企業が取引を行う場合、自社の情報を取引先に提供しなければならないケースがあります。
そのような場合、取引先に提供した情報が他に漏えいすると問題が発生してしまいます。
そこで、取引上相手に自社情報を提供する場合、情報漏えいを防止する必要があります。
このとき、利用されるのが「秘密保持契約書」です。
秘密保持契約書とは、具体的にどのような契約書なのでしょうか?
秘密保持契約書を作るときにどのような内容を載せなければならないのかや作り方、契約の流れなども知っておく必要があります。
これらのことを知らないと、自社の機密情報が漏れて多大な損害を被るおそれがあります。
そこで今回は、秘密保持契約書の意義や作り方、秘密保持契約の流れと秘密保持契約書のひな形をご紹介します。
※この記事は2017年3月30日に加筆・修正しました。
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目次
1.秘密保持契約書とは
企業が事業展開する際には、いろいろな取引をする可能性があります。
その中で、自社の機密情報を取引先に一部開示しなければならないケースがあります。
業務委託提携をする場合などに問題になることが多いです。
しかし、企業が社会で生き残っていくためには機密保持も重要です。
たとえばライバル社などに開発中の商品の内容などを知られると、その後の取引などにおいて非常に不利な状態になってしまいます。
このように、取引先に対して自社情報を提供しなければならないけれども、反面その秘密を守らなければならない場合、その2つの需要を満たすにはどのようにすれば良いのでしょうか?
この場合に役立つのが秘密保持契約です。
秘密保持契約とは、ある秘密を相手方に開示する場合に、その秘密情報を他に漏えいしないように約束させるための契約です。
秘密保持契約をしているのにその契約内容に反して相手の機密を第三者に漏えいすると、その会社は差し止め請求を受けたり損害賠償請求を受ける可能性があります。
機密情報を提供する側の企業からすると、秘密保持契約を締結することによって、自社の重要な機密情報が一般社会に漏えいするリスクを減らすことができます。
このように、秘密保持契約書を作成すると、企業の大切な秘密を守って企業が安全に取引することができるようになります。
企業が取引社会で上手に生き残っていくためには秘密保持契約書の作成が非常に重要になります。
2.秘密保持契約書が必要になる場面
秘密保持契約書が必要になるのは、具体的にはどのような場面なのでしょうか?
以下ではいくつかのケースをご紹介します。
秘密保持契約書が必要になるケースは、主に「業務委託提携」をする場合です。
たとえば、自社のホームページを制作する際に他社に制作作業を委託するとき、委託先の企業に対して自社情報を提供することがあります。
自社の業務を部分的に他社に外注委託する場合にも、その委託相手に対して委託する業務に関する自社情報を提供する必要があります。
商品を販売することを目的とする場合に商品開発を他社に委託する場合には、開発を委託する他社へ自社情報を提供する必要があります。
このような業務委託契約の際にはよく秘密保持契約が締結されます。
また、企業同士のM&Aを行う場合のデューデリジェンス(企業の適正評価)を行う場合にもほぼ必ずと言って良いほど秘密保持契約書を作成します。
3.秘密保持契約書のひな形
秘密保持契約書は、企業が取引をしながらも自社情報を守って生き残るために非常に重要な契約です。
しかし、具体的に問題になった場合、どのようにして作成すればわからないことが多いです。
そこで、以下では秘密保持契約書のひな形をご紹介します。
4.秘密保持契約書の記載事項の解説
秘密保持契約書のひな形はあっても、どのような場合でもこの通り書けば良いというものではありません。
個々の取引内容に応じて、適宜修正して利用する必要があります。
以下では、秘密保持契約書の記載事項を個別に説明します。
(1)契約書の表題
まずは、表題として契約書の「表題(タイトル)」が必要です。
ここには「秘密保持契約書」と記載します。
(2)秘密保持契約締結の事実と情報開示の目的
契約当事者を甲乙として、その名称を記載します。
そして、秘密情報開示の目的も記載します。
ひな形では「業務委託のため」とありますが、たとえばホームページ制作のためなどと具体的に記載してもかまいません。
(3)秘密情報の定義
秘密保持契約においては、秘密情報を定義づける必要があります。
どの情報を守ろうとしているかということを明らかにするためです。
ここで秘密情報として定義づけられた情報の漏えいが契約によって禁じられることになります。
基本的に、甲が乙に対して開示した技術上または営業上の情報であることと、開示の際にそれが秘密情報であることを明らかにした情報であることが記載されていれば大丈夫です。
その上で、例外についての規定を入れます。
例外を入れるのは、秘密保持義務を負う側にとって負担が大きくなりすぎないためです。
例外としては、たとえば一般に周知されている情報や開示を受ける側が開示前からすでに知っていた情報などがあります。
(4)秘密保持義務
秘密情報の開示を受ける側がどのような義務を負うのかを明らかにします。
重要なことは、情報を第三者に対して開示したり漏えいしないことです。
ただし、必要があれば第三者に開示できるように定めておくことも必要です。
情報提供者の同意があれば第三者へ開示できるという内容を入れておくと良いでしょう。
また、秘密情報を開示できる範囲も明らかにしておくと有用です。
たとえば情報を受け取った企業の役員や従業員には必要に応じて開示できるように定めておきましょう。
必要があれば、情報を受け取った企業の顧問弁護士や顧問税理士などへの開示も一部認めても良いでしょう。
(5)秘密情報の使用目的
秘密保持契約書においては、受け取った秘密情報を使用目的以外に利用しないことを定めましょう。
また、使用目的が具体的に何かについて、定めておいても良いでしょう。
(6)複製の禁止
秘密情報を提供する場合には、情報を受け取った企業が勝手に秘密情報を複製すると漏えいの危険が発生します。
よって、複製は禁止する旨の条項を入れることが多いです。
複製を認める場合には、契約終了時にその複製した情報を返還することを定める必要があります。
(7)成果の帰属
提供された秘密情報やその秘密情報にもとづいて得た成果物がある場合、その成果物に関する権利をどちらが取得するのかについても記載が必要です。
ひな形では協議して決める内容になっていますが、ここで情報開示者に成果物が帰属すると定めれば開示者に有利な内容となります。
(8)秘密情報等の返還
秘密保持契約の期間が終了した際や情報を提供した側が情報の返還を求めた場合、情報を受け取った方が速やかに秘密情報を返還することも定めておきましょう。
このとき、複製を認める場合には、複製物も同時に返還する必要があります。
(9)検査権と差し止め請求
開示された秘密情報が情報を受け取った側においてどのように利用されているのかを、開示者が検査することができる権利を定めておきます。
また、その検査の結果問題のある利用方法が発覚した場合には情報利用の差し止め請求ができることも定めておきましょう。
たとえば、情報を受け取った側が秘密情報を無断で第三者に提供していたり、情報漏えいを起こしていたようなケースで差し止めが認められます。
(10)損害賠償
情報を受け取った側が、秘密保持契約に違反して秘密情報を第三者に対して開示したり漏えいしてしまった場合には、情報受領者が損害賠償義務を負うことを定めます。
このとき、予定損害賠償金額や損害賠償金の計算方法を定めておいても効果的です。
(11)有効期間
秘密保持契約の契約期間を書き入れます。
いつからいつまでなのか、または契約締結後何年間継続するのかなど年月日がはっきりとわかるように記載しましょう。
(12)協議事項
秘密保持契約書に定めのない事項については、甲乙が誠実に話し合いで解決することを定めておきます。
(13)準拠法
本契約に関する事項については、日本の法律が適用されることも明記しておくと良いです。
(14)裁判管轄
契約に関する内容で争いが発生して裁判が起こる場合、どこの裁判所で訴訟手続きをすすめるのかについてあらかじめ定めておくことができます。
(15)日付と署名押印
最後に秘密保持契約を締結した日にちと、契約当事者双方の署名(記名)押印をする必要があります。
ここで日付は必ず正確に書き入れましょう。
そして、当事者双方の署名(記名)押印が必要です。
契約の一方当事者しか署名(記名)押印していない場合には、その契約書は無効になりますので、注意しましょう。
5.秘密保持契約書作成の流れ
秘密保持契約書を作成する場合、その作成手続きの流れはどのようになるのでしょうか?
以下で説明します。
(1)契約内容を協議する
秘密保持契約をする場合、まずは契約内容を相手方との間で協議する必要があります。
たとえば、秘密保持契約の対象とする秘密の内容や秘密保持義務を負う人の範囲、情報漏えいが合った場合の差し止めや損害賠償の可否、秘密保持がきちんとできているかどうかについて調査する権限、秘密保持契約の期間や争いが起こった場合の裁判所の管轄などについて決めておく必要があります。
秘密保持契約を締結するには、これらの重要な点を話し合って一つ一つ合意していく必要があります。
(2)契約書の作成
秘密保持契約の内容について合意ができたら、その合意内容を秘密保持契約書の形にまとめる必要があります。
このとき、どちらが秘密保持契約書のたたき台を作るかを決めなければなりません。
自分の方でまずはたたき台を作った方が契約におけるイニシアティブをとれるので、自社に有利な内容の契約書を作りやすくなります。
相手が契約書のたたき台を作った場合には、自社にとって不利な内容になっていないかどうかをしっかりチェックする必要があります。
(3)契約書内容についてのチェックと修正
秘密保持契約書のたたき台ができたら、相手側の企業がその内容をチェックして問題や反対意見があれば修正依頼を出してきます。
修正の要望が出た場合には本当に修正が必要か、どのような方法で修正するかについて改めて協議する必要があります。
このチェックと修正作業を繰り返して、最終的に双方が合意する内容の秘密保持契約書の内容を固めていきます。
(4)秘密保持契約書の作成と調印
チェックと修正作業を繰り返して秘密保持契約書の内容が確定できたら、具体的に契約書を作成して調印します。
このとき、同じ内容の秘密保持契約書を2通作成して契約当事者それぞれが1通ずつ保持することになります。
また、契約書が2ページ以上に及ぶなら、各ページのつなぎ目の部分に契約当事者がそれぞれ契印をしましょう。
このことによって、契約書が全体として1通であることを明らかにすることができます。
もし、契印がないと簡単に差し替えなどができてしまうので危険です。
このように、秘密保持契約書に契約当事者双方が調印して契約当事者それぞれが1通ずつ保持する状態になった時点で、秘密保持契約書の作成手続きは終了します。
後は、双方が秘密保持契約の内容を守って業務を進めていくことになります。
まとめ
今回は、秘密保持契約書の意義や作成方法、ひな形や作成手続きの流れについて解説しました。
秘密保持契約書は、業務提携をする際などには非常に重要な契約です。
秘密保持契約を利用すると、企業の秘密を守りながら事業展開を効率的に行うことができるので非常に有用です。
秘密保持契約をする場合には、まずは相手方と契約内容について協議をして契約書のたたき台を作って修正していくという流れになります。
ひな形もあるので個々のケースに応じて適宜修正しながら利用すると良いでしょう。
今回の記事を参考に、秘密保持契約を賢く利用して業務委託やM&Aなどの手続きを安全適切に行っていきましょう。