電通違法残業にみる労務管理を弁護士に相談するべき理由と弁護士選びの注意点

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先日、電通の違法残業事件が大きな社会問題になりました。

従業員の過労自殺という悲惨な結果はもちろんですが、法人としての会社が労働基準法違反に問われ、罰金50万円の有罪判決を言い渡されたことに衝撃を受けた方もいるのではないでしょうか。

違法残業、残業代請求だけでなく、パワハラやメンタルヘルス、解雇など、会社は日頃から多くの法的問題に直面しています。

問題行動を起こす社員を叱ればパワハラ、放置すれば他の社員の士気が下がるなど、対応に苦慮している上司や経営者、労務担当の方は少なくないでしょう。

そのような場合に、労務管理を弁護士に相談することで、問題を解決できるだけでなく、そもそも生じそうなトラブルが紛争化する前に解決できる場合もあります。

今回は、労務管理を弁護士に相談することのメリット・デメリットを含めた理由と弁護士を選ぶ際にどのような点に注意すればいいのかをお話ししていきたいと思います。

1.弁護士相談を検討すべき労務管理の内容とは


労務管理とは、労働者である従業員の募集・採用から、教育訓練、配置や移動、人事考課、労働時間や賃金の管理、退職までの一連の流れを管理することをいいます。

会社の利益を上げて存続・発展させるためには、労務管理によって従業員が働く環境を整えることが必要になります。
労務管理は、具体的には次のような点で必要になります。

(1)雇用契約関係

会社と従業員は、相互に雇用契約を締結します。
雇用契約書に盛り込むべき内容は、正社員かパート社員かといった雇用形態によっても変わってきます。

雇用契約の締結は、労務管理のスタートも言える点ですが、この時から多くの押さえておくべきポイントが生じます。

(2)就業規則、関連規則関係

一定の規模以上の会社になると、就業規則の整備が必要になります。
育児介護休暇規定など関連諸規定を含む就業規則を作成したり、整備しておくことが求められます。

(3)異動、人事考課関係

従業員を異動や配置転換させることは労務管理のひとつです。
また、適正な人事考課に基づく昇格、昇進や場合によっては降格がされているかも含まれます。

(4)賃金、残業、昇給関係

昨今、未払い残業代が社会的な問題になっていますが、残業代を巡るトラブル防止も労務管理に含まれます。
また、考査により昇給や賞与が適切に査定されているかも同様です。

(5)職場環境整備関係

電通の違法残業事件に代表されるような、労働時間の管理は昨今重視される労務管理のひとつです。

36協定等の協定が適切に遂行されているかどうか、管理運用することが求められます。
また、セクハラ、パワハラ、マタハラの防止も職場環境の整備として重要な事項です。

(6)休職、退職関係

昨今、メンタルトラブルで休職する人が増えていると言われています。
こうした休職を巡る紛争の防止や、退職勧告、解雇を巡るトラブルを防止することが、労務管理の一環として求められます。

2.労務管理のトラブルを未然に防ぐ弁護士相談とは


「労務管理などの労働問題を弁護士に相談」

というと、実際に紛争が生じてから弁護士に相談したり依頼するというイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。

しかし、実際に紛争として現実化する前に弁護士に相談することで、その課題やトラブルが紛争として具体化する前に解決することができる場合は少なくありません。

具体的には、次のような相談を事前にしておくことで、労働問題が大きくなることを防ぐ効果が期待できます。

(1)雇用契約書の整備や見直し

前述のように、雇用契約書は従業員を正社員として雇うのか、あるいは契約社員やパート社員として雇うのかによって盛り込むべき内容が変わってきます。

まず、正社員として雇用する場合の契約書には、試用期間の有無、採用する労働時間制、人事異動や転勤、職種変更の有無などを押さえておかなければいけません。

次に、契約社員として雇用する場合であれば、所定労働時間(原則として1日8時間以内かつ週40時間以内であること)、5年で無期契約に転換できること、就業規則の労働条件を下回っていないこと、正社員に比べて不合理な労働条件がないこと、労働条件が明示されていることを契約書で押さえておく必要があります。

更に、パート社員の場合には、雇用契約が有期か無期か、終業時刻や終業時刻の記載があるか、最低賃金に抵触しない賃金が法や規則にのっとって決められているか、そしてこれらの内容が雇用契約書に網羅されているかといった点が重要になります。

このように、雇用形態によって押えるべきポイントが異なる契約書の内容を、事前に弁護士に相談してリスクを回避しておくことで、契約条件に関する労働問題の発生を防ぐ効果が期待できるのです。

(2)就業規則の制定への対応

就業規則は、ネットには雛形が多く掲載されています。

そのような雛形をそのまま利用したり、都合の良いところを切り貼りして就業規則を作成することによって、自社の会社の運営とのミスマッチが生じ、労使トラブルの元凶となることもあります。

事前に弁護士に相談して就業規則の作成、チェックを受けることによって、後々の労使紛争を防いだり、万が一裁判になった場合に不利にならないように備えることが可能になります。

(3)休職、退職に関する手続きの整備

昨今、メンタルヘルスの不調やうつ病で会社を休職する人が増えています。

休職期間が満了しても症状が改善しなかった場合は、自然退職や解雇の対象とすることが可能ですが、きちんと手順を押さえておかなければ紛争になりやすいテーマです。

事前に弁護士に相談することで、休職を命じる時期や、復職の条件、休職期間満了時の取り扱いをきちんと定めておくことに加え、都度対応のアドバイスを受けることが、実際の紛争の防止につながります。

(4)労働基準監督署の対応

労働基準監督署(労基署)は、会社が法律を守っているかをチェックする行政機関です。

そして、従業員や退職者の通報などによって、ある日突然、法律の遵守の状況を確認するために調査に来ることがあります(申告監督)。

具体的には、出勤簿、タイムカード、36協定、就業規則、労働者名簿、労使協定、賃金台帳などのチェックを行い、法令順守の状況を確認します。

法令や規則を遵守していれば問題ないのですが、不意打ちのケースでは対応できない場合もあり得ます。

弁護士に相談することで、こうした事態に備えることもできますし、依頼して労基署の調査にたちあってもらうことで、行き過ぎや目的が不明の調査を指摘して会社の権利を守ってもらうことができます。

また、必要に応じて「予防法務とは何か?法律問題や紛争を避ける為に企業が最低限用意しておくべき法務を解説」も併せてご参照ください。

3.労働問題のトラブル発生後の弁護士相談


上記のように、労務管理を弁護士に相談して整えていても、どうしても労働問題が発生する場合があります。
そのような場合でも、弁護士に相談することで、迅速な解決を目指すことが期待できます。

労働問題に発生しやすいトラブルとしては、次のようなケースが考えられます。

(1)残業代請求

未払い残業代の請求は、会社と労働者の間で最も多いトラブルの類型になっています。

特に、管理職(管理監督者)の働き方と残業の問題やみなし残業として低額の残業代を支払っていたけれどそれを超過した場合、残業を禁止していたのに勝手に残業した社員から残業代を請求される場合など、ケースも多様化しています。

加えて、残業代の請求と言っても、法定内残業なのか、法律の上限を超えて働いた場合なのかによって、割増残業代になるかどうかが変わるなど、支払う金額にも影響します。

残業代の請求に対して、適正に対応するためには、タイムカードや業務管理ソフトなどによる記録の管理が大切になります。

未払いの残業代の請求が正当なものである場合には、真摯に対応しなければいけませんが、明らかに残業を禁止していたにもかかわらず勝手に残業を繰り返して残業を請求するような場合には、毅然とした対応を取ることが求められます。

過去の裁判例に基づいて対応していくことも求められるため、弁護士に相談して対策を講じることが有効です。

(2)労働基準監督署による是正勧告

労働基準監督署が、会社に対して、労働基準法に違反している点を「是正勧告書」で指定して行政指導を行うこと「是正監督」といいます。

行政指導のひとつである是正監督は、従わなくても罰則などはありませんが、放置しておくと書類送検されたり、懲役や罰金刑を含む厳しい処分に発展することもあるので注意してください。

是正監督は、内部告発や退職した社員が申告することがきっかけとなることが大半です。

申告される内容としては、サービス残業の強制や、残業代の未払いがあること、法定労働時間に違反した勤務をさせられているとか、労働条件が違うこと、就業規則が作成されていないことなどが対象になることが多いようです。

一度是正勧告を受けると、会社側の対抗手段はほぼないと言えますが、それでも主張すべき点はきちんとすべきです。

弁護士を介して伝えるべきことは伝え、日頃の法令順守の意識や取組みを伝えるようにして行きましょう。

(3)労働組合との交渉

労働組合は、賃上げ交渉をしたり、労働協約を締結するなどの目的を達成するために、会社側(使用者側)と団体交渉を行う権利を有しています。

会社側が、正当な理由がないのに団体交渉を拒否すると不当労働行為として法律違反とされるので注意してください。

とはいえ、団体交渉をする際の日時や場所、出席者や参加人数などは、労働組合に従う必要はありません。

特に、社長の出席要求や、労働組合事務所での開催を求められたような場合、膨大な資料提出の要求などに応じていると、交渉が紛糾したり長引く恐れがあるので、総務課長を会社代表としたり、ホテルでの開催を行うなど変更をすることをおすすめします。

但し、日時については、要求された日が都合が悪いからといって、あまりにも先延ばしにすると団体交渉を拒否したと捉えられないことや、所定労働時間内に行うと労働時間内の労働組合活動を認めたことになるので注意が必要です。

(4)裁判対応

労務管理上のトラブルから派生した労働問題は、時として裁判に発展することがあります。

具体的には、休業の扱いや退職を巡るトラブル、残業代の請求などについて、労働審判や裁判で会社が訴えられることは少なくないのが実情です。

このような場合に備えて、弁護士に依頼して労務管理をしていることで、弁護士が会社の代理人として法廷に立つなどの対応を任せることができます。

必要な証拠を揃えたり、裁判の期日の度に法廷に出向いて主張を繰り返すのは大きな負担になりますが、日頃から会社の労務管理の状況を把握している弁護士ならば、有効に法廷弁護活動を進めることができます。

4.労務管理に強い弁護士選びの注意点

(1)労務管理の弁護士の2つの種類

弁護士に労務管理を依頼する場合は、依頼する弁護士のスタンスをきちんと把握し、「会社側」の労務管理に慣れた弁護士を選ぶことが何より重要です。

というのも、労働問題を扱う弁護士には、「会社側の弁護士」と「労働者側の弁護士」の2種類があるからです。

「会社側の弁護士」は、これまで述べてきたような労務管理や、労働基準監督署との対応などを行い、会社の代理人として裁判を行うなどの活動をします。

他方「労働者側の弁護士」は、労働者の代理人として、会社と争ったり、労働者の権利を主張することを目的としています。

弁護士は、皆同じ資格を有しているので、本来ならだれに頼んでもできる活動は同じです。

しかし、殊に労働問題に関しては、会社側か労働者側かによって、弁護士のスタンスや考え方は大きく異なり、有する経験値も変わってきます。

会社の労務管理を相談する場合には、「会社側の弁護士」を選ぶことが重要なのです。

(2)労務管理を相談できる弁護士の選び方

会社側の弁護士と、労働者側の弁護士の2種類があると言っても、どうやって見分ければいいのか分からないという方もいらっしゃるかと思います。

そこで、ここでは、会社側の弁護士の選び方の3つのポイントをご案内したいと思います。

①検索キーワードで絞り込む

今、この記事をご覧いただいている方の中には、労務管理を相談できる弁護士をインターネットで探すことを検討されている方が多いのではないでしょうか。

かつて、会社の相談は「企業法務」といって、代々付き合いがある弁護士や、大手の専門事務所に依頼するケースが大半でした。

しかし、約10年前に弁護士の広告が解禁されてからは、労務管理などの企業法務を扱う事務所の情報もネットで多く探せるようになりました。

ネットに情報をあげている事務所や弁護士は、比較的若手で気概がある事務所も多いので、探してみる価値があると言えるでしょう。

とはいえ、「労働問題 弁護士」などというキーワードで検索すると、多くが「労働者側の弁護士」がヒットします。

そこで、労務管理を相談したい場合には「使用者」「使用者側」という言葉がキーワードになります。

この「使用者」「使用者側」というキーワードをつけて、「相談したい内容に関連するキーワド」、そして「弁護士」というワードで検索すると、会社側の弁護士が格段に見つけやすくなります。

その中で、会社の経営方針を理解できる弁護士かどうか、相談の中で検討してください。

②弁護士に相談する場合の相談料をチェックする

弁護士の相談料は、弁護士や法律事務所によって異なります。

個人で弁護士に相談する場合は、相談料がかかる場合でも30分あたり5,000円+消費税の相談料というのが一つの目安になっていますが、会社の相談の場合、これより多少高くなることが多いようです。

また、会社で今後相談を依頼したり、顧問弁護として付き合っていく場合には、弁護士相談料や弁護士報酬の体系がどうなっているかを事前に確認しておきましょう。

企業法務をメインの業務としている弁護士事務所の中には、相談料などを「1回いくら」ではなく、タイムチャージ制にしているところも少なくありません。

このような事務所では、メールのチェックにも10分いくら、などと決められていることもあるので、事前にどのようなやり取りが弁護士相談や報酬に含まれるかを、きちんと把握しておきましょう。

また、大手の事務所になると、アソシエイトと呼ばれる若手の弁護士が数人ついてくれるところもありますが、人数分の費用がかかることもあるので、報酬の内容は事前に話し合いをしておきましょう。

③動きがいい弁護士か、信頼できる弁護士か確認する

労務管理を巡るトラブルは、迅速な対応が求められることも少なくありません。

社員が帰宅途中で事故を起こして警察に連行された、土日に会社の業務でトラブルが発生した、退職した社員が突然会社を訴えたなど、いつ何が起きるか分かりません。

こうした不測の事態にも対応できるように、動きがいい弁護士を選ぶことが大切です。

できれば夜間や土日にも対応できる弁護士がベストですが、弁護士の携帯番号がわかるなど、いざというときに連絡が取りやすい弁護士に相談すると安心につながると言えるでしょう。

また、残念なことですが、昨今弁護士が不誠実な弁護活動をして依頼者に不利益を被らせるといったニュースが見受けられます。

会社の労務管理は、会社運営の根幹となる業務です。
相談する弁護士が、十分な経験を持っているか、やる気があるか、信頼に値する人物かどうかをしっかり見極めるようにしましょう。

なお、日本弁護士連合会が発行する「自由と正義」という雑誌には、弁護士の懲戒事由などが掲載されています。

一般の方が目にするのは難しいかもしれませんが、関連情報をネットに上げている団体もあるので、心配な場合には一度ご覧になっておくのもいいかもしれません。

まとめ

いかがでしたか。
労務管理は会社の礎となる業務ですが、法的な紛争に発展しうるテーマが多いことに驚いた方もいるかもしれません。

しかし、弁護士に日頃から相談しておくことで、紛争を未然に防げるケースも多いのです。
会社側の立場に立って、いざというときにいつでも相談できる頼れる弁護士を是非探してみてください。

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