懲戒解雇とはニュースぐらいでしか聞くことが無い言葉ですが、これは、就業規則に定められている懲戒処分としての解雇のことを言います。
職種によっては、懲戒免職という言い方をする場合もあります。
ここでは、解雇の一つである懲戒解雇について、その内容ともし不当な懲戒解雇をされそうになった時の対処法も含め分かりやすく解説いたします。
※この記事は2017年10月18日に加筆・修正しました。
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1.懲戒解雇について押さえておきましょう
懲戒解雇とは、労働者が会社内の秩序を乱した場合に懲罰として行われる解雇のことです。
懲罰として行われる解雇ですから、通常行われる普通解雇とは違った点がいくつかあります。
その一つが解雇予告です。
(1)懲戒解雇の場合は、解雇予告なしに行われる
普通解雇の場合は、会社側は解雇日の30日前に予告を行うか30日分の解雇予告手当を支払わなければなりません。
一方、懲戒解雇の場合は、即時に解雇とするのが通常です。
また多くは、就業規則で退職金の不支給が決められていたり支給される場合でも減額されることになります。
このように、退職の際の賃金の面にも処罰の側面が表れています。
(2)労働基準監督署から「解雇予告除外認定許可」を受ける必要があります
懲戒解雇は、解雇予告が必要ありませんので、会社は労働基準監督署に「解雇予告除外認定」を申請し、その許可を受ける必要があります。
許可が出れば、即日解雇が可能です。
したがって流れとしては、懲戒解雇にあたる事由が発生 → 会社内で懲戒解雇について審議 → 労働基準監督署に解雇予告除外認定の申請 → 認定が下りる → 懲戒解雇となります。
(3)就業規則に懲戒解雇事由が定められていることが必要となります
懲戒解雇を行うためには、あらかじめ就業規則に懲戒解雇事由が定められている必要があります。
さらに、その事由に該当する事を労働者が行ったという具体的な事実が必要です。
例えば、といった内容の規則があらかじめ定められている必要があります。
これがなければ、たとえ会社のお金を着服したり会社内で暴力事件を起こしたりしても、懲戒解雇にすることはできません。
このことは、懲罰としての解雇を行うわけですから事前にどのような場合には、懲戒解雇となるかを示しておく必要があるということを意味しています。
もし、懲戒解雇にすることができなければ、普通解雇を行うことになります。
(4)懲戒解雇の規定は遡ることはできません
懲戒解雇の規定を定めておく必要があることに関連しますが懲戒解雇の規定は、それが定められる以前に行われた事案については、適用することはできません。
つまり、例えば「刑事事件をおこしたものは、懲戒解雇とする。」という規定を設けた場合、それを設ける以前に起きた事案については当てはめることはできないということです。
その他、一つの事案について2回以上の懲戒処分を行うことはできません。
また、同様の事案の場合については同じ程度の懲戒処分とならなければなりません。
事案ごとにばらつきが出るのは不公平だからです。
そして、懲戒処分は、規則違反となる行為の程度に照らして相当なものでなければなりません。
言い換えると、懲戒解雇に値するような会社の秩序を乱す行為というのは、重大かつ著しく悪質であるといえる程度のものでなくては該当しません。
軽微な違反行為であるのに、懲戒解雇とすることは労働者にとって酷であるからです。
2.懲戒解雇になるケースとは
このように、懲戒解雇とは、普通解雇よりかなり重大な処分ですから、かなり厳格な要件に当てはまらないと適法な解雇だとはみなされません。
具体的には、労働基準監督署が今までに出した通達の中身を見ていくと分かりやすいと思いますのでいくつかご紹介していきます。
(1)会社で犯罪にあたる行為をした場合
会社で窃盗や会社のお金の横領、同僚や上司に対する暴行や傷害事件を起こした場合がこれに当てはまるでしょう。
また、会社の外つまりプライベートであっても、刑事事件となるようなことを起こした場合は、それにより会社の信用が落ちる場合もありますので懲戒解雇となる場合があります。
(2)賭博をしたり、社内の風紀を乱し他の労働者に悪影響を及ぼした場合
社内で大規模な賭け事を行っていたり、悪質なパワハラやセクハラを行った場合がこれに当てはまるでしょう。
セクハラの場合であれば、強制わいせつに当たる程度の悪質さが必要となってくるでしょう。
(3)経歴を偽り、採用されていた場合
採用の時に、必要とされていた資格や経歴を偽っていた場合がこれにあたるでしょう。
運転手として採用されたのであれば、運転免許を持っていないのにあると詐称した場合がこれにあたります。
また、犯罪歴なども該当する場合があります。
例えば、信用がとても大切になってくる銀行員の採用の際に、過去の窃盗での逮捕歴を隠していた場合などがこれにあたるでしょう。
(4)無断欠勤が続いた場合
原則として、2週間以上の無断欠勤が続き、会社側から出勤するように促されても応じない場合は懲戒解雇の対象となります。
(5)指導等を受けても、勤務態度が改善されない場合
一発で懲戒解雇となるような悪質なセクハラや長期の無断欠勤でなくても、通常はそのような勤務態度であれば注意や減給といった処分が行われるでしょう。
そのような指導や処分を受けた後であっても、勤務態度が改まらず繰り返されるようであれば懲戒解雇となる場合があります。
このように、懲戒解雇の判断基準は一回当たりの不祥事の重大性だけではありません。
比較的軽微な不祥事であっても、何回も繰り返されていて改善がない場合であれば懲戒解雇となる可能性があります。
したがって、懲戒解雇となる事案というのは総合的に判断されることになります。
3.不当な懲戒解雇とはどういったものでしょうか
懲戒解雇に当たるかどうかは、事案をよく検討して総合的に判断されるものです。
また、会社だけが懲戒解雇の正当性を判断するわけではありません。
場合によっては、不当な懲戒解雇となる場合もあります。
会社から懲戒解雇を言い渡された場合は、次の項目を確認することが大事です。
(1)就業規則を確認する
先にも述べた通り、懲戒解雇については事前に就業規則にそのことを定めておかなくてはなりません。
したがって、懲戒解雇と言われたら、まずは会社の就業規則を確認しましょう。
また、就業規則については、会社側に周知義務というものが課されています。
これは、就業規則は労働者がいつでも閲覧できる状態にしておかなければならないということです。
したがって、労働者側が就業規則を確認させてほしいといったら会社側はこれを拒むことはできません。
(2)懲戒解雇とされる事案が、会社にとって重大な不利益をもたらす程度のものであったかを確認する
例えばパワハラ・セクハラ等があったとしても、程度については様々です。
したがって場合によっては、懲戒解雇とすることは行き過ぎというケースもあります。
懲戒解雇となれば、労働者は退職時のみならず再就職先を探す時も不利益を受けるわけですから、軽微な不祥事の場合は懲戒解雇とするのは重過ぎるわけです。
4.不当な懲戒解雇への対処法
懲戒解雇は、不祥事を起こした労働者に対する一種の制裁です。
そして、懲戒解雇となった事実は労働者にずっとつきまといます。
したがって、不当な懲戒解雇は絶対に回避した方がよいでしょう。
ここでは、不当な懲戒解雇に対する対処法を説明いたします。
(1)労働問題に強い弁護士に相談しましょう
不当と思われる懲戒解雇を告げられたら、一人で抱え込まずになるべく早く労働問題に詳しい弁護士に相談しましょう。
弁護士は、客観的な視点からあなたのための最善の策をアドバイスしてくれるでしょう。
(2)会社に、解雇理由証明書を求めましょう
解雇理由証明書を出させることで、解雇理由は何であるかまたそれ以前に、解雇であるのかそれとも合意での労働契約の解約となっているのかそういうことが明らかになります。
また、今後の対応策を検討することができます。
(3)手続きが適正であるか確認しましょう
まずは、就業規則に懲戒解雇が定められているか確認しましょう。
手続き違反の懲戒解雇は認められません。
(4)退職の意思を示さず、就労を続ける意思を示しましょう
例えば、会社に対して内容証明郵便で今後も就労を続ける意思を伝えるといった方法があります。
会社側が離職票を出したのでそれを受け取ったり、退職金を振り込んできたりしたとしても、それで懲戒解雇を争えなくなるということはありません。
ただ、それをそのまま受け取るのではなく返還したり、今後受け取るべき給与に充当する旨を内容証明郵便で伝えるなどした方がよいでしょう。
そういったことを含め、弁護士に相談して対応策のアドバイスを受けるのがよいでしょう。
また、必要に応じて「意外と簡単! 内容証明郵便を送る方法【雛型ダウンロード可能】」も併せてご参照ください。
(5)まずは、裁判外の方法で会社と交渉しましょう
まずは、裁判外の方法で、会社に対して懲戒解雇を撤回させる交渉を進めましょう。
裁判は、双方とも労力も時間もかかります。
労働者には、今後の生活もあるので早く解決に導けるやり方をまずは選択することがよいでしょう。
その際は一人で交渉せず、弁護士に依頼することがよい結果を得られる可能性が高いです。
まとめ
懲戒解雇は、労働者にとって、ある意味死刑を宣告されたにも等しい重大なことです。
もし、不当だと思われる懲戒解雇を告げられた場合は、なるべく速やかに労働問題に詳しい弁護士にご相談して、力を借りることが有効だと思います。