法人が未成年者後見人となることもあります。
(3)子どもは施設に入ることもある
親権者が辞任したとき、祖父母などが子どもを引き取れれば子どもは祖父母と暮らすことになりますが誰も引き取り手がいない場合があります。
この場合、未成年者後見人が弁護士などであれば弁護士が子どもを引き取って育てることはできません。
未成年者後見人は、法的な代理人の立場であり、子どもと一緒に過ごして養育をするとは限らないからです。
そこで、誰も引き取り手がいない場合、子どもは施設に入ることとなります。
0歳から3歳までの乳児は乳児院、4歳から18歳までの子どもは児童養護施設に入ります。
こうした施設で育つと、子どもはどうしても親に捨てられたという思いを抱きやすく自己肯定感も育ちにくいと言われています。
ただ、無理にがんばっても子どもと共倒れになるおそれがあるので勇気を持って踏み出すことも大切です。
まとめ
今回は、子供を育てられない場合の対応方法をご紹介しました。
相手が協力的な場合とそうでない場合、周囲に子どもを預けられる人がいるかいないかにより選択肢が異なってきます。
自分ではどうしたら良いかわからない場合、弁護士に相談しましょう。