犯罪を犯してしまった場合や犯罪を犯したと疑われて逮捕されてしまった場合、前科や前歴がつきます。
前科と前歴は、言葉は似ていますが内容は全く異なるものです。
実際この2つはどこが違うのでしょうか?
また、前科や前歴がついていると周囲にバレることがあるのかが心配になりますし、就職や結婚、子育てや人間関係全般などについて影響を及ぼすことがあるのかも知っておく必要があります。
前科者と言われて周囲に不当な扱いを受けることもありますが、前科や前歴がある場合にプライバシー権はないのでしょうか?
このような前科前歴にまつわる問題を正しく知っておかないと、生活面でさまざまな不利益を受けることになります。
そこで今回は前科と前歴の違い、これによるその後の生活への影響について解説します。
※この記事は2017年4月5日に加筆・修正しました。
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目次
1.前科と前歴の違いは?
前科と前歴という言葉を聞くことがありますが、実際にこの2つをきちんと区別できている人は少ないです。
世間的にもこの2つをほとんど区別せずに使っています。
しかし、前科と前歴の意味は実際にはかなり異なります。
まずは、前科と前歴の違いについて見てみましょう。
(1)前科とは
前科とは、犯罪を犯して刑事裁判になり有罪判決を受けた場合の犯罪履歴のことです。
前科がある場合、その人は裁判官によって犯罪を犯したと認定されて有罪になったことがあります。
一般的に前科というと傷害や窃盗、恐喝などの犯罪を思い浮かべることが多いですが、前科はこれらの犯罪に限りません。
交通前科や微罪で罰金刑を受けただけの場合でも前科がつきます。
たとえば飲酒運転やスピード違反などで軽い罰金刑を受けただけのケースでも前科がついてしまいます。
刑事裁判は法廷で開廷されるものには限らず、略式起訴で書類上で有罪認定されて罰金を支払ったケースでも前科がついてしまいます。
このような場合、自分でも意識しないうちに前科がついてしまっていることもあります。
テレビや本などに出てくる前科者はとても恐ろしいイメージがありますが、実際には意外と簡単に前科がついてしまうことがあるので注意が必要です。
(2)前歴とは
前歴とは、犯罪を犯したと疑われて逮捕されたけれども実際には起訴されず有罪にならなかった場合です。
前科と違って裁判官によって有罪認定されたわけではありません。
刑罰も受けていないケースです。
よって、前科と前歴は全く異なります。
前歴があるとは言っても、その人が犯罪を犯したことにはならないのです。
前歴がつくケースには、いくつかの種類があります。
1つ目は、罪の軽さやその人の反省度合いなどを見て検察官が起訴猶予にした場合です。
2つ目は、逮捕はしてみたけれども捜査したところ、犯罪の嫌疑が不十分だったケースです(嫌疑不十分)。
3つ目は、嫌疑がなかった場合です。
いったんは犯人だと疑って警察が逮捕したけれども、捜査してみたらその人が犯罪に関わっていないことがわかり嫌疑がない場合にも不起訴になります(嫌疑なし)。
このように前歴がつく場合には、その人が犯罪に全く関わっていなかったケースも含まれてきます。
前歴があるからと言ってその人が「犯罪者」になるとは限らないので注意が必要です。
2.前科や前歴の情報はどこに保管されるのか?
前科や前歴がついた場合、その情報はどこに保管されているのでしょうか?
自分や他人が調べることができるのかも心配になります。
まずは、前科や前歴の情報が保管される場所を見てみましょう。
(1)検察と警察
前科や前歴の情報は、警察や検察庁で保管されています。
これらの情報はデータベース化されているので新たに被疑者を逮捕した場合などには、たちどころに過去の前科や前歴を調べることができます。
これらの前科・前歴情報は消えることがありません。
その人が死亡するまで残りますし、当然削除や訂正を求めることもできません。
これらの情報は警察や検察が照会して、再犯を防止する手段にしたり新たに起こった事件の解決などに利用されています。
刑事裁判では、累犯(似た犯罪を過去に犯した場合に刑が重くなること)や再犯を犯した場合の刑の加重の判断などにも利用されます。
また、これらの情報は一般に公開されることのない捜査機関の機密情報なので、一般社会に漏れ出すことはありません。
(2)市区町村
前科情報は市区町村でも保管されるケースがあります。
ただ、この場合はすべての前科ではなく、罰金刑以上のものに限られます。
また、交通前科は保管の対象になりません。
市区町村には犯罪人名簿があり、そこに罰金刑以上の前科が記録されています。
これについても削除や訂正を求めることはできません。
ただし、犯罪人名簿は一般に公開されているものではないので、これが原因で一般社会に前科情報が漏れ出すおそれはありません。
(3)前科前歴を調べられることは?
自分に前科前歴があると、それを調べられるのではないかが心配です。
また、他者が前科者であるかどうかを調べたいこともあります。
前科や前歴を調べる方法はあるのでしょうか?
これはかなり難しいです。
上記の検察や警察、市区町村の情報は一般ではアクセスできません。
よって、これらが原因で前科や前歴の情報を調べることはできません。
ただ、過去に実名報道された場合などには、新聞やインターネットなどで調べられることはあります。
インターネット上に犯罪に関する情報が残っている場合などには、削除請求することなどを考えても良いでしょう。
この問題については、後の10の項目で詳しく説明します。
3.前科や前歴がつくと就職に不利になる?
前科や前歴があると、日常生活で不利益を受けることがあるのかが心配です。
そこで、以下では前科や前歴による生活への影響についてシーンごとに見てみましょう。
まずは、就職の際に不利益を受ける可能性がないのかを解説します。
(1)一般の就職の場合
前科や前歴があっても一般の就職を希望することは多いです。
働かないと収入も得られませんし、生きていくことが難しいです。
前科や前歴によって一般の就職が難しくなることはあまりありません。
まず、前科や前歴の情報を採用先の企業に知られることは通常ありません。
上記でも説明したとおり、前科や前歴の情報は一般にはアクセスできないものです。
よって、企業がこれらを調べようにも調べる手段はほとんどありません。
そもそも企業が従業員を採用する場合に、前科や前歴に関する調査をすることも通常ありません。
一部の企業ではこれらの情報をできる範囲で調査することもありますが、一般的には就職の際に問題になることはほとんどないと考えて良いでしょう。
前科や前歴がある場合に、そのことを自主的に申告する義務もありません。
採用先から聞かれてしまったら応えざるを得ないケースもありますが、通常このようなプライバシーに関する情報についてわざわざ聞いてくる企業は少ないです。
履歴書にも、わざわざ「前科があります」などと記載する必要はありません。
ただし、前科を記載する欄がある履歴書の場合に記載をしなかったり、採用面接の際に前科があるかないかについて話題になってしまった場合に嘘をつくと、経歴詐称と言われてしまうことはあり得ます。
その場合、犯罪にはなりませんが、後に解雇問題に発展することなどはあり得ます。
特に金融機関の場合、身元調査が厳しく行われることが多いので、前科がある場合には不利になる可能性があります。
(2)弁護士などの一部の職業資格の場合
前科がある場合、一部の職業につけなくなる可能性があります。
たとえば禁固以上の前科がついている場合には、弁護士や弁理士、教員にはなれません。
禁固以上の前科があることが、これらの資格の欠格事由になっているからです。
また、これら以外でも一部の国家資格については禁固以上の前科がある人の場合には欠格事由になっているものがあります。
その場合、一生その仕事ができないとは限らず、たとえば刑の執行や執行猶予期間が終わるまでの制限期間がある資格もありますし、刑の終了後5年などが経過したら、再度受験資格を得られるものなどもあります。
また、警備員については国家資格ではありませんが、刑の終了から5年間はその仕事に就くことはできなくなります。
(3)公務員の場合
公務員の場合にも前科が欠格事由になります。
具体的には、国家公務員についても地方公務員についても、禁固刑以上の前科がある場合には資格が得られないとされています。
ただ、この場合でも刑の執行や執行猶予期間が終了したら公務員資格の受験自体はできることになります。
4.前科や前歴で結婚に不利になる?
前科や前歴がある場合、結婚の場面で不利になることがあるのでしょうか?
これについては、通常はほとんど心配要りません。
先にも説明したとおり、前科や前歴の情報を一般人が照会して調べることはほとんど不可能です。
新聞やインターネット上に情報が残っていない限り、知られるおそれはないでしょう。
興信所などを使って調べられても公開されていない前科情報まで調べきることは難しいです。
ただ、今後の長い結婚生活の中で、何かの拍子に結婚相手に前科がバレてしまうおそれもあります。
そのことを考えると、結婚前にむしろ自分から打ち明けて秘密をなくしておく方が結婚生活が平和に過ごせる可能性はあります。
前科を打ち明けると相手の親から結婚に反対されたり、相手自身に嫌われるおそれなどもあるので、前科を相手に言うか言わないかについては慎重に判断しましょう。
5.育児に際して問題になることは?
前科や前歴があることで、育児中に問題になる可能性はあるのでしょうか?
まず、前科情報が学校や子どもの友達、その親などに何もしないのにバレることは通常はありません。
しかし、人の噂は広がりやすいものなので、どこからか噂が走ってしまうということはあり得ます。
次に、子どもがいる場合、親に前科がついていることによって子どもの就職に不利益があるかどいう問題があります。
これについても、通常の就職の場合にはまず問題にならないと考えて大丈夫です。
親に前科があっても子どもに欠格事由があるわけではないので、各種の国家資格などもとって就職することができます。
公務員にもなれます。
厳しく身上調査をする一部の企業や警察などの機関では不利になる可能性もないとは言えませんが、一般的にはまず心配不要です。
6.人間関係で問題になる?
前科や前歴があることによって、日常的な人間関係に影響が出るかどうかも心配です。
たとえば親しくつきあっていた人が突然冷たくなった場合などに「前科がバレたのか?」と不安になることもあります。
ただ、前科や前歴の情報はそう簡単にバレるものではありません。
よって、通常の人間関係の中で突然前科がバレることはないと考えて大丈夫です。
ただ、噂になってしまったり、インターネット上などの情報を見られてしまうことによって人間関係に問題が発生する可能性はあり得ます。
7.ローン利用はできる?
前科や前歴があることで、住宅ローンなどのローンを組めなくなる可能性はあるのでしょうか?
これについても基本的には心配は不要です。
お金を借りられないブラックリスト状態の問題と前科・前歴の問題は無関係です。
ブラックリスト状態になる場合は、借金を長期にわたって滞納した人や債務整理した人のケースです。
前科があるからといって、お金に関する信用がなくなるわけではないので借金できなくなることはありません。
ただし、懲役刑で刑務所に入っている間に借金返済を長期滞納してしまったり、出所後定職に就けずに収入が無い(少ない)場合には、ローン審査に通らずローンを組めないことはあり得ます。
ただこの場合も「前科がある」ことが理由ではないので、前科があってもその人に信用があれば金融機関はお金を貸してくれますし、クレジットカードも作れます。
8.海外旅行に制限はある?
前科や前歴がある場合、海外旅行ができなくなるのかという質問も多いです。
これについても基本的には問題がありません。
前科や前歴があってもパスポートはとれますし、利用もできます。
ただし、行き先の国によっては前科があるかどうかが問題になるケースがあり、事前のビザ発行などが必要になるケースもあります。
9.生活保護や年金はどうなる?
前科や前歴があっても生活保護を受給することができます。
実際、犯罪を繰り返して刑務所で長く生活していたために、出所後まともに働くことができなくなってしまった高齢者などが生活保護で生活していることは多いです。
また、前科や前歴があっても年金を受給する権利はあります。
年金は、25年間以上年金保険料を支払っている場合に受給できるものなので、前科があってもきちんとその支払いをしていれば受給権が認められます。
ただし、犯罪を繰り返して刑務所生活が長く、まともに国民年金保険料を支払わずに年をとってしまったようなケースでは、保険料の納付期間が足りずに年金が受け取れなくなる可能性はあります。
10.前科・前歴があってもプライバシー権がある!
前科や前歴がある場合、周囲から不当な扱いを受けるケースがあります。
たとえば家の周囲に落書きや投書をされたり、嫌がらせの郵便を送られることもありますし、周囲にあることないことを触れ回られることなどもあります。
インターネット上に実名報道がずっと残っていて、そのことが生活にとって不利益になっているケースもあります。
このような場合、前科があると自分が悪いのだから我慢するしかないのでしょうか?
そのようなことはありません。
前科がある人にも人権はありますし、プライバシー権や名誉権もあります。
よって、自宅の周囲などに悪質ないたずらをされたら、差し止め請求をしたり損害賠償請求をすることもできます。
また、いたずらや嫌がらせの程度がひどければ、それ自体が犯罪になるのでこちらから被害届を出して捜査してもらうこともできます。
インターネット上にいつまでも実名報道が残って不利益を被っている場合などには、サイト管理者に対して削除請求依頼などをすることも可能です。
インターネット上の報道記録は放っておくといつまでも消去されずに残ってしまうので、特に注意する必要があります。
このように、前科や前歴があってもプライバシー権はあるので、不当な扱いを受けたらきちんと法的な対処をすることを考えましょう。
まとめ
今回は前科と前歴の違いと、それらがある場合の生活への影響について解説しました。
前科とは、刑事裁判で有罪判決を受けた場合ですが、前歴とは警察に逮捕されても起訴されなかった場合です。
前科や前歴の情報は警察や検察のデータベースに一生残ってしまいますし、前科情報は市区町村でも保管されます。
ただし、これらの情報が一般に知られることはありません。
前科や前歴があっても一般の就職にはまず問題になりませんし、結婚や子育てなどの場面でも問題はありません。
ただし一部の国家資格や公務員になれなくなったり、噂が広まって不利益を受ける可能性はあります。
前科や前歴があってもプライバシー権はありますので、不当な扱いを受けた場合には法的な方法で対処することも重要です。
今回の記事を参考にして、前科や前歴がある場合にもあまり恐れすぎることなく、毎日を平穏に過ごしましょう。