自転車事故の慰謝料の相場と請求方法について

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現代社会で生活している以上、交通事故に遭うことを完全に避けることは出来ません。

自分がどれだけ注意していても、相手方車両がぶつかってくることなどもあります。

また、近年では自動車やバイクの交通事故だけでなく、自転車事故も大きな社会問題となっており、道路交通法も改正されて自転車の運転に対する規制なども強まっています。

実際に、自転車事故で高額な慰謝料になる可能性があります。

自転車事故で発生する慰謝料に関して、賠償金の計算法方や請求方法は基本的に認知されていません。

ですので今回は、自転車事故の慰謝料に関してご説明いたします。

※この記事は2017年5月10日に加筆・修正しました。

1.自転車事故の慰謝料も車の交通事故と同じ

自転車は、とても気軽に使える乗り物です。
近くでも遠くでも気軽に乗っていくことができて、とても便利です。

子供でも高齢者でも、誰でも利用しています。
しかし、ふだん自転車に乗っている人でも、自転車事故については強く意識している人は少ないと思います。

自転車での交通事故(自転車事故)は意外と多いです。
自転車事故でも重傷を負うこともあるし、ときには死亡事故も起こります。

自転車で相手方を転倒させて後遺障害が残った場合などには、相当高額な慰謝料の支払いが必要になる可能性もあります。

もし、自転車事故が起こった時、慰謝料に関してどのような計算方法や考え方になるのでしょうか。

自転車事故の場合、自動車の交通事故とはどう違うのかに関しても知りたいと思います。

この点、自転車による交通事故でも自動車やバイクの交通事故でも慰謝料の考え方や計算方法は変わりません。

自転車だから慰謝料が低くなるわけでがありません。

ですので自転車事故の慰謝料を考える場合には、通常の自動車やバイクの交通事故の慰謝料の考え方を理解しておく必要があります。

2.自転車事故の慰謝料の種類は3つ

自転車事故と、通常の自動車事故の慰謝料が同じになるということは理解できたでしょうか。
それでは、交通事故の慰謝料自体の考え方や計算方法に関してご説明いたします。

交通事故の慰謝料には、3種類があります。

  1. 入通院慰謝料
  2. 後遺障害慰謝料
  3. 死亡慰謝料

です。

なお、交通事故で自転車が壊れたなどの、いわゆる「物損」に関しては金銭が発生することはありません。

どれほどの高級自転車や思い入れのある自転車であっても、自転車が壊れたこと自体については慰謝料請求することは出来ないので、注意する必要があります。

自転車事故の中でも人身損害が発生したケースにのみ、慰謝料が発生します。

早速だが、自転車事故の慰謝料について、一つ一つ見ていきましょう。

1つ目の入通院慰謝料とは、自転車事故が原因で受傷した被害者が治療を受けるために病院に入通院を余儀なくされたことに対して発生する金銭です。

2つ目の後遺障害慰謝料とは、自転車事故によって後遺障害が残った被害者に対して支払われる金銭です。

3つ目の死亡慰謝料とは、自転車事故が原因で被害者が亡くなった際に発生する金銭です。

自転車事故の場合であっても、これらの慰謝料の種類や計算方法は自動車の交通事故の場合と変わりません。

自転車事故だからと言って慰謝料の金額が減額されることはないので、たとえば重大な後遺障害が残った事故や、死亡事故の場合には数千万円以上の莫大な慰謝料が発生する可能性があります。

3.入通院慰謝料について

自転車事故の慰謝料の中でも、まず1つ目の入通院慰謝料とはいったいどのようなもので、どのように計算するでしょうか。

入通院慰謝料は、先ほどにもご説明したとおり、自転車事故の被害者が傷害を負って病院などに入院や通院したことに対する慰謝料です。

入通院の治療費(実費)とは別に支払われます。
入通院慰謝料の計算方法は、入通院にかかった日数によって異なります。

交通事故の損害賠償額の計算基準に関しては、何通りかの計算方法があります。
ですが、その計算方法を使っても入通院にかかった日数が長くなればなるほど賠償額は高くなります。

また、通院期間よりも入院期間の方が慰謝料の金額は高くなります。

例えば、裁判基準の計算方法を使ったら、「入院1ヶ月・通院1ヶ月」とすると入通院に対する金銭は約「52万~77万円」です。

通院のみ2ヶ月なら慰謝料の金額は36万~72万円程度になります。
通院6ヶ月なら慰謝料は89万~116万円程度、通院12ヶ月なら慰謝料は119万~154万円程度になります。

具体的には以下の表の通りです。
通常は以下の別表Iで計算することになります。

むち打ちで他覚症状がないような場合には、別表Ⅱで計算する必要があります。

入院慰謝料

入院慰謝料2

自転車事故の場合には、軽傷であることも多く、入院はせず数日間通院するだけで済むこともあります。
このような場合には、入通院慰謝料の金額は1万~数万円程度になることが多いでしょう。

このように、入通院慰謝料の金額は入通院日数がどれだけかかるかによって大きく異なります。
そして、その考え方は自転車事故でも同じであることを覚えておくと良いでしょう。

4.後遺障害慰謝料について

次に、自転車事故の後遺障害慰謝料について見てみましょう。
後遺障害慰謝料とは、先にもご説明したとおり、自転車事故によって被害者に後遺障害が残ったことに対する慰謝料です。

後遺障害に関しては、交通事故が原因で受傷した箇所の症状が固定した状態です。
固定後、治療を続けたとしても症状が回復せず残存した症状のことです。

後遺障害に関しては、「等級」という制度があります。
基本的に、「1級〜14級」の等級が存在します。

等級の中で一番高い等級は「1級」で、一番低い等級が「14級」です。
たとえば両目を失明したり、両手や両足を失った場合などは1級に認定されています。

自動車の交通事故でよくあるむち打ち症などは、一番軽い14級に分類されます。
等級の中で最も高額なのが「1級」です。

また、裁判基準を採用すると、「1級」の金銭の額は約2800万円です。
これに対し、たとえば6級なら1180万円程度、14級なら110万円程度です。

具体的には以下の表の通りです。

後遺障害等級 後遺障害 自賠責基準 任意基準(推計) 裁判所基準
第1級 1.両眼が失明したもの 1,100万円 1,600万円 2,800万円
2.咀嚼及び言語の機能を廃したもの
3.両上肢をひじ関節以上で失ったもの
4.両上肢の用を全廃したもの
5.両下肢をひざ関節以上で失ったもの
6.両下肢の用を全廃したもの
第2級 1.1眼が失明し,他眼の視力が0.02以下になったもの 958万円 1,300万円 2,370万円
2.両眼の視力が0.02以下になったもの
3.両上肢を手関節以上で失ったもの
4.両下肢を足関節以上で失ったもの
第3級 1.1眼が失明し,他眼の視力が0.06以下になったもの 829万円 1,100万円 1,990万円
2.咀嚼又は言語の機能を廃したもの
3.神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの
4.胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの
5.両手の手指の全部を失ったもの
第4級 1.両眼の視力が0.06以下になったもの 712万円 9,00万円 1,670万円
2.咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの
3.両耳の聴力を全く失ったもの
4.1上肢をひじ関節以上で失ったもの
5.1下肢をひざ関節以上で失ったもの
6.両手の手指の全部の用を廃したもの
7.両足をリスフラン関節以上で失ったもの
第5級 1.1眼が失明し,他眼の視力が0.1以下になったもの 599万円 750万円 1,400万円
2.神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
3.胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
4.1上肢を手関節以上で失ったもの
5.1下肢を足関節以上で失ったもの
6.1上肢の用を全廃したもの
7.1下肢の用を全廃したもの
8.両足の足指の全部を失ったもの
第6級 1.両眼の視力が0.1以下になったもの 498万円 600万円 1,180万円
2.咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの
3.両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
4.1耳の聴力を全く失い,他耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
5.脊柱に著しい変形又は運動障害を残すもの
6.1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
7.1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
8.1手の5の手指又はおや指を含み4の手指を失ったもの
第7級 1.1眼が失明し,他眼の視力が0.6以下になったもの 409万円 500万円 1,000万円
2.両耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
3.1耳の聴力を全く失い,他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
4.神経系統の機能又は精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの
5.胸腹部臓器の機能に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの
6.1手のおや指を含み3の手指を失ったもの又はおや指以外の4の手指を失ったもの
7.1手の5の手指又はおや指を含み4の手指の用を廃したもの
8.1足をリスフラン関節以上で失ったもの
9.1上肢に偽関節を残し,著しい運動障害を残すもの
10.1下肢に偽関節を残し,著しい運動障害を残すもの
11.両足の足指の全部の用を廃したもの
12.女子の外貌に著しい醜状を残すもの
13.両側の睾丸を失ったもの
第8級 1.1眼が失明し,又は1眼の視力が0.02以下になったもの 324万円 400万円 830万円
2.脊柱に運動障害を残すもの
3.1手のおや指を含み2の手指を失ったもの又はおや指以外の3の手指を失ったもの
4.1手のおや指を含み3の手指の用を廃したもの又はおや指以外の4の手指の用を廃したもの
5.1下肢を5センチメートル以上短縮したもの
6.1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
7.1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
8.1上肢に偽関節を残すもの
9.1下肢に偽関節を残すもの
10.1足の足指の全部を失ったもの
第9級 1.両眼の視力が0.6以下になったもの 245万円 300万円 690万円
2.1眼の視力が0.06以下になったもの
3.両眼に半盲症,視野狭窄又は視野変状を残すもの
4.両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
5.鼻を欠損し,その機能に著しい障害を残すもの
6.咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの
7.両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
8.1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり,他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
9.1耳の聴力を全く失ったもの
10.神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
11.胸腹部臓器の機能に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
12.1手のおや指又はおや指以外の2の手指を失ったもの
13.1手のおや指を含み2の手指の用を廃したもの又はおや指以外の3の手指の用を廃したもの
14.1足の第1の足指を含み2以上の足指を失ったもの
15.1足の足指の全部の用を廃したもの
16.生殖器に著しい障害を残すもの
第10級 1.1眼の視力が0.1以下になったもの 187万円 200万円 550万円
2.正面を見た場合に複視の症状を残すもの
3.咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの
4.14歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
5.両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
6.1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
7.1手のおや指又はおや指以外の2の手指の用を廃したもの
8.1下肢を3センチメートル以上短縮したもの
9.1足の第1の足指又は他の4の足指を失ったもの
10.1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
11.1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
第11級 1.両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの 135万円 150万円 420万円
2.両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
3.1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
4.10歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
5.両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
6.1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
7.脊柱に変形を残すもの
8.1手のひとさし指,なか指又はくすり指を失ったもの
9.1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの
10.胸腹部臓器の機能に障害を残し,労務の遂行に相当な程度の支障があるもの
第12級 1.1眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの 93万円 100万円 290万円
2.1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
3.7歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
4.1耳の耳殻の大部分を欠損したもの
5.鎖骨,胸骨,ろく骨,けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの
6.1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
7.1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
8.長管骨に変形を残すもの
9.1手のこ指を失ったもの
10.1手のひとさし指,なか指又はくすり指の用を廃したもの
11.1足の第2の足指を失ったもの,第2の足指を含み2の足指を失ったもの又は第3の足指以下の3の足指を失ったもの
12.1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの
13.局部に頑固な神経症状を残すもの
14.男子の外貌に著しい醜状を残すもの
15.女子の外貌に醜状を残すもの
第13級 1.1眼の視力が0.6以下になったもの 57万円 60万円 180万円
2.正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの
3.1眼に半盲症,視野狭窄又は視野変状を残すもの
4.両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
5.5歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
6.1手のこ指の用を廃したもの
7.1手のおや指の指骨の一部を失ったもの
8.1下肢を1センチメートル以上短縮したもの
9.1足の第3の足指以下の1又は2の足指を失ったもの
10.1足の第2の足指の用を廃したもの,第2の足指を含み2の足指の用を廃したもの又は第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの
11.胸腹部臓器の機能に障害を残すもの
第14級 1.1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの 32万円 40万円 110万円
2.3歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
3.1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
4.上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
5.下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
6.1手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの
7.1手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの
8.1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの
9.局部に神経症状を残すもの
10.男子の外貌に醜状を残すもの

このように後遺障害慰謝料の金額は、残った後遺障害の内容によって大きく異なります。
よって、後遺障害慰謝料を決定するには、どのような後遺障害、どの程度の後遺障害が残ったかが大変重要になります。

また後遺障害慰謝料は、当然後遺障害が残った場合にしか発生しません。

自転車事故で軽傷の場合などには後遺障害が残らないケースも多く、そのような場合には後遺障害慰謝料は発生しないことにも注意が必要です。

そしてこのことは、自動車や自転車の交通事故でも変わりません。

5.死亡慰謝料について

自転車事故の慰謝料の種類には、死亡慰謝料もあります。
死亡慰謝料とは、先ほどもご説明したとおり自転車事故が原因で被害者が亡くなった場合に生じる金銭です。

当然ですが、基本的に「死亡慰謝料」の金額は高額です。
被害者が亡くなった場合の「死亡慰謝料」の計算方法に関しても、基準があります。

裁判基準(弁護士基準)を用いると、

  • 一家の大黒柱の人が死亡した場合には死亡慰謝料の金額は2800万円から3600万円程度
  • 母親や配偶者の場合には2000万円から3200万円程度
  • 子どもの場合には1800万円から2600万円程度

となっており、死亡者がどのような人であったかによって金額が異なってくる面もあります。

自転車事故が原因で被害者が亡くなった場合も、これらの死亡慰謝料の支払いが必要です。

計算方法は自動車事故の場合と変わらないので、ケースによっては非常に高額な慰謝料支払いが必要になる可能性もあることには注意が必要である。

6.自転車事故の慰謝料の支払いが受けられない?

自転車事故は一般的に、自動車事故の金銭の計算方法と同じです。
ただ、自転車事故の慰謝料を考える際に、自動車事故とは異なり注意しなければならない問題があります。

それは自転車事故の場合には、自動車やバイクの事故の場合と異なり自賠責保険がなく、しかも任意保険にも加入していない人が多いと言うことです。

基本的に自動車を運転する際には、「自動車損害賠償責任保険」の加入義務が法律で決められています。
自賠責(自動車損害賠償責任保険)とは、交通事故が起こった時に被害者に対して最低限の損害賠償を補償する保険です。

よって、自動車事故の交通事故にあった場合には、最低限自賠責保険からの賠償は受けられることになります。

この場合、裁判基準よりも低い自賠責基準になるが治療費などもまかなえるし、最低限の慰謝料も支払われるのです。

基本的に、自動車を運転する際は「任意保険」に入っています。

相手方が「任意保険」に入っている場合は、自賠責から支払われる金銭では足りない場合に関しては、任意保険会社に支払いを求めることができます。

この方法によって、交通事故の被害者は全額の交通事故慰謝料の支払いを受けることが出来ます。

しかし、各保険がある自動車事故の事案に対して、自転車事故に関しては、運転者が自賠責にも任意保険にも入っていない場合が殆どです。

自転車の場合には自賠責はないし、任意保険に加入している人の数もまだまだ少ないからです。
すると、自動車事故で相手方無保険の車と交通事故を起こした場合と同じような結果になってきます。

具体的にどのようなことになるかというと、被害者は最低限の自賠責保険からの賠償も受けられないし、もちろん任意保険会社からの支払いも受けられないことになってしまいます。

賠償金は、事故の相手方個人に請求するしかないのです。

この場合、自転車事故の相手方が話のわかる人ですんなり示談が出来る場合や相手方に資力があってスムーズに支払いが受けられれば良いが、実際にはそのようなケースは少ないです。

たとえば、自転車事故のうちでも軽傷や物損のみの事案で、数千円、数万円程度の支払いで済む場合には相手方と直接交渉して支払いを受けることも出来るでしょう。

これに対して、重大な後遺障害が残ったり死亡事故が起こって、数千万円を超える慰謝料が発生した自転車事故の場合などには、当然慰謝料の支払いが出来ない人が多くなってきます。

自動車事故の場合、保険会社からは確実に支払いが受けられます。
ですが、自転車事故で保険に入っていない場合は、個人から数千万円単位の慰謝料を取り立てるのは困難です。

たとえ裁判をしても、資力のない者から取り立てることは難しいので、結局被害者は慰謝料の支払いを受けられないままになってしまう可能性が高いです。

ですので、自転車事故で金銭が発生した場合でも、相手方から金銭を受け取れなくなる可能性が高いです。

7.損害の計算や証明が難しくなることもある

自転車事故の場合の慰謝料について、もう一つ自動車事故とは異なる注意点があります。
それは、金銭の計算や証明が難しくなる可能性があるからです。

例えば、自動車事故では、「自賠責」や「任意保険会社」が対応します。

ですので、それなりに法律や損害賠償の計算方法に詳しい人(保険会社の従業員や専門家など)が担当して、正確に損害を認定したり計算することができます。

損害賠償の示談交渉においても、法律や計算方法を熟知している人が行うので無駄な争点でもめてトラブルになりません。

後遺障害の等級認定も、自賠責で行えるので、スムーズに手続きをすすめることが出来ます。

しかし、これに対して自転車事故の場合にはそうはいきません。
保険会社が関与しない以上、すべて事故の当事者である個人が対応しなければなりません。

また、自動車損害賠償責任保険会社のように、事故状況や治療経過などをきちんと調査出来る環境にないので、実際の事故状況や治療経過について当事者間に争いがあっても、それを証明することが出来ません。

そうなると、話し合いを続けても妥協点を見いだすことが難しいです。

結局、自転車事故の場合には、自賠責や任意保険会社が関与せず、すべて当事者である個人どうしが自分で示談交渉をしなければならないことによってこれらの問題が起こってきます。

そして、素人が自分たちで損害賠償計算をして示談交渉するとなると、そもそも交通事故の損害賠償の計算方法がわかりません。
何をどのように請求して良いのか見当もつかないことが多いです。

後遺障害の認定をしてくれる機関がないので、実際に後遺障害が発生しているのかや、発生しているとしても何級になるのかなどについても判断出来ないことになります。

さらに、事故の当事者同士が自分で対処することによって、感情的になってしまい、争点が多岐に及んで肝心の慰謝料などの損害賠償の話し合いが全く進まないこともあります。

このように、自転車事故の場合には、素人の当事者が自分たちで話し合いをすすめるために、損害の計算や交渉が非常に困難になる可能性が高いという問題があります。

以上のように、自転車事故の場合には、保険会社の関与がないので、後遺障害の認定方法や損害の内容の証明、示談交渉の進め方においても困難を伴うことが多いことにも注意が必要です。

8.過失相殺について

自転車事故の慰謝料については、過失相殺の問題も重要です。
過失相殺とは、その交通事故の過失の度合いによって、損害賠償額を減額することです。

自転車事故の場合であっても、どちらかが100%悪いということは通常少ないので、それぞれの過失割合を決定する必要があります。

過失相殺が行われると、その分請求出来る慰謝料の金額が減額されるので、どのような割合で過失相殺するかは重要です。

自動車事故の場合は、状況別に分けられていて状況に応じてどうのような過失割合になるか決められています。

実際に事故が起こった場合には、この考え方に従ってあてはめてみれば当該事故の場合にどのくらいの過失割合になるかわかります。

しかし、自転車事故の場合には、過失割合に就いての考え方が固まっている状況ではありません。
状況によっての過失割合が綿密に定められていません。

ですので、個々の状況によって対応し、決定する必要性が出てきます。

このような過失割合の決定は、専門家でも難しいことがあるでしょう。
ましてや素人である個人同士が対応しなければならないことの多い自転車事故の場合には、なおさら過失割合の決定が困難になります。

このように、自転車事故の場合には、そもそもケース別の過失割合の考え方についてはっきりとした定めがない上に、当事者どうしが自分たちで話し合ってこれを決めなければならないので、慰謝料支払いについての示談交渉が困難になることに注意が必要です。

9.自転車保険への加入を検討する

以上のように、自転車事故の場合には、自賠責保険や任意保険が対応していないので、基本的に素人の事故当事者が自身で対応せざるを得ません。

このことが原因で、慰謝料請求においてもさまざまな困難をきたすおそれが高いです。
また、自分が慰謝料を支払う側になった場合にも、保険がないと言うことは大変なことです。

ときには数千万円にも及ぶ慰謝料の金額を、全額自己負担で支払う必要があるからです。

支払いが出来ないなら、被害者から裁判をされて、預貯金や給料などから取り立てをされても文句は言えないです。

このような自転車事故のリスクを可能な限り抑えるには、自転車保険への加入を検討することです。

自転車事故で対人賠償で限度額を無制限にしておけば、相手方への損害賠償や慰謝料の支払いについては保険会社が負担してくれます。

また、損害賠償の計算方法や示談交渉においても、保険会社に入っていれば相手方と直接対峙せずに済みますし、専門家が損害を計算してくれるので、損害賠償の計算方法がわからなくなることはありません。

このように、自転車を運転する場合にも自転車保険に加入しておくことは重要です。
自転車事故の慰謝料問題のリスクを避けたいなら、保険会社への加入は必須と言えます。

まとめ

今回は、自転車事故の慰謝料について特集しました。

自転車事故の慰謝料も、その計算方法や考え方自体は通常の自動車事故やバイク事故の事案と変わりません。
賠償の種類も同じで、「入通院慰謝料や後遺障害慰謝料、死亡慰謝料」などがあります。

金銭に関しても、自転車事故だからと言って減額されることはなく、ときには数千万円の支払いになる可能性もあります。

ただし、自転車事故ならではの注意点もあります。
自転車事故の場合には、自賠責保険がないので、最低限の賠償金の支払いすら受けられないことがあります。

また、任意保険に入っていないことが殆どですので、金銭が発生した場合でも、相手方に資力が無ければ金銭を受けとることが非常に難しいです。

事故の当事者が素人どうしで示談交渉しなければならないので、示談交渉がスムーズにすすまず、後遺障害の認定や事故状況、治療経過などの証明などにも困難を伴います。

過失割合の決定方法も確立されていないので問題になる可能性が高いです。
このように、自転車事故の慰謝料には自動車事故にはない問題が多数含まれています。

自転車事故での慰謝料のリスクを最小限におさえるには、まずは自転車の保険に加入しておくことが最善の方法です。

自転車に乗ることがある方におかれては、是非ともご参考ください。

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