現代のビジネスシーンにおいて、特許権をはじめとする知的財産権の重要性はいうに及びません。
知的財産権について正確な知識がないと自社の知的財産権を守れず、他社の知的財産権を侵害するなどにより、大きな損失・不利益を被るおそれがあります。
そこで今回は、知的財産権についての概括的な説明を行ったうえで知的財産権を守る方法等を紹介します。
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目次
1.知的財産権の概要
知的財産権には、次のようなものがあります。
(1)特許権
「発明」を保護するもの。
「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの(特許法2条1項)をいいます。
「発明」は、物の発明、方法の発明、物を生産する方法の発明の3つに分類されます。
特許権の存続期間は出願日から20年間とされています(特許法67条1項)。
(2)実用新案権
物品の形状、構造又は組合せに係る考案を保護するもの。
「考案」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作をいいます(実用新案法2条1項)。
実用新案権の存続期間は、出願の日から10年間です(実用新案法15条)。
(3)意匠権
「意匠」を保護するもの。
「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいいます(意匠法2条1項)。
意匠権の存続期間は、設定の登録の日から20年間です(意匠法21条1項)。
(4)商標権
商標を保護するためのもの。
「商標」とは、人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的計上、色彩、これらの結合、音その他政令で定めるものであって、業として商品を生産し、証明し若しくは譲渡する者がその商品について使用するもの、または業として役務を提供し若しくは証明する者がその役務について使用するものをいいます(商標法2条1項)。
以前は文字、図形、立体的形状等が保護の対象とされていましたが、近年の法改正により、音や色彩なども保護の対象となりました。
商標の存続期間は、設定の登録の日から10年間ですが(商標法19条1項)、他の知的財産権と異なり、更新することができます(同条2項)から、半永久的に存続させることも可能です。
(5)著作権
思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものを著作物とし(著作権法2条1項)、著作物や隣接する権利を保護の対象としています。
著作隣接権とは、創作者ではない実演家(俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、または演出する者)、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者に認められた権利です。
他の知的財産権が出願・登録等をして初めて認められるものであるのに対し、創作時に権利が発生するという特徴があります。
著作権の存続期間は、著作者の死後(共同著作物の場合は最後に死亡した著作者の死後)50年となっています(著作権法51条)。
2.知的財産権を守るには
1.で解説したように、著作権を除く知的財産権は、出願・登録をする必要があります。
いいかえれば、どのような発明やアイデア、デザインも、出眼・登録をしなければ、十分な保護を受けることはできないのです。
以下、特許権を例に、出願の流れを解説します。
(1)特許調査
①特許調査の必要性
日本の特許法では、発明の先後にかかわらず、先に出願をした者に権利が与えられることになっています(先願主義といいます)。
したがって、ある発明について特許権を取得したいと考えた場合には、まず同じ発明がすでに出願されていないかを確認する必要があります。
この調査をしておけば、特許を取得できる見込みがあるかを事前にある程度把握することができますし、調査の結果、すでに類似の出願がされていることが判明した場合には、出願を断念するか、あるいは変更を加えることで新たな特許としての出願が可能かを分析することもできます。
②特許調査の方法
特許に関する情報は、特許庁の発行する公報で入手することができます。
公報には、出願から1年6か月後に出願内容を公表する公開特許公報と、特許が成立した場合に発行される特許掲載公報の2種類があります。
特許庁などで公報を閲覧することができますが、インターネットを利用できるのであれば、特許庁の特許情報プラットフォームで検索することも可能です。
(2)特許の出願
特許調査の結果、類似の出願がなく、特許を取得できる見込みがある場合には、特許の出願手続を行うことになります。
出願手続の流れは、次のようなものです。
①出願
特許庁に願書などの必要書類を提出します。
提出した書類が形式的な要件を満たしているかの審査(方式審査といいます)があり、不備がある場合には、補正命令を受けます。
②審査請求
出願しただけで特許を取得できるわけではありません。
出願から3年以内に出願審査請求を行う必要があり、この期間内に審査請求がない場合には、出願を取り下げたものとみなされます。
審査請求がなされると、特許庁の審査官が、特許が成立するか否かの実質的な審査を行います(実体審査と言います)。
審査の結果、特許の拒絶理由があると判断された場合には、拒絶理由が通知されます。
これに対して出願人は、補正書や意見書を提出することができます。
③特許査定
拒絶理由がないとき、あるいは拒絶理由が意見書や補正書で解消されたとき、審査官は特許をすべき旨の査定をします。
なお、意見書・補正所をもってしても拒絶理由が解消しないときは、拒絶査定をします。
④特許料納付
特許査定の謄本が送達された日から30日以内に、3年分の特許料を納付する必要があります。
3年目までの特許料は、毎年2300円に1請求項につき200円を加算した額となります。
⑤設定登録
特許料が納付されると、特許権が設定登録されます。
さきほどもご紹介した特許掲載公報に掲載されるほか、特許症が交付されます。
3.知的財産権についての訴訟
知的財産権を取得するには2.で紹介した手続を行う必要がありますが、必ず認められるわけではありません。
また、せっかく知的財産権を取得しても、第三者に侵害されるおそれもないとはいえません。
このような知的財産権を巡る法的紛争についてどのように対応すればいいのか、ここでも特許権を例に解説します。
(1)審決取消訴訟
特許庁が行った特許を認めない審決や特許を無効とする審決に対し、その取消を求める訴訟を提起することができます。
審決取消訴訟は、東京高等裁判所の専属管轄であり、その審理は東京高裁の特別の支部である知的財産高等裁判所が担当します。
(2)特許侵害訴訟
第三者によって特許権が侵害された場合に、その差し止めや損害倍書を請求する訴訟を提起することができます。
特許権等(特許権、実用新案権、回路配置利用権、プログラムの著作物についての著作者の権利)に関する訴えは、審理の専門性から、東日本は東京地方裁判所、西日本は大阪地方裁判所だけが管轄を持ち、一審判決に対する控訴は東京高裁の専属管轄で、知的財産高等裁判所が審理を行います。
なお、意匠権、商標権、著作権(プログラムを除く)に関する訴えは、本来の各地の地方裁判所に加えて、東京地裁または大阪地裁にも管轄が認められます。
4.知的財産権に関連する専門職
(1)弁理士
弁理士は、知的財産についての専門家(弁理士法1条)であり、
- 特許、実用新案、意匠、商標、国際出願、意匠にかかる国際登録出願、商標にかかる国際登録出願に関する特許庁における手続
- 特許、実用新案、意匠又は商標に関する行政不服審査法の規定による審査請求または裁定に関する経済産業大臣に対する手続
- これらの手続にかかる事項についての鑑定その他の事務
の代理を行います(同法4条1項)。
(2)行政書士
行政書士は、権利義務または事実証明に関する書類を作成するもので(行政書士法1条の2)、戦艦業務として文化庁への著作権の登録手続を行うほか、知的財産については確定した特許権、実用新案権、意匠権、商標権等の売買や使用許諾といった契約等の書面作成を行うことができます。
(3)弁護士
弁護士の資格があれば、弁理士、行政書士の登録が可能であり、弁理士や行政書士の業務を行うことができます。
また、必要に応じて「戦略法務とは何か?経営戦略と法務的な戦略を合わせて考える必要性を解説」も併せてご参照ください。
まとめ
裁判所が専門の部署を用意していることからもわかるとおり、知的財産権は非常に複雑で高度の専門的知識を要します。
そのため、法律の専門家である弁護士の中にも知的財産権には対応できない弁護士もいます。
知的財産権を積極的に活用することを考えている企業は、知的財産権を専門とする弁護士を探すといいでしょう。