養育費とは、離婚後の子どものための生活費のことをいいます。
離婚した相手からの養育費の支払いが滞っており、子どもを育てるのに困っている、というお悩みをお持ちの方もいるかもしれません。
相手が稼いでいるのに養育費を支払わないというような場合は、給料などを差し押さえることによって、養育費の回収ができることがあります。
今回は、養育費が不払いの場合に少しでも早く、確実に養育費を回収するための4つの方法について解説します。
※この記事は2017年10月23日に加筆・修正しました。
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目次
1.養育費はいつからいつまで請求できる?
養育費とは、離婚した後の子どもの看護、教育に必要な生活費のことを指します。
具体的には、子どもが成長し自立できるようになるまでに必要な、教育費や医療費、衣食住のための費用などのことです。
養育費が請求できるのは、離婚した親の合意がある場合は合意した日から、調停・審判・裁判で決めた場合にはその申立をした日からとされています。
養育費が請求できる期限は、一般的には子どもが満20歳に達する月までとされています。
ただし、子どもが高校卒業後18歳で働き始めた場合や16歳で結婚して成人とみなされた場合は養育費の支払い期間が短くなったり、反対に親の学歴や経済的水準が高い場合に、大学卒業まで養育費の支払いが認められた裁判例もあるなど、養育費がいつまで請求できるかは事情によって様々です。
養育費の支払い期限については、当事者間で十分に話し合って決めましょう。
2.心理的プレッシャーをかけて養育費支払いを促す、内容証明郵便の送り方
離婚した相手方に、養育費の不払いがある場合、まずは「いつまでに」「いくらの金額を」「この方法で」支払うよう明記して、電話や手紙、メールなどで伝えましょう。
それでも相手が応じない場合の第1の方法として、内容証明郵便を送ることを検討しましょう。
内容証明郵便とは、「いつ」「誰が」「誰に対して」「どのような内容の手紙を送ったか」について、郵便局が証明する手紙のことをいいます。
内容証明を作成するためには、同じ文章を3通用意します。
文章は用紙1枚につき520字以内で書き、複数のページにわたる場合は、ホッチキス等で止めた上で各ページに差出人の印鑑で割印を押印する必要があります。
これを郵便局に持ち込み、内容証明郵便として送付してもらいます。
通常郵便料金に加え、内容証明料金と書留料金、配達証明料金が加算された費用が必要になります。
内容証明郵便の法的な効力としては通常の郵便と変わらないのですが、一部が郵便局に保管されるため請求したことの証拠として有効で、銀行などの督促でも利用される制度です。
特に、弁護士名で内容証明郵便が届くと相手が驚いて養育費を支払うケースも多いので、まずは内容証明郵便を利用して、養育費の支払いを請求してみるとよいでしょう。
また、必要に応じて「意外と簡単! 内容証明郵便を送る方法【雛型ダウンロード可能】」も併せてご参照ください。
3.内容証明でも不払いなら裁判所の力を借りる、調停の申し立ての方法とは
養育費の支払いについて当事者間で話し合い、約束をしているにも関わらず、相手方が養育費を不払いの場合やそもそも養育費について話し合いがまとまらない場合は、第2の方法として家庭裁判所に調停の申し立てを検討しましょう。
調停は、裁判所を通して行う話し合いの制度です。
調停で合意し、調停調書に記された内容は判決と同一の効力が認められます。
合意した後に養育費の不払いがあるようなケースでは、これに基づいて強制執行を行い養育費を回収することもできます。
反対に、調停をしても養育費の支払いについて合意できない場合には、審判を家庭裁判所に求めていきます。
4.履行しなければ過料もある、履行勧告で養育費の回収を目指す方法とは
養育費の支払いについて、調停調書や裁判の勝訴判決がある場合は第3の方法として履行勧告を出すことができます。
履行勧告とは、調停や審判の内容が順守されない場合に家庭裁判所に申立てることで、裁判所から履行を勧告する制度のことを言います。
心理的プレッシャーをかけて養育費の不払いを解消するのに有効な制度ですが、利用する条件として調停調書や勝訴判決が必要です。
単なる当事者間の合意や公正証書があるだけでは利用できないので注意しましょう。
さらに、履行勧告でも養育費を支払わない場合は、履行命令を出すことができます。
履行命令とは、申し立てを家庭裁判所におこない、一定期限内に義務の履行を命令する制度のことを言います。
履行命令に法的効力はないので、これだけでは相手に対して強制的に養育費を支払わせることはできません。
しかし、正当な理由なく履行命令に従わない場合は10万円以下の過料が科せられるので、心理的プレッシャーは更に大きくなると言えるでしょう。
5.履行勧告・履行命令でも応じないなら強制執行の検討を-養育費回収の第4の方法
(1)強制執行とは
履行勧告でも養育費の不払いが解消されない場合には、第4の方法として強制執行の申し立てを検討してみてください。
強制執行とは、確定判決や調停調書、公正証書などで養育費を支払うべきとされた側が期限を過ぎても支払わない場合に、裁判所が支払う側の給料や預貯金、不動産や車などの財産を差押え、そこから強制的に取立てを行う制度のことをいいます。
給与は、相手の勤務先から取り立てることになり、不動産や車などの財産は競売して現金化され、そこから債権が実現されることになります。
(2)強制執行をするために確認しておくべき2つのポイント
強制執行をするためには、まずは①債務名義と②差し押さえる財産の2つを確認しておく必要があります。
①債務名義
債務名義とは、強制執行をするために必要な文書のことです。
強制執行で実現を求める予定の請求権があること、請求権の範囲、誰が債権者で誰が債務者かということを記載した公的な文書になります。
具体的には、裁判離婚した際の判決書、調停離婚の調停調書や和解離婚の和解調書、協議離婚した際の公正証書などがあります。
債務名義の中に、養育費に関する記載があるか、特に公正証書の場合は、請求する内容が金銭などで、「債務不履行になった場合は、強制執行されても結構です」という旨の執行任諾条項が記載されていることを確認しましょう。
②差し押さえる財産
強制執行で差押えの対象となる財産としては、給与・賞与・役員報酬・退職金、預貯金などの金員、家財道具・貴金属・車などの動産、自宅などの不動産、自営業者の会社の売上などがあります。
相手方の勤務先が分かっている場合は給与などと預貯金に対して強制執行を行うのが通常です。
但し、給与の差押えには制限があり、給与の額面収入から税金と社会保険料を引いた2分の1については、差し押さえることができないと法律で決められています。
もし養育費を滞納した場合は、将来支払われる給与についても強制執行が可能です。
ただし、将来の養育費については、養育費の支払期限後に受け取る給料からしか回収できないことが法律で決められており、一度に回収できるわけではありません。
現在既に養育費の支払いがされておらず、これからも支払ってもらえるか不安だというようなケースでは、強制執行の手続きをとることをお勧めします。
また、仮に相手が破産しても養育費の支払い義務は残るので、養育費全額の支払いを請求することできます。
(3)強制執行するのに必要な書類5つ
強制執行を行うには、①強制執行申立書、②執行文、③債務名義の正本の送達証明書、④確定証明書(債務名義が判決書・家事審判書の場合)、⑤申立書に添付する印紙・郵便切手が必要です。
①強制執行申立書
強制執行の申立書は、A4サイズの用紙に以下の書類を揃えて作成します。
- 表紙
- 当事者目録(債権者や債務者の住所などの情報を記載します)
- 請求債権目録(請求する金額を記載します)
- 差押債権目録(目的の金額や相手方の勤務先を記載します)
②執行文
執行文とは、裁判所が強制執行できることを証明するための、「この債務名義に基づいて強制執行をすることができます」という内容が書かれた書面のことです。
債務名義が、家事審判書・調停調書(一部例外有)の場合は、執行文は不要です。
執行文の付与の申立ては、債務名義に書かれた裁判所に、執行文付与の申立書と債務名義の正本を提出して行います。
公正証書に基づいて強制執行する場合には、上記の書類に加えて印鑑証明書などを添えて公証役場で手続を行います
③債務名義の正本の送達証明書
債務名義の正本の送達証明書とは、債務名義が強制執行を受ける相手側に届いていることを証明する文書をいいます。
債務名義に書かれた裁判所に、公正証書の場合は公証役場に申請します。
④確定証明書
裁判や審判によって離婚した場合、その内容が確定していることを証明するための書類が確定証明書です。
債務名義が、調停調書、和解調書、公正証書の場合は、確定証明書は不要です。
⑤申立書に添付する印紙・郵便切手
申立ての基本手数料として4,000円分の印紙を裁判所に提出します。
郵便切手については、裁判所によって異なるので、申し立てる裁判所に確認してみましょう。
上記以外にも相手の給与を差し押さえる場合には、第三債務者(相手方に給与の支払い義務がある勤務先)の資格証明書や第三債務者が支払い意思の存否を回答する書面を添付する必要があります。
また、債務名義に書かれた住所や氏名が変わっている場合は、債務名義記載の住所や氏名から現在に至るまでの住民票や戸籍謄本を揃えて添付しましょう。
これらの書類が揃ったら、全部合わせて裁判所に提出します。
まとめ
養育費が不払いの場合に取るべき対応は、相手の資産の状況や支払い意思によって異なります。
強制執行するとなると、揃えるべき書類も増えますし、手間もかかります。
確実に養育費を回収するために、お困りの場合はまずは弁護士などの専門家に相談してみるとよいでしょう。