離婚する際に未成年の子どもがいる場合、父親と母親のどちらか一方を親権者に指定しなければなりません。
日本では母親が親権者になることがほとんどで、中には子どもと離れたくはないが親権を争ってもどうせ無理だろうと諦めてしまう父親も少なくありません。
しかしながら、親権者を決める基準は法律上明確に定まっているわけではなく、母親が優先と決まっているわけではありません。
ですから、父親が親権を取れる場合もあります。
そこで今回は、一般的に父親が親権者になりにくい理由を分析したうえで父親が親権を勝ちとるための対応策を紹介します。
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目次
1.親権を決める法律上の基準
まず、親権はどのような基準で決めることになっているのか法律の規定を確認しましょう。
(1)協議離婚の場合
夫婦の話し合いによって離婚の合意が成立する場合(協議離婚といいます)、法律は「父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない」(民法819条1項)と定めるのみです。
つまり、夫婦の間で合意ができればどちらでもいいというのが法律の立場です。
(2)裁判上の離婚の場合
当事者間の話し合いでは離婚についての合意ができない場合には裁判所の手続を利用する必要があります(離婚裁判といいます)が「裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める」(民法819条2項)と規定されています。
どのように定めるかについては法律に具体的な規定はなく、裁判所が子どもの利益、いいかえればどちらが親権者となるかが子どもにとって幸せかという観点から決めることになります。
その際には、次のような事情が考慮されていると考えられます。
①父母についての事情
父母の年齢、職業、収入、養育の意欲、それまでの養育の実績、養育に協力してくれる親族の有無など
②子どもについての事情
年齢、性別、父母に対する感情、環境の変化に対する順応性など
③子どもの意思の尊重
家庭裁判所は、親権者の指定をする場合に子どもが15歳以上のときは、子どもの陳述(意見)を聞かなければなりません。
これは法律上裁判所に要求されている義務ですが、15歳に満たなくても10歳程度になれば、子ども自身が自分にとって父母のどちらがいいかをある程度考えることが可能と思われます。
したがって、子どもが10歳以上になれば、子どもの意思が尊重される傾向があります。
④継続性の原則
親の離婚や親権者の指定によってそれまでの生活環境などに変化が生じることは、子どもにとって大きな精神的負担となるおそれがあります。
そのため、現在の養育状況に特に問題がない場合には、それを継続させる(現状維持)ことが望ましいと考えられています。
⑤兄弟姉妹の不分離の原則
離婚という親の事情によって兄弟姉妹が引き離されるのは望ましいことではないと考えられており、兄弟姉妹そろって父母のどちらかが親権をとるのが原則です。
2.なぜ父親は親権者になりにくい?
それでは、「1.」で解説した親権を決める基準を踏まえて、なぜ父親が親権者になりにくいかを検討しましょう。
(1)養育実績に差がある
一般的に、母親は産休や育休をとったり、妊娠・出産を機に退職したりすることが多いのに対し、父親が育休などをとることはまだ少なく母親が働けない分、父親がフルタイムで働くという夫婦が多いでしょう。
子どもがある程度成長して母親が働くようになっても、パートやフルタイムより短い時短勤務にして保育園や幼稚園の送迎をしている場合も少なくありません。
このように、多くの夫婦で必然的に母親の方が子どもと接する時間が長くなりがちで、父親が仕事終わりや休日に子育てに協力したとしても、過去の育ての実績で母親の方が勝るとの判断に結びつきやすくなります。
そうなると、「1.」で解説した継続性の原則からは、それまでどおり母親が中心となって子育てをするのが望ましいとの結論に至る場合が多くなるのです。
(2)子どもの意思
(1)とも関連するのですが、母親の方が子どもと過ごす時間が長く、主に母親が子供の日常的な世話をしてきたとするとどうしても子どもは母親の方により強い親愛の感情を抱く傾向があります。
10歳以上の場合は子どもの意思が尊重される傾向があると説明しましたが、それ以下の年齢の場合には子どもの意思は全く考慮しないということではありません。
特に乳幼児の場合、母親と引き離すと泣き出してしまう子どももいますのでどうしても母親が有利な傾向にあります。
(3)環境調整の難しさ
これも(1)と関連するのですが、母親の場合、パートや時短勤務などで離婚後もそれまでと同様の子育てを期待することができます。
経済的な面については父親が養育費を支払うことで補うことが可能です。
これに対し、父親の場合、離婚するからといって会社がただちに時短勤務をみとめてくれるとは限りません。
仮に認めてもらえたとしても、一般的に女性の方が賃金が低いため、母親からの養育費の支払いはあまり期待できないので収入の減少を補う手段が乏しいといえます。
このように、父親の場合、親権をとった場合の子育ての環境調整が難しいことが多いということも父親に不利な事情の一つといえます。
3.父親が親権を勝ち取る方法とは?
親権者は、「1.」で解説した事情を総合的に考慮して判断されるため、こうすれば確実に親権がとれるという決定的な方法は残念ながらありません。
ですから、親権を獲得したい場合には、「1.」で解説した基準について、父親に有利な事情を積み重ねていくしかありません。
具体的には、次のような主張をすることが考えられます。
(1)養育の実績を明らかにする
それまでの養育の実績、子育てにどのように関わってきたかについての詳細を明らかにする必要があります。
普段から日記を付ける、写真をとるといった記録を残すことを意識しておくといざ裁判というときに証拠になります。
(2)子どもの意思を確認する
母親が子どもを残して単身で家を出た場合など、子どもが母親よりも父親との生活を希望するケースがないわけではありません。
子どもの意思を裁判所にきちんと伝え、理解してもらう必要があります。
(3)生活環境の変化がないことを明らかにする
母親が親権をとる場合、母親が子どもとともに家を出て父親はそれまでの住居に住み続けるという場合が多いでしょう。
このような場合、子どもは転校など、それまでの生活環境や友人関係などから切り離されてしまうおそれがあります。
そこで、父親側の「継続性の原則」からは、子どもをそれまでと同じ環境で養育するのが望ましいと主張することが考えられます。
(4)離婚原因が親権に影響する?
母親の不貞(浮気)が原因で離婚した場合のように、母親に婚姻関係を破たんさせた原因(責任)がある場合、多くの父親は「あんな母親に子どもは任せられない」と考えるでしょう。
しかしながら、婚姻関係を破たんさせたことと親権者にふさわしいかどうかということは、基本的には別の問題です。
したがって、母親が離婚の原因を作ったことは親権者の指定について直接の影響はありません。
ですから、単に「妻が不倫した」と主張するだけでは意味がありません。
子どもを放置して浮気相手と密会を繰り返すなど、母親の養育実績に問題があるとか子どもも母親の不貞を知っており、母親を嫌っており父親との同居を希望しているなど、親権者の指定の基準となる事情と関連して主張する必要があるでしょう。
まとめ
父親が親権者になりにくい理由とその対策について解説しましたが、いかがでしたでしょうか。
従来の養育の実績は、いざ離婚話が持ち上がってから積み上げようとしてもなかなかできるものではありません。
子どもに対する愛情はあるが仕事が忙しくてなかなか子どもに接する時間がないなど、それぞれの事情がおありだとは思いますが離婚するにせよしないにせよ、普段から父親が子どもに接する機会をできるだけ増やすことは、子どもの健全な成長にとって望ましいことですし結果的に夫婦の円満にもつながることにもなります。
ですから、本稿をお読みの男性の方は、日ごろからできる限り子育てに積極的に参加するように心がけてください。