未成年の子どもがいる夫婦が離婚する場合、子どもの親権者を決めなければなりません。
親権者がころころ変わるようでは子どもの生活環境が安定せず、子どもの成長にとって望ましいことではないと考えられているため、いったん決めた親権者を簡単に変えることはできません。
もっとも、親権者が子どもに不利益な行動をとるなど、親権者としての適性を欠くに至る場合もありますので、一定の手続により親権者の変更が認められています。
そこで今回は、親権者変更の手続や変更と類似の制度である親権喪失・停止の手続と親権者変更との違いなどについて解説します。
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目次
1.親権者を変更する手続
(1)当事者の合意では変更できない
離婚の際は、当事者間の合意で親権者を決めることができます。
これに対し、いったん指定した親権者を変更する場合、当事者の話し合いで変更することはできません。
民法は、「子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる」(819条6項)と規定しており、親権の変更に家庭裁判所が関与することが予定されています。
(2)親権者変更の調停・審判
では、親権を変更するには具体的にどうすればいいかといいますと家庭裁判所の調停・審判という手続を利用する必要があります。
①親権者変更の調停
親権者を変更したいときの一般的な流れとしては、まず家庭裁判所に親権者変更調停の申立てをします。
調停は、裁判所の調停委員を介して当事者間で話し合いをするもので、通常は当事者間で合意ができれば調停成立となり、合意したとおりの内容で事件が終了します。
しかしながら、親権者変更の調停も同様に合意ができさえすればよいとすると、子どもの利益のために家庭裁判所が関与することにした意味がなくなってしまいます。
そこで、親権者変更の調停の場合には、家庭裁判所の調査官という職員が子どもとの面会や学校訪問などをして、子どもの養育状況、生活環境、子どもの意思の確認などの調査を行うことになっています。
その調査の結果、親権者の変更が適切と判断された場合、調停が成立し、親権者が変更されるのです。
②調停が成立しない場合には審判に移行
当事者間で親権者の変更についての合意ができない場合には、調停は不成立となり、審判という手続に移行します。
審判に移行した場合、家庭裁判所が当事者双方の言い分や家庭裁判所調査官の調査の結果を踏まえ、親権者を変更するか否かの決定をします。
当事者の合意ができていない以上、親権の変更を認める場合はもとの親権者が親権者の変更を認めない場合は変更を求めた者が、それぞれ不満を抱く可能性があります。
そこで、この決定に対しては、2週間以内に不服申し立て(即時抗告といいます)をすることができます。
(3)どのような理由があれば変更が認められるか?
どのような理由があれば親権者の変更を認めるかについては、法律上具体的な規定はありません。
もっとも、冒頭でも触れたとおり、親権者がころころ変わるようでは子どもの生活環境が安定しませんから、親権者の変更は簡単には認められません。
ですから、親権者の変更が認められるためは、子どもの生活環境の安定というメリットを上回るほどの利益があることが必要になります。
たとえば、
- 親権者が病気などの理由により十分に育児ができない場合
- 親権者による虐待、育児放棄などの事実がある場合
- 親権者の再婚相手と子どもとの関係がうまくいかない場合
- 親権者が死亡した場合
などが考えられます。
親権者の変更を求める場合には、これらの事情に関する証拠を事前に集め、相手方が親権者として不適切であることを積極的に主張していく必要があります。
(4)親権者の変更が認められたらどうすればいい?
調停または審判により親権者の変更が認められた場合、子どもの戸籍を変更する必要があります。
そこで、調停が成立した日または審判が確定した日から10日以内に、市区町村の役所に届け出をしなければならないと定められています。
審判は、調停と違って不服申し立ての制度があるため、当事者が不服申し立てをしないか不服申し立てをしたがそれが認められなかった場合に確定し、効力を生じます。
そのため、審判の日からではなく、確定した日からとされているのです。
役所に提出する書類も父母の戸籍謄本のほか、調停の場合は調停調書謄本で足りますが、審判の場合は審判書謄本に加えて審判が確定したことを明らかにするために裁判所の確定証明書が必要になります。
2.親権の喪失・停止
親権者に問題がある場合、親権者の変更以外の方法として親権の喪失・停止という制度があります。
親権の停止は平成23年の民法改正でできた新しい制度であまりなじみがないと思われますので、それぞれの制度の概要と違いなどについて解説します。
(1)親権の喪失とは?
親権の喪失とは、期間を定めずに親権の一切を失わせることをいいます。
①父母による虐待や悪意の遺棄(育児放棄)など親権の行使が著しく困難または不適当で、②それによって子どもの利益を著しく害する場合、家庭裁判所は審判で親権を喪失させることができるとされています(民法834条)。
親権喪失の審判の申立てができるのは、子ども、子どもの親族、未成年後見人、未成年後見監督人、検察官(以上、民法834条)のほか、児童相談所長(児童福祉法33条の7)です。
つまり、親族以外にも虐待などを把握した児童相談所長からの申立ても可能ということです。
親権喪失の審判の原因が消滅した場合、親権喪失の審判の取り消しを請求することができます。
逆にいえば、子の請求をしない限り親権を回復することはありません。
(2)親権の停止とは?
親権の停止とは、一定の期間を定め、その間親権を行使できないようにすることをいいます。
①父母による親権の行使が困難または不適当で、②それによって子どもの利益を害する場合、家庭裁判所は審判で親権を停止することができると定められています(民法834条の2第1項)。
親権を停止する期間は、2年を超えない範囲で、その原因が消滅するまでに必要な期間や子どもの心身の状態、生活環境など一切の事情を考慮して、家庭裁判所が決めることになっています(同条2項)。
親権停止の申立てができるのは親権喪失の審判と同じです。
親権停止の審判の原因が消滅した場合、取り消しを求めることができることも親権喪失の場合と同じです。
(3)両者の違い、親権者変更との違い
親権喪失と親権停止の最大の違いは、期間の定めがあるかないかということにあります。
親権の喪失は、期間を定めずに親権を失わせるもので非常に厳しい制限といえます。
そのため、親権の喪失には厳しい要件が要求されています。
改めて(1)の親権喪失の要件と⑵の親権停止の要件を見比べてみてください。
親権の喪失には、親権の行使が「著しく」困難または不適当であること、子の利益を「著しく」害することが要求されており、停止よりも要件が厳しくなっていることがおわかりいただけると思います。
実際に親権の喪失が認められるのは、それ以外に問題を解決する手段がいないような場合に限られるでしょう。
次に、親権喪失・停止と親権者変更との違いですが、最大の違いは親権喪失・停止は新たな親権者を定めるものではないということです。
例えば、父母が離婚し母が親権者となったが、その後に母が子供に虐待を加えるようになったという事例を想定してみましょう。
父が親権の喪失または停止の審判を申立て、それが認められたとしても母が親権を行使できなくなるというだけで、自動的に父に親権が移るわけではありません。
この場合、単独の親権者であった母が親権を行使できなくなることで、親権を行使する者がいないという状況になります。
そのため、家庭裁判所が未成年後見人を選任することになります(民法841条)。
これに対し、父が親権者の変更を申立て、それが調停または審判で認められた場合、親権者が母から父に変わり父が親権を行使することになるので、未成年後見人を選任する必要はありません。
まとめ
親権者変更や親権の喪失、停止についてご理解いただけたでしょうか。
いずれの手続も簡単に認められるものではありませんので親権についてお悩みの場合は、弁護士に相談することを検討してみてください。