交通事故で車が廃車(全損扱い)になった場合に請求できる損害賠償はいくら?内訳と相場を解説

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「交通事故で車が全損扱いになったが保険の対象外と聞いた…」

「交通事故で車が壊れたが、廃車にすべきか修理すべきか分からない…」

交通事故で車が壊れた場合に修理した方がいいのか廃車にした方がいいのか、壊れたり廃車になった場合にどこまで補償されるのか気になる方も多いのではないでしょうか。

また、車が壊れた場合に修理した方がいいのか廃車にした方がいいのか、またその際の費用などを相手方に払ってもらえるのかなどについても心配な方もいるかもしれません。

自動車が壊れたという物損事故の場合に損害賠償の対象となる「損壊」の程度は様々ですし、被害者がケガを負った人身事故の場合とは損害賠償の対象や範囲も異なります。

今回は、車が廃車になったり全損扱いとされるのはどういうケースなのか、またその場合の損害賠償請求の可否について解説していきたいと思います。

1.交通事故で全損扱いになる車の状況とは

(1)全損扱いとは

交通事故に遭った場合に、事故車両を修理するか廃車にするかを検討する目安となるのが「全損事故」かどうかです。

全損事故とは、事故車両の修理がもはや不可能な交通事故のことを言います。
修理が不可能かどうかの判断は、次の3つの基準で判断されます。

①物理的全損

事故車両が物理的に完全破壊され、修理ができない状態のことです。

②経済的全損

事故車両が物理的には完全破壊の状態に至っていなくても、修理費用の方が買い替え費用よりも高額になる場合に経済的観点から全損と扱われる状態です。

具体的には、自動車の時価が無いに等しいけれども修理費用が高くなるようなケースです。

③自動車の本質的構造部分に重大な損傷が生じた場合

事故車両が外見上は破壊されていなくても構造の本質的な部分が破損していて修理が難しいため、全損と扱われる状態です。

上記の3つの全損の中でも、一番争いになりやすいのが経済的全損の場合です。

具体的には、交通事故に遭って自動車が壊れ、修理費用が100万円かかるけれど事故当時の自動車が時価40万円の価値しかなかった場合は、損害額として40万円しか認められないといったケースがあります。

この場合、被害者側が60万円の修理費用を自分で支払わなくてはいけないため、負担が大きくなってしまうという問題があります。

(2)全損扱いにならなかった場合には

交通事故で自動車が壊れたけれど全損に至らない損害だった場合を「分損」と言います。
具体的には、事故車両の修理が可能で修理費用も必要かつ相当な金額で済むようなケースです。

分損扱いになった交通事故の損害賠償で問題になりうるのは、修理代金の範囲です。

本来、部分的な修理で済むのに全部品を変えるなどの過剰修理や事故前からの不具合を自己に乗じて修理する便乗修理は損害として認められないといった点が検討されます。

2.交通事故で全損した場合の損害賠償の種類とは

(1)全損事故の場合の損害賠償

交通事故で自動車が全損扱いになり廃車となった場合、請求できるのは次の4つの内容になります。

①買い替えの際の車体費用

全損事故の場合、もはやその事故車両が利用不可能、もしくは修理することが困難な場合には自動車を買い替えることになります。

そこで、被害者は加害者側に対して車の買い換え費用(車体費用)を請求することができます。
とはいえ、新車の代金全額を請求できるわけではありません。

いくら車体費用を請求できるかは、全損した事故車両の時価によって評価されます。

事故当時、被害に遭った事故車両にほとんど価値がないにもかかわらず、高級車に買い替えた費用を請求できるとなると不公平だからです。

そのため、事故当時の事故車両の時価が低いと高級車に買い替えても賠償金がほぼ支払われない場合もあるのです。

また、修理費用が損害賠償と認められる場合でも、原則として、自動車の時価額より修理費用の方が高い場合は全損扱いとなり自動車の評価額が損害賠償の上限となります。

評価額の目安としては、新車から10年以上経過し市場価格が不明で特に貴重な車種といった事情がないケースでは、新車の10パーセント程度が時価となるのが通常です。

例外的に、中古車市場で高額取引されるような貴重な車種では賠償額が高くなるケースもあります。

②登録手続関係費

交通事故で自動車が全損扱いになり廃車せざるをえなかった場合に、新車購入のために必要な金額を言います。

新しく自動車を購入する際には、自動車の代金以外にも自動車取得税などの税金や事故車を廃車にする費用などの諸費用がかかります。

これらの、登録手数料、納車手数料、自動車取得税、自動車検査登録手続費用、車庫証明手続費用、廃車費用などが損害として認められる可能性があるのです。

しかし、事故車両を廃車にすると還付される自動車税・自動車重量税・自賠責保険料については、損害として認められず請求することはできません。

③代車使用料

交通事故で自動車が全損したため、買換えまでの間に借りたレンタカー代などの金額を言います。

具体的には、自動車の買い替えや修理が終わるまで自動車が使用できないことから、この間に利用した代車の使用料が損害として認められます。

とはいえ、代車使用料の全額が認められるとは限らず、代車を使う必要性と代車使用料の相当性があることが条件になります。

更に詳しく見ると、代車を使用する必要性については、特に自家用車の場合は使用状況や公共交通機関が利用できるかといった点が考慮され、相当性については代車の使用期間や使用料などの点を考慮して検討されます。

④慰謝料

慰謝料とは、精神的苦痛に対する損害賠償のことです。
原則として、愛車が事故で全損して大きなショックを受けたとしても慰謝料の請求は認められません。

これは、自動車や積んでいた荷物の破損については、修理費用や新車購入費用といった金銭的な賠償によって損害をカバーすることができるため、別途精神的苦痛について損害を賠償する必要はないと考えられるためです。

ただし例外的に、破損した自動車が希少なクラシックカーであったり、生産台数が極めて少ない芸術的価値が認められるようなケースでは、慰謝料が認められることもあります。

(2)その他の物損の交通事故で請求できる損害賠償とは

交通事故で自動車が壊れたけれど全損に至らなかった場合は、次のような損害賠償を請求することができます。

①修理費

交通事故で自動車が壊れた場合、被害者から加害者に対して請求が可能な修理費用に相当する金額をいいます。

ただし、修理費用が損害として認められるのは自動車を修理する必要性修理費用の相当性が認められる場合です。

修理の必要性は認められるものの、不必要に豪華に改造するといった場合には相当部分を超える金額については損害賠償の対象となりません。

②評価損

事故にあった自動車の修理後も残った機能・外観面での欠陥や、事故を理由とする査定額の下落分に相当する金額をいいます。

評価損の中でも、機能・外観面での欠陥による市場価値の低下は、損害として賠償の対象になりますが、事故車であることによる価値の低下は損害として認められないこともあります。

評価損は、事故にあった車の車種や年式、走行距離などに加え、事故で壊れた場所や修理費用などから算出され、修理費用の20~30パーセントが損害として認められることが多くなっています。

また、全損に至らない物損事故の場合も、代車費用や、貴重な車だった場合には慰謝料が請求できる場合があります。

物損事故については「物損事故における損害賠償とは?慰謝料も請求できる?」で詳しく解説しています。

3.全損事故の損害賠償額の目安とは

(1)相手に請求できる時価の計算方法とは

上記のように、全損扱いの場合、新車に買い替えるにしても相手に請求できる損害賠償の金額は事故当時の自動車の時価が基準となります。

時価の出し方は、通称レッドブックと呼ばれる「オートガイド自動車価格月報」(有限会社オートガイド社)という書籍に掲載されている小売価格、下取価格、卸売価格、新車価格といった金額をもとに算出されます(市場価格方式)。

その他にも、「建設車両・特殊車両標準価格表」(全国技術アジャスター協会)や中古車雑誌が参考にされることもあります。

具体的には、交通事故当時の事故車両が中古市場においていくらで取引されるかを事故車両と同じ車種、年式、型、使用状態で走行距離も同じくらいの中古車が市場価格でいくらとされているかといった相場をもとに時価が算定されることになります。

ちなみに、最高裁判所の裁判例でもこの市場価格方式が採用されています。

交通事故で自動車が全損扱いとなると相手方の保険会社がオートガイド自動車価格月報をもとにした時価で提案してくると思います。

念のために、ご自身でもオートガイド自動車価格月報を確認してみて、最新の情報をもとに算出されているかチェックしておくことをお勧めします。

(2)特殊な事情があるケースの賠償額の目安とは

交通事故で全損扱いになった自動車を仕事で使用していた場合、新車に買い替えるまでの間、仕事に支障が出たりそもそも仕事ができない事態が生じる可能性があります。

この場合、時価相当の損害賠償を支払ってもらっただけでは、損害の全てを填補してもらうことができません。

そこで、仕事で使用していた自動車が廃車になるなどして使用できなかったケースでは、本来仕事をしていれば得られた利益を損害(休車損害)として、相手方に請求することが可能です。

休車損害の算出方法は、次の計算方法で算出します。

(事故車両で得られたはずの営業収入-経費)/日×買い替えまでの日数

ただし、会社に他に使用できる車があるなどのケースでは通常休車損害は認められません。

また、事故車両に積み荷を積んでおり交通事故で破損するなど被害を受けたケースでは積荷分も損害賠償請求をすることができます。

まとめ

今回は、交通事故で車が全損扱いになったケースにおける損害賠償についてお話ししました。
廃車になって買い替える際に、新車代金すべてが認められないことに驚かれた方もいるかもしれません。

また、車の状態や社用車だったかどうか積荷はあったか等、状況によって認められる損賠賠償の内容は変わってきます。

物損事故の交通事故に遭い、廃車になるような全損被害を被った場合は一人で悩まずに専門家に相談してみてください。

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