自動車運転処罰法とは?交通事故加害者になった場合の対処方法を解説

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交通事故を起こしてしまい自分が加害者になってしまったら、適切な対応をしないと刑事裁判にかけられ重い刑罰を科されるおそれがあります。

交通事故の加害者を処罰するための法律として「自動車運転処罰法」がありますが、その内容はどのようなものでしょうか?

今回は、自動車運転処罰法と交通事故加害者になったときの対処方法をご説明いたします。

1.自動車運転処罰法とは

(1)自動車運転処罰法とは

自動車運転処罰法とは、自動車を運転しているときにその運転によって人身事故を起こしたときに適用されることがある法律です。

正確には、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」といいます。

自動車運転処罰法には、自動車運転による各種の犯罪類型が定められているため、それに反して交通事故を起こした場合には処罰されるおそれがあります。

また、自動車運転処罰法で処罰されるおそれがある行為はすべて人身事故のケースなので、物損事故の場合は処罰されることはありません。

自動車運転処罰法には、

  • 過失運転致死傷
  • 過失運転致死傷アルコール等発覚免脱
  • 危険運転致死傷

という3つの類型があります。

(2)自動車運転処罰法制定の経緯

自動車運転処罰法は、比較的新しい法律で、平成26年に施行されたものです。
昔は、交通事故があった場合の加害者の処罰は、すべて刑法の「業務上過失致死傷罪」によって裁かれていました。

業務上過失致死傷罪は、何らかの業務に関連して他人を死傷させた場合に適用される法律ですが、自動車運転を「業務」と捉えることによって、交通事故事件に適用していたのです。

ただ、業務上過失致死傷罪の法定刑はかなり軽いです。
具体的には、5年以下の懲役または禁固もしくは100万円以下の罰金とされています。

しかし、極めて危険な運転をする人もいますので、ほとんど故意とも思えるような運転によって引き起こされた交通事故の場合にまで、軽い業務上過失致死傷罪で裁くのは不当であるという考え方が主流になってきました。

そこで、平成19年に自動車運転致死傷罪という犯罪類型を新しく作り、法定刑を重くしました。
さらにその後、極めて危険な運転をした場合にさらに刑罰を重くした「危険運転致死傷罪」などを新設して、自動車運転処罰法を策定したのです。

2.自動車運転処罰法に定められる犯罪と刑罰

自動車運転処罰法には、

  • 過失運転致死傷
  • 過失運転致死傷アルコール等発覚免脱
  • 危険運転致死傷

の3つの犯罪類型がありますので、以下ではそれぞれについて見ていきましょう。

(1)過失運転致死傷罪

まずは、過失運転致死傷罪があります(自動車運転処罰法5条)。

これは交通事故で相手を死傷させた場合の原則的な処罰規定で、運転に必要な注意を欠くことによって相手を傷つけたり死亡させたりした場合に適用されます。

たとえば普通に運転していても、脇見運転をした際に人をはねてしまい、大けがをさせてしまったようなケースでは、過失運転致傷罪が適用されるおそれがあります。

この場合、刑罰は7年以下の懲役もしくは禁固または100万円以下の罰金です。
昔の業務上過失致死傷罪よりも、懲役や禁固の期間が長くなって厳罰化されていることがわかります。

(2)過失運転致死傷罪アルコール等発覚免脱罪

次に、自動車運転過失致死傷アルコール等発覚免脱罪というものがあります。
これは、自動車事故を起こして相手を死傷させたケースにおいて、飲酒運転や酒酔い運転などをしていた場合の問題です。

このようなとき、飲酒していたことなどが発覚すると、罪が重くなりますし、点数も大きく加算されて免許が取り消される可能性が高くなります。

そこで、アルコールを摂取していたことを隠そうとする人が多いです。

具体的には、かさねてアルコールなどを飲んだり、その場を離れて逃げて、アルコール濃度を落とそうとしたりする行為などが禁じられています。

このような行為を行った場合には、通常の自動車運転致死罪よりも刑が加重されて、12年以下の懲役刑が科される可能性があります(自動車運転処罰法4条)。

そこで、飲酒や薬物摂取の状態で自動車を運転してはいけないことはもちろん、万が一そのようなことがあったとしても、そのことを隠そうとすると刑が重くなるので、注意しましょう。

(3)危険運転致死傷罪

自動車運転処罰法には、危険運転致死傷罪という犯罪類型が作られています。
これは、故意やそれに近いような極めて危険な行為によって自動車を運転することにより、人を死傷させた場合に適用される犯罪類型です。

たとえば、飲酒して酩酊状態で車を運転した場合、薬物を摂取して酷い眠気を催しているにもかかわらず運転した場合、公衆が集まる中にあえて車で突っ込んだ場合などには、危険運転致死傷罪が適用されるおそれがあります(自動車運転処罰法2条)。

この罪の法定刑は、極めて重くなっていて、人を傷つけた場合には15年以下の懲役刑となりますし、死亡させた場合には1年以上の有期懲役となります。

1年以上の有期懲役となった場合、具体的な期間については裁判官が裁量で決定することになります。

また、アルコールや薬物の影響によって運転に支障がある場合に自動車を運転して、そのことによって人を死傷させた場合には、12年以下の懲役刑が科される可能性があります(自動車運転処罰法3条)。

以上のように、交通事故を起こすと、その運転の危険性にもよりますが、極めて重い刑罰を科されてしまうおそれもあるので、自動車を運転する際には十分注意が必要です。

3.交通事故加害者になった場合の刑事手続きの流れ

(1)刑事裁判にならないことも多い

交通事故で加害者になってしまった場合には、常に自動車運転処罰法が適用されて刑罰が科されることになるのでしょうか?

実際には、そのようなことはありません。
事故の結果がさほど重大ではなく、運転の態様も悪質ではなかった場合には、多くのケースで刑事裁判が行われずに処理されています。

刑事裁判が行われない場合、軽く供述をとられるだけで終わります。

(2)在宅手続きになる事が多い

交通事故の中でも死亡事故を起こした場合や、運転の態様が悪質であった場合などには、刑事裁判になることがあります。
その場合、まずは警察に逮捕されることがあります。

交通事故の場合には、逮捕後勾留が行われず、身柄は釈放されることが多いです。
そして、検察庁に呼ばれて検察官による取り調べを受けることになります。

ただし、取り調べが終わったら家に帰ることができます。
このように、交通事故事件では、在宅で手続きがすすめられることが非常に多いです。

(3)略式手続きについて

取り調べが終わったら、検察官が、その被疑者について、起訴をして刑事裁判にするかどうかを決めますが、刑事裁判には略式手続きというものがあります。

略式手続きとは、正式に法廷で裁判をするのではなく、書類上で罰金刑のみを決定してもらう刑事手続きのことです。

交通事故事件はとても数が多く、小さな事故も多いので、すべてについて正式な刑事裁判を開く余裕がありません。

そこで、簡単な書類上の略式手続きを利用する事によって、対応しています。
略式手続きを利用するには被疑者の了承がいるので、取り調べの際などに略式で良いかどうかの確認が行われます。

ここで同意した場合には、略式請求で刑事裁判が行われて、罰金刑が決定します。

そして、決定した罰金の納付書が自宅に送られてくるので、支払をしたらすべての手続きが終わります。
被疑者は一度も裁判所に行く必要はありません。

危険運転致死傷罪のケースやアルコール等発覚免脱行為があった場合には、罰金刑がないので略式手続きは適用されません。

(4)正式な刑事裁判になるケース

交通事故で加害者になった場合、自動車運転処罰法が適用されて正式な刑事裁判になってしまうことがあります。

正式な刑事裁判になると、裁判所で期日が開催されるので、被告人として裁判所に出廷しなければなりません。

裁判所では、交通事故についての証拠調べや証人尋問、被告人質問などの手続きが行われます。
被告人は、検察官や裁判官によって尋問されることになります。

また、判決によって、懲役刑や禁固刑などの重い刑罰が適用されるおそれもあります。
刑事裁判になってしまった場合には、刑事事件に強い弁護士に対応を依頼して、なるべく刑を軽くしてもらえるようにしっかり対処することが重要です。

なお、自動車運転過失致死傷罪のケースでは、起訴後も在宅で手続きがすすむことが多いです。

また、逮捕後に身柄を勾留されて取り調べが続いていたケースでも、起訴後は保釈ができるので、弁護士に保釈請求をしてもらったら外で生活をすることができます。

判決によって執行猶予がついたら、懲役刑や禁固刑が適用されても社会内で生活することができますが、執行猶予がつかない場合には、交通刑務所に行かなければなりません。

特に危険運転致死罪の場合、最低でも1年以上の有期懲役になるので、1年間は刑務所生活となってしまうので、重大な影響があります。

4.交通事故加害者になった場合の対処方法

交通事故加害者になって、自動車運転処罰が適用されると大変な不利益を受けます。

刑事裁判にならなくても、取り調べなどが行われて大変なプレッシャーがありますし、略式請求となったら、裁判所には行かなくても済みますが、前科がついてしまいます。

正式な刑事裁判になると、懲役刑や禁固刑が適用されて、社会内での生活が継続出来なくなるおそれもあります。

そこで、交通事故を起こしたら、そのようなことにならないように適切に対処することが重要です。

(1)事故直後の対応

具体的には、まずはすぐに車を停車させて車を降りることです。
ここで逃げてしまうと、ひき逃げになって刑罰が厳罰化するので、絶対に逃げてはいけません。

また、アルコールを飲んでいるときなどには、飲酒運転の発覚を恐れて逃げる人が多いですが、それをすると、ひき逃げになる上にアルコール免脱発覚等の加重も行われるので、さらに罪が重くなってしまいます。

事故を起こして停車をしたら、けが人がいないかどうか確認します。

交通事故加害者には救護義務があるので、けが人がいたら救護する必要があるからです。
車道に倒れている人がいたら、側道に移すなどした上で、救急車を呼びましょう。

そして、必ず警察を呼ばなければなりません。
交通事故を起こしたら、警察を呼ぶことも義務とされているからです。

警察が来たら実況見分が行われて、事故状況について説明をすることになるので、正直に警察に事故の状況を伝えましょう。

その場はそのまま帰宅できて、取り調べなどがある場合には後日に連絡があります。
このようなことに注意をしていたら、刑罰が必要以上に厳罰化することを避けることができます。

(2)事故後の被害者対応

自動車事故を起こしたら、被害者対応も重要です。
自分が加害者になった場合、被害者とは示談交渉をして賠償金を支払わなければなりませんが、もし刑事裁判になってしまったら、被害者の意見が重要な考慮要素になるからです。

刑事事件では、被害者の被害感情が重要視されます。
被害者が「刑罰は重くしてくれなくていいです」と言っていたら刑が軽くなる傾向がありますし、「刑罰はそれなりでかまいません」と言った場合にも、必要以上に厳罰化されることはありません。

これに対し、「絶対に許せないので、厳罰を与えて下さい」と言われてしまったら、適用される刑罰が重くなります。

懲役刑や禁固刑が適用されるケースでは、被害者が宥恕(許している)しているかどうかによって、執行猶予がつくかつかないかが変わってくることもあります。

また、示談ができているかも非常に重要です。
示談が成立して示談金が支払われており、民事的な解決が完了している場合には、刑事上の罪を軽くしてもらうことができます。

そこで、交通事故加害者になったら、被害者に対して誠実に対応をして、なるべく早く示談をまとめることが必要です。

事故後は被害者の様子を見ながら、迷惑にならないように御見舞に行ったり謝罪文を送ったりすると良いでしょう。

示談交渉でも、あまりごねずになるべく早く解決する方が刑事事件では有利になります。
弁論終結前(判決前)に示談が成立しないと、判決において考慮してもらうことはできません。

以上のように、交通事故で加害者になったら、適切に対応することによって、処罰を軽くすることができるので、覚えておきましょう。

まとめ

今回は、交通事故で加害者になったときに適用される可能性がある「自動車運転処罰法」についてご説明いたしました。

自動車運転処罰法には、「過失運転致死傷罪」、「過失運転致死傷アルコール等発覚免脱罪」、「危険運転致死傷罪」の犯罪類型があります。

交通事故で相手を怪我させたり死亡させたりした場合には、これらの刑罰が適用されることによって、懲役刑や禁固刑、罰金刑などが科されるおそれがあります。

なるべく刑を軽くするためには、まずは危険な運転をしないこと、事故を起こしてもらったとの対応を適切に行うこと、事故後の被害者対応をきっちり行うことが大切です。

これらの対応は、加害者の自己判断のみで適切に行うことが難しいケースがあります。

交通事故を起こして対応に困っている場合や刑事裁判が不安な場合などには、なるべく早めに交通事故問題に強い弁護士に相談しましょう。

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