「遺産分割協議上の遺産放棄」と「相続放棄」の違いを分かりやすく解説

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket

身内が亡くなり相続が起こったとき、自分が相続人になっていても相続をしたくないことがあります。

たとえば、親が借金を残して死亡した場合や、自分の相続分も兄弟に譲りたい場合などがあります。

このような場合、遺産分割協議において遺産を放棄することがありますが、この対応で本当に「相続放棄」ができているのでしょうか?

このとき、勘違いをしていると後に大変なトラブルにつながるおそれがあります。

今回は、「遺産分割協議における遺産放棄」と「相続放棄」の違いについて解説します。

1.遺産分割協議における遺産放棄とは


遺産分割協議をするとき、遺産放棄をすることがあります。
これは、「相続放棄」とは異なります。

まず、遺産分割協議における遺産放棄がどのようなものなのか確認しましょう。
たとえば、3000万円の遺産がある場合で子供たち3人が相続をするケースを考えてみましょう。

この場合、本来の法定相続分は子供たちそれぞれが3分の1ずつですから、何もしなければ、全員が1000万円を受けとることになります。

ただ、家を継ぐ長男がいる場合など、長男にすべての遺産を相続させたいことがあります。
そのために、自分(三男)は一切の遺産を受けとらないこととして遺産分割協議をまとめます。

このことを、遺産分割協議における遺産の放棄と言うのです。
遺産分割協議において遺産放棄をする場合、特に何らかの手続が必要にはなりません。

普通に遺産分割協議を行い、「〇〇は一切の遺産を相続しない」と書くか、「〇〇(長男)がすべての遺産を相続する」「〇〇(長男)が2000万円を相続する。残りの1000万円を▽▽(次男)が相続する」などと書かれていたら、三男は遺産相続をしないことになるので遺産放棄の効果が発生します。

2.相続放棄とは


次に、相続放棄とはどのようなものなのか見てみましょう。
相続放棄をすると、はじめから相続人ではなかったことになるためプラスの資産もマイナスの負債も含めて、一切の遺産を相続しません。

相続放棄をするためには、家庭裁判所に対し「相続放棄の申述」という手続きをしなければなりません。

相続放棄の申述をするためには、相続放棄の申述書という書類を作成し、家庭裁判所に提出をして家庭裁判所に相続放棄を受理してもらう必要があります。

3.遺産分割協議における遺産放棄と相続放棄の具体的な違い


遺産分割協議において遺産を放棄したときも相続放棄をしたときも、自分は遺産相続をしなくなります。

その点だけを見ると、遺産分割協議における遺産放棄と相続放棄の何が違うのかがわからないと感じる人もいるでしょう。
それでは具体的な違いを順を追って解説します。

(1)借金の相続の有無

まず、相続放棄の場合には、プラスの資産だけではなく借金などの負債も相続しなくなります。
これに対し、遺産分割協議において遺産を放棄したとしても借金を相続してしまいます。

遺産分割協議は相続人間の対内的な話合いにすぎないので、これによって「借金を引き継ぎません」ということを債権者に主張することができないためです。

そこで、遺産分割協議において一切の遺産を相続しないと定めても、その後債権者から借金の支払い請求があったら支払をしなければなりません。
借金を相続したくないなら相続放棄をする必要があるのです。

相続放棄をすると借金を含めたすべての負債を相続しなくなるので、相続債権者から支払い請求があっても相続放棄を理由として支払を拒絶することができます。

この場合、家庭裁判所から届いた相続放棄の受理書や相続放棄の受理証明書などを提示すると、それ以上借金の催促をされることがなくなります。

(2)家庭裁判所での手続きと期間の有無

遺産分割協議における遺産の放棄と相続放棄とでは、手続きの方法も全く異なります。
遺産分割協議における遺産の放棄は、相続人全員が同意し協議書さえ作成してしまえば手続きとしては完了です。

これに対し、相続放棄をするには家庭裁判所で申述の手続きが必要です。

被相続人が居住していた地域の管轄の家庭裁判所で、相続放棄の申述書と戸籍謄本や住民票の除票などの必要書類、800円分の収入印紙と予納郵便切手を添えて提出をしなければなりません。

その上で、家庭裁判所において審査を受けて、受理されたらようやく相続放棄の手続きが完了します。
また、相続放棄には期限もあります。

具体的には、自分のために相続があったことを知ってから3ヶ月以内に手続きしなければなりません。

この期限を過ぎると、相続放棄によって借金をなくしてもらうことはできなくなるので注意が必要です。

「自分のために相続があったことを知ってから3ヶ月」の意味としては、「相続があったこと」と「何らかの相続財産があったこと」の2つの事実を知ってから3ヶ月というように理解されています。

そこで、被相続人が死亡して借金していた様子がうかがえる場合には、それを相続したくないなら早めに相続放棄をしてしまうことが重要です。

4.遺産分割協議において遺産放棄すべき場合とメリット


それでは、遺産分割協議において遺産を放棄すべき場合は、どのようなケースなのでしょうか?
相続放棄にはない遺産放棄のメリットをご紹介します。

遺産の中に特に借金はないけれど、自分としては遺産取得を望まない場合には遺産分割協議において、遺産を放棄すると良いです。

そうすると、簡単に遺産の放棄ができて一切の相続トラブルにかかわる必要がなくなります。
また、手続きが簡単なのも前述の通りですが、それもメリットのひとつと言えます。

5.相続放棄のメリットと相続放棄すべき場合


次に、相続放棄のメリットと相続放棄すべき場合についても、確認しておきましょう。
相続放棄をすると借金や未払い金の相続がなくなります。

そのまま相続すると「被相続人がサラ金や銀行などから借金していた場合」「未払家賃がある場合」「未払の損害賠償金がある場合」など、を被相続人が請け負うことになります。

ここで相続放棄をすると、それらの負債や義務を一切相続しなくて良くなるので非常に安心です。
そこで、相続放棄をすべき場合とは、主に被相続人に借金や未払金の債務があるケースです。

上記のような借金や未払家賃、未払の損害賠償金がある場合はもちろんのこと、被相続人が誰かの連帯保証人になっている場合にも相続放棄によって連帯保証人の地位を相続しなくて良くなるのでメリットがあります。

まとめ

以上のように、遺産分割協議における遺産の放棄と相続放棄は、同じように「遺産相続をしない」という効果が発生する点で似ているけれども、大きな違いがあります。

最も大きいのは借金を相続するかどうかということですが、相続放棄をするためには家庭裁判所に対して相続放棄の申述という手続きをしなければなりません。

被相続人が負債を残していたら、熟慮期間の3ヶ月以内に相続放棄の申述をしましょう。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket

Twitter・RSSでもご購読できます。