休職後、復職するのに産業医に復職は無理と言われた・・・
ブラック産業医がいると聞いたが、どんな医者に相談したらいいか分からない・・・
近年、職場でうつ病やメンタルヘルス上のトラブルで会社を休職する人が増えています。
復職する際には本人の意思が確認されることに加えて、会社が指定する医者の判断が重視されます。
ところが、昨今は「このまま退職させたい」というような会社の意思を反映して、復職を認めない内容の診断をするブラック産業医の存在が問題になっています。
今回は、ブラック産業医の実態と会社が復職を認めない場合の対処法についてご説明をしたいと思います。
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目次
1.産業医とブラック産業医の違いとは
(1)本来なら社員の味方になるべき産業医の役割とは
産業医とは、会社などではたらく従業員が健康で快適な環境で仕事ができるように、医師としての専門的な立場から指導や助言を行う医師のことを言います。
日本の法律では、一定の規模以上の会社においては、必ず産業医を選任しなければいけないと決められています。
具体的には、業種にかかわらず、常時50人以上の従業員がいる会社では、産業医を1人以上選任しなければならないと決められており、会社の規模や業務内容によっては、2人以上の産業医が必要だったり専属にすることが求められています。
産業医の主な仕事は、会社と業務委託契約を結び、従業員の健康管理をすることです。
詳しい専門知識を持ち、働く人の健康が損なわれることを予防したり、従業員の心身の健康を保ち増進する役割を担っています。
そのため、一定の研修を受けたり、特定の大学を卒業したり、保健衛生を中心とした労働衛生コンサルタント試験に合格している人など、様々な条件が課せられています。
(2)ブラック産業医とは
ブラック産業医とは、産業医の中でも会社と結託して従業員を解雇できるように働く医師のことを言います。
具体的には、会社が休職している従業員を辞めさせたがっているような場合に、その従業員が実際には復職できる状態に回復していても、まだ復職できないと勝手に判断して、会社と組んで従業員を辞めさせるように働きかける不当解雇に手を貸す医師のことです。
このようなブラック産業医がクビ切りビジネスに加担しているとして、先日弁護士らが厚生労働省に申し入れを行うなどして警鐘を鳴らしています。
また、必要に応じて「いきなり解雇された!不当解雇の際の対処法まとめ」も併せてご参照ください。
2.ブラック産業医の実態とは
では実際に、ブラック産業医はどのようにして会社と結託して従業員を辞めさせるように仕組んでいくのでしょうか。
具体的には、会社の上司のパワハラなどによってうつ病を発症し、休職後に復職を希望した従業員に対し30分程度の面談を1回しただけで統合失調症などの重い病名をつけ、復職は認められないとの診断を出したケースがあります。
この従業員は、主治医からは復職できるとの診断書をもらっていましたが、産業医は一度も問い合わせをすることもなく、短時間の面談のみで復職不可と判断し会社もこの診断を尊重したことによって従業員は退職に追い込まれました。
また、長時間労働で精神疾患を発症した男性が、約1年半の休職期間中に症状が回復したため復職を希望したのに、産業医が主治医と意見交換をしたり職場を見に行くこともなく、面談で暴言を吐くなどした挙句に3回にわたって復職を認めなかったケースもあります。
この従業員は、休職から2年後に社内規定で退職となりましたが、会社への退職無効と産業医への損害賠償を求める裁判にもなっています。
ブラック産業医が職場にいると同様に不当解雇されるケースは複数になることもあります。
不当に解雇された場合には、弁護士に相談して退職無効を裁判で争うなどして身分を回復する方法も検討するとよいでしょう。
3.復職を認めない会社への対処方法とは
(1)休職中に回復すれば原則復職できる
メンタルヘルスのトラブルやうつ病、病気やケガといった傷病などが原因で会社の業務ができなくなった場合に、会社が従業員を休ませることを休職と言います。
そして、会社が定めた休職期間中に、症状が回復した場合は原則として復職することが認められています。
特に、休職した原因が上記のブラック産業医の具体例のように、パワハラや長時間労働といった会社の業務にある「労災」の場合は、休職期間中と休職明け30日間は解雇してはいけないと法律で定められているのです(労働基準法)。
(2)禁止されている不当解雇に屈しない
他方で、休職期間中に回復しなかった場合には、退職か解雇ということになりますがこちらも不当に解雇することは禁止されています。
休職期間が満了したことにより自動的に退職扱いにするには、就業規則でその旨が明示されていなければいけないことになっています。
また、就業規則で休職期間の満了をもって解雇されるという内容が示されていないと解雇はできないのが原則ですし解雇する場合には通常の解雇と同様に、1ヶ月前の解雇予告が必要とされています。
このような原則を無視した退職扱いや解雇は認められません。
お悩みの場合は、まずは労働問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。
(3)産業医の判断が信用できない場合の対処法
休職期間が満了して復職できるかどうかの判断には、医師の診断が大きな意味を持ちます。
ここでいう「医師」とは、産業医をはじめ会社が指定する医師を指すのが通常です。
しかし、休職中に通っていた主治医の判断と産業医の判断が異なることもあり、上記お事例のように主治医は復職可と言っても産業医が復職は無理ということもあります。
多くの場合で、会社は産業医の判断を指示する傾向にありますが、具体例のように悪質なブラック産業医の場合は、復職できるのに復職できない事態になりかねません。
厚生労働省にブラック産業医の実態について申し入れをした弁護士は、産業医は50時間程度の講習を受ければ、専門に関わらず産業医の認定を受けられること、複数の会社と契約すると多額の報酬を受けることができるため、支払元である会社に迎合して正しい診断を出せないのではないかということに懸念を示しています。
同時に、産業医と主治医の判断に違いが出る場合には、産業医は主治医にしっかり意見を聞くことやうつ病などメンタルヘルスの問題で休職した場合の復職は、精神科の医師以外の産業医が勝手に判断しないことが必要などの見解も述べています。
休職後に復職を希望し、主治医は復職できると判断したのに産業医が認めないために復職できないような場合は、味方となる弁護士に相談して適切な判断をしてもらうように交渉をしていきましょう。
(4)職種の配置換えで復職できるか検討する
復職する場合は、雇用契約の内容として職種が限定されているかどうかが問題になることがあります。
まず、職種が限定されていないつまり異動や配置換えが予定されている契約の場合はどうでしょうか。
この場合、復職後に前と同じ仕事をすることは難しい場合でも、負担を軽くした職種に異動させるなどの手当てをすることによって、休職後の復職を支援すべきということが裁判でも示されています。
反対に、同時に、専門職や客室乗務員のように職種が限定されている契約の場合は多少事情が異なります。
裁判では、そもそも異動が予定されていない職種が限定された職種の場合は、復職後に同じ職種に就けず、異動できる職種もないケースでは休職期間の満了が解雇理由となってもやむを得ないと判断されています。
しかし、同時に直ちに復職することが難しくても、比較的短い期間があれば復職できるような状態であれば、会社の状況や休職理由などを鑑みてリハビリ的な勤務期間や訓練制度を実施するなどの対策を講じることが必要とされています。
そして、このような対策を検討せずに解雇することは禁止されると示されています。
(5)不当解雇を裁判で争うことを検討する
復職できる状態であるにも関わらず、ブラック産業医と手を組んだ会社によって復職できず、不当解雇されたような場合は、泣き寝入りをする必要はありません。
不当解雇されても復職したい場合には、会社による解雇の無効を主張して争うこともできるのです。
労働局等を間に入れて交渉することもできますが、裁判を利用する方が有効ですしかかる時間も短くて済みます。
では、具体的な裁判手続きを見ていきましょう。
①労働審判
労働審判とは、労働審判委員会(裁判官1人、労働審判委員2人で成り立ちます)が意見や証拠を原則3回以内で出し合って審理する手続です。
従業員と会社の話し合いがまとまらない場合は、労働審判員会は退職と引き換えにお金の支払いを命じることが可能です。
もし、従業員側か会社側かどちらかが納得できない場合は裁判に移ります。
労働審判は、退職と引き換えに金銭面での解決を目指すため、復職したい場合には希望と異なる結果となるリスクがありますが、不当解雇された会社に復職したくないけれど金銭的に解決したい場合にはとても有効な方法と言えます。
②裁判
裁判では、解雇の無効と従業員であるという地位にあることの確認請求と解雇されてから未払い状態の賃金の請求が争われることになります。
個別のケースや事情にも影響されますが、訴えてから判決まで約1年程度かかるのが通常です。
しかし、1年も賃金が未払いの状態が続くと生活に困るケースもあるでしょう。
そのような場合は、裁判で判決が下されるまでの間、仮の処分として従業員の地位にあることと賃金の支払いを求める申し立てをすることができ、これを「仮処分」の申立てといいます。
仮処分の申し立てをして、およそ3か月程度で仮処分が出ると、その後、およそ1年程度の判決が出るまでの間の賃金の仮払いが認められることが多くなっています。
③退職金の請求をする問題点とは
不当解雇とは、法律や規則を無視して会社が従業員を一方的に解雇するなどの解雇権の汎用にあたることを言います。
そして、退職金は退職時に会社から支払われる金員を指します。
会社の不当解雇を争い、解雇が無効であると争うときに退職金を請求することは、自分から退職を認めることになります。
安易に退職金を請求すると会社の解雇を受け入れたといえる行為と判断される恐れもあるので注意しましょう。
もし、会社が勝手に退職金を振り込んできたといったケースでは、賃金の未払分に充当するといった内容を伝えるなどしておくことがお勧めです。
まとめ
いかがでしたか。
最近話題のブラック産業医ですが、医師という専門家が会社と結託して復職させないというくび切りビジネスに加担していることに、驚いた方もいるかもしれません。
もし、ブラック産業医によって復職させてもらえないような場合には、一人で会社を相手に争うのは大変です。
また、知らずに退職金を受け取るなどすると、不利な条件として判断される恐れもあります。
このようにブラック産業医と会社によって復職できない場合には、味方になってくれる弁護士に相談して、今後のために最も良い結果につながる方法を検討しましょう。