政府の進める働き方改革とは?裁量労働制など具体的事例と法的リスクを徹底解説

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政府は「働き方改革実現推進室」を設け、労働基準法の改正など、働き方改革のための様々な方策をとっています。

とはいえ、働き方改革と言っても具体的にどのように労働環境を変えていけばいいのかわからないという企業も少なくないでしょう。

そこで今回は、働き方改革の具体的な内容と、その内容に応じた法的リスクなどについて解説します。

1.働き方改革が求められる背景


政府が働き方改革を推進しようとする背景には、労働力人の減少が挙げられます。

労働力人口とは、15歳以上の人のうち現に就業している者と求職中の失業者を合わせたもの、いいかえれば働く意思と能力をもった者の人口をいいます。

少子高齢化の進むわが国の現況では、労働力の中核である生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)の減少に伴い、労働力人口も急速に減少し続けており、人手不足など様々な問題が生じることが懸念されます。

また、長時間労働のようなこれまでの労働についての慣習が労働生産性を低下させているとの批判がありました。

このような労働力人口の減少や労働生産性の低下を放置すれば、国力・経済力の低下は避けられません。

そこで、労働力人口を増やし労働生産性を向上させるべ「働き方改革」が提唱されるようになったのです。

2.働き方改革の指針


働き方改革の目的が、①労働力人口を増やすこと、②労働生産性を向上させることにあるとして、その実現のためにはどうすればいいでしょうか。

まず、①の労働力人口を増やすには、

  • 女性や高齢者など、現在労働力人口に含まれない人の働く場所・機会を確保する
  • 少子化対策により将来の労働力を確保する

ことが考えられます。

②についても、長時間労働の見直し、テレワークや裁量労働制の導入など様々な方策が考えられます。

また、これらの方策をとることは子育てをしやすい環境を作ることにもなり、少子化対策にもつながるといえます。

3.働き方改革の具体例

1)テレワーク

①テレワークとは何か

テレワークとは、tele(離れた所)とwork(働く)を組み合わせてつくられた言葉で、ICT(情報通信技術)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方とされています(総務省HPより)。

テレワークは、企業が雇用する従業員が行う企業型と個人事業主が行う自営型に分類することができます。

・雇用型

在宅勤務、モバイルワーク、施設利用型勤務(サテライトオフィス等を利用するもの)

・自営型

SOHO(Small Office/Home Office)、内職副業型勤務

②テレワークのメリット

テレワークには、次のようなメリットがあります。

・労働力人口の増加

これまで就労が困難であった障害者、高齢者の就労の機会の拡大につながることが期待されます。

・少子高齢化対策

育児や介護を理由とする離職を防止するとともに、子育てをしやすい環境を作ることで出生率の低下を防ぐことも期待できます。

・営業効率・顧客満足度の向上

迅速な対応により営業効率や顧客満足度を上げることが期待されます。

・コスト削減

オフィスのスペース削減、通勤や交通費の削減が期待されます。

(2)裁量労働制

①裁量労働制とは

裁量労働制とは、労働時間を実際の労働時間ではなく、あらかじめ決められた一定の時間であるとみなし、給与を支払う制度のことです。

実際にどれだけ働いたかに関係なく給与が計算されるため、労働者に不利益となるおそれもあります。

そのため、どのような業種であっても採用できるわけではなく、次のいずれかに該当する場合のみ、裁量労働制を採用することができます。

・専門業務型裁量労働制

業務の性質上、専門性が高く、業務遂行の方法や時間配分を労働者の裁量に任せることが適切と考えられる業務として厚生労働省令などで定められた業務について、裁量労働制を採用することができます。

主な業務は、次のようなものです。

  • 研究開発
  • 情報処理システムの分析・設計
  • 新聞、出版、放送の取材、編集
  • デザイナー
  • 放送、映画のプロデューサー、ディレクター
  • コピーライター
  • システムコンサルタント
  • インテリアコーディネーター
  • ゲーム用ソフトウェアの創作
  • 証券アナリスト
  • 金融商品の開発
  • 大学の教授研究
  • 公認会計士
  • 弁護士
  • 建築士
  • 不動産鑑定士
  • 弁理士
  • 税理士
  • 中小企業診断士
・企画業務型裁量労働制

いわゆるホワイトカラーを対象とするもので、企業の本店・本社などにおいて企画、立案、調査、分析を行う労働者について、採用労働制の採用を認めたものです。

企画業務型裁量労働制が認められるのは、本社・本店の事業場のほか、事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行われる事業場、本社・本店の指示を受けずに当該事業場の事業の運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行っている支社・支店に限られ、本社・本店の具体的指示に基づいて営業活動のみを行うような支社・支店には認められません。

②裁量労働制を導入するための手続

専門業務型裁量労働制を導入するには、労働組合(労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者)と労使協定を結び、労働基準監督署に届け出なければなりません。

協定で決めなければならないのは、

  • 対象となる業務
  • 業務遂行の手段、方法、時間配分等について具体的な指示をしないこと
  • みなし労働時間
  • 労働者の健康・複視を確保するための措置の具体的内容
  • 苦情処理のための措置
  • 協定の有効期間

などです。

また、企画業務型裁量労働制を採用するには、労使各側を代表する委員から組織される労使委員会を設置し、労使委員会の委員の5分の4以上の多数による議決が必要とされており、より厳格な手続が要求されています。

③裁量労働制の特徴

業務遂行の方法、時間配分が裁量にゆだねられていることから、出退勤の時間を指示されることはありません。

出退勤時間が自由ということで、いわゆるフレックスタイム制と同様のものと思われる方もいるかもしれませんが、フレックスタイム制は始業時間と終業時間を労働者の裁量にゆだねるだけで、実際に労働した時間をもとに給料が算定される点が異なります。

また、実際の労働時間と関係なく、労使協定で定めた時間について働いたものとみなされ、給与が計算されます。

近年、賃金や手当にあらかじめ一定の残業代を含ませておく「みなし残業」の制度を採用する企業も増えましたが、これはあくまで残業に関するものですから、裁量労働制とは異なる制度です。

④裁量労働制のメリット

1日当たりの実際の労働時間が決められるわけではないので、各人のライフスタイルに合わせた働き方が可能になります。

また、効率よく働き、みなし労働時間よりも短い時間で仕事を終えることができれば、実際の労働時間と比較して割高の賃金をもらうことができることになるので、労働者のモチベーションを上げる効果も期待できます。

また、使用者にとっても、実際の労働時間に基づいて残業代等の給与管理をする必要がなくなり、事務処理上の負担を軽減することができます。

4.裁量労働制の法的リスク


裁量労働制には多くのメリットがありますが、デメリットがないわけではありません。

労働者側からみれば、みなし労働時間が実際の労働時間よりも大幅に短い場合には、不当に賃金を低く抑えられていることになります。

また、使用者側にとっても、デメリット、リスクがあります。

代表的なものとしては、以下のようなものが考えられます。

(1)時間外、休日、深夜の手当て

裁量労働制は、労働者の労働時間を実際の労働時間ではなくあらかじめ決められた時間とみなす制度にすぎず、時間外、休日、深夜の手当てなどは別途計算されることになります。

したがって、労働者が休日や深夜に長時間働くようなことがあると、休日手当などで使用者が想定したよりも多くの人件費を要する結果となるおそれがあります。

このような事態を避けるには、休日や深夜の労働を許可制にするなどの対策をとる必要があります。

(2)裁量労働制を採用できる業種にあたらない場合

裁量労働制を採用できる業種は法律で制限されていますが、法律の規定が抽象的であるため、裁量労働制が認められる業務か否かがあいまいな業務がありえます。

そのため、使用者が裁量労働制の採用が可能と判断し、労使協定を結んだ後、労働者との間で裁量労働制が認められる業務か否かが争いになり、多額の残業代を請求されるおそれがないとはいえません。

したがって、事前に労働裁量性の採用が可能な業務に該当するかを慎重に検討する必要があります。

(3)労使協定の有効期間を徒過した場合

労使協定の有効期間については、厚生労働省の通達で3年以内が望ましいとされていることから、それにならう企業がほとんどです。

有効期間の経過後も裁量労働制を継続したい場合には、改めて労使で協定を結ぶ必要があります。

もし、新たな協定を結ぶことを失念していると、通常通りの残業代が発生することになるので、後日、多額の残業代を請求されるおそれがあります。

ですから、裁量労働制の継続を希望する場合には、期限が経過する前に労働者側と協議を始める必要があります。

まとめ

今回は、働き方改革とその具体的内容、法的リスクについて解説しました。

裁量労働制をはじめとする新たな制度については、メリットばかりでなくデメリット、あるいはリスクもありますので、新たな制度を導入するかは慎重な判断が必要です。

判断に迷った場合には、労働問題を専門とする弁護士に相談するといいでしょう。

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