ウーバー事例にみるAI時代における独占禁止法の法的リスクとは?

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近年、AIの進化により、新たなビジネスモデルが次々に構築されており、わたしたちの生活が便利になる半面、それにともなう新たな法的問題も生じています。

そのひとつが「デジタルカルテル」というもので、アメリカではある企業の事業を巡って訴訟にまで発展しており、わが国においても対岸の火事と楽観視することはできません。

そこで今回は、この訴訟を例にAI時代における独占禁止法の法的リスクについて解説します。

1.ウーバー事例

(1)ウーバーの事業

ウーバー(Uber)は、ウーバー・テクノロジーズが運営する自動車配車ウェブサイト・アプリで、2009年にアメリカで設立された後、急速に世界各国に進出しており日本でも東京都内でサービスを展開しています。

ウーバーの特徴の一つは、通常のタクシーに限らず、一般人が自家用車を用いて旅客運送をすることができるという点です(ただし、日本の場合、二種免許を持たない一般人が自家用車で旅客運送を行うことはいわゆる白タクにあたるという問題があるため、タクシーの配車のみをおこなっています)。

ウーバーのもう一つの特徴は、料金の決定方法にあります。

通常のタクシーが地域ごとにあらかじめ料金が決められているのに対し、ウーバーではその時々の需要と供給に応じてAIが料金を決定します。

そのため、混雑時には料金が通常時と比べてかなり割高になることもあるようです。

このように、AIの価格決定アルゴリズムを利用して事業者が利益の最大化を図ることを「デジタルカルテル」と呼んでいます。

(2)独占禁止法上の問題点

ウーバーに登録しているドライバーは、個人事業主にあたります。

個人事業主であれば、本来、料金は自身の経営判断で自由に決められるはずで、料金を安く設定してより多くの顧客を獲得することや逆に料金を高く設定してその分サービスの質を向上させて顧客を獲得することもできるはずです。

ところが、ウーバーに登録するとAIが決めた料金に従うしかないため、価格競争が生じず価格が高止まりしてしまいます。

これが独占禁止法上のカルテルにあたるとして、アメリカで訴訟が提起されるに至ったのです。

2.日本の独占禁止法との関係

(1)カルテルとは

カルテルとは、事業者が他の事業者と共同して、価格や生産量、販売地域などの取り決めを行い競争を制限する行為をいいます。

このような行為を許せば、価格が高止まりしてしまい消費者の利益を害することになります。

そのため、日本の独占禁止法では、このような行為を「不当な取引制限」と規定し(独占禁止法第2条6項)、事業者は不当な取引制限をしてはならないと定められています(同法第3条)。

(2)独占禁止法上の要件

以下の要件を満たす場合、独占禁止法で禁止される不当な取引制限に該当します。

①共同行為

事業者が、名目を問わず他の事業者と共同で対価の決定、維持、引き上げや数量、技術、製品、設備、取引の相手方を制限することが必要です。

ここで共同して行ったというためには、外形的に一致しただけでは足りず、複数の事業者の間に「意思の連絡」が必要とされています。

ここでいう「意思の連絡」とは、複数事業者間で相互に同内容、同種の対価の引上げ等を実施することを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思があることをいいますが、明示の合意である必要はなく、相互に他の事業者の対価の引上げ行為等を認識し、暗黙のうちに認容すること(黙示の意思の連絡)で足りるとされています(東芝ケミカル審決取消請求事件)。

②相互拘束

事業者間で共通の内容の制限を相互に課すことが要件の一つです。

ただし、この制限に違反した場合のペナルティーなどのない、紳士協定のようなもので足りるとされています。

③公共の利益に反すること

形式的には不当な取引制限に当たるような行為であっても、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進するという独占禁止法の究極の目的に実質的に違反しないと認められる例外的な場合は、公共の利益に反しないとして不当な取引制限には該当しないとされます(石油価格カルテル刑事事件)。

④一定の取引分野の競争の実質的制限

共同行為と相互拘束により、実質的に競争が制限されたことが要件とされます。

ここでいう「競争の制限」とは、個々の行為そのものではなく、競争自体が減少して特定の事業者又は事業者団体がその意思である程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって市場を支配することができる形態が表れているかまたは少なくとも現れようとする程度に至っている状態をいうとされます(東宝・スバル事件)。

(3)独占禁止法に違反した場合

①排除措置命令

公正取引委員会が、カルテルの差し止めその他カルテルを排除するために必要な措置を命じることができます(独占禁止法第7条第1項)

②課徴金

公正取引委員会は、カルテルを行った事業者に対し、課徴金を納付するよう明示しなければなりません(同法第7条の2)。

③刑事罰

不当な取引制限を行った事業者は、5年以下の懲役または500万円以下の懲役に処せられます(同法第89条)。

事業者が法人である場合、法人の代表者が罰せられるほか、法人に対しても5億円以下の罰金が科されます(同法第95条)。

(4)ウーバー事例の検討

以上を前提に、ウーバーがカルテルに当たるかを検討しましょう。

まず、先ほどご紹介したとおり、ウーバーは、個人事業主であるドライバーが登録しAIが需給状況に応じて価格を決定する仕組みになっています。

ドライバーはあくまでAIが決定した料金にしたがうだけですから、事業主(ドライバー)間に「意思の連絡」があったとは言い難いでしょう。

また、ウーバーの登録者数などの詳細は不明ですが、ウーバーがタクシー市場を支配しているといえるほどのシェアを占めているとは考えられませんので「実質的に競争を制限」しているとも言い難いでしょう。

このように考えると、現在の独占禁止法の規定及びウーバーの市場シェアなどを前提とするとウーバーはカルテルには該当しないと考えられます。

3.今後の展望


これまで説明した通り、現時点では、ウーバーをはじめとする「デジタルカルテル」は、独占禁止法の規制する不当な取引制限にはあたらないと考えられます。

しかしながら、その理由が、「意思の連絡」「実質的な競争の制限」の2つの要件を満たさないということにあるとすれば、将来的には不当な取引制限に該当するシステムが登場する可能性はあります。

たとえば、ある商品において大きなシェアを占める複数の事業者または事業団体が参加すれば、「実質的な競争の制限」の要件を満たすことは、理論的には装丁可能です。

そして、AIが価格を決定するとしても、最低の価格を決め、それを下回る価格には下げないように設定し、利用者がそれを認識したうえで利用した場合には、少なくとも黙示の「意思の連絡」を認定する余地が生じます。

IoTの急速な進化に法の整備がなかなか追いつかないのが現状であり、法規制がないことは、新たなビジネスチャンスであるとともに、法的リスクを負担することにもなります。

新たなビジネスを展開するには、法的リスクを踏まえたうえでの経営判断が必要といえるでしょう。

まとめ

ウーバー事例を題材に、AIと独占禁止法との関係について紹介しました。

法的リスクの検討には独占禁止法に関する知識が不可欠ですが、高度の専門性を必要とするため独占禁止法に詳しい弁護士に依頼することが望ましいでしょう。

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