物損事故における損害賠償とは?慰謝料も請求できる?

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交通事故には、人が死亡・負傷した人身事故と、死傷者がおらず、物が壊れただけの物損事故の2種類があります。

人身事故の場合、被害者は、現実に支払った治療費などの積極損害、得られるはずだった収入が得られなくなった休業損害などの消極損害といった経済的損害に対する賠償に加えて、精神的損害(苦痛)に対する慰謝料を請求することができます。

これに対し、物損事故の場合はどうでしょうか?

物損事故で大切な物が壊れてしまい、精神的苦痛を受けることは珍しくありませんが、その苦痛に対する慰謝料は請求できるのでしょうか?

今回は、物損事故で請求できる損害とは何か、慰謝料の請求が認められるかについてご紹介したいと思います。

1.物損事故で請求できる損害の範囲

(1)修理費

修理が相当である場合には、修理費を請求できます。
修理が物理的に可能かどうかではなく、相当かどうか(経済的に合理的か)が基準になることに注意が必要です。

(2)買替差額

事故により物が物理的に全損したとき(修理が不可能なとき)は、物の事故時の時価と売却代金の差額(これを買替差額といいます)を請求することが可能です。

物理的には修理が可能でも修理費用が時価額を上回る場合(経済的全損といいます)も、
修理費用ではなく買替差額の賠償が認められます。

(3)その他の損害

その他の損害としては、修理または買替に必要な相当期間の代車使用料や営業車の休車損、レッカー代などがあげられます。

(4)慰謝料は請求できるか?

それでは、慰謝料は請求できるでしょうか。

慰謝料に関する法律(民法710条)は、「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権」を侵害した場合、「財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない」と定めています。

条文上は物という他人の財産権を侵害した場合に、精神的損害(財産以外の損害)の賠償を請求することができるように思えますが、現在の実務では、物損事故で慰謝料を請求することは、基本的には認められていません。

2.例外的に慰謝料を請求することができる場合があるか?

(1)例外的に慰謝料を請求できる場合もある

先ほどご紹介したとおり、物損事故では原則として慰謝料を請求することはできませんが、例外的に慰謝料請求を認めた裁判例があります。

過去の裁判例を分析すると、①被害にあった物の性質等に着目して慰謝料請求を認めたもの、②加害者の加害行為の悪質性に着目して慰謝料請求を認めたもの、に大別することができます。

このことを端的に指摘した裁判例として、東京地裁平成元年3月24日判決が、慰謝料を請求するには、物が特別の愛情を抱かせるようなものである場合や、加害行為が害意を伴うなど被害者に精神的打撃を与えるような仕方でなされた場合など、被害者の愛情利益や精神的平穏を強く害するような特段の事情が存在することが必要であると述べています。

(なお、この事案ではメルセデスベンツが破損したことに関する慰謝料請求が認められるか否かが争われたのですが、特段の事情の立証がないとのことで、結論として慰謝料は認められませんでした)。

(2)裁判例の紹介

①物の性質に着目したと考えられる裁判例

自宅建物、墓石、芸術作品、ペット(人間以外の生物は、損害賠償請求との関係では物として扱われます)などの損壊について、慰謝料の請求を認めた裁判例があります。

他方で、車両の損壊については、高級車や限定車のようなものであっても、なかなか認められない傾向にあります。

慰謝料請求を認めた裁判例には、次のようなものがあります。

  • 大阪地裁平成元年4月14日判決
  • 居酒屋の自宅兼店舗に加害車両がつっこんだ事案について、生命の危険もあり家庭の平穏を害されたことを理由に、30万円の慰謝料を認めた。

  • 大阪地裁平成12年10月12日判決
  • 事故により墓石が倒壊し、埋設されていた骨壺が露出するなどした事案について、墓地や墓石は先祖や故人の眠る場所としてその所有者にとって強い敬愛追慕の念の対象となる特殊性があると指摘し、10万円の慰謝料を認めた。

  • 東京地裁平成15年7月28日判決
  • 陶芸作品が損害した事案について、被害物件が代替性のない芸術作品の構成部分であり、被害者が自らそれを制作したことなどから、100万円の慰謝料を認めた。

    (慰謝料が他の事例と比較して高額になっているのは、芸術作品の具体的な財産的価値は認定できないとしたという事情を考慮したものと考えられます)。

  • 東京高裁平成16年2月26日判決
  • 飼い犬が死亡した事案について、飼い主が長年家族同然に飼ってきたことを理由に、葬儀費用のほかに5万円の慰謝料を認めた。

  • 名古屋高裁平成20年9月30日
  • ラブラドールレトリバーが負傷し、後肢麻痺などの後遺障害がある事案について、治療費等のほか、飼い主夫婦に合計40万円の慰謝料を認めた。

②加害者の行為の悪質性に着目したと考えられる裁判例

次に、加害者の行為の悪質性などを理由に慰謝料請求を認めた裁判例として、次のようなものがあります。

  • 京都地裁平成15年2月28日判決
  • 加害者が飲酒運転で事故を起こし、そのまま現場から逃走したため、被害者が現場付近を捜索し、現場から数百メートル離れた場所で加害者寮を発見した事案について、加害者の態度の悪質性、これにより被害者が心痛を受けたことなどから、10万円の慰謝料を認めた。

3.物損で慰謝料を請求したいときはどうすればいい?

このように、物損における慰謝料請求は容易には認められません。
上で紹介したような物にあたるか、加害者に悪質性が認められなければ、慰謝料請求はできないでしょう。

また、上記の裁判例からもおわかりいただけるとおり、仮に慰謝料の請求が認められたとしても、それほど高額にはならないことが多いといえます。

しかもその額は、訴訟を提起し、主張立証を尽くすという時間と労力をかけてようやく勝ち取った額です。

「金額の問題ではない。大切なものを壊されて何もなしでは納得できない」という方ももちろんいらっしゃいますが、時間と労力がかかることは事前に念頭に置いておくべきでしょう。

物損事故で慰謝料を請求したいと考えたときは、まずは交通事故に詳しい弁護士に相談し、過去の裁判例と比較して、慰謝料請求ができるような特別の事情が認められるか、仮に認められるとして、どの程度の額になると見込まれるかなどを聞いたうえで、時間と労力(場合によっては弁護士費用も)をかけてでも加害者に請求するかどうかを決めればいいでしょう。

まとめ

物損事故における慰謝料についてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
万一、物損事故に遭ってしまった場合には、今回の記事を参考にしていただければ幸いです。

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