交通事故の被害者は、加害者に対して事故によって生じた損害の賠償を請求することが可能です。
しかし、一口に交通事故といっても事故の原因や態様は様々であり、中には加害者だけでなく被害者にも一定の落ち度がある事故もあります。
そのような場合にまで、加害者が被害者に生じた損害の全てを賠償しなければならないとするのは酷ではないかとも考えられます。
そこで、被害者にも一定の落ち度(過失)がある場合に、損害賠償額を調整するのが、「過失相殺」です。
今回は、過失相殺についての基本的知識や代表的な事故態様の過失割合などを解説したいと思います。
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目次
1.過失相殺とは?
(1)過失相殺の法的根拠
交通事故による損害賠償請求は、民法709条が規定する不法行為による損害賠償の一つです。
同条は、「故意又は過失」により「他人の権利又は法律上保護される利益」を侵害した者に対し、それによって生じた損害を賠償する責任を負わせるものです。
しかし、冒頭でも触れたとおり、権利を侵害された側にも落ち度がある場合、例えば被害者が赤信号を無視して交差点に進入したようなときまで、加害者にすべての責任を負わせるのは公平とはいえないでしょう。
そこで、損害の公平な分担という観点から、加害者のみならず被害者にも過失が認められる場合には、被害者の過失の程度に応じて、加害者の賠償すべき額を調整する必要が生じます。
これが過失相殺と呼ばれるものです。
法律上の根拠としては、民法722条2項があげられます。
同条は、不法行為の「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して損害賠償の額を定めることができる」と定めています。
条文の形式上は、「できる」とされているだけですので、するかしないかは裁判所の裁量にゆだねられているように見えます。
これは、不法行為一般についての規定で、故意による不法行為も含まれるからで、加害者に故意がなく、過失が認められるにすぎない交通事故の場合、基本的には過失相殺が適用されることになります。
(2)過失相殺の方法
前述したとおり、条文上は被害者の過失を考慮する、としか規定されておらず、具体的な方法が書かれていません。
過失相殺の具体的な方法は、加害者と被害者の過失の割合を定め、全損害額から被害者の過失割合分を差し引くという計算式により行われます。
交通事故の場合、過去の膨大な裁判例の集積から、事故状況によって基本的な過失割合が定められており、それに個別の事案ごとの特別な事情を考慮して修正を加え、過失割合を定めることになります。
(3)過失相殺の具体例
たとえば、交通事故により被害者が合計200万円の損害を被ったが、被害者にも過失があり、過失割合が加害者7割、被害者3割と定められたと仮定します。
この場合、被害者は全損害額200万円の3割を自ら負担すべきということになり、加害者に請求できるのは、7割に相当する140万円のみということになります。
また、車両同士の事故が典型ですが、加害者(過失が大きい方)にも損害が生じる場合もあることに注意が必要です。
上の例で加害者も100万円の損害を被った場合、加害者は、全損害額100万円から事故が負担すべき7割を差し引いた30万円を、被害者に対して請求することができることになります。
2.過失割合の具体例
それでは、基本となる過失割合はどのようになっているのでしょうか。
代表的な事故態様の過失割合をご紹介します。
(1)四輪車同士の事故
①交差点における直進車同士の事故
- 青信号車両と赤信号車両の衝突事故
基本割合は0:100です。
ただし、青信号車両に何らかの過失があるか、赤信号車両が明らかに交差点に先入している場合には、10:90に修正されます。
- 黄色信号車両と赤信号車両
基本割合は20:80です。
ただし、黄色信号車両が赤信号直前に侵入した場合には、30;70に修正されます。
- 赤信号車両同士
基本割合は50:50です。
ただし、一方が明らかに交差点に先入していたときは、他方の過失割合を10%加算します(先入車40:相手方60になります)・
②交差点における直進車と右折車との事故
- 直進車、右折車ともに青信号
基本割合は直進車20:右折車80です。
ただし、直進車が15km以上の速度違反をしていた場合には30:70に、右折車が徐行せずに交差点に進入した場合には10:90にといった修正が加えられます。
- 直進車、右折車ともに黄色信号
基本割合は直進車40:右折車60です。
ただし、双方青信号であった場合と同様の修正要素があります。
- 直進車赤信号、右折車青矢印で交差点に侵入した場合
基本割合は直進車100:右折車0となります。
ただし、右折車が合図を出していなかった場合、90:10に修正されます。
③交差点以外の事故
- 駐停車車両への追突
基本割合は追突車100:駐停車車両0です。
駐停車禁止場所であった場合、90:10に修正されます。
- 車線変更車と後続車両との衝突
進路変更をして、変更後の車線の後方から進行してきた車両と衝突した場合、基本割合は進路変更車70:後続車両30となります。
進路変更禁止場所であった場合は90:10に、後続車両が15km以上の速度違反をしていた場合には60:40にといった修正が加えられます。
(2)四輪車と歩行者との事故
①交差点における事故
- 直進車と歩行者
信号の表示によって、次のように基本割合が定められます。
車赤色信号:歩行者青色 | 100:0 |
車赤色信号:歩行者黄色 | 90:10 |
車赤色:歩行者赤色 | 80:20 |
車黄色:歩行者赤色 | 50:50 |
車青色:歩行者赤色 | 30:70 |
歩行者に過失がある場合でも、歩行者が児童・老人であった場合には、過失の割合が5~10%下げられます。
- 右左折車と歩行者
この場合も、それぞれの信号表示により過失割合が決まります。
車赤色:歩行者青色 | 100:0 |
車赤色:歩行者黄色 | 90:10 |
車赤色:歩行者赤色 | 80:20 |
車黄色:歩行者黄色 | 80:20 |
車黄色:歩行者赤色 | 70:30 |
車青色:歩行者青色 | 100:0 |
車青色:歩行者黄色 | 70:30 |
②交差点以外の事故
交差点ではない通常の道路を横断している歩行者と衝突した場合、基本割合は車両80:歩行者20となります。
歩行者が児童・老人であった場合、85:15に、場所が住宅・商店街の場合、90:10に修正されます(運転者は飛び出しなどより注意して運転することが求められるため)。
まとめ
以上、過失相殺についてご紹介しました。
過失相殺は割合的に計算されることから、損害額が高額になれば、わずかな過失割合の差で得られる賠償額が大きく変わってしまいます。
たとえば、重い後遺障害が残ったような事案では慰謝料、逸失利益などをあわせて1億円を超える請求をすることもありますが、過失割合が10%違えば最終的に得られる賠償額に1000万円以上の差が生じてしまうことになります。
また、過失割合は、必ずしも基本となる割合で決まるわけではなく、様々な事情で修正されますから(2.でとりあげた事例でも、紹介した以外にいろいろな修正要素があります)、専門的な知識がないと、ご自身に不利な過失割合になっていることに気付かず示談してしまうおそれもあります。
過失相殺でお悩みの方は、交通事故に詳しい弁護士に相談することを検討してもいいでしょう。