離婚の財産分与をする際に独身時代に築いた財産は分けたくない・・・
財産分与できる財産とできない財産の境目がどこか知っておきたい・・・
離婚をする際には財産分与を行います。
財産分与は、結婚中に夫婦で築いた財産を原則として半分、2分の1ずつ分けて清算するというものです。
しかし、財産分与をすることは知っていても、どこからどこまでの財産が分与の対象になるのか気がかりな人もいるのではないでしょうか。
財産分与で分ける財産とそうでない財産の境を知っておくと後になって分けなくてもいい財産まで折半してしまったと後悔せずにすみます。
今回は、財産分与の対象になる財産の違いと境目についてご説明します。
- 交通事故
- 過払い
- 離婚問題
- 刑事事件
- 企業法務
- 遺産相続
- 労働問題
- B型肝炎
ホウツウがオススメする法律事務所が安心!
目次
1.財産分与のルールとは
財産分与の対象になる財産についてお話しする前に、簡単に財産分与とは何かをおさらいしておきましょう。
財産分与とは、夫婦が離婚した際に結婚してから築いてきた財産(共有財産)を2人で分ける手続きのことです。
このとき、離婚の理由は問いません。
共有財産として、財産分与の対象となるのは、預金、自動車、不動産、株式や年金などが含まれます。
財産分与では、夫婦の財産を半分ずつ、つまり2分の1ずつ分けるのが原則的な考え方です。
この理由は夫婦共有財産は、夫婦が結婚生活を送る中でお互いに協力して築き守ってきたものとされるからです。
2分の1ルールは、たとえば妻が専業主婦で収入がなかった場合でも変わりません。
外で働く夫は、家事を担当して家を守る妻の協力があったからこそ、収入を得て財産を築くことができたと考えられるからです。
ただし、夫婦のどちらかが資格や特殊な才能をいかして高い収入を得ていた場合には、2分の1ルールが当てはまらないこともあります。
たとえば、数億円の財産を持つ医師と離婚する妻が財産分与について争ったケースでは、妻は財産形成にあまりかかわっていないとして2分の1ルールが当てはまらないとされた裁判例があります。
2.財産分与の対象になるかどうかの境目「共有財産」と「特有財産」の違いとは
では、上記のように原則として半分ずつわけられる財産分与ですが、どのような財産が対象になるのでしょうか。
実は財産分与は、夫婦が持っている全財産が対象になるわけではありません。
財産分与をする際に確認をしておかなければ、分けなくてもいい財産を分けてしまったということにならないようにしっかり押さえておきましょう。
財産分与の対象になる財産は、土地・建物などの不動産、車、結婚生活に必要な家財道具、預金、株などの有価証券、生命保険(掛け捨てでないもの)などです。
これらの財産が夫婦のどちらか一方の名義になっていた場合でも、その財産を得るためにはもう一方の協力があったとされるため財産分与の対象になります。
このような財産分与の対象になる財産を「共有財産」と言います。
他方で、結婚する前に貯めた預金、相続した財産などは財産分与される財産には含まれません。
このような、財産分与されない財産を「特有財産」と言います。
次から共有財産、特有財産についてどのような財産が含まれるのか詳しく見ていきましょう。
3.財産分与の対象になる「共有財産」とは
(1)名義だけでは決められない、共有財産の判別方法
財産分与される財産のことを「共有財産」といいます。
先に述べたように共有財産とは、結婚期間中に夫婦が協力して築いたり守ってきた財産のことをいいます。
実質的に「夫婦の協力で築いたり維持してきた財産かどうか」という観点で判断されるため、財産の名義は問いません。
たとえば、結婚中にマンションを買った場合、そのマンションの名義が夫婦の共同名義であっても夫の単独名義であっても、夫婦双方の協力があってこそ買えたものなので共有財産となります。
同じように、夫婦どちらか一方の名義で貯めていた預貯金や掛け捨てではない保険の解約金も共有財産になります。
(2)共有財産かどうかを判断するタイミングとは
夫婦で持っている財産が共有財産として財産分与される財産となるかどうかは、いつの時点で判断されるでしょうか。
これは「別居したとき」に夫婦の共有財産と言えるかどうかを基準に確定するのが原則です。
離婚時点でないことに注意が必要です。
離婚前であっても、別居した後は夫婦が協力して財産を築いたり守ったりすることは考えにくいためです。
(3)共有財産の具体例
夫婦の話し合いで財産分与を決める場合、合意していれば分ける財産に制限はありません。
以下では、話し合い分けられず裁判などになった場合に、共有財産として分けられる財産と分け方について説明します。
①土地、建物やマンションなどの不動産
夫婦で所有している不動産は共有財産となります。
分け方は時価で算定するのが通常で売却してお金を分け合うか、夫婦のどちらかが住み続ける場合は半額に相当するお金を他方に渡すのが一般的です。
②夫婦の預貯金
結婚期間中に貯めたお金については、口座の名義がどちらか一方の名義であっても財産分与される共有財産となります。
③株
夫婦が結婚中に別居を始めた際に株を持っていた場合、別居した時の株式が共有財産として財産分与の対象として折半されます。
株を売った場合は、売った金額が財産分与されることになります。
④子どもの名義の預金
夫婦の一方が、子どもの名義で預金していた場合、共有財産として財産分与の対象になる場合があります。
具体的には、夫婦の収入を子ども名義の口座に入金していたようなケースでは財産分与される財産に含まれますが、子どもの入学費用や結婚資金など、貯金の目的が子どものためのものであることが明らかなケースでは親から子どもへの贈与として財産分与の対象外となることもあります。
⑤保険
夫婦の一方が生命保険や学資保険に加入している場合、保険も共有財産として認められます。
金額は保険会社が別居した時点で見積もった解約返戻金をベースに算定します。
⑥退職金
夫婦の一方がもらう退職金も共有財産になるというのが実務の運用です。
といっても、夫が退職前に離婚する夫婦の方が多いでしょう。
この場合、結婚してから別居するまでの間の退職金に相当する金額が共有財産となり、将来の退職金全額が共有財産として認められるわけではありません。
退職金の計算は定年前に自己都合で退職した場合は、目安となる退職金相当額を計算したり、退職日が近い場合は定年退職の退職金から別居後の労働分や中間利息を差し引いて計算するなど複雑な計算が必要になります。
夫婦の一方が退職を考えている場合は特に、弁護士などに相談してみましょう。
(4)借金がある場合の共有財産の考えかたとは
借金がある場合、財産分与の対象である共有財産に影響が生じます。
①借金の方がプラスの財産より少ない場合の財産分与
たとえば、夫婦で住宅を買った際に夫名義で組んだ住宅ローンの残高が1,000万円あり、夫名義の預貯金が2,000万円あるケースを考えてみましょう。
借金を考慮しなければ預貯金を1,000万円ずつ、不動産も半分ずつということになりますが、夫だけが1,000万円の借金を背負い続けるため不公平な結果になります。
そこで、借金の名義に関わらず、夫婦の結婚生活のために必要だった場合には、プラスの財産からマイナスの財産を引いて残ったプラスの財産が財産分与される財産になると考えます。
つまり、預貯金の2,000万円から借金の1,000万円を引き、残った1,000万円が財産分与される財産となり半分の500万円ずつ分けるということになるのです。
②借金の方がプラスの財産より多い場合の財産分与
ただし、預貯金などプラスの財産より借金などのマイナスの財産の方が多い場合、預貯金などより借金の方が多い場合には別です。
具体的には、夫名義の預貯金が1,000万円、住宅ローンが2,000万円残っていた場合、夫が全預金を借金返済に充当しても1,000万円の借金が残ります。
では、この残った借金を財産分与として妻が半分返さなければいけないかというと、そういうことにはなりません。
この場合は分ける財産がないということになり妻としては借金を払わなくていい反面、財産分与も貰えないということになります。
話し合いの段階では一定程度の分与が認められることもありますが、裁判になると認められない可能性が高くなるといえるでしょう。
4.財産分与の対象にならない「特有財産」とは
(1)特有財産の考え方とは
財産分与の対象にならず、分けなくてもよい財産のことを「特有財産」といいます。
特有財産には、次の2つの財産が含まれます。
①結婚前から夫婦の片方が有していた財産
独身時代に夫婦のそれぞれが自分でためたお金などの財産です。
②結婚中に夫婦の協力とは無関係に得た財産
親や親族から贈与された財産や相続した財産等です。
借金がある場合にはマイホームの購入など、夫婦の生活を維持するためにした借金は財産分与の対象になりますが、次のような借金は財産分与の対象になりません。
③収入に見合わない高額な借金
夫婦の一方が生活レベルと比べて明らかに高いブランド品を買ったり、浪費した場合の借金です。
④ギャンブルなどの借金
夫婦の一方がギャンブルをするため等にした借金は、生活のためとは言えないので借金した本人だけが背負うことになります。
(2)特有財産の注意点
上記のように、独身時代から貯めていた預貯金などは特有財産として、離婚するときに財産分与する財産には含まれないというのが原則です。
ただし、結婚期間中に得た財産は、夫婦の共有財産と推定されることが法律で決められています。
そのため、離婚するときに「これは親からもらったお金だから財産分与で相手に分けたくない」といったケースでは、この財産が特有財産であるということの証明は主張する当事者が立証しなければならないのです。
具体的には、次のような場合では本来特有財産であったとしても共有財産として財産分与の対象になることがあるので注意が必要です。
①日常生活のお金と同視されるケース
普通預金のように入出金の履歴が多いものだと、特有財産として認められないことがあります。
②贈与や相続した証拠がないケース
親や親族から贈与や相続で得た財産も夫婦の協力で得たものでないこと、つまり特有財産であることを示す証拠がなければ、共有財産として財産分与の対象に含まれてしまいます。
贈与や相続があったことの証拠になる、贈与契約書や遺産分割協議書ですが身内でやり取りする場合は、そうした書面を残さないこともあるので注意が必要です。
③不動産購入の頭金を出してもらったケース
若い夫婦がマイホームを購入するというときに、親などに頭金を出してもらったという人もいるのではないでしょうか。
このとき、頭金の支出は贈与にあたるので財産分与の時に調整が必要になることがあります。
たとえば、3,000万円のマンションを購入するのに妻が親から500万円の頭金を出してもらい、財産分与するときには住宅ローンは完済、マンションの評価額が1,500万円になっている、というケースを考えてみましょう。
マンション購入時に妻が親に出してもらった500万円は購入時の3,000万円の6分の1にあたるので、今のマンション価値に当てはめると1500万円×6分の1=250万円に相当します。
とすると、この250万円が妻の特有財産になり1500万円から250万円を引いた1250万円が財産分与の対象になるということになります。
5.特有財産をはっきりさせたい場合の対処法とは
新婚当時は「独身時代に貯めたお金は夫婦の新生活のために使おう」と思っていても、離婚するときにはご自身が一生懸命貯めたお金や親からもらった大切なお金を分けることに抵抗を持つ方が大半です。
そこで、ご自身の財産を特有財産として明確に境目を引くために、次のような方法が有効です。
(1)夫婦財産契約
既に結婚している場合は利用できませんが、婚姻届を役所に提出する前までに「夫婦財産契約」を結んで登記することで、結婚前に貯めた財産が夫婦の一方のものであることを証明することが可能です。
外国の有名人のニュースではよく話題になりますが、日本では利用している人はごくわずかです。
財産分与を検討している夫婦の場合は利用できませんが、お子さんが結婚を考えていて独身時代の資産に大きな差があるような場合には検討の一つとしても良いかもしれません。
(2)贈与契約書、遺産分割協議書の作成
結婚中に親などから贈与を受けたり、相続する機会があった場合には証明する書類を作成しておきましょう。
作成した書面が法的にも効力を持つかは署名、日付、金額の記載など、いくつかの条件があること、また金額によっては贈与税がかかることもあるので心配な場合は専門家に相談してみましょう。
また、必要に応じて「【無料ダウンロードOK】遺産分割協議書の雛型と書き方」も併せてご参照ください。
(3)通帳履歴などの準備
贈与を受けた場合の贈与契約書などがない場合は通帳の履歴などから、その財産が特有財産であることを正目しなければいけません。
銀行に依頼して取引履歴を出してもらうこともできますが、昔の履歴だと時間がかかったり、最近は個人情報保護を理由になかなか応じてくれないこともあります。
通帳の記帳は都度行い、ご自身でも管理しておくようにしましょう。
まとめ
いかがでしょうか。
財産分与をする際に、どこまでが共有財産として財産分与の対象に含まれるのか、どこからが特有財産として分けずに持っておけるかの境目は、今回の解説のように実態に即して考えていく必要があります。
大変なようですが主張するご自身で証明しないと、分けなくてもいい財産を分けることになってしまいます。
財産分与で悩まれる場合は弁護士に相談すれば、特有財産の境目や照明のための手助けをしてくれます。
離婚後の新しい生活を少しでも経済的な不安を少なくスタートさせるためにも、心配な場合は弁護士に相談してみましょう。
また、必要に応じて「財産分与とは?対象になる財産や計算方法、請求方法も解説!」と「離婚時財産分与で多額の支払いを受ける方法!注意点や請求手続きも解説!」も併せてご参照ください。