黙秘権とは何か?利用する際のメリットとデメリットを詳しく解説

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「黙秘権」という言葉を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。

最近ニュースになっている事件でも、「犯行の理由については黙秘している」などという報道がされているのを耳にした方もいるかもしれません。

黙秘権は、憲法や刑事訴訟法という法律で定められた権利のひとつです。

刑事事件に巻き込まれたり、容疑をかけられた場合に、警察などの取調べに沈黙したり、自分に不利益な供述を強要されないと定められています。

しかし、黙秘権を使うと、印象が悪くなるのではないか、逆に容疑が深まるのではないかなど、心配になる方も少なくありません。

実際、誤った黙秘権の利用の仕方をすると、かえって不利益になるデメリットが生じる可能性もあります。

今回は、黙秘権を使う場合のメリット、デメリットを含め、黙秘権とは何かについてお話しします。

1.黙秘権とは何か?


黙秘権とは、犯罪の容疑をかけられた被疑者や被告人が、話したくないことを話さず沈黙してよいという権利のことを言います。

黙秘権は法律で認められた権利で、憲法でも「何人も自己に不利益な供述を強要されない」として規定され、人権のひとつとして保障されています。

また、刑事訴訟法という法律では、警察の取調べを受ける際に、「取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。」と、黙秘権について告げることが義務づけられています。

刑事裁判の手続きの中でも同様で、「終始沈黙し、又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる」と規定されています。

つまり、黙秘権とは、犯罪の容疑をかけられた被疑者にも、また刑事裁判にかけられることが決まった被告人にも認められている、喋りたくないことはしゃべらなくてよい、沈黙を続けて良いという権利なのです。

2.氏名は黙秘権の対象外!?黙秘権が使える内容を確認

(1)氏名を黙秘できるか

上記のように、刑事手続きでは黙秘権が保障されているので、自分にとって不利になるかどうかを問わず、言いたくないことは一切喋らなくても構いません。

ただ、黙秘権が使える範囲については、注意をしなければならないでしょう。

黙秘権は、「自分に不利益となる供述をしなくても良い」という憲法でも保障されている権利を現実に守るために作られたものです。

そのため、喋ったからと言って通常不利益にならないと考えられる、自分の名前などについては、黙秘権の対象外となるとされています。

つまり、黙秘権は、自分が刑事事件の責任を負う可能性がある内容について及び、黙秘権を利用できるので、注意してください。

(2)一部黙秘と完全黙秘の違いとは

黙秘権は、部分的に利用する「一部黙秘」と、全ての内容について沈黙を通す「完全黙秘」の2種類があります。

一部黙秘は、自分に不利なことについてだけ黙秘して、その他の内容は話すというものです。

完全黙秘は、自分に不利かどうかを問わず、全ての内容について話さないというものです。

黙秘権を利用する場合は、一部黙秘でも完全黙秘でも、どちらを使っても構いません。

ただ、どのような黙秘をするのが良いのかは、事件の性質や捜査の進捗状況などによっても変わります。

その後の刑事手続きへの影響を防ぐためにも、心配な場合は一度、弁護士に相談することがおすすめです。

3.黙秘権を使うタイミングと効果的な使い方とは

(1)黙秘権を使うタイミング

黙秘権は、いつでも、どのタイミングでも利用することができます。
取調べをする前には、警察官や検察官が黙秘権があることを告知することになっています。

しかし、告知される前であっても黙秘権は利用することができます。
黙秘したい場合には、取調べが始まったら直ちに黙秘権を行使できるのです。

また、警察官などが黙秘権を告知しない場合には法律違反にあたるので、弁護士を通じて抗議するなど、対応を検討しましょう。

(2)黙秘権の使い方

黙秘権を利用するには、「黙秘権を行使します」と言い、後は沈黙していれば構いません。

また、実際に沈黙するだけではなく、供述調書への署名を拒否するという方法もあります。
警察の取調べを受けると、そのやり取りの内容を文章にまとめた、「供述調書」という書面が作成されます。

取調べの最後に供述調書が読み上げられ、本人が内容を確認して署名することで、供述調書の内容が事実であるとされる仕組みです。

本人が署名した供述調書は、刑事裁判で証拠として使われますが、署名がなければ証拠になりません。
そこで、供述調書への署名を拒否することで、黙秘権を利用したのと同じ効果が得られます。

また、警察では、供述調書以外に「上申書」として、自分がやったことなど事件について書くように言われることがあります。

上申書は供述調書と異なり、署名しなくても証拠になるので、黙秘権を使いたい場合は、上申書の作成を拒否したほうが良いでしょう。

また、必要に応じて「刑事事件で作成される供述調書とは?作成方法や注意点を解説!」も併せてご参照ください。

4.黙秘権を利用するメリット・デメリットとは

(1)黙秘権を利用する3つのメリット

黙秘権を利用するメリットは、大きく分けて3つあると言えます。

①不利益な話をしなくて済む

一つは、なんといっても、自分にとって不利になる話をしなくてもよいということです。

取調べで自分に不利益になることを話した場合でも、供述調書に署名すれば、その内容は証拠として裁判で利用されます。

あとから撤回したいと思っても、警察官に脅されて供述した等の理由がない限り、言ったことを取り消すことはできません。
そのため、そもそも不利益な話自体をしなくて良いという黙秘権は有効に利用できるのです。

②黙秘権を利用してもそれが理由で悪く扱われない

二つ目は、黙秘権を利用しても、それを理由に不利益は被らないということです。

黙秘しても不利益を受けない、という「不利益」には、次の3つの内容が含まれます。

  • 黙秘権を利用したことを理由に、刑罰などのペナルティを受けない
  • 黙秘権を利用したことで、不利益な判決を下されない
  • 黙秘権を侵害して得た自白などの供述は、裁判で証拠として使うことはできない

このため、黙秘権を使ったら罪が重くなることを心配する人は多いと思いますが、黙秘権を使ったことを理由に罪や刑罰が重くなることはないので安心してください。

③違法な取り調べを防ぐことができる

三つ目は、黙秘権があることで、横暴な取り調べを防ぐ効果が期待できるということです。
日本では、以前「自白は証拠の女王」と言われ、刑事手続きの中で重視されていました。

そのため、捜査機関は、脅したり、時には暴力を振るったりして、何が何でも自白を撮ろうとしたのです。

現在では、取調べの可視化が進むなど、違法な取り調べには厳しい目が向けられていますが、それでも「認めなければ釈放されない」などと脅したりする取調べは後を絶ちません。

しかし、上述のように黙秘権を侵害して得た供述は証拠で使えないことから、横暴な取り調べを防ぐことができるというメリットもあります。

(2)黙秘権を使う3つのデメリットとは

黙秘権は、使い方によってはデメリットを生じることもあります。
メリットと同様、デメリットも大きく分けて3つ考えられます。

①反省していないと思われる

まず第一に、反省していないと捉えられるおそれがあることです。
黙秘権を使っても、それが理由に不利益を受けることはありません。

しかし、素直に罪を認めて反省してれば、情状で有利に考慮してもらえる可能性がありますが、黙秘権を利用して罪を認めないことで、心証を悪くするというデメリットがあることも事実です。

特に、実務では、完全黙秘をしていると悪性格と判断されてマイナスに働くことが多いので、利用する際には注意が必要です。

②黙秘権を利用することが無意味な場合がある

二つめは、他の証拠が揃っている場合は、黙秘権を利用しても無意味な場合があることです。

物証や目撃証言、被害者の証言などの客観的な証拠が揃っているのに、無暗に黙秘をしていると心証を悪くする可能性が高まることは避けられません。

③取調べが長期化する恐れがある

三つ目は、黙秘権を利用することで、取調べが長びく恐れがあることです。
客観的な証拠などから、犯罪を行ったことが明らかな場合、素直に罪を認めて反省すればスムーズに手続きが進みます。

また、犯罪が軽微で、本人も反省しており、被害者にも謝罪を尽くして示談もまとまっているような場合では、容疑を認めていても不起訴処分で前科がつくことを避けられる場合もあります。

しかし、黙秘権を利用すると、本人の供述を埋めるだけの捜査をしなければいけなくなるので、取調べが長期化し、逮捕から勾留に続く身柄の拘束時間も長引くというデメリットがあります。

5.黙秘権を正しく使うために取るべき方法とは


上記のように、黙秘権を利用するには、メリットとデメリットがあります。

せっかく、自分に不利な供述をしなくて済んだのに、かえって反省をしていないと捉えられて量刑でマイナスに判断されては、意味がありません。

ただ、黙秘権は、憲法でも保障された人権であることに変わりはありません。
黙秘権を正しく使い、最大限の効果を得るために取るべき方法、それは弁護士を呼ぶことです。

弁護士を呼び、捜査状況などを把握した上で黙秘権の使い方についてアドバイスを受けることで、黙秘権の利用によるデメリットを避けることができます。

逮捕されたら弁護士を呼べないのではないかと思うかもしれませんが、そんなことはありません。

刑事事件を扱う事務所の多くが、初回接見と言って、着手金などが必要になる本契約とは別に、一定の料金で留置場まで出向くサービスを行っています。

警察の担当者に頼んで、思い当たる事務所に初回接見を直接頼むか、家族に連絡をしてもらい初回接見を頼むよう伝えてもらいましょう。

また、頼める身内や、思い当たる弁護士がいない場合は、日本弁護士連合会や核と土府県の弁護士会などが行っている当番弁護士を利用するのも一つの方法です。

当番弁護士は、逮捕後に、1回に限り無料で弁護士を派遣してもらえる制度です。

当番弁護士は名簿順で選べないので、なかには刑事弁護の経験が浅い当番弁護士にあたることもあるようですが、まずは専門家のアドバイスを受ける点では有効です。

まとめ

黙秘権は、新聞やニュースで目にする言葉ですが、実際の使い方には注意が必要なことを、今回初めて知ったという方もいらっしゃるかと思います。

黙秘権は、大切な権利である反面、使い方を間違えると心証を悪くしてかえってマイナスの結果を招いてしまう恐れがあります。

黙秘権を利用する場合は、弁護士を呼んで相談して、適切な使い方のアドバイスを受けながら進めることが何よりも大切です。

刑事事件に巻き込まれないのが一番ではありますが、普段から刑事事件に強い弁護士を探しておくなどしておくと、いざというときに安心かもしれません。

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