「相続」は、一般的な生活を送っていると「自分には関係がない」と思われている方もいらっしゃいますよね。
しかし、親や兄弟、親戚は誰1人いないと言う人はいないかと思います。
相続は誰にでも起きるもので、とても身近な存在です。
しかも1度こじれると深刻な問題となることが多々あります。
今回はそんな相続と時効との関係についてご説明させていただきます。
ご参考になれば幸いです。
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1.相続とは何か?
そもそも相続とは、被相続人の遺産を夫や嫁、子ども等の近親者に分配する制度を言います。
普通に考えると、相続で受け取った財産に関する権利が時効で消滅と言ったことはあり得ないことになります。
しかし、「3.相続にまつわる法律上の権利と時効」で記載している通り、遺留分や相続回復請求等に時効があります。
これはなぜなのでしょうか。
それを次の項目でご説明させていただきます。
2.相続に時効制度がもうけられている理由(ワケ)
(1)そもそも時効とは?
そもそも時効とは、「とある事実状態が一定の期間継続した」場合、一定の法的効果を認める制度です。
例えば、鈴木さんが友人にお金を貸していた場合、一定期間が経過することで鈴木さんは友人に資金の返済を求めることができなくなるというものです。
これは法の力を借りて借金をチャラにしてあげると言うものではなく、一定の事実状態を法律的にも正しいと認める制度です。
(2)相続に時効があるのは?
以上のことは、相続でも同じことが言えます。
相続で権利が移転したとしても、相続がなかったと言える事実状態を法的に認めること、または第三者の取引の保護等の理由により相続にも時効があります。
(3)具体的にどんな場合に時効は問題になるの?
具体的には以下の5つの場合に問題になります。
- 遺産分割請求
- 遺留分減殺請求
- 相続放棄
- 相続回復請求
- 相続税
一見すると法律の専門用語が並んでいて、難しそうに見えるが心配はいらない。
相続は家族関係に起こる問題を解決させる制度なので、身近な具体例に置き換えるとわかりやすく、頭に入ってきます。
それでは一緒に見ていきましょう。
3.相続にまつわる法律上の権利と時効
では具体的に、相続で時効が問題になる場面についてご紹介いたします。
(1)遺産分割請求
①遺産分割請求とは
そもそも遺産分割とは、被相続人(夫)の財産を受け継ぐ者が複数いた場合に、遺言または分割の話し合いもしくは裁判によって、各相続人に分配することです。
遺産分割請求とは、遺言がない場合に相続人の一人が他の相続人に対して遺産分割の話し合いをするように要求する権利のことを言います。
被相続人の意思を最優先に考えて、遺産分割を決定します。
②遺産の分割請求には時効がある?
遺言が無い場合、相続の開始によって相続人が共有状態となり、相続人間の協議または裁判により分割されます。
とすれば、遺産分割は共有状態を解消する手続きといえるので、共有状態である限り遺産分割請求権も存続します。
すなわち、時効によりなくなるということはないです。
もっとも、時効がないと言っても安心はできません。
仮に先ほどの事例で妻、兄弟2人の間で感情的なもつれがあり協議ができず、相続分に従った分割ができない場合があるとしましょう。
そうすると、誰が管理するのかの問題が生じ、売却して相続人の間で現金分配することも容易でなくなります。
被相続人が死亡すると銀行から預金が下ろせなくなるのも、銀行は無用な相続人間の争いに巻き込まれないために、すべての相続人の署名と押印を要求するのです。
であるから、遺産を分割請求する権利は時効によってなくなることはないが、早期に相続人間で協議を行い、財産関係を取り決めておくことが必要になります。
(2)遺留分減殺請求
①遺留分減殺(いりゅうぶんげんさい)請求権とは?
例えば、夫が「愛人のAちゃんに財産を全て譲渡する」という遺言を残して亡くなったとしましょう。
遺言書の通りだと、相続人は一銭も相続することができません。
確かに遺言は、被相続人の意思を尊重することにあるが、相続には配偶者や子どもなどの残された相続人の生活を保護するという目的もあります。
そのような目的を達成するために、遺産の一部を請求できる権利として遺留分減殺請求権があるのです。
②遺留分減殺請求権は時効がある?
では、遺留分減殺請求にも時効制度が存在するのでしょうか。
遺留分権利者は、相続が始まってから本人が減殺しなくてはならない贈与又は遺贈を認識してから、1年又は相続開始時から10年を経過した場合は時効が適用されて消滅します。
この10年は期間経過により消滅します。
これを除斥期間といいます。
これは法律関係の早期安定を図ることを趣旨としています。
これに対し、一定期間他人の所有を自己の所有であると信じて他人の物を占有していると、時効により取得できる制度があります(取得時効)。
先の事例で愛人が被相続人からもらったと信じた土地を10年間占有し続けた場合、相続人の3名は遺留分減殺請求ができるのでしょうか。
この場合は遺留分減殺請求を認められます。
保護すべきは残された相続人を保護するとの相続の原則をこの場合でも適用されます。
注意が必要です。
(3)相続回復請求
①なぜ相続回復請求が必要なの?
これも具体例で説明していきたいです。
あなたが亡くなられた方の子であって、海外に住んでいた場合、一時的に日本と連絡が取れなくなり、あなただけ相続財産が分配されなかったとします。
あなたはきっと不満に思うでしょう。
このような場合に遺産を返せと要求する権利を相続回復請求権と言います。
②相続回復請求権は時効があるの?
相続回復請求権は、相続人が遺産を分配されなかった事実を認知した時から5年で消滅します。
認知していなくても、相続の開始から20年間請求しないと消滅します。
例えば、亡くなられた方の財産が土地のみであり、土地を占有する者が相続欠格者(無効な出生届により相続人と戸籍上は記載されている者、表見相続人)であった場合、相続財産を分配されなかったことを知った時から5年又は相続開始から20年以内に回復請求ができます。
(4)相続放棄
①相続放棄とは?
相続放棄とは、相続財産の受け取りを拒否することです。
そもそも相続とは、被相続人の死亡により、被相続人の権利義務を相続人に受け継がせるものだが、相続財産には土地や預貯金などのプラスの財産もあれば、ローンのようなマイナス財産も存在します。
もし被相続人が借金だらけであれば、遺産を相続する人達が被相続人が死亡した場合、多額の負債を抱え、安心して生活ができなくなる可能性が発生します。
それを回避すべく、相続自体を放棄できる制度が存在します。
②相続放棄をする権利には時効があるの?
厳密には、時効とは言いません。
相続放棄はいつまでもできるわけではなく、相続があったことを知った時から3ヶ月の間のみ相続放棄が可能とされています。
4.相続にまつわる税と時効
(1)被相続人が滞納していた税も時効の対象になる?
それでは被相続人が生前に税金を滞納していた場合、時効により消滅したと主張することは可能なのでしょうか。
相続税の支払いに関しても時効が存在します。
滞納分は最後の督促を受けてから5年(脱税の場合7年)で時効となります。
ただ、税務署は督促状を送付してきます。
これによって時効の進行が中断となるため、現実的には時効消滅はありえません。
そして、被相続人の滞納分といえども、相続の対象となります(納税義務の承継)。
ただし、相続人が複数いる場合、税務署は誰に納税書類を送ったらよいかわかりらないので通知は送られません(あくまで保留の状態)。
代表者が決まれば、税務課に届け出る必要があります。
(2)納税を回避する手段はあるの?
多くの場合、納税額が多い場合は相続の放棄をすることで滞納分の支払いを回避しています。
5.まとめ
相続は残された者たちに贈られる被相続人からの最後のプレゼントです。
そのプレゼントを有益に活用できるよう様々な制度を設けているが、プレゼントを受ける相続人側でしっかりと精査する必要があります。