「子どもが飛び出して交通事故にあったが、過失があると言われた…」
「道が狭くて子供が飛び出してきても気付けない…」
車を運転する人、小さい子どもがいる人、立場は違っても、子どもに関する交通事故に不安を持たれる方は多いのではないでしょうか。
親や保護者がどれだけ注意しても、子どもの飛び出しを完全に防ぐことは困難です。
もし、子どもが道路に飛び出して交通事故に遭った場合、そもそも子どもに過失が問えるのか、運転手はどこまで責任を負うのかなど、過失割合や責任の所在の考え方について疑問を持たれる方もいると思います。
過失割合の判断については、大人の事故でも明確な基準があるわけではなく、事故の状況に応じて検討していくのが実務です。
まして、子どもの飛び出し事故となると、過失割合の判断は子どもの判断能力や道路の状況によっても大きく左右されることが考えられます。
今回は、子どもが飛び出し事故に遭った場合の過失割合の考え方について説明したいと思います。
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目次
1.子供の交通事故の状況とは
歩行者の交通事故死傷者の中で最も多い世代は、何歳くらいだと思いますか?
実は、7歳児(小学校1年生)の歩行中の交通事故被害が、ダントツで一番多いのです。
ちょうど入学時期と重なり、単独で歩く機会が増える反面、自動車事故の危険性を判断する経験に乏しいことが理由と考えられています。
子どもの交通死傷事故の原因は、運転手の前方不注意とほぼ同率で「子どもの飛び出し」によるものが多く、全体の約4割を占めるのが実情です。
子どもの事故の特徴としては、男児の被害が女児の被害の2倍を超えること、事故の時間帯が登下校の時間帯である午前7時、午後3時に増加するという傾向があります。
また、子どもの死傷事故は、自宅から1キロ圏内で発生するケースが8割を超えるというのも特徴のひとつです。
2.子どもの交通事故で飛び出しの過失割合の考え方
(1)交通事故と過失の関係
交通事故の中でも人身事故を起こすと、「過失運転致死傷」という罪に問われることになります。
この「過失」とは、いわゆる「うっかり」のことです。
前方不注意やスピード違反など、するべき注意をしなかったことが過失の内容となります。
とはいえ、被害者側にも交通事故を発生させたり、被害が拡大する原因がある場合に事故の責任を100パーセント加害者に負わせるのが不公平な場合もあります。
このような場合に、被害者の落ち度を考慮して損害賠償額を減らす制度が「過失相殺」です。
具体的には、交通事故で被害者に100万円の損害賠償が認められたケースで、被害者の過失が30パーセントあるとすると、被害者は100万円から30パーセントの過失相殺をした70万円を受け取ることができることになります。
このように、損害賠償の金額が増えれば増えるほど、過失割合に対応する金額も大きくなります。
そのため、万が一交通事故の当事者になった場合には、加害者側も被害者側も過失割合の認定をきちんと行うことが大切です。
(2)子供の過失相殺の特徴とは
では、子どもの交通事故の場合、そもそも過失を問うことができるでしょうか。
前述のように、「過失」とは不注意のことをいうので、幼い子どもが飛び出したような場合にも不注意があったとして過失を問えるのか、それともやむを得なかったとして過失相殺されないのではないかが問題になります。
子どもの過失相殺は、無条件に認められる訳ではありません。
この点については、最高裁判所が裁判で「未成年者の過失については、その未成年者に事理を弁識する知能(事理弁識能力)があれば足りる」と判断し、この考え方が過失相殺の基準となっています。
つまり、「物事の善し悪しを判断できる能力(事理弁識能力)が備わっているか」、交通事故の場合は道路に飛び出すと危ないから飛び出してはいけないという判断ができたかどうかが問題になるのです。
この事理弁識能力は、おおむね5歳から6歳で備わるというのが裁判所の判断です。
ただし、年齢で一律に決まるわけではなく、子どもの能力を個別に検討しながら事理弁識能力が備わっているか、そして過失相殺の割合はどの程度かが検討されることになります。
また、事理弁識能力が備わったとされる6歳以上の児童(6歳から13歳未満)についても、過失割合が認められるとしても修正がくわえられ、大人よりも5~20パーセント程度過失割合が減らされる運用がされています。
したがって、子どもが道路に飛び出したことで交通事故被害に遭った場合、子どもの年齢が5歳から6歳以上であったなら概ね事理弁識能力が備わっていたとして過失割合が認められ損害賠償について過失相殺がなされます。
ただし、その場合でも、大人と同様ではなく過失割合が減らされると考えられるということができるでしょう。
(3)事理弁識能力が備わっていない場合でも過失が認められるケースとは
前述のように、子どもの過失割合が認められるためには子どもに事理弁識能力が備わっていることが必要です。
では、事理弁識能力が認められる前の幼い子どもの場合は過失割合が全く認められず、過失相殺されないかというとそうではありません。
幼い子どもの場合、子どもを監督する義務がある両親などが子どもの監督を十分にしていなかった場合に、その監督不十分について過失があるとされ「被害者側の過失」として過失相殺される可能性があるのです。
裁判では、この「被害者側の過失」、「被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失」をいうとされています。
子どもの飛び出しの場合、具体的には子どもの両親や祖父母、兄弟、叔母などに加え、両親に雇われたベビーシッターなどは「身分上・生活関係上一体の関係にある」というのが裁判所の判断です。
他方で、保育園の保母や職場の同僚、短時間だけ子どもの子守りを引き受けた近くの主婦は「身分上・生活関係上一体の関係」にないとされています。
つまり、もし保母さんが子どもの監督を怠ったために子どもが道路に飛び出して事故に遭ったとしても、被害者側の過失には含まれないというのが実務の考え方です。
3.道路状況別にみる子どもの飛び出しと過失割合とは
(1)道路と歩行者のルール
歩行者が道路を横断する場合のルールとしては、道路交通法という法律で横断歩道が近くにあれば横断歩道を渡り、信号があれば信号に従うということが定められています。
他方、自動車やバイクの運転手に対しては、歩行者が横断歩道を渡っているのを認めたときは一時停止をしなければならないとされています。
歩行者は自動車などよりも保護が厚いのが法律の運用で、過失割合を検討する際も歩行者の過失は小さくなるのが原則です。
ただし、道路の状況によって、過失割合の程度が変わってきます。
(2)横断歩道での事故の場合
①信号機が設置されている横断歩道の場合
歩行者が、信号機が設置されている横断歩道を横断中に交通事故に遭った場合、原則として歩行者の過失割合は認められません。
ただし、信号の状況などによっては以下のように過失割合が変わります。
・歩行者が横断歩道を赤信号で横断し、自動車が青信号で直進した場合
歩行者の過失割合70パーセント 自動車の過失割合30パーセント
・歩行者が横断歩道近くの道路を赤信号で横断し、自動車が青信号で直進した場合
歩行者の過失割合70パーセント 自動車の過失割合30パーセント
・歩行者が横断歩道を黄信号で横断し、自動車が赤信号で直進した場合
歩行者の過失割合10パーセント 自動車の過失割合90パーセント
・歩行者が横断歩道を青信号で渡り始めた後赤信号になり、自動車が青信号だった場合
歩行者の過失割合20パーセント 自動車の過失割合80パーセント
②横断歩道・交差点以外の道路の場合
横断歩道・交差点といった場所以外の道路を歩行者が横断して交通事故に遭った場合、歩行者の基本的な過失割合は以下のようになります。
・歩行者が横断歩道や交差点以外の片側1車線の道路を横断し、自動車が直進した場合
歩行者者の過失割合20パーセント 自動車の過失割合80パーセント
③子どもの飛び出し事故の場合の過失割合の修正とは
上記のように、歩行者と自動車の過失割合は道路の形状によって基本的な割合が規定されていますが、これに様々な事情が考慮され過失割合が調整されることになります。
・歩行者側の過失割合を減らす事情
歩行者が子どもの場合、過失割合の程度が減らされます。
具体的には歩行者が幼児の場合(6歳未満)は10パーセント、児童の場合(6~13歳未満)の場合、自動車側の過失が5程度上乗せして修正されます。
・歩行者側の過失割合を増やす事情
飛び出しの場合、歩行者側の過失割合が増やされます。
過失割合が修正される程度については、状況により異なります。
加えて、飛び出しが夜間の場合、幹線道路であるといった事情も過失割合が加えられる原因となります。
具体的なケースとしては、子どもが赤信号で飛び出したようなケースでは、70パーセント程度の過失割合が認められることが考えられます。
まとめ
今回は、子どもの飛び出しによる交通事故の過失割合について説明しました。
子どもが小さくても過失割合が認められること、親などの過失も考慮されうることに驚いた方もいるかもしれません。
子どもが交通事故に巻き込まれた場合、過失割合の認定は慎重に行う必要があります。
弁護士などに相談して適正な過失割合を認めてもらうようにしましょう。