覚醒剤事件で逮捕されたら-手続きの流れと刑罰の重さの目安とは

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田代まさし、酒井法子、ASKA、清原元プロ野球選手…有名人が覚醒剤事件で逮捕されるケースは跡を絶ちません。

「覚せい剤取締法違反で逮捕」などという事件は、一般人には遠い世界の話のように思うかもしれません。

しかし、最近は若者の間で「エス」「スピード」と呼ばれて蔓延したり、中学生が覚せい剤使用で逮捕されたり、覚醒剤がセックスドラッグとして用いられたなど、未成年や普通の会社員が覚醒剤で逮捕されたニュースを目にする機会も少なくありません。

もはや、覚醒剤事件は、私たちの生活と遠い話ではないのが実情です。

  • 「もし家族が覚せい剤事件で逮捕されたらどうなるのか。」
  • 「会社の関係者が覚醒剤で逮捕されたら、業務はどうなるのか。」

なかなか身近には感じにくいケースかもしれないが、万が一に備えて覚醒剤事件で逮捕された場合の手続きの流れや刑罰などを知っておいて損はないでしょう。

今回は、覚醒剤事件で逮捕された場合の刑事手続きの流れ、刑事裁判になった場合の量刑などに関してご説明いたします。

1.覚醒剤事件で逮捕されたら-刑事手続きの流れとは?

(1)覚醒剤事件で逮捕される場合とは-逮捕の類型3つ

逮捕には、「通常逮捕」「現行犯逮捕」「緊急逮捕」の3種類があります。

①通常逮捕

前もって、裁判官が逮捕令状を発付して行われることです。
刑事ドラマなどでよく見る、刑事が逮捕状を示して犯人を逮捕するシーンは、この通常逮捕です。

覚醒剤事件で芸能人が逮捕されるケースでは、警察の捜査が水面下で進み、容疑を固めてから満を持して通常逮捕される場合が見受けられます。

②現行犯逮捕

犯罪を行っている最中、犯罪の行いが終了し間もないと認められた場合です。
人違いではないと考えられるため逮捕状が必要とされない場合に行う逮捕のことを言います。

職務質問されて覚醒剤を持っていることが判明した場合や挙動不審なために職務質問から連行され、尿検査で覚醒剤が検出された場合の逮捕などがこれにあたります。

③緊急逮捕

刑罰の重い罪を犯したと疑われる場合に逮捕状を請求する時間がない時、すぐに緊急逮捕状の発付を求めることを条件にする逮捕です。

(2)覚醒剤事件で逮捕・勾留された場合の手続きとは-釈放されるタイミング

①逮捕された場合の手続きの流れ-最長72時間は家族も面会できない

覚醒剤事件をはじめとして、基本的に警察に逮捕された場合、「被疑者」になります。
通常であれば、手錠をされて警察署の留置場に入れられます。

警察官は、逮捕から48時間以内に、被疑者に事情を聞くなどして釈放するかどうか決めなければなりません。
警察官が釈放できないと判断すると事件は検察庁に送られます。

検察官は被疑者と面談を行い、24時間以内、かつ、逮捕時から72時間以内に被疑者を引き続き拘束するか釈放するか決めなければなりません。

この逮捕から最長72時間の間は、弁護士以外は家族でも面会できないのが実務の運用です。
覚醒剤事件で逮捕された場合は、72時間以内に釈放される可能性は極めて低いと言っていいでしょう。

②勾留された場合の手続きの流れ-最長23日の留置場生活が続く

警察から事件を受け取った検察官が拘束の必要なしと判断すると、その時点で釈放されます。

しかし、証拠隠滅や逃亡の恐れがあるので拘束を続ける必要があるとして、裁判官もこれを認めると引き続き10日間、警察署の留置場で生活しなければなりません。

この期間を「勾留」といいます。

また10日間の勾留期間が終わっても更に勾留の必要があると判断されると、それからさらに10日、逮捕から23日の間、留置場で強制的に生活しなくてはいけません。

覚醒剤事件の場合は、「証拠隠滅」や「逃亡」のする可能性が高いと判断されやすく、多くの場合で勾留が認められます。

勾留中は、通常は家族などと面会できるが、証拠隠滅の恐れがあるなどと判断され「接見禁止」の処分が付されると、面会や手紙も禁止されることがあります。

この場合は弁護士しか面会することができません。

③起訴か不起訴の決定の流れ-不起訴になれば前科がつかない

勾留期間が満了する際に、検察官は不起訴、略式起訴、起訴のいずれかの処分を下さなければなりません。

不起訴になると、前科がつかずに釈放されます。
略式起訴の場合、罰金を支払うと釈放されますが前科はついてしまいます。

起訴されると刑事裁判を受けることになり、留置場生活が続くが保釈で釈放される場合もあります。

覚醒剤事件で不起訴処分を獲得できるかは、どのような事件を起こしたかによって対応が異なります。

覚醒剤所持で逮捕された場合

押収された覚せい剤の量が極微量なら、覚せい剤所持の故意がないなどを理由に不起訴処分を獲得できる場合があります。

押収された量が多量の場合でも、保管状況などから故意がないと認定されるケースもあります。

覚醒剤の譲り渡し・譲り受けの場合

例えば、「家宅捜索を受けても覚醒剤が発見・押収されなかった」「尿検査で覚せい剤の成分が検出されなかった」などの場合、不起訴処分を獲得できるケースがあります。

覚醒剤を輸入した容疑で逮捕された場合

「覚せい剤の梱包状況」や「行動履歴」から、輸入の故意がない場合で証拠が不十分だと主張し、不起訴処分を獲得できるケースがあります。

覚醒剤を使用した容疑で逮捕された場合

基本的に、尿検査で覚せい剤の成分が検出されると、不起訴処分を獲得することは難しいです。
無理やり駐車された、一服盛られたなどの言い分を裏付ける明確な証拠がない限り認められません。

④覚醒剤事件の裁判の仕組み-有罪になっても執行猶予が付けば刑務所に入らない

基本的に、判決に執行猶予が付けば刑務所に入る必要はありません。

覚醒剤事件の場合は、薬物依存からの回復を支援する組織の会に参加したり、生活を変えることが裁判においても良い影響をもたらします。

他方で、無実の覚醒剤事件で逮捕・起訴されるケースがないとは、残念ながら言い切れません。
先日も、覚醒剤事件で捜査機関によって尿がすり替えられた疑いがあるとして無罪判決が下されたニュースがありました。

万が一、無実の覚醒剤事件で逮捕されたような場合は、しっかりと無罪を主張し、証拠を争って無罪判決の獲得を目指すことになるでしょう。

2.覚醒剤事件の逮捕の手続きとは-尿検査は断れるか?

(1)検出期間内なら避けられない、覚醒剤使用と尿検査の関係

覚醒剤事件では、「尿検査で覚醒剤反応が出た」という話を耳にしたことがある方も多いでしょう。
覚醒剤を使用した容疑で立件するには、採尿の手続きが採られるのが通常です。

覚醒剤の使用容疑がかかる芸能人が「シャブ抜き」として逃走し、その場合は毛髪検査を行うという話も聞くが、実は毛髪検査は簡単ではありません。

毛髪検査は、長期間の使用が判明するメリットがある反面、通常50本以上の量が必要なことや検査に時間がかかることから、採尿検査が用いられるのが通常です。

尿鑑定では、2mg以上の覚せい剤を使用した者に対して24時間以内に採尿(50~100ml)すると検出されます。

一般的には、覚醒剤の摂取後30分程度から覚醒剤の使用頻度によって4日~10日程度の間に使用したものについて検出可能とされています。

ネットなどでは、「医薬品」や「ブドウ糖点滴」で検出を免れる情報もありますが、検出可能期間内に尿検査の検出を避ける方法はないと言われています。

(2)職務質問で尿検査を求められたら

警察官は何らかの犯罪を行ったり、行おうとしていると疑われる挙動不審な行動をしているような人に職務質問することができるとされています。

覚醒剤事件の場合、中毒症状が表れているような人、覚醒剤事件が頻発する地域をうろついたり、覚醒剤の密売場所に出入りしているような人で風貌や挙動が不審な場合に職務質問が認められます。

尿検査については、事件の重大性と必要性や緊急性から、一定程度の説得は許されるとされていますが、あまりにも長時間に及ぶ場合は逮捕に等しいと判断されることもあります。

3.使用、所持、譲渡…行為で異なる覚醒剤事件で逮捕された場合の刑罰の目安とは?

(1)覚醒剤事件で逮捕されたら-類型別の刑罰の重さとは

どのようなことをしたら覚醒剤事件で逮捕され、どのくらいの刑罰が予定されているのかは「覚せい剤取締法」という法律で規定されています。覚醒剤事件と言っても、どのような行為で逮捕されたかによって刑罰の重さが大きく変わってきます。

「覚せい剤取締法」に関しては、医療・学術研究目的以外での、覚醒剤・覚醒剤原料の輸入、製造、譲渡、所持、使用等を禁止しています。

それぞれの刑罰の重さは、以下のように規定されています。

①対象物が覚せい剤の場合

  • 輸入、輸出、製造したケース(1年以上の有期懲役(41条1項))
  • 営利目的で上記の行為をしたケース(無期又は3年以上の懲役、情状により1000万円以下の罰金併科(41条2項))
  • 所持、譲渡、譲受、使用(10年以下の懲役(41条の2第1項、41条の3第1項1号))
  • 営利目的で上記の行為をしたケース(1年以上の有期懲役)

②対象物が覚せい剤原料の場合

  • 輸入・輸出・製造(10年以下の懲役(30条の6、41条の3第3項))
  • 営利目的で上記の行為をしたケース(1年以上の有期懲役又は情状により500万円以下の罰金を併科)
  • 所持、譲渡、譲受、使用(7年以下の懲役(30条の7、30条の9、30条の11、41条の4第1項3ないし5項))
  • 営利目的で上記の行為をしたケース(10年以下の懲役又は情状により300万円以下の罰金を併科)

(2)覚醒剤事件で逮捕されたら-刑罰の重さに影響する事情とは

覚醒剤事件で逮捕され、起訴されて裁判を受けることになった場合、考慮される事情としては前科があるかどうか、逮捕の原因となった覚醒剤の量、常習性、組織ぐるみで覚醒剤事件に関わっていた場合は組織での地位、そして、逮捕された被疑者・被告人に家族などの監督者がいるかどうかなどがあります。

例えば、覚醒剤を売買する目的で所持した場合の刑罰は重く、前科や前歴がなく、初犯でも実刑になることが多いです。

この場合、所持していた覚醒剤の量や覚せい剤を入れる袋(通称「パケ」)や注射器(通称「ポンプ」)の数、計量器の所持や取引メモなどが、営利目的で覚醒剤をもっていたかどうかの判断要素です。

営利目的の場合は、懲役刑に加え、罰金が併科される可能性があります。

覚醒剤の使用した罪に関しては、使用した「量や回数、使用期間、使用方法」等が判断要素です。

覚醒剤を自分で使用した「自己使用」で起訴された場合、初犯は執行猶予がつくことが多く、2回目が実刑、3回目以降は刑が重くなっていくのが通常のケースです。

ただし、覚醒剤事件は再犯率が非常に高い犯罪なので、事情によっては初犯でも厳しい判決が下される可能性は十分にあります。

まとめ

覚醒剤事件というと遠い世界のように思うかもしれないが、いつ家族や知人が巻き込まれるとも分かりません。

万が一、身近な人が覚醒剤事件で逮捕された場合には、まずは弁護士などに連絡してみましょう。

刑事裁判などの手続き面だけでなく、更生施設や専門病院ともつながりがある専門家もいるので、まずは相談することをお勧めします。

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